本当は敵なんかいないインフィニット・ストラトス(プロト版) 作:マスクP
『一夏君、クラス代表決定おめでと~!』
「……なんで?」
クラッカーと拍手の音が鳴り響く中、一夏は怪訝そうな表情を浮かべた。
「なんでって、何がだよ」
「何がじゃなくて! 俺、一番最初に負けたじゃねえか! 話が違う!」
「おいおい、先生は「クラス代表を決める」とは言ったけどよ。「勝者を代表者にする」とは一言も言ってねえぜ?」
「へ、屁理屈だ!」
俺もそう思う。というか、俺とセシリアが揃って辞退したのが原因だしな。
試合が終わってから、二人で話し合ったんだ。
試合中の、一夏の動きについて。
「負けは負け、勝ちは勝ち。……それは勿論理解していますが……」
「ああ。あの動き、そんじょそこらの初心者ができる動きじゃねえ。あんまりこういう言葉は使いたくねえけどよ……」
「――はい。間違いなく、一夏さんには才能が有りますわ」
白式がとんでもない機体だった。
セシリアとの戦い方が上手く噛み合った。
大剣一本ってのが、余計な事考えないでいいから肩の力が抜けた。
色々理由があるかもしれない。
けど……それでも、IS起動数時間もねえ素人が、代表候補生相手に善戦した。なんなら、勝ちも見えていた。
あいつ自身に、ISの才能があったとみていいだろう。
だから、二人揃って辞退することにしたんだ。
一夏がクラス代表になれば、当然イベントに出ることも多くなる。
それだけ、ISとの実戦経験も増える。
本格的にISを学べば、一夏はもっと高みにいけるはずだ。
「ま、うだうだ言ってても仕方ないか。頑張るよ、クラス代表!」
「おう! それでこそ、ってやつだな」
「頑張ってね、織斑君!」
「おうえんしてるよ~」
「不甲斐ないバトルなんかしたら、あたしがすぐに代わってあげるわよ?」
一夏が代表になったことに、文句を言うクラスメイトはいない。みんな、素直に応援してくれてる。
あの試合で「なにか」を感じたのは、実際に戦った俺たちだけじゃない、ってことだな。
……それはいいんだが。
一夏の隣に座る箒は、ずっとむくれたままだ。
「人気者じゃないか、一夏」
「んー……まあな! ありがたいことだよ」
「…………ばか」
そういうとこだぞ一夏。
端から見りゃ、箒がむくれてる理由なんか一発で分かる。
なんでこいつは恋愛に関してだけクッソポンコツになるんだろうなあ……。
「大我さん、楽しんでらっしゃいますか?」
「おー、セシリア」
クラスの祝い事なんで、当然セシリアも参加している。
学内だから制服なのは当たり前なんだが……それでも気品を感じるのは、彼女自身から感じる「オーラ」ってもんだろうか。
装飾は特に変わらないはずなのに、セシリアは特に目立って見えた。
さすが貴族、ってところか。
「まあ、そこそこな。セシリアは?」
「もちろん楽しいですわ♪ これほど砕け切った会合というのも初めてなものですから」
重みを感じる言葉だった。
俺と違って、セシリアは貴族の娘だ。俺じゃ到底参加出来ないようなパーティーに参加することも、一度や二度じゃないだろう。
そのセシリアが、今日のパーティーを楽しいと言ってくれた。
俺が主役なわけじゃないが……それだけで、今回の試合をやった価値があると思えた。
「そ、それになにより……大我さんが、いてくださいますから……♥」
「ッ……お、おう」
……調子が狂う。
あんまり好意をストレートに伝えられるのは、今でも慣れてねえんだ。
「なぁに~たいがぁ~。照れてんのー?」
「こう見えて
「ラウラに言われたかないわい!」
いつの間にやらシャルとラウラが近くまで来ていた。
言ってくれるけど初対面のときなんて「暴力! 暴力! 暴力!」って感じだったからな!?
シャル近いってんだ!
