※この作品はR-18です。

Fate/stay night : 2.5i+3.10i+BERSERK = The Future Remember   作:形のない者

20 / 24
二月十三日

 早朝。

 朝飯を済ませたあと、俺とキャスターはライダーを連れて土蔵に赴いた。

 青いシートの上に座り、胡座をかくと、キャスターとライダーが実体化する。

 俺の目の前には、青色の髪に紫のローブを羽織った少女と、紫色の髪に黒い装束を身に纏う少女が立っていた。

 

「……さて、それじゃあライダー。相談したいのは、だな……」

 

 はて、どう言ったものか。

 こういうのは単刀直入に言った方がいいか。あまり勿体つけてもあれだしな。

 

「ライダー。俺は、これからある宝具を投影したいと思っている。それはバーサーカーを倒すために必要なものだ。それでなくても、ライダーの戦力強化に繋がると思う。協力してくれるか?」

 

「それは……内容にもよりますね」

 

「話は簡単よ、ライダー。今から私の魔術を使って、貴女の記憶に働きかける。それを坊やに繋げるの。そして英雄ペルセウスが使っていた“不死身殺しのハルペー”を坊やに投影させるのよ」

 

「――――、……なるほど。しかし正気ですか? そんな提案に、私が乗ると? わざわざ魔術師の術中に嵌るようなことは出来ませんね……」

 

 それは、その通りだ。

 しかもライダーとキャスターは非常に仲が悪い。

 これは、こんな提案をしただけで怒られてもおかしくないものだ。

 

「……ですが士郎。一つだけ問いたい。――――貴方は、最後まではサクラの味方ですか? たとえこの先に、何があったとしても」

 

「――――もちろんだ」

 

「ですが貴方は、もう一人の少女までもを守ろうとしている。そんな貴方を信じることは、到底できません」

 

 …………。

 確かに、俺の言っていることは、ただのわがままなのかもしれない。いや、充分わがままだろう。

 それでも俺は、やらなくちゃならない。絶対に無理だと思っていても、俺は衛宮士郎だ。

 

「……分かった。横暴なことを言ったな」

 

 ライダーの説得に失敗した俺は、もう土蔵にいる意味がないので立ち上がる。

 

「いいえ。話は最後まで聞きなさい」

 

 その立ち上がりをライダーが制して、元の位置に戻れと目線で訴えかけてきた。

 

「……正直に言って、私は自前の魔術を用いても、貴方にあの戦いの記憶を見せることが出来ません。霊基を削った際に失ったあのバイザーの宝具が今でもあれば話は別でしたが、それも今はない。……はぁ。どうやらキャスターの手に掛かるしか、ほかに方法はないようですね」

 

 うわっ。ものすごく嫌そうな溜息をついて、なんとライダーは俺たちの提案に乗っかってくれた。

 

「ら、ライダー……本当にいいのか?」

 

「えぇ。約束は約束ですし。それに、サクラの命令もありますしね。貴方の言うことを聞けという、命令が」

 

 ……桜。

 

「……ふん。それじゃ、やっと魔術行使に取り掛かれるわけね? 潔いのはいいことよ、ライダー」

 

「あ、それと士郎。最後に頼みが。……骨は拾ってください」

 

 ……いや、さすがのキャスターも、そこまでしないと思うが……。

 

「大丈夫だって。とりあえず二人とも、今だけは口喧嘩とかしないでくれよ。宝具の投影は、たぶんとても難しい。下手をすると、その場で俺が弾け死ぬ可能性もある。だから真面目にな?」

 

 俺の懇願に、ライダーとキャスターは頷いてみせる。

 そういうわけで、胡座をかく俺の膝の上に、ライダーがちょこんと座った。

 ……うっ。上目遣いで心が乱されるっ。こうなったら目を瞑って、集中……集中だ。

 

「それじゃあマスター、ライダー。行くわよ。まず目を閉じて、そうね……坊やはライダーの頭に手を回して、おでこ同士をくっつけてくれるかしら?」

 

「――――は? ……なんですとぉ!?」

 

 い、いきなり何を強要してくるのかキャスターは!?

 いや、しかし記憶の連結となると、そりゃあ頭同士を近づかせたほうがいいのかもしれないが、それでも……。

 

「何をしているのですか、士郎。来ないのなら、こちらから行きますよ」

 

「って、うぇぇぃ!?」

 

 膝立ちで、両手を伸ばして、俺の顔を挟んで、おでこを合わせに来たライダー。

 近い。あまりにも近い。ちょっとタンマがほしいってのに……。

 

「それじゃあ行くわよ。一回、空の上に飛び上がるような感覚のあと、一気に急降下する場合もあるけど、絶対に怖がって慌てないようにね」

 

 こちらの心境を全く察してくれないキャスターが手の平を広げて、俺とライダーの眉間に触れて一言。

 なんの言語か分からない神代の魔術詠唱で、俺は空の彼方に吹き飛ばされた――――

 

 

 

 ――――それは、ある英雄の死闘だった。

 

                       ――――否。それは、ある女怪の最期だった。

 

    ――――それは、襲い来る神話の再現だった。

 

