※この作品はR-18です。

Fate/stay night : 2.5i+3.10i+BERSERK = The Future Remember   作:形のない者

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二月一日

 運河を逆行しよう、光年の果てまで創世を見届けよう、我は世界を覗く者ゆえに――――

 ――――The Future Remember……。

 

 これが私の魔術。ソニア・ド・ヴァンディミオンに許された、魔法級の大禁呪。

 

 記録宇宙・アカシックレコードへの介入を可能とする大魔術。世界に記録された情報を読み取り、映像として再現し、見聞する。それは固有結界と似て非なるもので、現実の世界に顕現させる過去の記憶。

 過去を再現するといっても、実際にその空間を過去に巻き戻すわけではない。ただ実際に過去に起きた出来事を幽界のものとして再現するだけ。現実に投射された映像はホログラムのように触れることはできず、移り変わる風景もまた蜃気楼のようにおぼろげとなる。

 しかし、それらは過去に“在った”事実であり、決して偽りの光景ではない。

 また、この固有結界の範囲は術者の限界として、半径十七キロメートルまでに絞られている。

 

 もっと具体的に説明しよう。

 ――宇宙、または世界には、事象を記録する概念がある。その記録に介入して情報を読み込み(リードし)、エーテル体による空間再現――舞台で言う役者や小道具、背景の役割を成すこと――によって映像を作り出す。

 これは封印指定されるのも当然と言える大魔術。しかし魔術協会・時計塔は、我らヴァンディミオン一族の研究のために、制約付きで諸国漫遊を許している。

 

 ちなみに、これは余談だが。

 応用として、創世から現在までの空間の流れから、その事象記録の情報を基に未来を予測演算することも可能である。それは予測型の未来視に近いものとなるだろう。さらに私からすれば、この魔術は振動宇宙説に連なる理論で解釈することができる。

 

 

 ――話を戻そう。

 我らヴァンディミオン一族の悲願は、空白の時代の真相を解明すること。

 そのために私は、この過去を視る魔術を用いて世界を旅し、集めた情報を魔術刻印・幻想年代記(ファンタズム・クロニクル)に記録していく作業を延々と行ない続ける宿命にある。

 

 そんな一族としての使命を背負った私が、なんでこんな片田舎で幸せそうに学生生活を送っているのか。

 そのキッカケは、第二次世界大戦の直前。極東の冬木市で空白の時代の残滓が確認されたところから始まる。

 

 当時、我が一族は冬木市に介入しようとしたが、ユグドミレニアやアインツベルンの牽制によって調査は叶わなかった。

 来たる第四次聖杯戦争では、またも空白の時代の残滓が確認されて、我が一族は飛ぼうとするも、今度は法政科の連中に足止めをくらった。聖杯戦争に関わり、万が一にも魔術刻印・幻想年代記を失えば、もう二度と空白の時代の調査はできなくなるぞ、と脅されたのだ。

 もっともな意見だっただけに、我らは一族は二度の残滓確認をしていながら苦汁を舐めた。

 

 そして私は二年前、ヴァンディミオン一族の当主として冬木市にやってきた。遅ればせながら、空白の時代の残滓を調査するためだ。それも一年弱で調査を終えた私は、そのまま帰ることもできた。

 ……だが、好きになってしまったものは仕方がない。視てしまったものは仕方がない。

 過去を調べるだけで止せばよかったものを、私は友人ふたりの疎遠をどうにかできないものかと、禁呪の応用を用いた。

 

 

 

 本当に止せば良かった。

 

 世界の悪意に戦慄した。

 

 全てがおかしくなった。

 

 世界は終わりを迎えた。

 

 

 

 ……始まりは、本当にそれだけのことだった。友人の仲を取り戻そうと、初めて人のために魔術を使った結果がこれだ。

 一方は馬鹿みたいにプライドが高くて、一方は馬鹿みたいに朴念仁。放っとけばいつかは仲直りをしていただろう。それが腐れ縁というものだ。

 

 

 

 ――守らなきゃ。大好きな人を。大好きな、この街を。

 始まりは単に、それだけのことだったんだ。

 

 

 

 

 

 現在。約一年に渡り蒐集した冬木市全体の歴史年表。

 

 現代。第四次聖杯戦争(冬木市大火災)、第二次世界大戦。

 

 近代。第三次聖杯戦争(聖杯汚染)、第一次世界大戦。

 

 近世。第二次聖杯戦争、第一次聖杯戦争、大聖杯敷設。

 

 中世。平安。神代回帰現象。空白の時代。

 

 古代。王朝。

 

 神代。日本神話。

 

 先史。旧石器。

 

 天地開闢。蒼穹の惑星。緑の星に命が栄える。

 

 宇宙開闢。振動せし宇宙の膨張。並行世界の誕生。

 

 無の否定。

 

 

 

 

 

 はたして世界は何度繰り返されたのか。

 

 ――error。今は七。これより先は六回目の終始ゆえに。

 

 ――error。今は七。これより先は六回目の始終ゆえに。

 

 ――error。貴女は七。これより先は限界に至る。魔術とは常に死と隣り合わせゆえに。それでも覗くのであれば、等価としてその命を燃やし尽くせ。

 

