Fate/stay night : 2.5i+3.10i+BERSERK = The Future Remember 作:形のない者
朝。
居間で朝食を済ませたあと、さっそく遠坂とイリヤは宝石剣の素の製作に入った。
桜の方は無理せず自室で寝てもらうことにして、慎二の方は相変わらず居間でくつろいでいた。
そして、俺はキャスターを連れて土蔵の中に入り、昨日の話の続きをすることにした。
「出てきてくれ。キャスター」
「なんでしょうか?」
実体化するキャスター。
いつ見ても、この見上げてくる姿には慣れない。
「これからバーサーカーを倒す方法を話そうと思う」
そう言うと、キャスターは目を丸くして驚いた。
「よ、よりにもよってバーサーカーですか? それは驚きですけど……でも、どうやって?」
「それは……まず、ライダーの存在が必要不可欠なんだが……」
それだけ言うと、キャスターは俺の考えを見抜いたのか。
顎に手を当てたあと、「あぁ、そういうこと」と呟いた。
「貴方、あの蛇女の宝具を投影するつもりなのね?」
「あぁ。でも、そのためにはライダーの協力が必要だ」
「そうねぇ……正直に話しても受け入れてくれる内容じゃないし……ただ、発想はいいわ。仮にライダーの協力が得られたら、私の魔術でライダーの記憶を覗けるし、その記憶を貴方に繋げることもできる。一から投影するのは困難でしょうけど、一か八かの可能性はあるのではなくて?」
そう言ってもらえると助かる。
あとはセイバーの倒し方についてなんだが、それは言うまでもなく、我武者羅に一騎打ちを挑む。という事くらいしか思いつかない。
そしてアサシンについては、まず不死身という時点で勝つも何もない。
そのくせアサシンは泥影と一体化しており、サーヴァント特攻の宝具を持っている。
ただ魔力と幸運の高いキャスターなら、アサシンの宝具を防げる確率が高い。
それでも魔術師と暗殺者が正面切って戦えるかと言われると、それはノーだと断じられる。
「……ふむ。となると、どうやってライダーと仲良くなるかだが……」
腕を組んで首をひねる。
ここまで悩む理由は、あのライダーの好きなものとか嫌いなものとかが、容易に想像できなかったからだ。
「……ふふっ」
ふと、なぜかそこでキャスターが、俺を見て微笑んだ。
「……なんだよ」
「いえ、別に。ただ、坊やも色んな女の子と仲良くなりたいお年頃なのだなと」
ばっ――――
「な、何言ってるんだよキャスター! こんな真面目なときに……」
「えぇ? だって、この数日で三人の少女と寝た貴方が何を」
うっ――――。
く、くそっ。もしかして俺、キャスターに遊ばれてないか?
たぶん今の俺は、誰にも見せられないくらい顔が赤くなっていると思う……。
「あぁもう、この話は終わり! あんまり俺をいじめないでくれ、キャスター……」
話を切り上げて、土蔵から出る。
一方のキャスターは、最後までくつくつと笑いをこらえながら霊体化した。
それから俺は、昼にイリヤと商店街に出かけた。
大所帯となってから、冷蔵庫の中が一気に寂しくなってしまったからだ。
そして夕方には土蔵にこもり、アーチャーから流れ込んできた記憶の数々の整理に入る。
自分とアーチャーは別人である。ただ、投影の知識だけを貰い受ける。
逆しまに体験した誰かの人生を、俺の人生から決別させる。
そうこうしているうちに夜が来て、俺たちは夕餉を済ませた。
