Fate/stay night : 2.5i+3.10i+BERSERK = The Future Remember 作:形のない者
後日談。
――――かくして第五次聖杯戦争は、ようやくの幕を下ろした。
……朝だ。いや、昼かな? 寝過ごしちゃったか。
体内時計で、私は昼が来たことを理解する。
瞼が重い。
体が動かない。
それでも暖かい。
笑い声が聞こえる。
その声が幸せそうで。
私は、目を覚ました。
――――目を開けば白い天井。
青臭い匂いに清潔な室内。
そこは病室だった。
私は寝台の上に仰向けで寝ている。
片腕は点滴されており、一応、両手両足の感覚はある。
体も重いけど、どこか異常があったりはしない。
……むくりと起き上がる。
「やぁ。やっと起きたか。ソニア」
ふと、私の左から聞き覚えのある声がした。
驚いて振り向くと――――そこには慎二がいた。
頭に包帯を巻いており、骨折したのか腕にも包帯を巻いている。
「慎二のやつ。あのあと瓦礫が降り注ぐ洞窟から逃げる途中ですっ転んで、自分で腕の骨を折ったんだよ」
今度は私の右から、士郎の声がした。
「なんだよ、衛宮。僕が背負っていた、あのイリヤスフィールとかいう小娘は無事だったんだから、別にいいだろ」
「そうは言ってもなぁ」
「っ……なにさ。そういう衛宮も、僕と同じで包帯ぐるぐる巻きじゃんか。僕のことが言えるのかい?」
「そりゃあ慎二。俺はずっと戦ってたんだぞ? 戦闘中に怪我はよくあることだ。その点、慎二は自分で――――」
そこで私は、士郎の無自覚な煽りにより慎二のプライドに火がつきそうだったので、両手を上げることで二人の口論を制する。
「はいはい。とにかく私を挟んで喋らないでくれる? 起きたばっかりで、耳がガンガンしているのよ」
そうは言いながらも、私は微笑みを隠しきれない。
その時、病室の扉が開かれた。
「お見舞いに来たわよー! って、おっ! ソニア起きてるー!」
元気に入ってきて、私の寝台に座ってきたのは凛だった。
「あ、兄さん。先輩。そしてソニアさん。フルーツバスケットを持ってきました。今、皮を剥きますね?」
「サクラ。椅子を用意しました。こちらに」
続いて入ってきたのは、桜とライダーだった。
桜は慎二の寝台の横に座って、果物ナイフでりんごの皮を剥き始める。
「シロウー! わたしも来たよー!」
「元気そうで何よりです。シロウ」
そしてイリヤスフィールとセイバーも入ってきた。
イリヤスフィールは士郎の寝台に飛び込んで、セイバーが慌てて士郎の点滴とその腕を守護する。
どうやら、これで全員集合みたいだ。
……と思ったら、私は病室の入口に、まだ三人の人影があることを確認した。
「むっ……」
そこにいたのは、入院服姿で点滴スタンドを持って歩いている、葛木先生だった。
その傍らには、葛木先生の半分の身長もない、キャスターが連れ添っていた。
二人は私を見つけるなり、病室に入ってくる。
「……君がソニアか。キャスターから話は聞いた。私を生き返らせてくれたことに礼を言う。死人が生き返るなど、本来あってはならないことだろうが……与えられた奇跡だ。これからは妻のキャスターと慎ましく生きることで、この恩を返していこうと思う」
「あらやだ宗一郎様ったら!」
……端的に言って、その二人は傍から見たら、父親と娘にしか見えなかった。
でもまぁ、このラブラブっぷりなら、逆に勘違いされることもないだろう。
そして最後の一人は――――病室の入口で腕を組み、壁に背をかけている、どう見ても銃刀法違反の黒い剣士、ガッツだった。
しかしその服装は、なかなか見慣れない私服姿でもあった。
テカテカした黒いライダースーツを着ており、なかなかの大柄な
「よぉ」
ガッツは軽く片手を挙げて挨拶するだけで、すぐに瞼を伏せる。
それから私たちは、しばらく歓談を楽しんで、気が付けば“学校を卒業したら”という話題になっていた。
「遠坂。学校を卒業したら、あのロンドンの時計塔に行くのか?」
「えぇ、そうよ。推薦もあるし、あそこに入って色々と学んでくるわ」
士郎と凛が話している。
そこで慎二が憮然と呟いた。
「ハ――――魔術。魔術師。名門の家柄が通える時計塔。今では現代魔術科なんてものがあるらしいけど……なんだかもう、全部がバカらしくなっちゃったね。そもそも間桐の家も出て行くつもりだったし、僕はどう足掻いても魔術回路なんて痕しか残っていないんだし、別にいいんだけどさぁ」
「兄さん……」
口ではそう言っているものの、慎二にはまだ未練があるようだった。
いや、それも……桜の顔を見て、慎二は本気でそうするつもりなのだろう。
だから、いま私が言おうと思ったことは憚られた。
それでも、どうしても……言うだけ言ってみようと思った。
「……なら、慎二。これは、話半分に聞いてほしいんだけど……魔術史の研究に、興味はあるかしら?」
「……は? なにそれ? 魔術史って、魔術の歴史みたいなことかい?」
「えぇ、そう。我らヴァンディミオンの一族の中には、魔術回路がない魔術師もいるわ。もちろん魔術回路がない時点で魔術師ではないんだけど、彼らは歴史家、研究者という立場でも、そこらの魔術師よりかは魔術史についての造詣が深くなれる。だから、知的好奇心の塊で、魔術史について興味があるのなら、我ら一族はいつでも歓迎しているんだけど……元々、間桐臓硯も若い頃はヴァンディミオンの一族に協力していた事もあるし、すぐに受け入れてくれると思うわ」
……って、私はなに、慎二が来てくれる前提で話しているのかしら!?