「それは御免ね」

 

 しかしてヴァンディミオンの魔術師は、記録宇宙アカシックレコードの閲覧、またの名を根源への接続を切ったのだった。

 

 

 

   …

 

 

 

 早朝。

 

「昨夜、ランサーと戦った。真名はクー・フーリンだ。間違いねぇ」

 

 起きて早々、朝の提示報告をきっちりと済ましてきたのは、黒い剣士だった。

 

「……待って。なんでそんな簡単に真名が分かっているのよ。まさか宝具の打ち合いでもしたの?」

 

「あぁ。向こうから宝具を使ってきた。なんとか生き延びたが、あれは反則級の宝具だぜ。簡単に言うと、因果逆転の呪いの槍。絶対にお前を殺す、何があっても、世界がひっくり返ってもってやつだ」

 

「簡単にざっくりと言い過ぎよ。……でも、因果逆転か。クー・フーリンの逸話からすれば納得ね。というか、それならどうやって生き残ったのよ?」

 

「そりゃあ――――弾いて、躱した」

 

「…………」

 

 ……これ以上訊くのはよそう。

 まさかこんな厳つい男が、こんな語彙力のない言葉を使ってくるとは思わなかった。

 

「……おい、勘違いしてんじゃねぇぞ。本当にそう表現するしかねぇんだからよ」

 

「ふふっ。別にしていないわよ。なにはともあれ尋常でない状況から生還したら、そういう言い回しにもなるわ。アレでしょ? 自分でもどうやって生き延びたのか理解できないってやつ」

 

「あぁ、まさにそれだ。……お前にその意味合いが通じるとは思わなかったがな」

 

「これでも私、世界中を旅して修羅場をくぐってきているのよ? 英霊に近いものを相手にしたことも何度かあったわ。いま生きているのが信じられないっていう状況も、指で数え切れないくらいには経験したこともある」

 

「戦の経験アリってか。つくづく生意気な小娘だな」

 

 それだけ言って黒い剣士は踵を返す。

 報告を終えたため、自由行動に戻ろうとしているのだ。

 

「……マスター」ふと足を止めて黒い剣士は言った。「今日はどうするつもりだ?」

 

「うーん。家に閉じこもるのは、やっぱり明日からにしようかなぁ、なんて?」

 

 それから黒い剣士は、そうか、とだけ呟いて去っていった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 夕方。

 冬木の中央公園……っていうところに、わたしはいた。

 今日のバーサーカーは少しおやすみ。

 連れ歩くだけで魔力を消費しちゃうから、わたしは独りでお散歩をしていたのだった。

 

「……あっ。もしかしてあれ、トオサカリン?」

 

 けれど、そのお散歩中に令呪が反応したかと思えば、近くにリンとそのサーヴァントがいた。

 どうやら向こうも、わたしを探しているらしい。もしバーサーカーを連れてきていたら、今頃はまだ夜になってもいないのに、戦闘が始まっていたかもしれない。

 

 ……だけど、なんだか必死にほかのマスターを探す仕草がおかしくって、わたしは隠れながらリンをつけ回すことにした。

 

「ふふっ。いやな顔しちゃって……」

 

 悪い笑みを浮かべて尾行を続ける。すると、リンはもうわたしの尾行を歯牙にもかけずに、夕食を取るため店に入った。

 その頃にはわたしも飽きてきていたし、お金を持っていないから店にも入れないので、さっきの公園に戻ることにした。

 

 

 

 時刻は五時前。

 公園に戻ってきたはいいものの、特にすることもなかったので、もうお城に帰ろうかと思った。

 

 ――――そこで、おかしなものを見つけた。

 

 わたしは異物を見つけた。あってはならない、黒いものを見つけた。

 

「あなた、だれ」

 

 夕焼けに染まる雑木林。木陰の裏で佇立するは黒衣を身に纏う男性。

 それは人間であり、人間ではなかった。サーヴァントであり、もうサーヴァントではなかった。

 

「あなた、誰だって訊いてるの!」

 

 声を荒げる。はしたないとは分かっていても、それでも問わなければならないことだった。

 黒い男はゆっくりとわたしに振り向いて、こう言った。

 

「……その見た目。なんだか幼いが、アインツベルンのホムンクルスに間違いねぇな。……で? どうしたよ、オレになんか用か?」

 

「何か用か、ですって? ……あなた、本当に何者?」

 

「何者もなにも、オレは前回の聖杯戦争で勝利し、生き残ったバーサーカーだ」

 

 ……前回の聖杯戦争に、勝利した?

 それはありえない。前回の聖杯戦争の勝者はセイバーのはずだ。

 いや、その前に十年前の存在が今もこうして生きていることが、わたしにとっては究極の問題点だった。

 

「まぁまぁ、そう殺気立つなよ、嬢ちゃん。今回の聖杯戦争に参加するサーヴァントが、七騎から九騎に増えただけのことだろう?」

 

「……七騎から、九騎?」

 

「――っと、やべ、八騎だ八騎。……いや、もうおせぇな。やっちまった……」

 

 こいつ、何かを知っている。

 やっちまった、なんてわざとらしく手を頭に当てているけど、それは演技だ。だけど、何故そんなことを? わたしに何かを伝えようとしている? なぜ?

