本当は敵なんかいないインフィニット・ストラトス(プロト版) 作:マスクP
──第三アリーナ、第一コックピット。
「うっし……そろそろだな」
ついに、クラス代表を決めるときがやってきた。
セシリアや大我と違って俺は訓練機の打鉄で挑むことになる。
専用機相手に訓練機か……どれくらい食い込めるか分からないけど、精一杯やらなくちゃな。
セシリアは第二、大我は第三コックピットで待機しているらしい。
二人のISは、戦うときに初めて見られるってわけだ。
楽しみなような、不安なような……。
『織斑。試合の形式は分かっているな?』
「あ……はい。セシリア、大我、俺の三人の三つ巴戦。勝ったやつが晴れて代表……でしたよね」
「うむ、問題ないな。試合もその調子で落ち着いていけ」
『これは試合ですから。気張らずに、肩の力を抜いていきましょう♪』
山田先生と織斑先生……千冬姉も激励してくれた。これは、負けるわけにはいかない。
せっかく箒や鈴も見てくれるわけだし。
そうだ、箒には感謝しなくちゃな。自分も専用機を持ってないのに、わざわざ自分の時間を割いて色々教えてくれたんだ。
そのおかげで、剣を使う感覚はなんとなく掴めた気がする。
「一夏。勝てそうか?」
「…………分からない。実力は二人の方がそりゃ上だろうけど……やる前から諦めたくはねえよ」
「前向きねえ。それでボロ負けしたらかっこつかないわよ?」
「なんだとー?」
昔と変わらない、鈴の軽口。
おかげで、少し緊張はほぐれたかもしれない。ありがとな、鈴。
ストレッチで全身を伸ばして、体を整える。
さあ、いざ打鉄を──
「おっまたせーいっくーーん!!」
『!?』
──起動、出来なかった。
これでもかというほどのハイテンションボイスに面食らい、打鉄から手を放す。
振り返ると、束さんがこっちに……ダイブを!?
「えっちょま」
「いーっぐむふぅ」
あわや床に押し倒され……といったところで箒のアイアンクローが炸裂した。
飛びかかる束さんの顔を掴んで振り回すように俺から引き離す。痛そうだな……。
「ギブギブ」と言わんばかりにジタバタしているのを見て、ようやく箒は手を離した。
「んもー、ひどいよ箒ちゃん! せーっかくいっくんにとびっきりのプ・レ・ゼ・ン・ト♪ あぜようとしたのになー」
『織斑、準備しろ』
「待って今出すから待って!」
千冬姉、容赦がない。
でも一体プレゼントって何だろう。
束さんが指を鳴らすと、灰色の機体が目の前に現れた。
「じゃっじゃじゃーん! いっくんの専用機、その名も〈白式〉!」
「っ──専用機!?」
専用機。たしか企業とか候補生とか、すごい立場の人しか与えられないってはずなのに……。
なんてことを思っていたのは、どうやら俺だけだったようで。
「な、なんで俺なんかに」
「いっくん、ISは女性にしか使えない。キミは男性。オーケー?」
「お、おーけー」
『分からんのか、織斑。お前は男性操縦者というだけでこの世界には価値のある存在なんだ』
「あ……」
周りを見渡すと。束さんも、鈴も、箒も。「当然だ」という顔でこっちを見ている。
……そうだ。「一人目」の大我がいるから忘れてたけど、俺でようやく二人目の男性操縦者なんだ。
「すごい立場」でいえば、俺も似たようなものだよな。
恥ずかしい。
と、いうか。
「織斑先生。俺に専用機与えられるの知ってました?」
『……すまないな。今朝知らされたことだ』
「それでも言ってくれよ……」
嘆きながらも、白式を見つめる。
灰色の機体だけど……白?
「んーじゃー早速乗ってみてよ! でもねー、
な、なんだか専門用語が飛び交って混乱してきた。
つまり、どういうことなんだ?