「ふぅん……で、それで?」
「――――えっ?」
「いや、ソニアは何を言いたいのかって話」
……お、おっと。
これは、ちゃんとハッキリ口で言わないと分からないことなのかな……?
「え、えっと、だから……もし、慎二が良かったら……時計塔の一部に施設を置いている、ヴァンディミオンの家に来ないかっていう……話」
「――――は? ……僕が……?」
こくん、と頷く。
そこで私は、傍らに座る凛がとっても意地悪な顔をしてニヤニヤしているのを見つけてしまった。
「あら~……? そうかぁ~。ソニアはそういうタイプだったのか~……」
「な、なによ、凛!?」
「貴女がダメ男好きってことを言いたいのよ」
キャスターにバッサリと切られた!?
「あら、今日は意見が合うわねキャスター?」
「まったくね。こういう少女を見ると、本当に自分から不幸になりに行くのだと呆れちゃうわ」
「お、大きなお世話ですぅ!?」
それから私は火照る頬のあまり、隣の慎二の顔を見れないでいると……。
「……こんなクズな僕のどこがいいんだか。ソニアも変わってるね。まぁ君がどうしてもって言うんなら、ちょっとくらいは興味あるけど?」
――――。
それは、つまり……?
驚きのあまり、慎二の方に目をやる。
しかし慎二は私に顔を向けてくれず、呆とする桜の方を見ていた。
「……兄さん。顔が赤いっ」
「なっ!? お、おまっ、桜ぁああ!」
怒る慎二。微笑みながら既に撤退を完了している桜と、慎二から桜を守ろうとしているライダー。
その微笑ましい光景を見ていると、なんだか笑いがこみ上げてきた。
「……それなら、わたしはシロウとずっと一緒にいるー!」
「うおっ!? イリヤ……!」
「なっ! い、イリヤスフィール……それなら、私もですね……。シロウには、私の願いに対する答えを出してもらわなければなりませんから……」
士郎に抱きつくイリヤと、それを見て仲間に入りたそうなセイバー。
その時、慌てて桜も立ち上がった。
「あ、あの! わた、私も……!」
「あら、そうなるとサクラとセイバーはライバルね。まぁ、わたしには敵わないだろうけど」
「え……えっと、イリヤ? なんの話をしているんだ……?」
わざとらしく意味を伏せて喋るイリヤの言葉に、士郎はあたふたとしながらはぐらかす。
「ふん……それならわたしは、独りで時計塔か」
そこで凛が、少し寂しそうに呟いた。
「それでも凛。たまには会えるわよ」
「えぇ。そうね。といっても、本当にたまにでしょうけど。ソニアは研究のために世界中を旅するわけだしね」
「なら、私と宗一郎様はハネムーンねっ!」
「あぁ、キャスター。お前の行きたいところに行くといい。お前がいれば、私はどこでも満足だからな」
……みんなには、一緒にいるべき人がいる。
でも、独りだけ我関せずと佇んでいる男がいた。
それがどうしても気になった私は、つと訊いてみる。
「……ガッツは、どうするの?」
すると、みんなの視線がガッツに集まる。
その衆目に根負けしてか、ガッツは少し困ったように口を開いた。
「あぁ……まぁ、オレはな。好きにやるさ。好きに。もとより、あまり一つのところには留まれない性分でな。ここに十年もいたのなんて、オレの中でも珍しい部類なんだ。勝手に旅して、この烙印のせいでよく分からないもんと出会って、ひたすらに戦って、普通に生きていくさ」
……たぶん。それがガッツの生き方なんだろう。
でも、これはお節介なのかもしれないけど……なんだかそれは、とても寂しく思えた。
「それなら、ガッツ。貴方は私のことをマスターだと思っていてくれているんでしょう? なら、私の用心棒をしてくれないかしら? 空白の時代の調査のため、慎二と一緒に世界を回れば、命の危険がつきまとう。そのときに貴方がいてくれると、とてもありがたいんだけど?」
「……ふん。そうだな。そっちの方が色々と面白そうだ。いいぜ、請け負った。オレは、
そう言ってくれたガッツは、私と慎二の旅に加わることになった。
「……ん?」
ふと、窓の外に目をやったガッツが、なんだかすごく嫌そうな顔をする。
「はぁ……また面倒なやつが帰ってきた……」
『……?』
みんなはガッツの呟きを訝しみ、彼の視線の先にある窓の外を覗き見る。
すると、窓の外は青空だったが、そこに一つの光が――――
「お~~~~い! 見つけたぞ~! ガッツ~~~~!」
そこには、なんと……身長二十センチくらいの妖精が空を飛んでいた!