 考えを巡らすも、いるはずのない八騎目のサーヴァントに動揺して、うまく考えがまとまらない。今ここにバーサーカーがいれば、さっさとこいつを叩き潰してイレギュラーは排除するというのに、それもできない。

 

 長い沈黙が続く。

 不意に背後からガサガサと物音がして、わたしはキッと目を鋭くさせて振り返った。

 

「だれ――――っ!?」

 

 そこでわたしは、またも仰天した。

 そこにいる黒いサーヴァントに驚愕した直後だというのに、どうして彼がここに現れたのかと。

 

 それは赤毛に童顔の少年。エミヤキリツグの息子が、わたしの目の前に――――

 

「あっあの、えっと、つかぬことをお伺いしますが、ここで何をされてるんです?」

 

 お兄ちゃんはなんでか、わたしをかばうようにして、黒い男に立ちはだかった。

 

「なにって、そりゃあオレのことか?」

 

「あっはい。その、失礼だとは思いますが、木陰に少女と大男っていうのはどうも……」

 

「なるほど。いや、気を使わなくてもいいさ。確かに、見るに怪しげな男だもんな、オレ。だが、勘違いは困るぜ。先に突っかかってきたのはそこの嬢ちゃんだ。知らない大人に喧嘩を吹っかけたら怖い目に遭うぜと、そうしっかりしつけといてやれ。それじゃあな」

 

 そう言って黒い男は、寄りかかっていた木立から離れて、この場から去っていった。

 

「まっ、待ちなさい!」

 

「おっ、おい。正気か! 今の人、良い人そうだったけど、めっちゃ怖かったぞ!」

 

「――ッ! ……なんで、ここにいるの?」

 

 あの黒い男は逃してしまった。が、それならば仕方がない。標的を次に移す。

 わたしには目の前にいる少年の存在が、ひどく目障りだったから。

 

「なんでって……えっと、さっき言った通りなんだが? あの人、知らない人だろ? そういう人には付いていったらダメなんだぞ? 君はまだ小さいんだから……そうだ、親はどこかな?」

 

「バカにしないで! なによ、なんでこんなことをしたのよ! わたしを助けたつもり? わたしにはバーサーカーがいるんだから、あなたなんて……」

 

 ――今すぐここで、殺しちゃうんだから……。

 そう叫びそうになったけど、すんでのところで踏みとどまった。

 目の前にいるお兄ちゃんは、なにやらあたふたしている。

 

「えっと、別に何かされたわけじゃないのなら別にいいんだ。たとえば飴を貰ったとか、どこか遊びに行こうとか。そういうんじゃないんだったら……良かった。本当に無事で」

 

 本気で、目の前にいる少年はそう言った。

 その安堵して胸をなで下ろす仕草が、妙に、妙に――――

 

「……ねぇ、お兄ちゃ――」

 

「――って、うぇっ! やべ、もう五時になってる!? バイト遅刻じゃないかっ!」

 

 だだだっと全力疾走で、わたしを置いて公園から走り去っていくお兄ちゃん。

 

「……なっ、なによ。どういうことなのよ。ほんとにわたしを心配して、助けに来てくれただけなの? なんで?

 ……そ、それに、知らない人なのはそっちもじゃない! わ、わけわかんないっ!」

 

 雑木林に独り。誰にぶつけていいのかわからない癇癪をぐっと堪える。

 目元に潤んだ涙を拭って、どしどし、と力強く地面を踏んづけて帰路に就いた。

 

 ――わけわかんない。わけわかんない。わけわかんない! 初めての会話が、こんなだなんて!

 

 気付けば目は赤く、頬は膨らみを抑えきれず、体は強張り、怒りやら何やらが胸に鬱憤を溜め込んでいた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 深夜。

 気配遮断のルーンを用いて、森の中にひっそりと佇む城に辿り着いた。

 ここでルーンの効果を解けば、おそらく即サーヴァント戦が始まる。

 

「まったく。今夜中に出来る限りサーヴァントとの戦闘を終えるべし、たぁ無茶な真似をさせる」

 

 斥候としての仕事。サーヴァントがどんな能力を持っているのかという偵察さえ済ませれば、オレの仕事はそれで終わり。あとは様子見に徹して機を窺う。

 

「上等。さぁて、最初の敵は、どいつかな?」

 

 城から尋常じゃない神性の圧を感じることからして、相手は神性を備えるサーヴァントだと見て間違いない。

 正攻法で行けば苦戦を強いられるだろうが、不意打ちは別に命じられてないため、どのみち真正面から打ち合うほかない。

 

 オレは城の前に堂々と姿を晒して、襲撃を待ち構える。

 

「――あら、ランサーのサーヴァントね。そっちから来てくれるだなんて、探す手間が省けたわ」

 

 銀髪の少女。それは黒々とした巨人の肩に乗っていた。

 だが、おかしい。おかしいぞ。こいつのクラスは――――

 

「――バーサーカー、だと?」

 

「なぁに? 見て分からない? ……それともあなた、ほかにバーサーカーのサーヴァントでも見たことがあるのかしら?」

 

「――――チィ。何か裏がありやがるな。一枠に二騎のサーヴァントを召喚する手法でも取ったのかい? お嬢ちゃん」

 

「そんな話じゃないわ。実はわたしも驚いているのよ。あと、あの男をわたしの仲間みたいに思わないでちょうだい」

 

 なるほど。どうやらあの修羅の剣士とこっちのバーサーカーは、特別繋がりがあるような間柄じゃないらしい。

 そうなるとあの黒い剣士は、まさかセイバーのクラスだったりするのか?