現在、一同は居間に集っている。
これから恒例の作戦会議が始まるというところで、イリヤが口を開いた。
「それにしても、ここ二日はとても静かだったわね」
確かに、これじゃあまるで嵐の前の静けさだ。
そこで遠坂が口を開いた。
「たぶん。間桐臓硯は焦っていないってことなんだと思うわ。やつは、いつでもわたしたちを片付けられるから、きっと聖杯戦争の決着をギリギリまで持ち越そうとしているのよ。要するに慢心しているってことね。癪だけど、それでもこの時間を無駄にはできないわ。概念武装の準備も整いつつあるし、そろそろ具体的な策を講じたいところなんだけど……」
ふいに遠坂は、俺の方を見る。
……いや、違う。その視線は、俺より背後に向けられていた。
それはつまり……。
「――私に何かご用で?」
実体化するキャスター。
座布団に座る俺の後ろに立って、それでも俺の後頭部が邪魔だったためか、少し横に歩いて遠坂と顔を合わせる。
「えぇ。キャスターからの意見を聞きたくてね。あなた、あまり実体化して喋ってくれないのだもの」
「それはまぁ、別に話すこともありませんし? 情報共有なんてしても無駄でしょ。貴女がどれだけすごい概念武装を作ろうとしているのかは知らないけど。現状、戦力となる人員は、我がマスターと私自身。そして、ライダーとそのマスターしかいないのですもの。既にアーチャーを失った元マスターなんて、戦力外通告もいいところだわ」
「お、おいおい……キャスター?」
ふんと鼻を鳴らして、キャスターはそっぽを向く。
対する遠坂は、今にも眉間に寄せられた血管が破裂しそうなくらい顔をしかめていた。
「――っ。あぁ、そう。なら、あなたの方こそどうなのよ? さも自分が戦力になれると言いたげだったけど。あなた、この聖杯戦争に勝てる見込みがあるのかしら? ――――確かアーチャーの記憶では、聖杯は黒いものに汚染されていたわ。黄金と青銅の聖杯も見た。ほんの一瞬だけだったけど、それだけでわたしは全てを理解した。冬木の聖杯は、既に無用の長物になっている。あれは、ただの破壊を呼び込む魔法の釜だとね」
「……姉さん?」
「遠坂?」
今の遠坂の話に、桜と慎二が疑問符を浮かべる。
それもそうだ。
桜と慎二には、アインツベルンの城で俺と遠坂とキャスターが見た、アーチャーの過去について話していないのだから。
……黄金の聖杯。それはイリヤのことだ。
ならば青銅の聖杯とは何かを、俺は記憶の中から引っ張り出す。
すると、それがなんとなく、桜のことだと分かった。
アーチャーは知っていたのだ。
……間桐臓硯の人体実験によって、桜が聖杯の紛い物にされていたということに――――
「――――っ」
――キツイ。その事実を知ったからキツイという話ではない。
俺はアーチャーが経験した、この聖杯戦争の結末を識ってしまっている。
――少年は
脳裏にこびりつく凄惨な事実。
俺は目頭を押さえて、食卓に肘をつく。
そこでキャスターが、遠坂の質問に答えた。
「……そんなの関係ないわ。私は汚染された聖杯でも十全に扱える。それに、あと一騎の英霊の魂を黄金の聖杯に落とすことが出来れば、それで聖杯は満たされる。だったら、私はさっさとそうしてこの聖杯戦争を終わらせて、疾く願いを叶えたいところなんですけどね」
そう言ってキャスターは、何故か桜の方を見た。
――――いや、違う。
その視線の先は、やはり桜より背後の方を見ていて……!