                ――――それは、あまりにも脆弱な英雄だった。

 

  ――――それは違う。

 

            ――――それはあまりにも、その怪物が強すぎるだけのことだった。

 

 

 

 鼻の高い英雄は、傲慢により怪物に挑んだ。

 しかし怪物の姿を見た英雄は、ひと目で心が折られた。

 

 英雄は絶望の中、死に物狂いで戦った。

 怪物退治。否、倒すためではなく、生存のため。ただ生き残るために。

 しかし英雄とは、奇跡に恵まれるから英雄と謳われる。

 あらゆる宝具を使って、気づけば最大の弱点を突いていたのは、如何なる幸運。如何なる運命だったのか。

 

 ――――捕捉。

 其は、屈折延命の理を持つ神剣の鎌。

 あふれる神性は、不死系の特殊能力を無効化する。

 この刃で付けられた傷は、自然治癒以外の回復・復元が不可能となる。

 

 其の真名こそ――――屈折延命(ハルペー)!

 

 この宝具は、英雄王の蔵と、アーチャーが使用していた無限の剣製の中でも確認された。

 だが、あのときは一瞬だけで、ほかの武装と同時に解析するなんて不可能だった。

 実際、アーチャーもハルペーは投影しきれていなかった。そんな不完全な投影でも、俺に見せたってことは――――

 

 ――――これが、必要だっていうことだ。

 

 

 

 ――――投影、開始(トレース・オン)。

 英雄と怪物の死闘を眺めて、俺はその神話を複製する。

 

 っ――――ダメだ。足りない。

 時間が、技術が、経験が足りない。

 基本骨子の想定が甘い。そのほかにもあらゆるものが甘すぎる。

 

 投影自体の知識は自前でしかありえない。今の俺の実力では、これは不可能だ。

 あぁ、投影を完璧にこなせてしまうほどの憑依経験がないものか、なんて甘ったれた弱音を吐いてしまうくらいには、己の未熟さが際立つ。

 たとえアーチャーの体の一部を貰っていたとしても、これは――――――――――――――――

 

 

 

 で                 き            な       い。

 

 

 

 ――――、

 

「――ぐわっ!?」

 

 ――バチンッ! と、何かが弾けた。

 頬がヒリヒリして痛い。

 俺、俺は……、一体、何を?

 

「大丈夫、坊や!?」

 

「っ……深く、入りすぎです。士郎……」

 

 俺は……そうか。

 失敗、しちまったのか。

 

「悪い……っ」

 

「謝らなくてもいいから。それより顔色が悪いわよ。魔力を殆ど使い切っているじゃないの!」

 

 その通りだ。

 俺は、投影が不可能だと知っておきながら、何度も挑戦した。

 おかげで目の前のライダーは、ぶっちゃけ俺より疲弊気味だが。

 

「……ですが、士郎。惜しいところまではいきましたね」

 

「あぁ、そうだな。次は、たぶん……」

 

 出来るだろうか?

 いや、出来なくても俺は、やらなくちゃならない。

 なんとしてでも、俺はハルペーの宝具だけは投影しなくてはならないんだ。

 

「……たぶん。次は出来ると思う。だからライダー。あと一回チャンスをくれ」

 

「ま、まだやる気なの、坊や!?」

 

「いや、今すぐにじゃないさ。また魔力が回復したら、もう一度、挑戦する」

 

「……それまで、敵が待ってくれるとは思えませんがね。士郎」

 

 ライダーの言う通りだ。

 とりあえず、今の俺は魔力がすっからかんだ。全魔力を構造解析に当てた。

 でも、次はおそらく……もっと先をいけるはず。

 

 

 

 それから俺とキャスターは、ライダーと別れて居間に戻った。

 軽く居間で休んでいると、そこに遠坂とイリヤがやってくる。

 

「あら、士郎。サボり? こっちは宝石剣の素が完成したんだけど。体力有り余っているなら、ちゃっちゃと手伝ってくれない?」

 

「違う。休んでるの。それに俺はクタクタです。すまないが、それは明日にしてくれないか? 遠坂」

 

「なにかしたの、シロウ?」

 

 寄ってきて、俺の傍らにイリヤが座る。

 

「わたしも疲れたわぁ。リンったら、わたしのことこき使うんだもの。シロウも疲れているなら休んでいるといいわ」

 

「あぁ、そうするつもりだ」

 

 二人並んで仲良く休む。

 それを見て、遠坂が言った。

 

「……前から思っていたけど、ほんと随分と仲がいいわね。あなたたち。……それじゃ、わたしも少し休憩っと。あ、ちなみに慎二と桜は別棟にいるわ。なんだか兄妹水入らずって感じだったから、こっちに戻ってくるときは声をかけなかったけどね」

 

 ……そうか。慎二と桜が。

 そりゃよかった。なんだかその報告で、俺の疲れが殆ど吹き飛んじまうくらい嬉しかった。

 

「よし、そんじゃ、昼飯を作りますかね」

 

 俺は気合を入れ直して、台所に向かった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 昼。

 衛宮邸の別棟で、僕は桜とくだらない話をしていた。

 それは、桜が思う魔術について。

 