 

「なら別に構わねぇ。さて、早速おっ始めるとしますかねぇ!」

 

 バーサーカーに接近して、さっそく朱槍を心臓にぶち込んだ。

 

 ――つもりだった。

 

 なんとオレの槍は、その肉体に突き刺さることなく弾かれちまった。

 それから岩のように動かなかったバーサーカーが鬨の声を上げて――――狂化した。

 

 ――――金の瞳が、赤く狂い輝(て)る。

 

「■■■■■■■――――!!」

 

「どういうことだ。オレの槍が効かねぇだと!」

 

 落ち着け。こりゃ一定値以下の攻撃を無効化する宝具でも持ってやがんな。

 その証拠に、今しがたルーンでワンランク強化した筋力値での槍なら――――届く!

 

「おりゃぁあああ!」

 

 神速の槍捌きを、高速の斧剣で凌駕されること数分。ようやく黒い岩盤に血糊が付いた。

 はたしてこの武練。並大抵の英霊ではないと持ち得ない技術だ。さらにマスターを小脇に抱えた状態でこれとは、ちと舐めては掛かれねぇな。マスター狙いに切り替えさせないための手なのは分かっているが、こいつと全力で打ち合うためにも、どうやって引きずり下ろすか。

 

「どうした、バーサーカー。マスターを小脇に抱えたままじゃ、さぞ戦いづらかろう。いっちょマスターを下ろして、その剣技、オレのために披露してみせてはくれねぇか? なぁに。マスターを狙うなんていう、そんな卑怯でつまらない真似はしねぇと約束するからよ」

 

「……バーサーカー。受けて立ちなさい。この小生意気な英霊なんて、ぺちゃんこに踏んづけちゃえ!」

 

 おぉ、怖い怖い。

 

 ――――バーサーカーの瞳が、半分だけ金の色を取り戻した。

 

 今ので分かったことは、このバーサーカーのマスターはとんでもない存在だってことだ。サーヴァントの狂化を逐一切り替えることができるマスターなんぞ聞いたことがねぇ。それも半分は狂化に使い、もう半分は卓越した技量を再現するために眠らせるとは、芸が過ぎる。

 さらにこのバーサーカーは、狂化してスペックを向上させておきながら、狂ってもなお健在の武術を披露できるときた。

 

「こいつはとんでもねぇ大物じゃねぇか」

 

 最強のマスターに最強のサーヴァント。相手にとって不足なしッ!

 腰を低く下ろし、バーサーカーが駆けた。それを真っ向から迎え撃つ。左足の付け根、腰、心臓、斧剣の払い、右目、首、右膝、左肘、喉、頭蓋。急所絡めてバーサーカーの肉体を抉り抜く。

 そうして崩折れる狂戦士。

 

 だが、オレの見立てでは――――

 

「■■■■――――!!」

 

「戦闘続行持ちだろうな。急所貫かれといてその動きはねぇだろう!」

 

 そう言いながらも口元が吊り上がる。瞳孔が見開かれる。

 満身創痍の身体で剣戟を重ねてくる狂戦士。気づけばその両目は、赤く光っていた。

 

 ――――全狂化!

 

 ゴリ押しとはつまらねぇ。ほかのクラスでやり合いたかったな。

 そんなことを思いながら、引き際を見誤らないように間合いを計る。

 

 そして、こっちが逃げ腰になったことから、てっきり追いかけてくるもんだと思ったが……どうやら奴さん、深追いはしねぇ主義らしい。

 

 ……さて、ここらが潮時か。

 

「……おい、提案があるんだが、そこの嬢ちゃん。そろそろ分けにしねぇか?」

 

「断るわ」

 

 即答かよ。仕方ねぇ。

 

「ならば手向けとして受け取るがいい」

 

 地を駆け、地を抉り――――

 

「刺し穿つ――――死棘の槍(ゲイ・   ボルク)!!」

 

 

 

 

 

 ……趨勢は決まった。確実に心臓を貫いた。

 たとえバーサーカーが高い幸運を持っていようと、槍を回避する術を持っていようと、それでもこのオレの槍を躱すのは極稀のことだとされる。昨夜は、その極稀の中のありえないものを相手に引かれちまったが、今夜はバッチシと決まった。

 

 これで聖杯戦争は始まる前に、第二のバーサーカーは――――

 

「ふふふっ。油断は大敵よ?」

 

「なにっ――――蘇生の宝具だと!?」

 