「どうもー、新聞部でーす!」
おっと。
そうこうしている内に、写真の時間が来たようだ。
会長に聞いたが、毎年この時期になるとクラス毎の写真を撮るらしい。
今年の1組に関して言えば専用機持ちが集まってるし、絶好のタイミングだろう。
「今回の対戦相手同士で、撮りたいんだけど、寄ってもらえるー?」
写真部の先輩のお願いで、一夏、俺、セシリアの三人で一か所に固まる。
撮られ慣れてない一夏は緊張でガッチガチになっちまっている。
初々しいもんだ。
「じゃあ撮るよー。ハイ、チーズ!」
「あっみんなちょっと近」
――「クラス代表者決定」という触れ込みはどこへやら。
その日の写真は、1組の全員が写った集合写真のようだった。
◇ ◇ ◇
「あー……つっかれたあ」
ベッドに体を放り投げ、ため息と共に零れた。
制服のままだけど、取りあえずは身体を休めたかった。
大我やセシリアはああいう場は慣れてたらしく、最初から自然体でこなしていた。
羨ましい……俺なんか、それっぽい笑顔で写るので精一杯だっていうのに。
まあ、最後はみんなが写ったことでうやむやになったようだけど。
「……クラス代表、か」
今日決まった事実を改めて反芻する。
俺は偶然ISを起動して、それだけの理由でIS学園に放り込まれた、偶然の塊のような境遇にいる。
それなのに専用機をもらって、クラス代表まで任されて……。
そんな大役が俺に務まるだろうか?
二人には負けたっていうのに。
初心者だから。相手のことをよく知らなかったから。
そう割り切れるほど……俺は、大人じゃない。
(勝ちたい。セシリアにも、大我にも、他の代表候補生にだって)
いつになるかは分からないけど、追い越してみたい。
胸の中で、小さく、でも確かに、炎が灯る音がした。
「一夏、起きているか」
一人、決意を新たにしていると、ノックの音が響いた。
この声は……箒だ。
「おう、入っていいぞー」
「うむ……」
カチャリ、と静かにドアが閉まる。
ひたひたと足音が近づき、やがて姿が見え……って。
「ほ、箒……風呂上り?」
「そう、だ。……あまり、じろじろ見るな」
「わ、悪い」
箒は、ピンクの寝間着姿だった。
しかも髪がしっとりと濡れていて、頬も赤い。
ぶっちゃけて言えば、妙に色っぽかった。
ダメだ、頭までピンク色になっている気がする。
煩悩を振り払って、どうにか言葉を絞り出した。
「それで、どうしたんだよこんな時間に」
「いや、そんなに重要な話ではないんだ。ただ、言い忘れていたことがあって」
「忘れてたこと……?」
「――クラス代表おめでとう、一夏。頑張ったな」
……それは、さっきまでみんなに言われていたことだった。
「おめでとう」「頑張ってね」と。
そのはずなのに。
なんでだろう。箒に言われるだけで、特別な意味を持つのは。
箒が言ってくれるだけで、胸の奥が熱くなった。
さっきまで抱いていた不安なんか、どこかに行ってしまうくらいに。
「あ、ありがとう」
「なんだ、一夏。照れているのか?」
「……うん」
「なっ」
な、なんだこの空気は。
箒は幼馴染なのに、なんでこんなに恥ずかしくなるんだよ!
「ゴ、ゴホン。それだけ、言いに来た。私は、戻るとしよう」
「あ、ああ。また、明日な」
「ああ。また明日」
それだけ言うと、箒は足早にドアに向かっていった。
のだが。途中で振り返ると……ただでさえ赤い顔を更に真っ赤にさせて――
「そ、その。……かっこよかったぞ、一夏」
――そう、言い残していった。
「……………………」
そして、今度こそ去っていったのだった。
静かにドアを閉めて。
「――だあぁぁーっ!」
この感情をどう表現すればいいか分からなくて、ベッドの上で頭を抱える。
小学校から一緒だった箒。
一緒に剣道を習っていた箒。
たまに見せる笑顔がかわいかった箒。
『かっこよかったぞ、一夏』
優しい言葉をかけてくれた、箒。
記憶と、目に焼き付いた光景と、耳に残る言葉が離れない。
それどころか、箒がいなくなった今、更に強くなっている。
「はぁ…………どうしちまったんだ、俺」
なんだか今日は、眠れそうにない。