 僕は訊いた。

 

「お前さ。自分が魔術師であることをどう思ってんの?」

 

 すると桜は答えた。

 

「それは、どういう意味で、ですか?」

 

 それから繋がらない話を進めていると、どうも桜は魔術を嫌っているわけではないということが分かった。

 といっても、やっぱり嫌いなんだろう。

 

 ――――魔術を習わなければ……そうしなければ、生きていけなかったから。

 魔術が嫌いかどうかは、酸素が嫌いかどうかと同じ。

 いや全く変な喩えを出すものだと思ったけど、要するに桜には選択肢がなかったってことだ。

 

 桜は別に、崇高な魔術師になるため魔術を体に修得したのではなく。

 ただ生き抜くために、魔術を体に仕込まざるを得なかった。

 

 それを知った僕の心境?

「あっそ」で済ませられる。

 

 でも、そのあと桜は、僕が「あっそ」で済ませたってのに、続けてこう言ったんだ。

 

「確かに魔術は厳しいものだったけど、それでも“辛いものではなかった”から」

 

 ……別に、僕は魔術が辛いのか? なんて質問はしていない。

 それは余計な答えだ。だから僕は怒った。

 

「そんなことは訊いてない。とにかく、話はこれで終わりな」

 

 桜の部屋の扉をバタンと閉めて、僕は自分の部屋に戻る。

 といっても隣の部屋だから、物音はすぐに聞こえる。

 

 ――バタン。

 

 だから、すぐに気づいたんだ。

 僕は、まだ自分の部屋の扉を閉めていないって。

 

「……桜?」

 

 おそるおそる桜の部屋に戻り、扉を開ける。

 

「……桜っ!」

 

 部屋の中では、桜が倒れていた。

 苦しそうに胸を押さえて、滝のように汗を流している。

 

 ……そういえば、さっきから暑いのか、桜はよく額の汗を拭いていた。

 でも、そもそも体調なんて、数日前から悪かったんだ。

 

 とにかくこれは、おそらく刻印虫のせいだろう。

 僕は魔術の心得がないから分からないけど、遠坂や衛宮ならすぐに分かるはず。

 

 そこで僕は桜を抱き上げて、すぐに居間へ向かおうとした。

 

「――――待て、マトウシンジ」

 

 ――だっていうのに。

 

「動くな。これは我がマスター。つまりお前の先祖の命令だ。今すぐそこの娘を連れて、声を上げずに表へ出ろ。さもなくば、このアサシンが仕事を果たすまで」

 

 ――なんで、あのアサシンの声が、どこかから聞こえてくるんだ?

 

「……な、なんだ。どこにいるんだ?」

 

「貴様では私の居場所は掴めない。それより、今のは抵抗の意思を持った声上げか? そうでないのなら、言う通りにした方が懸命だぞ」

 

 ――なんだよ、これ。

 え、衛宮の奴や、遠坂の奴は、このことを知らないのか?

 もしかしてライダーの奴もキャスターの奴も? あ、あいつら何してんだよ!

 

「……い、言いたいことは、ハッキリ言えよな。ぼ、僕が逆らったら、どうするつもりなんだよ。僕を殺すのか?」

 

「……貴様は殺さん。暗殺対象ではない。私が殺すのは、間桐と名がつくモノたち以外全てだ」

 

「……わ、分かった。で、でも」

 

「まさか、また時間稼ぎか? ならば、私はもうひとつの仕事に移させてもらう」

 

「っ――わ、分かった! 分かったから待ってくれ! クソッ。言う通りにすりゃあいんだろ!?」

 

 桜を抱き上げて、僕は部屋を出る。

 

「西を回れ。東はやつらに近づくことになる」

 

 廊下に反響するアサシンの声を聞いて、言う通りに縁側へ出る。

 

「庭に出て、その娘を庭の中央に下ろせ」

 

 言われた通り、庭の中央に桜を下ろす。

 

「こ……これで、いいのかよ。だけど、残念だったな。すぐに衛宮と遠坂が気づいて駆けつけてくる。そうなったとき、返り討ちに遭うのはお前の方なんだからな、アサシン!」

 

「……自分で何もできない小僧がよく吠える」

 

 ……っ。

 

「――まぁ、そこが孫の可愛らしいところじゃて。あまり悪く言わんでくれ。アサシン」

 

 刹那、僕の全身に怖気が走った。

 塀の上に立つ、お祖父様の姿を見て――――

 

 

 

   ◇

 

 

 

 ――カランカラン。

 と結界の警報が鳴り、居間の明かりが消えてなくなる。

 

「――――遠坂っ!」

 

 即座に台所から飛び出し、俺は遠坂と顔を合わせた。

 

「全員、離れないで! 特にイリヤは、わたしの隣にいなさい!」

 

「俺は桜のところに行く!」

 

 廊下に飛び出し、縁側を走る。

 すると庭の方で立っている慎二と、苦しそうに倒れている桜を見つけた。

 

(マスター、塀の上に間桐臓硯が!)