「ほう……ほざきましたね。キャスター」
敵意を持って、桜の傍らに実体化する小さなライダー。
それからキャスターとライダーは火花を散らす視線をぶつけ合わせて、居間が一触即発の雰囲気に包まれる。
「おい、やめろってキャスター。仲間割れするようなことを言うな。それにライダーも乗っからないでくれ。確かに煽られていい気分じゃないだろうけど……」
両者の間に入って仲裁する。
その時、慎二の声が上がった。
「あのさぁ。まったく話が見えてこないんだけど、なに? 君たち、僕らを仲間はずれにしたいわけ?」
不機嫌そうに姿勢を崩す慎二。
そこで遠坂が答えた。
「はぁ……違うわ、慎二。どうもね。キャスターによると、ここでライダーを倒せば、あとは全部自分でなんとかなるって言いたいそうなのよ」
「へぇ……? それってつまり、ほかのサーヴァントを全部、キャスターが片付けてくれるってことかい? なら、別にそれでいいんじゃないかな?」
『……は?』
あまりの突拍子もない台詞に、俺と遠坂の声がかぶる。
違う、慎二。キャスターが言っていることは、そういうことじゃない。
それに今の話の流れで、ほかのサーヴァントを全部倒すなんてことは、一つも話題に上らなかったじゃないか……。
「だってさ。もしアサシンが衛宮とキャスターで倒せるような雑魚なら、確かにライダーは要らないよね。でも、それを言うならこっちだって同じだ。キャスターがいなくても、桜のライダーならアサシンを倒せる。そしてお祖父様も殺せば終わりだ」
これまたあらぬことを言い始めた慎二。
「お、おい慎二――――」
そこで俺は、何を言っているんだ、と言おうとしたところで、遠坂が横から発言した。
「あのね、慎二。臓硯を殺せば桜が助かるわけじゃないし、場合によっては桜も死ぬ恐れがあるのよ。それに今の話は、そもそも聖杯戦争を勝ち抜く話ではなくて、どう終わらせるのかという話で――――」
「まぁまぁ、今は細かい話は抜きにしてさ。僕はそれがいいと思うな。だって面白いじゃないか。はたしてライダーとキャスターはどっちが強いのか。どうせ僕たちはこの聖杯戦争を勝ち抜けない。だったら、最後くらい身内で決着をつけてみようよ」
――――慎二は、何を言っているんだ?
俺には到底理解できなかった。
だって、桜の体の中には刻印虫がいて、無理にサーヴァントを使役すると、既に足りない魔力がさらになくなっていくんだ。そうして行き着く先は、桜の死。それを知っていながら、慎二はこんなよく分からない発破をかけているのだ。
「……ふん。そこのワカメ頭も、たまにはいいことを言うわね」
「ワカメ頭ってなんだよ!?」
キャスターの台詞に、慎二が叫ぶ。
「いいでしょう。それではちょっと庭に出ましょうか。キャスター」
そして、やる気満々のキャスターとライダー。
「ま、まてまて! 二人とも正気か!? 今はこんな、仲間割れをしている場合じゃないってのに――――!」
俺は立ち上がり、庭へ出ようとするキャスターを止めようとするが、キャスターのやつ霊体化しやがった!?
ライダーも霊体化してしまい、続いて慎二も立ち上がる。
そして慎二は、何故か俺に敵意を持った目で見据えてきて、
「それじゃ、衛宮。……庭で待ってるぜ」
それだけ言って、居間を出て行った。
……そうして居間に残されたのは、俺と遠坂、桜とイリヤ。
この事態の急展開に、この中の誰ひとり付いて行けていなかった。
「……はぁ。まんまと道化に釣られたわね」
ふと、イリヤが呟く。
「あ……あいつら、馬鹿なんじゃないの? ライダーが戦闘すれば桜の魔力が削れていく。そうなれば、夜に街を喰らう影の活動が活発化するだけだってのに……」
一方、遠坂は今にも怒りが爆発しそうなのか、わなわなと身を震わせていた。
「……あ、あの、せ、先輩。私たちは……どうしたら?」
最後に桜が助けを求めてくる。
でも、ごめん。俺もどうしたらいいか分からない。分からないけど、とにかく今は――――
「とにかく今は庭に急ぐべきだ。まったく、なんでこんなことに……」
すぐに居間を後にして縁側に向かう。
すると案の定、庭では慎二とライダー、そしてキャスターが面と向かい合っていた。
「おい、やめろって慎二! ライダー! キャスター! こんなことしている場合か!」
「あぁもう、うるさいなぁ衛宮は。そろそろ腹を括ったらどうだい? それに、もうこのチビサーヴァントたちは止められないよ。こうなったら衛宮も覚悟を決めなよ。――――それにね、衛宮。僕はお前と、いつかの喧嘩のケリを付けたいと思っていたんだ」
「えぇ。その通りよ、坊や。いいえ。私のマスター。それに、早く私の前に来てくれないかしら? もうライダーの蛇睨みに耐えられないわ。このまま戦闘が始まってしまっては、私は何も出来ずにライダーに殺されてしまうけど、それでもよくて?」
ぐにっ……。
確かに、既にライダーは腰を低くかがめて臨戦態勢を取っている。つまり、本気ってことだ。
実はこれはただの戦闘訓練だとか、そういうわけじゃない。
キャスターもライダーも、それに慎二も。あいつら、本当にここで決着をつけようとしている!