「うわぁ! 妖精だわ!」
「うわっ痛っ!? い、イリヤ。俺の上で立たないでくれ……」
興奮して立ち上がるイリヤスフィールと、痛がる士郎。
やがて旋回しながら桜によって開かれた窓を通って病室に入ってきた妖精は、ガッツの顔の前で急停車し、私たちをジッと見つめる。
「あれ、ガッツ! おれが日本全国を旅して飛び回っている間に随分と友達が増えたね! いやぁよかったよかった。ところでさぁ。聖杯戦争って確か今年だったよね? いつやんの?」
「……もう終わったよバカ」
そう言うと、妖精は突然栗のような頭になって、口をあんぐりと開けた。
「ガガーン……! って、うそ!? もしかしてこれ、お祭りに乗り遅れちゃったや~つ!? うわぁああやっちまったぁああ!! ……っていうか。今回おれがいなくてよく生きてたねガッツ?」
「……まぁ。今回は、仲間がいたからな」
にやりと笑うガッツ。
それに私たちも、釣られて微笑んでしまう。
「お~? ガッツがそこまで認めるとは。なんだか興味を惹かれるメンツだな~。……あっ! おれの名前はパック! よろしくなっ!」
それからは、ずっとパックが話の主役となって、病室は大変賑わった。
……これからみんなは、それぞれの道を歩むのだ。
だから、その祈願を掛けて、私は最後の大仕上げをしなければならなかった。
一ヶ月後。
ずいぶん前に退院した私は、柳洞寺の山門にやって来ていた。
ここで私は過去視の大魔術を発動して、辻褄とやらを合わせなければならない。
「運河を逆行しよう、光年の果てまで創世を見届けよう、我は世界を覗く者ゆえに――
――The Future Remember……」
私は今から、一年前までの円蔵山周辺の光景を再生する。
その映像には大空洞での戦いもそうだし、士郎とキャスターの再契約場面も映し出されている。
そして一年前の此処には私がいて、その私は過去視により収集した情報から未来の予測演算を行っていた。
つまり過去の私が視ているのは、今の私だ。
そして今の私は、過去の私を観ている。
話は複雑そうに見えて、実は簡単。
私は一年ほど前、この山門で未来の予測演算を行った。そこで見た未来の私は、なんと過去までの私を観ていた。
つまり過去の私は、未来の私にとっての過去を
そう断言できる理由は、何故なら私は
そして、疑似的な未来測定を施してから、約一年が経った今。
私は、
「約一年前の私。おめでとう。今の私がいる未来は、士郎も慎二も凛も桜もイリヤスフィールも、セイバーもライダーもキャスターも葛木先生も、そしてガッツと、よく分からないパックっていう妖精も。みんな無事よ。無事なのよ。この未来は成功した未来。限りなくゼロに近い奇跡を成就させた未来。だから頑張ってね。諦めなければ、いつか未来は叶うから――――」
今頃、一年前の私は、今の私と同じ場所に立って、未来の予測演算を行っているはず。
そして、いま私が話した内容を聴き、いま私が再生している一年前までの過去の一部始終を視ているはず。
大空洞での言峰綺礼戦。
大空洞での副王フェムト戦。おそらくこの二つは、一年前の私の目には真っ黒に塗り潰されているように見えているだろう。
大空洞での融合七英霊戦。
大空洞でのイリヤスフィール解放。
洞窟でのセイバー戦。
山門での剣豪召喚。ランサー・オルタの登場。これもまた、ランサーの姿は真っ黒に塗り潰されていた。
柳洞寺でのキャスター再契約。
山門でのランサー敗退。
山門でのガッツvs剣豪のアサシン。そしてこれらも、ランサーを殺した真アサシンと、剣豪と戦ったガッツの姿は、真っ黒に塗り潰されていた。
……思い返す。一年ほど前の山門で、私は喧嘩した士郎と慎二を仲直りさせようと、未来の予測演算を行った。
しかし、そこで私は世界の滅亡を視てしまった。
それから私は何度も何度も過去視を繰り返して、あらゆる情報を拾い集めて、未来の予測演算を繰り返し、逐一未来を修正していった。