 

 ――それも、確認した。

 庭に飛び出て、干将・莫耶を投影する。

 

「間桐臓硯! テメェ、どれだけ桜を苦しめれば気が済むんだ!」

 

「……フン。衛宮の小倅も来たか。無論、儂も孫を痛めつけるのは気が引けるが、全ては聖杯のため。それに影を引き出すには、これ以外に方法がなくてな。これより極限にまで刻印虫を暴走させて、桜のオドを枯渇させる。さすれば、影はマナを求めて地上に這いずり出てくる。……このようにな」

 

「――ッ! ハ、ァ――――アァアッ!? ァ、ッ――――アァァァ!!」

 

 途端、爪を立てた桜は、喉から血が出るまで掻き毟り始める。

 ――それで、俺の中の撃鉄が落とされた。

 

「テメェ!」

 

「いけないマスター! 影から泥が!」

 

 ――――っ。

 実体化したキャスターの制止で、すんでのところで立ち止まる。

 そこで俺は見た。また桜の下から、泥が湯水のようにあふれ出てきていたのだ。

 しかも桜が泥沼に沈んでいく。その傍らにいた慎二は、泥に触れないよう足を引く。

 

「――――っ。クソッ……だ、ダメだ! 桜!」

 

 だが、慎二は何を考えてか、自分から泥を踏み、桜の腕を鷲掴んだ!

 

「慎二!」

 

 泥に沈む桜を引っ張りあげようとする慎二。

 

「あっ……うっ……、――――」

 

 けれど泥に触れた途端、慎二は全身から力が抜けるようにして、泥の上に倒れ込んでしまった。

 しかし、何故か慎二が泥に沈むことはなかった。

 

 やがて泥が広がり、中から――――セイバーが、出てきた。

 

「――――シロウ」

 

 ――っ。

 そう何度も呆けている場合じゃない。

 俺は決めたはずだ。セイバーを倒し、アサシンも、バーサーカーも倒して、桜を救うと!

 

 ……だが、ここで俺が桜の下へ駆ければ、まずセイバーが邪魔してくるし、きっとアサシンも近くに潜んでいるはず。

 下手な行動をすれば、俺とキャスターはものの一瞬で叩き潰される。

 

 そもそも俺たちは、泥影に手出しできない。

 ……そうして俺たちがどうしようも出来ないでいる間に、桜が――――泥沼に、沈みきった……。

 

「……クカッ! クカッ! クカカッ! ……いや、哀れよな。衛宮の小倅。慎二もそうだ。妙な正義感を振りかざしおって。しかし無力だと分かっていても、こうまで抵抗されると、羽虫のごとき鬱陶しさよな。――ここは念入りに潰しておくべきか。セイバー、アサシン」

 

 ――っ!

 間桐臓硯の殺気を受けて、干将・莫耶を握り締める。

 するとそこで、縁側から遠坂とイリヤがやってきた。

 

「ちょっと、イリヤ!」

 

「待ちなさい。マキリの者。あなたの狙いはわたしでしょう? なら、わたしを持っていけばいいだけの話じゃない。あなたにとっての羽虫なんて放っておきなさい」

 

 ……何を。イリヤは……。

 縁側から庭に飛び出したイリヤは、俺のそばを通り過ぎて、間桐臓硯のところに行こうとする。

 

「お、おい、イリヤっ!」

 

 その肩を掴んで。

 そして、俺は――――その小さな肩が、震えていることを知った。

 

「シロウ。とうとうあなたは、最後まで誰も助けられなかったわね」

 

「――――――――」

 

「でも、サクラだけなら、まだ救い出せる見込みはあるわ。ゾウケンの狙いは黄金の聖杯に移った。もうサクラは用済み。そうでしょう?」

 

「……あぁ、そうさな。無論。儂も孫を使い捨てる気など毛頭ない。すべてが終わったあと、世は全てこともなしに片付いていることだろう」

 

 ……そんな言い分。信じられるか。

 それにイリヤ。その言い方じゃ、お前……。

 

 ――自分が犠牲になれば、桜は助かるって。

 そんなことを言っているも同然だって、分かっているのか……!

 

(――頼むからマスター。ここは抑えてちょうだい。一回、間桐臓硯には好きにさせるの。私の宝具の特性は知っているでしょう? そこの生意気な小娘の言う通り、ここは耐えるべきよ)

 

 ……理屈は、分かっている。

 

「それじゃ、ばいばい。シロウ」

 

 でも、この足は……。

 

 ……桜の下に蠢く泥影が広がっていく。

 その泥影は地面を侵食していき、やがて獲物を見つけた豹のように跳ね上がる。

 鞭のようにしなる泥影。それは槍のように――――イリヤの胸を串刺しにした。

 

「ッ――――! ――――い、イリヤァアアアアアアアアア!!?」

 

 布のように泥影に覆われたイリヤが、桜の下に引きずり込まれるようにして消えていく。

 それを見過ごすことなんてできず、もちろん自分が見――にしてしまったことを理解して、どうしようもなく駆け出した。

 

 向かってくるセイバー。

 もう一つ、何かの気配を背後から感じ取る。

 

(マスター――――!)

 

 それがアサシンの奇襲だと分かっていて、俺は……俺は――――!