「あぁもうクソッ!」
干将・莫耶を投影し、庭に躍り出る。
これもキャスターを守るためだ。
ちょっと打ち合えば、ライダーも頭を冷やしてくれるだろう。
――ふいに、視界の端にイリヤが映った。
イリヤは縁側に腰を落ち着かせて、まるでこれから試合を観戦するように佇んでいる。
遅れて遠坂と桜もやってきた。
「あぁ……本当にやるつもりなのね……」
頭を押さえて、遠坂は今にも心労で倒れそうなのか、傍らに立つ桜に寄りかかる。
そして、次に遠坂は何をするのかと思いきや、ポケットに手を突っ込みながら庭に降りてきた。
「はぁ……本当にやってくれたね。慎二」
何やらブツブツと言って、遠坂はライダーとキャスターの間に入ってくる。
はて、もしかして仲裁に入ってくれるのか?
それなら有難い。ここは一つ。遠坂先生の一喝で血迷ったこやつらを――――
「あぁ、もう……ほんっとーに――――あったまきたァア!! こうなったらあんたたち全員わたしが皆殺しにしてやるわ! 十の宝石を五個使ってでも倒して、そしてわたしが勝ったら、桜はわたしが殺す! それでいいわね! 邪魔するやつはサーヴァントでも容赦しないわよっ!!」
――――こやつらを…………。
「――――な、なんですとぉ!? ちょ、ちょっと待て遠坂! おまえ、何を――――!?」
「ま、待ってください姉さん!」
おぉ! ここで桜が!
そうだ。頼む。もはや俺の味方は桜しか――――
「わた、わたしは姉さんに付きますっ!」
「なんでさっ!?」
……クソッ。冷静になれ。状況を分析するんだ。
まず、キャスターとライダーは犬猿の仲だ。
常に一触即発の危機はあったから、何もこうなったことは珍しいことではない。
逐一、俺や桜が仲裁に入れば、それで喧嘩にはならなかった。舌戦にはなっていたけど……。
そんでもって、次に分からないのは慎二だ。どう考えても慎二の一言によって、ライダーとキャスターに火がついてしまった。
慎二の考えていることが分からない。ただ慎二の言い分によると、どうやら俺といつかの喧嘩のケリを付けたいらしい。
……でも俺、慎二と喧嘩したことなんてあったっけ?