 心臓を穿たれて地に伏したバーサーカーが、むくりと起き上がる。

 こいつ、防御系の宝具を有してやがる。だが、オレの槍を受けて無事だというのなら、その隙に攻撃宝具を使用していれば、面食らったオレを殺れていたはずだ。それをしなかったことから察するに……。

 

「攻撃系宝具は持っていないが、かなりの防御系宝具を持っている。だが、鎧ではなく肉体に宿る無敵となると、となり島の後輩に無敵の仁王立ちがいたが、それじゃあねぇな」

 

「あら、それ、スェウ・スァウ・ゲフェスのことを言っているの? 残念だけど全くの外れよ」

 

「だろうな。そいつは聖槍しか効かねぇインチキなサーヴァントだ。だが、バーサーカーには普通の槍で効いた。これは逸話が宝具に昇華されたサーヴァントだと見るべきだな。中世の騎士道に謳われるバカっぽそうな英雄なら、話は別だが」

 

「ぶっぶー。全然ちがーう! それじゃあ答え合わせをしてあげるわ。

 ――バーサーカーの宝具『十二の試練』。神々に与えられた試練を突破し、その突破した数の難行を一つの命とした蘇生宝具」

 

 ――――その逸話の主人公の名は、なるほど。ギリシャ神話の大英雄ヘラクレスか。

 

「お答えどうも、お嬢ちゃん。そんじゃまぁ、真名も聞き出せたことだし、オレは帰らせてもらうぜ」

 

「あら、逃げるの?」

 

「どうとでも取れよ。次にばったりとお外で出会ったら、ご自慢のサーヴァント、容赦なくぶち殺してやるからよ」

 

 気配を消すルーンを使用して、森の闇にこの身を同化させる。

 

 

 

 ――次は、柳洞寺だ。

 

 

 

 アインツベルンの森から脱兎の如く撤退し、お次は柳洞寺のお山に到着した。

 

「ということで、また来たぜ。アサシン」

 

「ほう……いつぞやのマスターはどうしたのだ、ランサー」

 

 柳洞寺の山門にて、門番として刀を構える、その名を佐々木小次郎というサムライ。

 オレの苦手とする天敵であり、なるべくなら二度とやり合いたくねぇ相手だ。

 

「いろいろあってな。宗旨替えってやつだ。そいつの命令で、全てのサーヴァントを相手にしなけりゃならなくなってな」

 

「ほう。薄情なやつだな。見下げ果てたぞランサー。前のマスターを捨てて、今のマスターに与している、ということかな?」

 

「だから、いろいろあったって言ったろ。てかな、山門がマスターのテメェにとやかく言われたかねぇな」

 

「なるほど、だがな。今の発言は撤回させてもらうぞランサー。たとえ山門であろうと、我が現界の依代たるマスターを侮辱することは許されん」

 

 ……えっ。こいつ、マジで言ってんの?

 

「それに、貴様の狙いはあの女狐の方であろう?」

 

「そいつはもう終わった話だ。一度目も二度目も引き分けて、そろそろ飽きてきた。逃げてばっかだからな、あのキャスターは」

 

 ……そう。一度目は、つまらねぇ聖杯戦争監督役からの命令だった。

 そして二度目は、狐につままれたことへのリベンジ戦。

 だが、そのあとに、まさかあんなことになるたぁ……つくづくオレの女運はないのだと思い知らされるぜ。

 

 ――――思い出す。

 オレが召喚された、あの日からのことを……。

 

 

 

   …

 

 

 

 一週間以上前。オレは、バゼットという女魔術師に召喚された。

 その次の日に監督役から手紙が届いた。何でも召喚したサーヴァントが気に食わないんで、共謀して始末してくれだとか、これまた締まらねぇ依頼を出されて、オレはそれを引き受けた。

 

 そして、オレがキャスターのところに辿り着いた時には、既に決着は付いていた。

 キャスターは自分のマスターを殺していた。何があったかは一目瞭然だった。

 

 そのあとはビームの応酬よ。

 少ない魔力で、自身の霊基を削ってでも魔力を生成し、最期までキャスターは生きるのを諦めなかった。その気概は認めてやるが、ついぞオレから逃げ切ることは叶わなかった。

 

 刺し穿つ死棘の槍――――ゲイ・ボルク。

 依頼人は既に死んでいたが、元々はキャスターを殺せとの依頼だ。

 やる気は出ねぇが、仕事はキッチリ済ませねぇとな……。

 

 そしてオレは、宝具を用いてキャスターを刺し貫いた。

 ――――だが、地面にくたばったキャスターの死体は、偽物(フェイク)だった。

 

「やられたぜ。かなりの魔術師だとは充分に承知していたから、万全の対策をしてきたつもりだったんだが……まさか、いやこれは驚きだ。スゲェぜキャスター。まさにいっぱい食わされた」

 

 偽物。その心臓を貫いたはずのキャスターの身体は、偽物だった。

 それは魔術により生み出した虚像。分身だった。だが、その程度を見抜けないオレではない。

 これでも武術・魔術ともに一級品の英霊だと自負している。ゆえにキャスターを侮ることなく、赤枝の騎士としても魔術師としても万全に挑んだつもりだった。

 