 

 

 

 

 

「――クソッ。イリヤァアアアアアアアアア――――!!」

 

 血が出るほど唇を噛み、歯を食いしばり――――この足を、必死に食い止めた。

 

「――――えぇ、それが正しい。シロウ。もし、あのまま突撃してくれば、キャスターの命はなかった」

 

 ……そうだ。

 

 ――シロウ。とうとうあなたは、最後まで誰も助けられなかったわね――

 

 その言葉を真実にさせないためにも、ここは下手に手出しできない。

 

 ふと、塀の上に佇む間桐臓硯が声を上げた。

 

「ふん。走った止まったがなんじゃ。どのみち、再起不能にさせるのは変わらない」

 

 そう言うと、また桜の下から泥影が広がり始めて、こっちに伸びてきた。

 どうやら今度の標的は、俺とキャスターらしい。

 

「衛宮くん!」

 

 背後から叫ぶ遠坂。

 俺はキャスターを背中に守り、縁側まで後退する。

 しかし泥影は押し寄せる波しぶきのように、縁側の窓を全て割ってきた。

 

 そうして俺たちは、黒い津波に呑み込まれて――――

 

 やがて、意識が、保てなく――――――――

 

 

 

   ◇

 

 

 

 黄金の聖杯を手に入れた。

 これにて影に呑まれた黄金の聖杯と青銅の聖杯は、泥影を介してその魂を共有した。

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの器には、四騎分の英霊の魂が。

 孫の桜には、セイバー、ランサー、バーサーカーと、三騎分の英霊の魂が。

 

 そして、これら魂を、全て黄金の聖杯の方に移す。

 さすれば黒く染まった黄金の聖杯は、人間性を失い、完全なる聖杯として起動する。

 まぁその前に、天のドレスをアインツベルンの城で見つけなければならんのだがな。

 

 ――――儂の前に、黒き姫が顕れる姿を想像する。

 

「――おぉ。ぉおお! ユスティーツァよ!」

 

 これで儂の計画が、また一歩完成に近づいた。

 

 終わりのときは近い。

 儂は、この聖杯戦争に勝利した暁には不老長寿を得て、真なる根源へと至るのだ……っ!

 

 

 

   ◇

 

 

 

 深夜。

 柳洞寺の山門にて。

 私は黒い剣士ガッツを連れて、もう一度ここに戻ってきていた。

 

「……それで、ここに来て何をすんだよ。ソニア」

 

「何もしなくていいわ。貴方がここに来ることに意味があるんだから。それでも手持ち無沙汰なら、私の護衛をしてくれる?」

 

 これから私がすることは、ただの降霊儀式だ。

 ……それも、人類最強の剣豪である、ただの亡霊を降霊させる。というものなのだけど。

 

 ――――魔術刻印・破却。

 憑き物祓いの刻印を捨て去り、私は悪魔に魂を売り渡す。

 

 これよりこの身に憑依させるは、かつて山の中で剣聖と出逢い、その技術を教えてもらおうとして、ついぞ教えてもらえなかった若人が。

 約五十年の歳月をかけて、ただの刀一本のために生涯を費やし、ただの燕を斬ろうとして、やがて無限の高みへと至った、剣豪の正体。

 

 其の名は無く、あるとすれば借り物の名。

 

「運河を逆行しよう、光年の果てまで創世を見届けよう、我は世界を覗く者ゆえに――

 ――The Future Remember……」

 

 柳洞寺の山門で、過去を視る大魔術を発動させる。

 

 居るは現代。

 

 観るは現代。次に近代、近世ときて――――私は見つけた。

 

「お、おい。そいつは――――」

 

 ただのひと振りで、三振りの刀を生み出す多重次元屈折現象。

 それを編み出した奇跡の瞬間に、私とガッツは過去視という形で立ち会った。

 

 ――――これが触媒となるわけではない。

 ただ縁となるものは出来ただろう。しかしそれはあまりにも微弱な縁。

 

 ――然れどこの場には、霊魂を湊(あつ)まりやすくするスキルを保有する、破格の英霊がいる。

 彼の力を借りれば、なによりこの剣豪と打ち合った経験が力強い縁となり、且つ戦いの約束を果たせなかったという無念が、あちらから寄ってきやすい念となる。

 

 ――――さて、一念鬼神に通ずるというのなら、見せてみなさいよ。

 

 これは、英霊召喚なんていうものじゃない。

 これは、英霊の座にいるものが直接人間を乗っ取るという、通常ならありえない降霊儀式にほかならない。

 

 未来は既に予測演算され、その上で擬似的な測定を施されている。

 つまり、未来は既に思い出されている。

 現在から観測し、それを視て、それが確定された未来であるのならば。

 偶然の奇跡というものは、全て必然という名の運命として、我が身に降りかかる!