「最初はグローイングフォームで戦え、直にマイティフォームになるから、ってこと☆」
「よしなるほど」
すごく分かりやすい説明だった。
つまり、今この機体は未完成ってことか。
「一夏、頑張れよ」
「負けんじゃないわよー?」
『織斑君、ファイト!』
みんなの激励が、俺の背中を押す。
ただの言葉なのに、ものすごく力が湧いてくる気がした。
そうだ。こんなに応援してくれてるのに、無様な姿は晒せない!
「織斑一夏、白式──いきますっ!!」
◇ ◇ ◇
──同時刻、第二コックピット。
「さーて、そろそろか」
セシリアと一夏の三つ巴戦。多数戦ってのはあまりやらねえが、いい機会だ。
一夏の専用機もお披露目だろうし、楽しみだね。
こっちのコックピットにはシャルと……のほほんさんだけか。まあ箒と鈴は一夏の方だろうし、先生方は初心者の面倒見ないといけないし。仕方ないね。
しかし、なんでのほほんさんは来てくれたんだろう。
「もーりーのこと気になっちゃって~」
「お、おう……」
おぉっと積極的。でもこれは何だろう。そういう意味か?
いやでものほほんさんのことだからIS見たいだけって可能性も……。
かわいいからいっか。
「大我、あんまり無理しないでね?」
「おー。ま、学内のイベントだし、大丈夫だ」
「だといいんだけど。頑張ってね」
「うし」
シャルの上目遣いがハートを貫く。
あーだめですよこれはやる気漲りすぎるやつ。
こりゃあかっこ悪いところ見せられねえな!
そんじゃあ、いくか。
左手首のブレスレットを掲げ、鋭利なサングラス型のガジェット──ウルトラゼロアイを出現させ。
右手で持ち、思い切り目に添える!
「──デュアッ!」
二刀のブーメラン、ゼロスラッガーが周囲を飛び交い、眩い光が俺の身体を包んでいく。
脚部は青。腕部は赤。胸部と翼に銀色の装甲、ウルティメイトイージスが展開。
右腕にはウルティメイトゼロソードが展開され、最後にゼロスラッガーが頭部に装着された。
額のビームランプと胸のカラータイマーが輝き──展開完了だ。
これが俺のIS──〈ゼロ〉。
俺は「超人」って意味も込めて〈ウルトラマンゼロ〉って呼んでいるがな。
「これがもーりーの……」
「相変わらず派手だねえ、ゼロ」
「んだよ、かっけえだろ?」
男女の感性の違いってやつだろうか。
俺はこいつをただかっけえと思うんだが、シャルからすれば派手目の色合いらしい。
鮮やかさで言えばシャルのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡも負けてねえと思うがなー。
ま、どうだっていいか。
「んじゃあ──行くぜ!」
◇ ◇ ◇
アリーナの中央、その中空で。
青、灰、赤青銀の三つのISが浮かぶ。
誰もが緊張の面持ちで、試合の開始を待っていた。
観客の喧騒が落ち着いたころ──織斑先生の声が流れる。
『皆、準備はいいな? これより、1年1組クラス代表者決定戦を行う』
『これはあくまで試合だ。だが、それが手を抜く理由になりはしない。各自、全力で臨むように』
『試合──開始!』
織斑先生の声と同時にブザーが鳴り響く。
一夏にゃ悪いが──先手必勝だ!
「エメリウムスラッシュ!」
「えっ──おあっ!?」
額からの熱線、エメリウムスラッシュ。速度が自慢なんだが、かわされちまったか。
なかなかやるじゃねえか。
「先手必勝はこちらも同じでしてよ!」
「おぉっと!」
青いレーザーが鼻先を掠めていく。
スターライトmkⅢだったか。ちょっと身を逸らしてなければ危なかったかもな……さすがだぜ。
相手はちょうど二人か。なら、ちょうどいい!
ウルティメイトゼロソードを一旦収納し、頭に手を添える。
「ハッ! デリャァッ!」
掛け声とともに、ゼロスラッガーがセシリアと一夏に向かう。
一夏はなんとか防ぎ……いや、ちっと当たってんな。
セシリアはビットで迎撃か。経験の差ってやつか?
「くっ……うおぉっ!」
「おっとマジ?」
突撃してくるか!
