Fate/stay night : 2.5i+3.10i+BERSERK = The Future Remember 作:形のない者
朝。
俺たちは居間で朝食を済ませた。
それから遠坂に道場まで連れて行かれて、何やら唐突な魔術講座が始まった。
なんでも泥影対策をするために、俺の体に防護術式を刻み込むのだとか。
それも泥影を相手にするとき、少し楽になる程度なのだが、ないよりはマシだということで、俺はその提案を受け入れた。
もちろん。それに最初キャスターは反対した。
遠坂のことを信用しきれていないのか、はたまた張り合っているのかは分からなかったが、キャスターは次のようなことを言った。
「この女の魔術を受ける必要はありません。対魔力の施しなんて、私が用意してあげます。それに、もしこれが坊やを取って食うものだったとしたら、一体どうするつもりなのですか?」
……と。
でも、そこはなんとかキャスターを宥めて、俺は遠坂に体を預けた。
……しかし、問題はそのあとだ。
何故か道場には、俺と遠坂以外に、桜と慎二、イリヤがいた。
こうなるとキャスターは当然として、桜を守るためにライダーもいるということだから、結局全員集合だった。
そこで俺は一人ひとりに、何故ついてきたのかと、ちょっと訊いてみた。
それによると桜は、「だ、だって、先輩が心配で……」
一方の慎二は、「暇つぶし。あと面白いもの見たさかな?」
最後にイリヤは、「リンに何かされないための見張り」
……とのことだった。
また、遠坂の方は、桜とイリヤに信用されていないことに多少ご立腹のようだったが、それも仕方ない。
だって実際、その防護術式の刻み込みとやらは、なんというか……かなり恥ずかしいものだったから……。
まず、俺が半裸になります。
次に喉を針で刺されたような感じがして、その次はヘソ下から中身をこねくり回される感じがした。
しかも、遠坂の人差し指でだ。
もう一度言う。遠坂は手袋とかはしていない。
少しの温度がある生温かい遠坂の人差し指が、俺の腹の中にどういうわけか入っていったのだ。
……もちろん。変な声も出た。
その間、みんなの見る目が痛かったような気がしたが、それは気のせいだとしておく。
そうして俺は、やっとの思いで遠坂の妙な人体改造から解放されたのであった。
「ふぅ。これで終わりっと。まったく士郎。変な声出さないでよね。別に変なことしてないのに、変なことしてる気分になってくるじゃないのよう」
「いや、無茶言うなよ……」
ぐったりとして仰向けになる。
道場のひんやりとした床が背中に触れて、少し仰け反った。
「さって、お次はイリヤね。ちょっとまた付き合ってくれる?」
「えぇ。昨日の続きね。分かったわ」
それから遠坂は、イリヤと一緒に道場を出て行った。
今この場に残っているのは、俺と桜と慎二である。
「……あ、あの。先輩、服……」
「あぁ、ありがとう桜」
桜から渡された服を着る。
それから慎二がやってきて、
「なんだ。魔術って、案外エロいことにも使えるんだな」
これまたど直球なことを言いやがった!
「な、おま、慎二……!」
「なにさ。顔を赤くしちゃってさ! でも、案外まんざらでもなかったんだろう?」
「に、兄さん……! ――で、でも、兄さんの言う通りです! ……そ、そうなんですか、先輩!? 結構、姉さんにお臍を人差し指でまさぐられることに、まんざらでもなかったりしちゃってるんですかっ!?」
桜までぇ!?