 

「……過去視。再生・終了。……来たれ、鎮まれ。其の名は、遥(はる)か雅(みやび)な月剣士(げっけんし)。

 ――――魔術刻印(ゼーレ)・許諾(セット)」

 

 全ての魔術工程を終了させ、私は汗だくで膝をつく。

 

「おい……何をしたんだ?」

 

「っ……はぁ、はぁ……そう、ね。まぁ、こと近接戦においては最強の使い魔を、味方に出来たってところかな?」

 

 その代わり、搦手には滅法弱いけど。

 

「……ふぅ。とにかく、これで私と貴方の協力関係は終わりよ。魔力の供給は続けてあげるけど、これからは好きになさい」

 

「……そうか。わーったよ。まったく、最初から最後までわがままだったな。――それじゃあな。ソニア」

 

 長い階段を降りていくガッツ。

 それから私は山門の下で体育座りをして、暫しの休憩を取った。

 

 ――それは、少し違う。

 どちらかというと、あるサーヴァントを待っていた、とも言う。

 

「……出てきなさい。いるのは分かっているのよ。――――ラ(・)ン(・)サ(・)ー(・)」

 

 その名を呼んだ瞬間、背後で槍を翻す音と、重圧感を感じられる足音が石畳に響いた。

 

「ほう……よく分かったな、嬢ちゃん。耳か、気配か。そのどれでもねぇな。音消しと気配を断つルーンを使ってたってのに、なぜ気づいた?」

 

 私は振り返り、ランサーの姿を確認する。

 そこには青装束のランサーはいなく、青い服は泥に穢されたように黒ずんでいた。

 さらに影と同様の黒い頭巾を頭から垂らしている。

 

 ……言うなれば、ランサー・オルタ。といっても、彼に反転の影響はないだろう。

 しかし心臓を破られてもなお、世界に弄ばれて、酷使される存在なのは変わらない。

 

「……ケルトにおいて一流の戦士でもあり、魔術師でもある貴方にとって、こんな簡単な魔術。答える必要はないんじゃなくて?」

 

 彼は、私とガッツが来るより前から、この場所にいた。

 それは、先ほどの過去視の魔術でも確認できたことだ。

 

 それに、彼は私が魔術を使った光景を見ていたはず。

 ならば、私が過去視の魔術師であるとは、もう看破しているはず。答える必要はない。

 

「ふん……あの王とは違って過去を視る眼か。しかし、その性質や使い方は未来視と同じものだな。そこまで行くと聖人レベルの異能と言えるが、どちらかというとテメェは森の賢人だな。主に使い方からしてそうだ。誰かのためではなく、身近なものと、自分のために使っている。それもこれも私欲のためだ」

 

「……えぇ、そうなのかもね。でも、それを悪いと思ったことはないわ。だってこれは、私の人生だから」

 

「違いねぇ。そんじゃ、ちょっくら無駄話は終えて――――――――オレに殺されろよ」

 

 ――――――――、悪寒どころではない。

 ただ、その眼光で射抜かれただけで……私は我が身を硬直させていた。

 

 ――黒い猛犬が、朱く迸る。

 

「ぁ――――」

 

 恐怖のあまり喉が塞がって、霊魂を憑依経験させるための詠唱もできない。

 

 ――落ち着け。我が主。我がマスター。何事も明鏡止水の心得だ――

 

 刹那、脳裏に涼やかな声が咲き、私の体は勝手に動かされていた!

 

「――なにっ!?」

 

 ――闇夜に紛れて、私の背中から得物が引き抜かれる。

 それを目撃したランサーはすかさず跳躍して、私の手によって振るわれた長(・)刀(・)・(・)物(・)干(・)し(・)竿(・)を退き躱した。

 

「その刀、何故テメェが持っている!」

 

 ――――もちろん。綾子のアパートから掻っ攫ってきたに決まっている。

 

 私は去年まで、冬木市全体を練り歩いて、あらゆる過去の情報を集めていた。

 そして見つけた。この無銘の剣豪の正体と、そのルーツを!

 ならば、次はそのルーツを現在に向けて辿っていけば、いずれ現物が見つかる。

 

「ランサー。さっきの私の魔術を見ていたんなら、もう分かるでしょ? 私の中にはね、とびっきりの切り札が仕込まれているんだから!」

 

 ――といっても。この身長、この体重、この体型と胸の厚さでは、些か棒振りに慣れるまで時間がかかるな――

 

 ……今のセリフは聞かなかったことにする。

 たとえ慣れるのに時間がかかっても、敵はそこまで待ってくれない。

 英霊なら、このくらいのハンデ。ものの数秒で克服してみなさいよ!

 

 ――よろしい。この槍兵は強敵だ。マスターの全身を一時的に全て貰い受けるが、構わぬか――

 

 上等。そのために貴方を憑依させたんだから!

 

「――Hexerei(ヘクセライ) Satz(ザッツ) von(フォン) Vendée Mion(ヴァンディミオン)――」

 

 ……魔術刻印・起動。

 我が身に宿る霊魂こそ――――遥か雅な月剣士!

 

 全ての憑き物祓いの刻印を破却して、私は無名の剣士に全てを任せた。

 己が命運、己が幸運、己が運命まで、その、総てを――――!