 まず、オレは逃げるキャスターを追って、新都の高速道路まで追いかけた。

 そこで勝負を仕掛けたオレは、キャスターの砲撃をルーンでひたすら相殺し続け、魔力切れを待った。

 一方のキャスターは、オレがわざとらしく、かつ分かりやすく間合いを図っているのを見抜いて、宝具を警戒し始めた。

 それは、オレが最初に「おまえのマスターの依頼で始末しに来た」と伝えていたおかげでもある。逃亡の時間に作戦を練る時間もくれてやって、これでハンデの差は帳消しだと示したつもりだった。

 

「σκια――Χωρίστε」

 

 それからキャスターが宝具の警戒として何を出すかと思えば、それは自分の分身だった。

 オレは炎のルーン・アンサズを用いて虚像を焼き払ってから、問答無用で宝具を放った。

 熱で道路が溶解し、キャスターに突貫する辰砂の槍は、その身を貫いた。

 

 ――別に、その本体も分身だった。なんて話じゃねぇ。

 それは紛れもなく本体でありながら、真の意味で分身だったんだ。

 

「……いつだ。いつからだ。自身の霊基を削り分かち、一方にオレを追わせて、本物が行方をくらましたのは、一体いつからなんだ、キャスター!」

 

 そう、それは最初からだった。

 キャスターが自身のマスターを焼き殺したときに、オレは僅かな魔術の残滓を確認していた。

 あれはてっきり、自身のマスターを幻術で嵌めて殺したものだと思っていたが、実はもう一つ布石を張っていたのか。

 

「なるほど。戦闘ではど素人だが、権謀術数なら引けを取らないってか。あの魔女め……」

 

 キャスターは最初から、何かしらの理由で魔力が制限されていた。

 おそらくやつのマスターの仕業だろう。そのせいで気が付かなかった。

 

 霊基を二つに分かつことで、も(・)う(・)一(・)人(・)の(・)自(・)分(・)に(・)限(・)り(・)な(・)く(・)近(・)い(・)分(・)身(・)を生み出す。

 だが、それは必ず本体の魔力が多く、分身の魔力が少なくなる定めにある。しかしキャスターは、そ(・)れ(・)を(・)逆(・)に(・)さ(・)せ(・)た(・)んだ。自身の霊基を削り、それを魔力とすることで現界し、オレとやりあって、そしてどこかのタイミングで霊基を分けた。

 

「つまりぃ? 最初から霊基を分かつ分身の魔術は使っていたが……そうか。さっきのアンサズで完全に分かれたのか……」

 

 オレが気にせずルーンで焼き払った虚像。あれこそが本体だったのだ。あのまま炎に巻かれてダメージを負ったのは事実だろう。そのまま消滅するかのように霊体化して、風前の灯の魔力だったために、オレは気が付かなかった。

 

「まさに本体分身共々――いや違うな。あれは半身も同然だったわけだから、本体微本体共々、ヒットポイントが一か二だったからこそできた芸当だ。小賢しくも勇気あるじゃねぇか、キャスター。微本体の方を魔力多めにし、本体である自分の魔力は少なくして誤魔化すってのはよぉ」

 

 とりあえず出し抜かれたのは事実だ。

 本職じゃねぇけど、オレが魔術戦に負けたってのは、流石はキャスターのクラスだということか。

 

「チッ。バゼットになんて言おうか。初陣だったっていうのにカッコつかねぇなぁ。初めから褒められる仕事じゃなかったにしろ」

 

 オレはその後、おめおめとマスターの下に帰り「逃した」と報告した。

 するとバゼットは、すぐに「リベンジしましょう」と言ってきた。

 

 

 

 次の日からキャスターの行方を捜索し、街から生気を吸い上げている流れを発見した。

 そのエネルギーの流れは柳洞寺に集中しており、すぐにキャスターの居所を掴むことができた。

 

 さらに次の日、オレはバゼットと一緒に柳洞寺へ赴いた。

 その山門で待っていたのが、アサシンのサーヴァント。しばらく押したり引いたり切った張ったを繰り返していると、どうやらアサシンは山門から動けない身であることが分かった。

 それさえ分かれば、オレとバゼットは目配せをする。

 

「ランサー、このままアサシンを抜いて境内へ上がりましょう。私たちの目的はキャスターですから」

 

「簡単に言ってくれる」

 

 悪態をつく。

 が、戦闘中に念話で立てた即興の作戦は互いに了解しており、完璧の示し合わせとなっていた。

 

 まず、オレが前に出て、アサシンと鍔迫り合う。その隙を突いて、オレとアサシンの横をバゼットが駆け抜ける。無論、門番としてそれを逃すアサシンではない。だが、二兎を追う者はなんとやら、とバゼットは言っていた。

 バゼットに標的を移したアサシン。同時にオレは暗殺者の背後を取る。そしてアサシンに狙われたバゼットは、迫り来る刃を拳で打ち払った。それも一度が限界だ。続きはオレが受け持った。

 

 そうしてうまいこと、アサシンを出し抜いたと思ったんだが――――

 

「二兎を前に、二兎を逃すのは門番として失格だな。ゆえに一兎を逃して一兎を仕留めよう。

 ――秘剣・燕返し!」

 

 ノータイムの宝具だった。

 

 ――首を切り落とされる。

 

 生前、死んだあとの話だが、首を斬り飛ばされたオレにとっては笑えねぇ業だった。

 

 ――令呪を以て命ず、ランサー躱して!

