※この作品はR-18です。

Fate/stay night : 2.5i+3.10i+BERSERK = The Future Remember   作:形のない者

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プロローグ

 ……十年前。

 思い入れのあるこの街を襲った大災害。

 死者数は数百名にも上り、私の知る限りで、この地獄から生還できた者は、ただ一人の少年しかいなかった。

 

 

 

 ――――再生、開始。

 

 熱い。

 熱くない。

 正確に言うのなら、今の私は熱いことを思い出している。

 だが“熱かった”というのは間違いだ。

 なぜなら私は、この“熱い”を体験したわけではないのだから。

 

 私は今、すべてが赤く燃え盛る地獄の中で、ただ泰然と立ち尽くしている。

 もう見慣れた光景だ。もう、他人事のように見慣れてしまった光景だ。

 

 ふと、私の横を通り過ぎる一つの人影。

 彼は私の存在に気づいておらず――それも当然だが――瓦礫の山に登って膝をつく。

 

「――――。――――、――――。――――、――――……」

 

 人影は口を開き、何かを喋っている。しかし私には、その声が聞こえない。

 だが、おそらく人影が吐露しているらしき感情は、その背中越しからでも見て取れた。

 

 ――――その人影は、この地獄の光景に慟哭し、生存者を探そうと嗚咽していたのだ。

 

 そして人影は、がれきに埋まっていた赤毛の少年を救い出し、己の裡に込められていた聖剣の鞘を譲渡する。

 すると赤毛の少年は、虚ろな瞳を開いてくれた。

 

 はたして少年は、自分を助けてくれた人影を見上げて、いったい何を思っているのだろうか。

 

 

 

 ――――私は歩く。私は早める。私は過去から未来に赴く。だが、その未来は現在(いま)ではない。

 

 

 

 今は夜。観るは昼。

 白い天井、淡い青色の壁、清潔な室内。そこは病室と呼ばれる場所。

 寝台の上には包帯に巻かれた赤毛の少年がいて、ほかにも何人かの子供たちがいた。

 

 そして、あの人影が病室に入ってくる。

 

「――――。――――――――」

 

 赤毛の少年に近づいた人影は、何かを話している。

 

「――――。――――――――、――――――――、――――――――」

 

 赤毛の少年は少し悩んだ末、何かを決めて人影を指差した。

 

「――、――。――――――――、――――、――――――――」

 

 人影は、赤毛の少年の荷物を整理する。

 彼の起源のせいか、散々しっちゃかめっちゃかにしたあと、何かを思い出したように顔を上げた。

 

「――、――――――――。――――、――――――――。

 ――――。――――――――、――――――――」

 

 赤毛の少年は何を言われたのだろうか。感心したように口をあんぐりと開けた。

 

「うわ、爺さんすごいな」

 

 そうか。その人影は“爺さん”なのか。黒い泥人形のような見た目からして判らなかった。

 しかし、さして少年が気味悪がらない以上、この人影の姿はきっと、本当に人間の爺さんなのだろう。

 

 ……いや、最初から判ってはいたのだ。誰かがこの人影を呼称する際、必ず耳にするのは“衛宮切嗣”という名前だったから。

 そして『衛宮』という苗字には覚えがある。私の学校に通う友人のものだ。

 

 

 

 ――――私は歩く。私は早める。

 

 

 

 今は夜。観るは夜。

 私は深山町の交差点を抜けて、ある武家屋敷に辿り着く。

 私は塀の上に登るだけだが、そ(・)の(・)私(・)は塀を乗り越えて屋敷の中に侵入しようとする。

 しかし、すぐに屋敷内部に結界が張られていることに、そ(・)の(・)私(・)は(・)気(・)が(・)つ(・)い(・)た(・)。

 その私は、なんとかして屋敷には入れないかと思案する。そこで解析を掛けてみると、その私は結界の優しさに驚いた。

 

 ――入るも去るもご自由に。敵意さえなければ警報は鳴らさない。

 魔術師としては、あまりにも人が良すぎる。その防犯設備は、既に自分は魔術師ではないことを証明していた。

 

 そして、今の私と、その私は、塀の上で過去を見る。

 私にとっては二度目だけど、その私にとっては一度目だ。

 