 

「――では、行くぞ。槍使い」

 

 私の口から、私ではない声が出る。

 私の体が、彼に適したものへと作り替えられていく。

 それは日の本の侍が用いる、自己暗示によって己の肉体を戦闘用に作り替え、限定的な未来視を得るなど、飛躍的な戦闘力の向上を発揮する絶技に近かった。

 

「上等だ。アサシン。いや、サムライ。二度とやりあいたくねぇ剣豪。佐々木小次郎!」

 

 そうして、疾風の剣士と神速の槍兵が鉾を交わせた。

 

 ――――風のように切り結ぶ。

 その度にランサーの体から、鮮血という名の泥影(毒)が飛び散っていく。

 泥影とは、世界の悪意が軟泥のように物質化したもの。

 それを身に浴びるランサーは、既に不死身の肉体となっている。

 ゆえにランサーは、己の体が傷つくことを無視して、傷を負う代わりに小次郎の骨を断つため肉薄する!

 

「むっ――――」

 

 泥影が私の体に降りかかり、私の心身が毒に侵される。

 これ以上、この泥影を被り続ければ、おそらく私はあと数滴で死に絶える。

 それを悟った小次郎は、即座に離脱を始めてくれた。

 

「逃がすかよ――――」

 

 逃れられない剣戟を重ねる。

 そも、毒以前に、返される鋒が一度でもこの身を掠れば、私は絶命する。

 

 ――――それでも分かる。

 白熱する闘志。

 加速する剣戟。

 呼吸は既に停止(やめ)ている。

 

 研ぎ澄まされた感覚は、視覚情報を加速度的に読み込み、すべてが遅く、ことごとくが長く感じられる。

 

 やがて、それは剣戟の極地。

 謂わば肉体だけでも無我の境地に至った疾風の剣士(わたし)は、今を以てこの身がどういう状態であるかを悟る。

 

 ――――気づけば毒に苦しむ体は、痛みを訴えるのをやめていた。

 なにも痛覚がなくなったわけではない。言うなれば、体から毒が消えたのだ。

 

 それが何故なのかは分からない。

 ただ一つだけ分かることは――――この身が、武の極限に至ったということだけ。

 

 ――――透化。

 肉体の崩壊を招く運動は骨肉を燃え上がらせて、肉体の限界を超えた死に体は死という有様(事実)に凍えていく。

 

 ――そう。この体は夢想の域に至り、毒という誘拐物を透化させている。

 信じられないが、そう形容するほかない。

 

「もはや斬り合いに邪魔な概念は、私に付与されることはなくなった。

 ――然れど、この身は少女のもの。毒を防いでも殺し合いには向いていない」

 

 鍔迫り合うランサーを弾き返し、その反動で山門から跳躍した小次郎。

 一気に階段の終着点に着地した小次郎は、そのまま疾走し、街の屋根を飛び跳ねてランサーから距離を取る。

 

 一方のランサーは、地面を穿ちながら追ってくる。

 互いに敏捷A+以上の追いかけっこは、あっという間に深山町を越え、冬木大橋を渡り、新都の方まで舞台を移していた。

 

「どうした。逃げてばっかで! 前は逆に、相討ち狙いで容赦なく首を獲りに来ていたじゃねぇか!」

 

「前という話は知らんが、何分こちらは年端も行かぬ少女の体を借りているのでな。こうして人間のものではない動きをしているだけで、我がマスターは今にも死にそうになっている。あまり無茶はできんよ」

 

「そうかい。面白くねぇ。今の俺は首を吹き飛ばされても動けるようになっちまってる。もとより心臓もねぇ。要するに不死身ってことだ。そんでもって魔力は無限ときた。このままじゃ埒が明かねぇから、一刺しで勝負を決めてやるよ!」

 

 小次郎を見据えて、ランサーはコンクリートの上に爆砕着地する。

 次にランサーは朱槍を翻して跳躍し、その槍に寒気を覚えさせるほどの莫大な魔力を収束させていった。

 

「――――穿て、抉れ。この槍は万物万象を突き崩す。

 突き穿つ――――死翔の槍(ゲイ・   ボルク)!!」

 

 解き放たれた朱槍の一投。

 一刺一殺の呪いの槍と謳われる魔槍は、今では暗黒に侵されている。

 そのせいで荒れ狂う波濤のような膨大な魔力は、ただそれだけであらゆる空間を引き裂いていた。

 

 高層ビルの屋上に着地する小次郎。

 

「これは拙いな。逃れ切れるが、流石に躱し切れん――――」

 

 呟いて、小次郎は直下から迫り来る死の暴力に対し、跳躍による後退を選んだ。

 対軍宝具の朱槍がビルを溶解させながら貫通して、私たちに迫り来る。

 

 ――――これを躱すのは不可能だ。

 私も小次郎も死を確信した。

 勝負を決めるなら、宝具を放たれる前に、こちらが決めなければならなかったのだ。

 

 ――だが、誰が言ったか。言わなかったか。

 別に私は、ランサーを倒すつもりなんてない。もとより不死身の存在を倒せるわけがない。

 だから私の目的は、最初から最後まで徹頭徹尾、ランサーからの遁走にのみ要所が置かれている!