 

「う――うぉぉおおおお!?」

 

 

 

 ――――気付けばオレは、境内に上がっていた。

 首には切り傷の痕があった。あと刹那の寸刻でも遅ければ、オレはもうこの世にはいなかった。

 

「チッ……また貴方なの? リベンジというやつかしら。それにしても、あのアサシンは本当に役に立たないわね……」

 

 ふと上空に現れたキャスター。オレたちを迎撃しに来たのだろう。

 

「ランサー、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、こりゃまいった。名采配すぎるぜ、バゼット。ほんとに助かった」

 

 だが、こりゃ帰りが怖いな、と思ったのも事実だが、ひとまずは正面の敵だ。

 バゼットは後方で待機。オレがキャスターを追い詰めて、今度こそ宝具で仕留める算段だった。

 

 だがまぁキャスターも必死なもんで、溜め込んだ魔力をフルに使って来た。対魔力を持つオレは平気だが、バゼットが危ない。刺しの宝具を既に見られていたため、距離を取られていたこともあり、戦いづらかった。

 しかし、ここで投げの宝具を使うのも得策じゃねぇ。敵の陣地内で、しかも広い陣地。躱されたり身代わりを用意されたらという危惧もあり、仮にキャスターを仕留めることができたとしても、帰りのアサシンが問題だった。

 

「……悔しいですがランサー、ここは引きましょう。キャスターとアサシンの同盟は予想外でした。無理に突破して令呪を切るより、撤退した方が良かった。私の落ち度です」

 

「なに言ってやがんだマスター。テメェは何も間違っちゃいねぇよ。それを言うならオレの力不足が問題だってんだ。……よし、そうと決まれば引くぞ、バゼット」

 

 オレたちが撤退を選んだ瞬間、キャスターは追撃をやめた。

 そのまま山門に近付き、再度アサシンと対面する。

 

「なんだ、情けない。あの女狐を倒してくれるものだと踏んでいたのだが、逃げ腰とはこれ如何に」

 

「うっせぇ。もとより前哨戦のつもりだったんだ。リベンジも兼ねてたがな」

 

 そして、オレはバカみたくアサシンに吶喊した。

 

「おりゃああああああ!」

 

「秘剣・」

 

「後より出でて先に断つ者(アンサラー・)――」

 

「燕返し!」

 

「――斬り抉る戦神の剣(フラガラック)!!」

 

 ……いったい何が起こったのか、オレには分からなかった。とにかく自分のマスターを信じての特攻だった。

 気付けばアサシンは、その身を“宝具発動前”に戻しており――――いいや、違う。あとから出したはずのバゼットの宝具が、先にアサシンを貫いていた。

 それはアサシンの腕を狙った攻撃で、腕への一撃にアサシンが気を取られている隙を突き、オレたちは転がり落ちるようにして柳洞寺から退散した。

 

 オレはこの時、召喚されてからマスターとあーだこーだ言い合っていたが、この時点ではかなり気に入っていた。

 相棒にするなら、こいつが良いとも思った。

 

 

 

 ――だが、それから数日後の話。

 今のオレにとっては、つい昨日の話だ。

 

「バゼット……?」

 

 床に倒れ伏しているオレのマスター。その傍らには監督役の神父が立っていた。

 バゼットは奸計に嵌った。騙し討ちにされて令呪を奪われたのだ。

 

「令呪を以て命じる、ランサー」神父の寂びた声色が脳裏にこだまする。

「主替えに賛同しろ。重ねて令呪を以て命じる。全てのサーヴァントと一回ずつ戦って、殺さずに生還しろ」

 

 

 

 ――秩序・中庸。

 マスターを殺されたことは癪だが、簡単に男に騙されて討たれたバゼットもバゼットだ。だが、いずれ仇は取るさ。

 

 

 

 ……ちくしょう。楽しかったのになぁ……。

 

 

 

   …

 

 

 

「ほれ」

 

 突然、眼前を横切る鋒。

 

「うぉい! 突然何するんだテメェ!」

 

 それはアサシンの物干し竿だった。

 

「いや、何やら物思いにふけて神妙な顔ばせをしていたものでなぁ。驚かせてみたかっただけよ。なにせ私を前に、そのように無防備な身体を晒し続けていられるのは、些か鼻持ちならなかったものでな」

 

「なんだ。そんなに今のオレはやばかったか。すまねぇな」

 

「いやいや謝る必要はない。詮索したこちらも悪いのでな。私はただ、ランサー。おまえと打ち合ってみたいだけよ」

 

「残念だが、それはできねぇ。オレには令呪が働いている。しばらく打ち合ったら帰らせてもらうぜ」

 

「それでも良い。令呪などなくても、私と打ち合うつもりはないのだろう? ならば、無理矢理にでも本気を出させるまでだ」

 