 広い庭。縁側には衛宮切嗣と思しき人影と、数年ほど成長した赤毛の少年・衛宮士郎が肩を並べて座っている。

 同じ苗字からして、人影と士郎は親子なのだろう。養子に迎えられたということなのだろうか。

 

 ……綺麗な月を仰ぎながら、会話をする親子が二人。

 

「――――、――――――――」

 

「なんだよ、それ。憧れてたって、諦めたのかよ」

 

 幼い姿の士郎は、不機嫌そうに、そう言った。

 はて、人影は何を諦めたのだろうか。彼は月を見上げて、何かを語る。

 

「――、――――。――――、――――――――。――――、――――――――」

 

「そっか。それじゃ、しょうがないな」

 

「――――。――、――――」

 

「うん。しょうがないから、俺が代わりになってやるよ。

 爺さんは大人だからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。まかせろって、爺さんの夢は――――」

 

 

 

 

 

「――――俺が、ちゃんと形にしてやるから」

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、人影にまとわりついていた泥が拭払されていく。

 それで、今まで黒塗りされて見えなかった姿が、ようやく顕(あらわ)になった。

 

 爺さんと呼ばれる衛宮切嗣。

 聞く所によると、かの魔術師殺しは、いま視ている時間軸では、まだ三十代の年齢だったはずだと記憶している。が、これは確かに“爺さん”と呼ばれるのも頷ける風貌だった。

 

 死神の黒装束を身に纏っておきながら、今にも自分が死神に連れて行かれそうな、そんな男。

 世界の悪意に悪戯されて、はたしてその終生は如何なる心地だったのか。

 

 しかし衛宮切嗣は、幸せそうに微笑んでいた。

 

「そうか。ああ――――安心した」

 

 ……この時点で、彼は救われていたのだろう。

 諦めてしまった何か。

 それを息子に受け継がせて、彼は救われて瞼を閉じた。

 

 そうして少年は、静かに涙する。静寂な夜は、いつまでも続いていく。

 

 

 

 

 

 やがて、朝が来た。

 少年は骸から離れない。

 門から若い娘が入ってきて、すべてを悟った顔をした。

 

 それからは観るまでもない。私には、彼らの家族の葬式に参列する資格はない。

 これはただの調査だ。我が一族の探求のための、ただのフィールドワーク。

 

 だのに私は、なんで……こんな寄り道をしたのだろう。

 いったい私は、何を考えているのだろう。

 

 世界を敵に回すのか? だけどそれで、もし大切な人たちを救えるのなら?

 大切な人を救うためなら、私は世界さえ敵に回せるのか?

 

 分からない。判らない。解らない。わからない。私は魔術師だ。魔術師なんだ。

 それでも大切な人々や、好きになった男の子を救えるのなら、私はどうしたいのだろう。

 

 

 

 ――――綺麗な月は見えない。今日は曇りだ。

 

 武家屋敷から離れて、交差点を左に曲がり、坂を上る。

 

 洋館に帰宅した私は、魔術の行使に疲れ果てて、ふかふかのベッドに倒れ込んだ。

 

「…………」

 

 悩む必要はない。なぜなら私は、もう戦いを始めてしまっているのだから。

 始めてしまっていたのなら、もう後戻りはできない。

 私は戦うことを決意する前に、決意していたんだ。

 

 それは。

 

 ――――まるで、未来を思い出すように。

 

 私は全てを擲ち、悪意を持つ世界に対して、宣戦を布告した。

 開戦の狼煙は明日にも昇る。

 今日はもう日付を跨いでいるから、明日というのは二回寝たあとの話だ。

 

「……。…………、……来て、バーサーカー……」

 

 暗闇に包まれた寝室。その壁際から大きな人影が現れる。

 その人影は黒いマントを身に纏った大男。彼は裸になり、全身傷だらけの肌を見せて、私に覆いかぶさった。

 

「契約を、しましょう」

 

 未来は既に予測演算され、その上で疑似的な測定を施されている。

 

 明日は一月の三十日。水曜日。

 

 

 

 その夜、私は女としての初めてを捨てた。

 

 

 

 /了

 

 

 




 これは、未来を思い出す物語。

 高校時代に完成し、長年wordの中で封印されていた二次創作物を、HF三章公開記念に先駆けて、なぜか今になって改稿して投稿しようとしている黒歴史公開記。


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