そして問題は遠坂だ。いつもは冷静な遠坂が急にブチギレた。
……いや、結構沸点が低いときもあったような気もするが、それでもおそらく遠坂の行動は正解なんだろう。
だが、それでも、俺は遠坂には味方できない。桜を亡き者にするってんなら、俺はそれを全力で止めるだけだ。
最後に桜。おそらく桜も、遠坂の言い分を正しいと思っているんだろう。だからこそ、桜は遠坂についた。
……それでも、俺は……。
「――――なるほど。そう思えば、これは避けられない戦いだったってことか」
「あぁ、その通りさ、衛宮。少なくともここには、僕と桜、遠坂、そして衛宮の三つ巴の思惑がある。こんなバラバラなままじゃ、まとまる話もまとまらないし、勝てる戦いにも勝てるわけがない。……だから、誰が一番上か、ここで決めるんだよ」
……干将・莫耶を構えて、ライダーを見据える。
今のライダーは、たとえ霊基を削っていても、桜がマスターとなっていることで、かなりパワーアップしていることだろう。
ならば、キャスターには後方支援に徹してもらう。
それはもはや口に出すまでもなく、キャスターは一歩足を引いて戦闘準備を整えていた。
一方の慎二は仁王立ちをしたまま、ライダーの動きを見守っている。
かたや遠坂は腰を落とし、ジリジリと間合いを図って、ポケットの中で虎の子の宝石を用意していることだろう。
そして縁側では、桜とイリヤが俺たちを見守っている。
そこで俺は、ひとつライダーにある話を持ちかけた。
「なぁ、ライダー。この勝負に俺が勝ったら、一つだけ言うことを聞いてほしいことがある」
「…………」
何も言わないライダー。
それが了承の合図だと悟り――――
――――俺は駆け出した。
刹那、宝石を取り出す遠坂。
その横を素通りして、俺はライダーに斬りかかる。
「ハァッ!」
ライダーの鎖付き短剣と切り結び、その小さな体を弾き飛ばす。
一方、キャスターは一言で以て詠唱を完了させていた。
背後で宝石の割れる音がして、魔力の爆発が引き起こされる。
次いで、俺に突き飛ばされてたたらを踏んでいたライダーは、すぐに地面を穿つ足の踏み込みで、まっすぐに飛び込んできた。
対する俺は、アーチャーの剣技を模倣する。
未来を思い出す形で会得した、研ぎ澄まされた邪念のない双剣の型を、憑依経験で一気に体得する!
「――――ハァァッ!」
勝負は一瞬。一撃で決める。
長引けば桜が危ないし、ライダーだって短期決戦で決めるつもりだ。
背後で遠坂とキャスターがどうなっているのか分からないけど、とにかく俺は、あと一秒でも戦闘を長引かせたくない。
「ライダーァッ!」
「――――っ!」
俺は正面からライダーと激突する。
干将で短剣を弾き、莫耶で首を獲りに行く。が、ライダーは身の小ささを利用して、俺の脇下を潜り抜ける。
それを逃しはしないと振り返り――――そこで俺は、空中殺法じみたライダーの攻撃を双剣で受け流しきった。
「きゃ――――っ!?」
――キャスターの悲鳴が聞こえる。
そこでライダーの背後に見えたのは、武術の構えを取ってキャスターに肉薄する、遠坂の姿だった!
「キャスター!」
――――どうする。
このままライダーを倒すか、それともキャスターを助けに行くか。
「――
干将・莫耶をライダーに投擲し、間髪入れずに無銘の弓矢を投影する。
投影速度は一秒も要らず。ライダーが干将・莫耶を弾いた次の瞬間、俺は遠坂の足元を狙って――――
「遠坂! 後ろだ!」
これから攻撃するぞと教えてから、引き絞った矢を射る。
「えっ? ――――ちょわぁっ!?」
キャスターにトドメを刺そうとしていた遠坂の足元に矢が刺さり、少しの爆発のあとに砂塵が舞う。
だが、これが俺の隙となった。
干将・莫耶を弾いたライダーは、弓しか持っていない俺に接近して――――
「覚悟――!」
跳躍し、飛び込んでくるライダー。
もう一本の干将・莫耶を投影しようとするが、おそらくライダーの敏捷には負ける。
――だが、キャスターの高速詠唱なら!
「――なにっ!?」
ライダーの背後に襲い来る一発の魔力光弾。
その攻撃に対し、ライダーは対魔力で難なく払うが、その間に俺は投影を完了。
干将・莫耶を胸の前で交差させるように構え、俺はアーチャーの切り札を解放する!
「――オーバーエッジ!」
干将・莫耶が黒白の翼へと巨大化し、ライダーを挟み込むように両腕を奮う!