 

 

 

 

 

 

「――――まったく。危なっかしい戦いをするものだ。理詰めで行くくせに、最後は直感に頼って事を成す。どこかの誰かを思い出すよ。

 ――――I am the bone of my sword.(我が骨子 は 捻じれ 狂う)

 ――――偽・螺旋剣(カラドボルグ)!!」

 

 

 

 

 

 刹那――――そこで、全くの予想外のことが起こった。

 これは、計算にない。こんな状況で、助けが来るはずがない。

 なのに、彼はそこにいた。

 

 遠い、遠い、高層ビルの屋上。そこに佇むは、洋弓を引番えて宝具の矢剣を放った、今は亡きはずの紅いアーチャーが――――!

 

 空間を捻り切りかっ飛んでくる一射。

 空間を引き裂いて向かってくる一投。

 それが私たちの前で交錯し、新都の上空で無限と極限の宝具が爆発する。

 

 爆風と爆熱の余波で周辺の建物の窓ガラスが全壊し、鉄筋コンクリートが焼け焦げていく。

 深夜の新都は人気がない。おそらく死人が出ることはないだろう。

 

「ぐっ――――これまた超常の武器による応酬とは、鳥肌が立つな。とにもかくにも、助太刀感謝する。謎の弓兵――」

 

 礼を告げ、小次郎は撤退を始める。

 

 その間、ビルの屋上では、アーチャーとランサーが対峙していた。

 そして、これも英霊による規格外の聴力なのか、地上からでも一部始終の会話が聞こえてきた。

 

「礼は要らないさ。無銘の剣士。実は、私も無銘の守護者でな。同じガイアの側に立つ者同士、協力するのは当然と言える。

 ……しかし、まさか自由意思を持って再召喚されるとは思わなかったがな。まったく。これではアラヤからガイアへの転属を考えたくなるよ」

 

 皮肉げに失笑し、アーチャーは私たちから意識を遠のけ、地上から跳び上がってきたランサーを見据える。

 

「それにしても、随分な変わりようだな。ランサー。よもや騎士としての矜持は捨てて、世界の悪意側に与するとは……英雄としての誇りはどこにいったのかな?」

 

「抜かせ。アーチャー。……だが、言いたいことは分かるぜ。オレも、好きでこんな汚れ仕事をしているわけじゃねぇ」

 

「ほう……ならば、操られていると?」

 

「いいや違う。これはオレの意思だ。たとえこの戦いが世界の滅亡に与するものだとしても、オレは一度決めた主人(あるじ)を裏切ることはねぇ。それがオレの矜持だ。オレの英雄としての誇りだ。英霊としての在り方だ。なにより赤枝の騎士団の一戦士としての意地でもある。なにせ、オレはクランの猛犬。ケルトが大英雄、クー・フーリンだからよ」

 

「……ふん。これだから騎士の矜持だとか、誇り、意地だとかと抜かす英雄には心底困り果てる。それほど世界より己が大事か、ランサー」

 

「あたぼうよ。そもそもな。オレが寝返った程度で世界が滅ぶほど脆いってんなら――――そもそも、そんな弱っちい世界があっていいはずがねぇ。生き残りてぇなら、過去を乗り越えろ。それが人類史の強大さ、偉大さだ。現代の人間が、既に失われた神代のものに負けている時点で、これほどつまらねぇ世の中はねぇんだってなぁっ――――!!」

 

 ――――そうして、朱槍と双剣が鍔迫り合った。

 これより両者、無限の魔力を以て、終わらない戦いを演じることになる。

 

 ……世界の悪意と、世界の守護者。

 アラヤとガイアの殺し合い。

 

 ――――今此処に、地球(セカイ)の命運を分ける現代神話の前哨戦が、幕を開けた。

 

 

 

   /了

 

 

 




 ソニアによる降霊、亡霊の召喚、憑依経験について。
 あるところに名無しの剣士がいた。彼は燕返しという秘奥義を使えた。しかし、彼は英霊ではなかった。英霊に匹敵する、ただの亡霊だった。ゆえに聖杯の力がなくとも、降霊対象が亡霊である限り、自力での召喚は可能となる。
 それでも高位の降霊術と縁を結ぶための過去視。そして過去未来現在すべての生霊・死霊を無尽蔵に寄せ集める生贄の烙印というスキルがなければ、無銘の剣士の降霊儀式は成功しなかった。
 さらに降霊させた亡霊に少しでも悪意があれば、憑き物祓いの刻印を破却したソニアは、一瞬で精神崩壊を起こし、廃人に成り果てる。
 その無銘の剣士こと――――仮の名を、佐々木小次郎。
 彼の霊魂の召喚と使役は、数々の奇跡が重ならなければ成し得られないことだった。



 今はガイア側の守護者エミヤvs今はアラヤ・■■■■■側のクー・フーリン〔ランサー・オルタ〕ついて。
 このあとエミヤは無限の剣製を使用し、持ちうる全ての投影武器を用いて、因果逆転の宝具を使用したランサーと相討ちに終わる。
 本来、抑止の守護者が敗北。否、相討ちとはいえ対消滅するなど、あってはならないこと。
 現在切羽詰っている双方の抑止力さんにとって、この相討ちはヒヤヒヤものだったことでしょう。
 かくしてアーチャーとランサーの出番は、これにて終了であります。


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