「だ、だとしたら、私は別に……よくは、ないけど……」
なにやらブツブツと言い始める桜。
何か誤解が進んでいるような気もするが、ここは即時退散がいいと判断した。
……まったく。慎二のやつ。あんまり人をからかうなってんだ。
そう思いながら振り返ると、当の慎二は笑って「ばーい」と手を振り、道場を後にした。
続けて俺と桜も中庭に出る。
(マスター。少し土蔵でお話が)
ふいにキャスターが話しかけてきた。
「悪い、桜。俺、ちょっと土蔵に行くから」
「分かりました」
戻る途中で桜と別れて、俺は土蔵に向かう。
……さて、ここに入るのは久しぶりだ。
前に入ったときは、確かランサーに襲われて、セイバーを召喚したときだったか。
「マスター。単刀直入に言って、今の貴方の魔術レベルを問いたい」
実体化したキャスターは俺を見上げて、厳かな口調で話を始める。
「俺の魔術レベルって……もしかして、何を投影できるのか、ってことか?」
俺は、既にあるものを強化する魔術と、一から何かを複製する投影魔術しかできない。
といっても一応“変化”という技巧を加えて、あるものを魔改造するという魔術も、アーチャーの記憶から知ってはいるんだが……。
「えぇ、そうよ。それで、今の貴方はアーチャーの使用していた双剣と、ほかに何が作れるのかしら?」
「んー。そうだな……やろうと思えば、一回限りの短期決戦で、無限の剣製は可能だと思う。ほかには
「上出来よ。そして充分よ。なら次に、サーヴァントを相手に戦った場合、貴方の勝率はどれくらいあると思う?」
……なんだ。
まさかキャスターは、俺を試しているのか?
「そんなの無理に決まっているだろ。一対一で戦って、俺がサーヴァントを相手に勝てるわけがない。そんなの、キャスターでも分かってるだろ」
「そうね。まぁ今のライダーになら、貴方でも勝てるかもしれないけど。それでもセイバーやアサシンは倒しきれないでしょうね。……だとしても、たとえ勝てない敵が相手だと分かっていても、坊やは彼らと戦おうとするのよね?」
「――あぁ。それが、桜とイリヤを守れることに繋がるのなら」
「なら、今のうちに考えておきなさい。おそらくバーサーカーは敵の手に渡った。次は魔力無限のセイバーとバーサーカー、そして不死身のアサシンが三騎同時に襲いかかってくると思ってちょうだい。その上で貴方に何が出来るのか。それをよく考えて、煮詰めておきなさい」
「……分かってる。とにかくキャスターは、ただ二人を守るだけじゃなくて、この聖杯戦争に勝つ方法を考え出せって言いたいんだよな?」
「当然です。まさか、私の願いをお忘れでして?」
……そんなわけない。
キャスターの願いは、ひとえに元マスターの蘇生。
死人を生き返らせるという禁忌に挑むのなら、それこそ願望機である聖杯の力が必要不可欠。
だけど……。
「なぁ、キャスター。もちろんキャスターの願いは分かっているけど、その……聖杯の中身については……」
聖杯の中身。
俺はアーチャーの記憶の中で、恐ろしいものを垣間見た。
あの汚染物質をどうにかしない限り、この冬木の地に眠る聖杯は破壊するしかない。
少なくとも今のままでは、この聖杯戦争は、それ自体が爆弾をいつ、誰が爆破するのかを競っているだけのゲームになる。
「それなら問題ありません。私の手にかかれば、聖杯は汚染されたままでも使えますし、この短剣があれば、土壇場で願いを叶えることも出来ますから」
「えっ。そうなのか? ……いや、でも、そうか。魔術破りの短剣と、神代最高峰のキャスターの腕前があれば、そのくらいは出来るのか」
「えぇ。もちろん。そういうわけで、今後の方針は任せたわよ、マスター。私に出来ることと言えば、ランクダウンした神殿を構築して、マスターの背後霊として付き従うだけしかないんですからね」
……それは、霊基のスペックダウンが激しくて、何も出来ることがない。ということを言いたいんだろうか。
「そんなことないぞ。俺にとってキャスターは必要な存在だ。実際、明日にはちょっと手伝ってほしいことがある。まだ頭の中でまとまってないから今は言えないんだけど、すぐにキャスターの手を借りることになるから」
それだけ言って話を切り上げる。
「……っ。そ、そう……なら、早くしなさいよ。明日なんて言わずに、今すぐ。時間は待ってくれないのよ?」
そう言って霊体化するキャスター。
なんだか顔が赤くなっていたけど、何か恥ずかしいことでも言っちゃったのだろうか、俺?