「くっ――!」
その攻撃に対し、ライダーはギリギリ短剣で防いだが、今の俺の筋力は憑依経験で向上している。
強化された干将・莫耶の一撃を喰らったライダーは、その矮小な体を地面に転がし、塀まで突っ込んでいった。
――――庭に舞う砂塵が止む。
その先には、塀を背にして痛がっているライダーと、立ち上がって俺を睨みつけている遠坂の姿があった。
――俺は干将・莫耶をしまい、また弓矢を投影する。
次に遠坂とライダーを狙って矢を引き絞り、俺は詰めを作った。
「これで俺たちの勝ちだ。もう終わりにしよう。そろそろ頭も冷えただろ? ……慎二も」
振り返って慎二を見る。
その顔はとても悔しそうで、拳を握り締めていた。
「……ハ。そうだね。これは衛宮とキャスターの連携勝ちだ。遠坂とライダーは今回組むのが初めてだったからね。まったくつまらない。もうちょっと面白い戦いが見られると思ったんだけどな」
それもすぐに飄々と徹し始めて、慎二は縁側から別棟に去っていった。
「はぁ……まったく慎二の奴は何がしたかったのか……」
弓矢をしまい、張り詰めた心と肩をほぐす。
……すると、遠坂が何やら言いたげな顔をして、俺に迫ってきた。
「ちょっと、士郎。あんた、よくもわたしに矢を射ってきたわね」
「えっ……だ、だってそれは、遠坂。思いっきりキャスターに殴りかかってたじゃないか……だから、助けなくちゃと思って」
そこでキャスターが、俺のところに戻ってきた。
遠坂を警戒するような仕草で、俺の背中に隠れる。
「ま、まったくです……魔術戦を仕掛けてきたと思ったら、いきなり踏み込んできて胸を殴られました……。今時の魔術師は体術も出来るのですか?」
「あったりまえでしょ。このくらい既習科目よ。はぁ……それにしてもなんだか白けちゃったわね。――さくら~! あなたは大丈夫~?」
「――は、はい! わたしは大丈夫です。姉さん!」
縁側にいる桜が答える。その隣にはライダーもいた。
おそらく遠坂と同じく、桜の体を気遣っているんだろう。
「……はぁ」
そう思うと、少しの溜息が出た。
「あら、どうしたのよ士郎。溜息なんかついちゃって」
「いや。ただ……やっぱり俺、ライダーに手を抜かれていたのかなって……」
ライダーは桜の体を気遣っている。それはつまり、あまり桜から魔力を奪い取れないということ。
そう考えれば、さっきの戦闘で些かライダーは出力を抑えていたように感じられた。
おそらくライダーが本気を出せば、まず俺は相打ち覚悟で挑んでも、勝ちを拾えるのは数割程度。
「いいえ。坊や。そんなことはないわ。貴方は確実に強くなっている。それもサーヴァントとやりあえるほどにまでね。もちろん、まだライダーに勝てるほどではないけど、それでも驚異的なレベルアップをしていると私は思うわ」
……そうか。
「キャスターにそう言ってもらえると、少し自信がつく」
それから俺たちは、縁側で待つ桜とイリヤの下へ戻った。
「せ、先輩……大丈夫ですか?」
「お疲れ、シロウ。なかなか悪くない戦いだったわ」
桜に大丈夫だと伝え、イリヤに礼を言う。
そこでライダーが、俺に声をかけてきた。
「それで、士郎。約束の件はどうなったのですか?」
「……えっ?」
約束の件って……それは、まさか。
「俺が勝ったらってやつか? ……といってもな。本当にいいのか?」
「無理なお願いなら断るだけです。それで、用件はなんなのですか」
……うむっ。
とりあえず話を聞いてくれる分にはありがたいんだが……。
「なら、明日にしよう。今夜はこの戦闘で魔力が足りなくなっちまった」
「……そうですか。では」
霊体化するライダー。
そうして俺たちは、ちょっとした諍いを終わらせて、久々の騒々しい夜を終わらせたのであった。
/了
そういえばHF劇場版で、アーチャーは間桐桜の問題を知らなかった事が明らかとなりましたが、まぁこの二次創作はかなり前に書いたものなので、新情報に対する矛盾にはご容赦を。
とりあえずこの二次創作では、アーチャーは“全てを知りながら、全てを守り救うことが出来なかった男”という、かなり辛い人生を歩んでおります。