そうして数ヶ月の魔術行使を休みなく続けた結果、この
とどのつまり……現在の私から視た未来、その未来の私から
その映像を星のテクスチャの上に被せることにより、私は
要約すると、未来を予測演算することによって、
――ゆえに、未来を思い出す。
ここに、ちょっとずるい映像の大魔術儀式を完遂させて――私は明るい未来を勝ち取れたことを誇りに思った。
「お~い、ソニア~!」
「――――慎二が呼んでる。もう行かなきゃ。ここで待ってるわ。ソニア!」
Fate/stay night:2.5i+3.10i+BERSERK=The Future Remember.
/ True End
これにて大団円。
しかし、とにかく書ききることを意識しすぎた結果、プロットにあるものは全て書ききったが、かなり終盤の描写を疎かにしてしまった。これを時間の言い訳にするなど書き手として言語道断で、恥ずかしすぎて慙死此処に極まってしまいますが、個人的に二次創作は気楽にやりたいので、手抜きはご容赦ということで。まぁ本気出しても文章力がそもそもなのであまり変わらな(ry
冬木の美人教師からの質問。
Q. わた、冬木の美人教師が士郎とラブラブする待望の幻想ルート。その名もタイガールートはないんですかー?
A. プロット段階ではあった。三秒ルートのあと、慎二が蟲蔵で見つけた母親の保菌にタイガーが触れてしまってジャガーマンというプロットを考えてましたが、かなりギャグのくせにシリアスになったので却下。
(……というか。やっぱりタイガールートは三秒で終わらせて、その後は聖杯戦争関係なく、士郎と大河がイチャイチャしながら士郎の歪みを乗り越えるという、もはやサバイバーズ・ギルトをテーマにした人間ドラマ的な小説にした方が面白いというか、するべきなのではないかと拙者は思うの。……まぁ、それFateじゃなくね? とはなるけど)
タイトル「Fate/stay night:2.5i+3.10i+BERSERK=The Future Remember」の意味について。
これは適当に決めたものです。
Fate:原作で一番目のルート。
UBW:原作で二番目のルート。
イリヤ&キャスタールート:(UBWとHFの間ということで「2.5」。且つ「i」とは数学分野で虚数単位を表す)
HF:原作で三番目のルート。
慎二&ライダールート:(HFを分解して桜ルートのみにして、そこに慎二共闘ルートとライダールートを足し、皆を救えるのかというルート。ゆえに「3.10」)
そこにBERSERKが加わって、全てを纏めたイコールが――――いざ、未来を思いだせ。
ソニアのフューチャーリメンバーについて。
これは過去を映像として再現するからこその荒業。未来の自分が過去の映像を再現しているけど、その過去は今の自分にとっての未来であり、それがだんだんと自分より過去になっていく。
絵で書くと分かりやすいとは思うのですが、如何せん画才がなく、喩えをしようにもSF小説・漫画・アニメに関して乏しい知識ではうまいこと言い回しできず。さらに文才がなく、うまく伝わらないことを自覚しておきながら表に出した結果がこの始末。
……まぁ、そこらへんはフィーリングで。御免也……。
ちなみに『Fate/Zero BERSERK』のプロットも一応ありますが、書く予定はありません。セイバー・ディルムッドが出たら書こうと思っていて、実際もうとっくに出ていましたが、ぶっちゃけお金を稼がなければならない歳になってしまったため、書く予定はやはり見つかりません。
最後に。
たまたま此処を訪れた人が「なんだ、お前。馬鹿で下手くそだけどやるじゃん」と内心で思ってくれれば、この二次創作がwordフォルダに長い間封印されていた中、思い切って改稿して出してみた拙者が報われる。
それでは、ここまで読んでくれた読者よ。少しでも楽しんでくれたら幸いでした。
ありがとうございます。