それからは何事もなく昼を迎え、時間を食い潰すように夜が来た。
みんなで夕飯を囲み、その後は夜の定番となった作戦会議に入る。
そこで遠坂の口から真っ先に出たのは、
なんでも遠坂家には宝石剣という設計図が残されており、あとは素材さえ用意できれば、それの“素”が完成するらしい。
そして、その素となる存在の上に、俺が宝石剣の投影を重ねることができれば、かなりの戦力強化に繋がるのだとか。
そのための準備を遠坂は昨日から進めており、ついさっきイリヤとの共同作業で、設計図の完成と素材の用意が整ったとのこと。
あとは設計図通りに宝石剣の素を製作し、俺がイリヤの記憶の中から宝石剣を解析して投影を行なう。
しかし問題なのは、これがあと二日、三日はかかるだろうということ。
それまでに臓硯の襲撃があったら宝石剣の製作が間に合わなくなるし、そもそも成功する目処もない。
そんなことを話した上で、今夜の俺たちは解散した。
◇
夜。
暗澹とした地下の蟲蔵で、儂はこれからの作戦を練り上げていた。
まず、桜の精神的支柱であった衛宮の小倅と慎二が手を組んだ今、強まり始めた桜の自我を揺さぶることが難しくなった。
それに一役買っているのが、衛宮の小倅。
桜にとって衛宮の小倅とは、“自分が守らなければならない日常の象徴たる存在”である。
あやつの強情なところは、己が大切だと思うものに守られることを期待するのではなく、逆に守ってあげなければならないと奮起するところ。
それも、どこぞのバーサーカーのせいで、桜は“戦う”という決意を固めてしまった。
さらに、その戦うという決意を後押しした存在が、桜にとっての頼れる兄貴分。既に間桐家から勘当した、何も出来ない小童のはずの慎二……。
しかも桜にとって、“自分を守ってほしい英雄的な存在”たる遠坂の娘が、アーチャーの敗退を機に向こうへ付いた。
……状況は芳しくない。
これにて桜の心の隙間は磐石なものとなり、たかが刻印虫の暴走程度では、桜の心を乱すことができなくなった。
つまり桜を黒く染めるための決定打がなくなったというわけじゃ。
もはや刻印虫の暴走程度では、桜は身を呈して倒れるだけで、心を乱すこともない。
無論、戦況として圧倒的に此方が有利だ。しかし、これは聖杯戦争だ。
聖杯の成就が成し得られないのであれば、たとえ聖杯戦争自体に勝利しても意味がない。
ならば、桜を崩すことが出来なくなったのであれば。つまり間桐オリジナルの青銅の聖杯が成就できないのであれば。
次なる聖杯。――否、元々の聖杯を狙うしかあるまいて。
……あぁ、ユスティーツァ。
お前を穢すことになるのは心苦しいが、聖杯さえ手に入ることができれば、儂はそれで構わない。
――――襲撃は二日後。
なに、焦る必要はない。
いつでもあ奴らは一掃できるのだから、あとは聖杯が降霊する日を待てばいいだけのこと。
それまで、束の間の平和を味わっておくが良い……。
/了
短い。手抜き描写。ソーリー。
下記は言い訳。
実は『二月十日の昼』部分の執筆中に、拙者がお金を稼がなければならない歳になってしまったという諸事情により、とにかく作品を完結させたいという意向の下、ここからは日常回をすっ飛ばし、戦闘回を簡略化するなど、かなりの手抜き加減となっておりまする。それは改稿している今になっても、描写を増量する時間がないことから、これ以上のクオリティは絶望的です。
oh……全く以て歯がゆいぜ。
何故に拙者の“無限の夏休”は終わってしまったのか。
これが大人になるということか。南無三……。