大剣とウルティメイトゼロソードがぶつかり合い、火花を散らす。あぶねえあぶねえ。
「あの状況で突貫してくるか。度胸あんなあ」
「そりゃどうも……!」
鍔迫り合いは続く。
だが──セシリアもこの状況を黙ってみてるほど呑気じゃねえ。
気が付くと、俺たちをビットが囲んでいた。
「やべっ!」
「あぶなっ……ぐぅっ!」
俺は紙一重。一夏は一発もらっちまったか。
さて、どうする。
このまま一夏を先に落としちまうか、厄介なセシリアをやっちまうか……。
……セシリア、動いてねえな。
弱点はまだ克服出来てねえか……ならこれだ!
「ワイドゼロショットォッ!」
ゼロスラッガーを戻し、左手首と右肘のユニットを接続。
L字を作り、エメリウムスラッシュより遥かに面積の広い光線を放つ。
セシリアは慌ててよけたが──それが狙いだ!
回避に意識を取られてフリーになったビットを二つ破壊!
「あぁっ!」
「ヘッ! 甘いぜセシリア!」
ビットはこれで残り二つ。順調だな。
……ところで。
一夏が全く攻撃してこない。
いやあの大剣で切りかかってはきたが、それだけだ。
よっぽど銃が苦手なのか?
「一夏。お前射撃武器使わねえの?」
「……あー。それが、なんか入ってないみたいで……」
「な、なんですのそれは……。私も苦手とはいえショートブレードは入っていますわよ……?」
束さん何やってんの……欠陥品じゃねえか。
しかしまあ、そういうことなら付き合ってやろうじゃねえか。
ゼロスラッガーを掴み、その根元同士を突き合わせる。
二つは光に包まれ合体し、一つの大剣を形成した。
弓のような形状の〈ゼロツインソード〉だ。
「しゃあねえな。付き合ってやるよ、一夏!」
「大我……おうっ!」
セシリアのビットとライフルの銃撃を弾き、避けながら突撃し、叩きつけるようにソードを振り下ろす。
避けるかと思ったが……防がれた。
弾かれた勢いの蹴り上げは避けられ、横薙ぎ袈裟斬り逆袈裟斬りの連続攻撃も防がれる。
ならばと再度の叩きつけも……防がれた。
コイツ、結構動けるな!
「やるじゃねえか……!」
「へへっ……けど、俺ばっか見てていいのか?」
「──やべっ!」
一夏の笑みに気付かされる。
そうだ、この場所は──直線上じゃねえか!
「もらいましてよ!」
「ぐっ! ……どぉりゃあ!」
ライフルの一撃をもろにもらっちまったが……ただで終わるつもりはねえ。
蹴りで一夏を引き離し、振り向きざまにソードを投げつける。
自身も避け、残ったビットも引き連れているが、意識がソードに向いてるな。もらったぜ!
「ウルトラゼロキィック!」
「なっ──きゃあっ!」
がら空きの鳩尾に、炎を纏った飛び蹴りを叩き込む。
思いっきり吹っ飛んだセシリアは壁際ギリギリで体勢を立て直し、こちらを見据えた。
なんか悪い気もするが、試合だしな。
さて。
三人とも、食らったダメージでいえば同等くらいか……。
だがセシリアはビットを二つ失って、かつ相変わらず接近戦が苦手、と。
このまま何もなければ有利だが──どうなるかね……。
◇ ◇ ◇
「ラウラ! ここにいたんだ」
「シャルロット。遅かったな」
大我を見送って観客席に戻ると、ちょうどラウラの隣の席が空いていた。というより、空けてくれてたのかな。
空けてくれた席に座って、改めてアリーナを見る。
ダメージで言えば五分五分。でもこれは、やっぱり大我が有利かな……。
「ラウラはこの試合、どう見る?」
「……最初の脱落者は、やはり一夏と見るべきだろうな。使わないのか、使えないのか、遠距離武器を持っていない。戦闘経験も乏しい。──ただ……」
「初期化と最適化がまだ──だね」
そう。それなのに、大我に肉薄するほどの接近戦をしている。
大我が多少手加減している可能性もあるけど……それでも、対応しているだけすごい。
「これはまだ……分からないかもね」
小さく呟いた瞬間。
ブルー・ティアーズがミサイルを発射していた。
◇ ◇ ◇
「くっ、そんなのありか……!」
まさかミサイルまで隠し持ってたとは……!
しかもセシリア、レーザーライフルで集中的にこっちを狙ってる。
完全に俺から潰す気だ。こっちの武器は剣一本しかないってのに!
逃げて、逃げて、逃げるのに精一杯だ。反撃するには突っ込まなきゃいけないが、そんな隙が与えられない。
右、左、上、下、前、後ろ。
どこを見ても何かしらの攻撃が来て、完全に安全な場所がない。
ダメージばかりが蓄積していく。
(くそっ、このままじゃ……!)
駄目だ、どこかで反撃しないと!
慌てて振り返ると──目の前に、ミサイルが迫っていた。
間に合わねえ──!
〈
──爆炎の中、そんな声が聞こえた。
「……これは……」
煙が晴れ、改めて自分の姿を確認する。
全体的に灰色だった装甲は白に変わり、手足も鮮やかな青になっている。
そうか……これが、本当の白式の姿なんだ。
しかも、この武器。雪片弐型……まるで千冬姉の武器じゃないか。
俺の考えに呼応するように雪片弐型は変形し、エネルギーの刃を形成する。
「……準備完了、といったところですわね」
「──ああ。改めて──行くぜ!」
「やらせませんわ!」
追撃のミサイルとレーザーが発射される。
さっきまでと同じ攻撃。そのはずなのに──見える。動ける!
「なっ、なぜ……何故当たりませんの!?」
飛び、躱し、斬る。
さっきまで到底不可能だったことが、出来る。
レーザーだって当たらない。
ミサイルは全て斬り落とす。
これなら……これなら、いける!
最後のミサイルを切り落とし、セシリアに肉薄する──!
「…………ッ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
〈織斑一夏。エネルギー切れにより、脱落です〉
『……へっ?』
思わず、二人の声が重なった。
な、なんだ。何が起きた?
『織斑、お前は脱落だ。邪魔にならないように早く戻ってこい』
「あっ……はい!」
千冬姉の声がアリーナに響く。
ふとステータスを見ると……白式のエネルギーが、0になっていた。
……さっきのエネルギー刃、ISのエネルギーまで使ってたのか……。
「はぁ……いけると思ったんだけどなあ。じゃ、俺は先に戻るよ」
「ええ、またあと……で…………」
「ひどいじゃねえかセシリア。俺を置いてけぼりなんてよ」
◇ ◇ ◇
二人の戦いは素晴らしかった。
だが──俺を忘れたのは、致命的だったな。
既にチャージは完了している。
ゼロの鎧、ウルティメイトイージス。それは、鎧以外にも、もう一つ用途がある。
それが、今の形態……ファイナルウルティメイトゼロモード。
翼と胸部に使われていた鎧を、右腕のウルティメイトゼロソードに合体させる。
そして──
「楽しかったぜ、セシリア」
「…………ッ!」
──そのまま、打ち出す!
ウルティメイトイージスはセシリアに向かっていく。
エメリウムスラッシュやワイドゼロショットとは比較にならない、それは猛スピードで。
「くっ──ぅうあぁぁっ!」
当然避けきれるものじゃない。せめてもの抵抗か、件のショートブレードで防ごうとしたようだが……ウルティメイトイージスはそのままドリルのように回転し、セシリアを壁に叩き込んだ。
それでもなお、止まらない。止まらない。
「ぐ、うううぅうぅぅ……ッ」
そして──ウルティメイトイージスは、機能を停止した。
役目を、終えたからだ。
〈セシリア・オルコット。エネルギー切れにより脱落です〉
〈勝者──風森大我! 〉
「──よっしゃあ!」
「……はぁ。やっぱり、敵いませんわね……」
こうして。
クラス代表決定戦は、俺の勝利で幕を閉じたのだった。