 ――月光の剣士。

 ぶっちゃけた話、オレはまともに打ち合うつもりはない。嫌がらせは信条じゃねぇが、さっき、いきなり斬り掛かられた腹いせも兼ねて、仕事があるオレは一回だけ付き合ってやる。

 

「では――」

 

 上段からオレを待ち構えるのではなく、一足にて間合いを詰めてきたアサシン。

 それにオレは、一合だけ付き合うことにした。

 

 たった一度だけ火花を散らす朱槍と物干し竿。

 すると案の定アサシンは――――

 

「秘剣――」

 

「――って来ると思ったよ!」

 

 鮭跳びの術で、山門から地上までの距離をひとっ飛びで跳び降りる。

 

「――――何?」

 

「ほらよ。打ち合ってやったんだから、これで終いだ」

 

「……………………。…………………………………………」

 

 おーいおーいと、目で訴えかけるうるさい侍だ。いくら苦手な相手とは言え、少し申し訳ない気がしないでもない。

 だから一つ、土産を残してやった。

 

「喜べアサシン。この聖杯戦争にはひとり、凄腕の剣士がいる」

 

「――――!」

 

 顔つきが変わった。まっ、今夜のところは、これで勘弁してくれや。

 キャスターの方は、あの神父に前回の戦いを聞かせてやれば文句ねぇだろう。

 

 

 

 ――さて、次なるはライダーだ。

 最近、深夜に深山町一帯を単独行動しているのは知っている。仕掛けるのならちょうど今の時間帯だ。

 

 

 

 そういうことで、オレはでかい橋の下にある公園にやって来ていた。

 すると、そこには案の定ライダーがいるじゃねぇか。

 

「よぉライダー。今日も女を襲って吸血か?」

 

「――! ……あなたは、ランサーですか」

 

「応とも。戦う気はあるか?」

 

「なくても襲って来るでしょう」

 

「はっ。違いねぇ」

 

 さて、見たところライダーは、はっきり言って弱い。警戒するべきは宝具のみだ。

 

「しっかり見とけよ、見逃したら死ぬぞ」

 

「――――――――」

 

 地面を割る勢いで脚を踏み切り、ライダーの首を狙っていく。

 それをライダーは直線と曲線を折り交ぜて、時に跳び、時に這い、蛇のように躱していく。

 

「ちょこまかと」

 

 だが、段々と軌道は見切ってきた。

 返す槍の石突きをライダーが躱したところで――――

 

「ほらよ」

 

 その土手っ腹に蹴りを入れた。

 

「ぐっ……!」

 

 ライダーは激しく身を転がして地を這い蹲る。

 

「どうしたライダー。腰が入ってねぇぞ。油断させようってんなら、そりゃ無意味ってもんだ」

 

「…………っ」

 

「そのバイザーを取れよ。そっからがテメェの本番なんだろ?」

 

 ライダーの顔には目を覆い隠すバイザーがある。あれはおそらく魔眼隠しだ。

 蛇のようにうねる身のこなしからして、吸血種でもある。魔獣の類であることは匂いからでも分かることだった。

 

「……では、お望み通り見せてあげます」

 

 バイザーに手を当てて、その瞳をオレは見据える。

 無論、魔眼だと予測しておきながら直視するってのは下策だ。だが、オレにはルーンによる魔眼対策がある。どんな魔眼が来ようと、オレには効かない。

 

「――石化の魔眼(キュベレイ)!」

 

「なにっ? 宝石の魔眼か!」

 

 こりゃ驚いた。

 それでもオレには効かねぇが、そこそこ歯応えはあるらしい。

 

「――っ。効かない、のですか」

 

「残念ながらな。と、ここで決めちまっても良いんだが、分けにするってのはどうだ?」

 

「……? このまま押し切られれば、私を倒せるというのにですか?」

 

「そんな簡単な話じゃないだろ。まだ奥の手を残しているはずだ。それを警戒してってのもある」

 

 しばらく押し黙るライダー。

 思案するように手を顎につけて、そのバイザーを元に戻した。

 

「分かりました。何が目的かは知りませんが、このまま戦っても不利ですので」

 

「助かるぜ。そろそろ切り上げたかったんだ」

 

 言い残して、オレは霊体化する。

 

 今日のところはバーサーカー・ヘラクレス、アサシン・佐々木小次郎、ライダー・メドゥーサと戦闘をこなした。

 謎のサーヴァント・修羅の剣士が気になるが、残るはアーチャーとセイバーのサーヴァント。

 

「明日もこりゃ駆り出されるな」

 

 そんな事を思って、今夜のところは安息に就くとした。

 

 

 

   /了

 

 

 




 ランサーのクラスでありながら、キャスターのクラスの真似事までこなしてみせる、万能型魔法戦士。ケルトの大英雄、クー・フーリン。
 ステータスの低さは世界最高峰の槍術やルーン魔術など、修得した能力の多さで補うオールマイティな技巧派タイプ。しかし本人としては、ただ死闘を楽しみたいだけの場合が多いため、あまり小手先のルーンは使おうとしない。

 狂化してもなお武練は健在。そもそも狂化されているのか。破壊の嵐、狂戦士バーサーカー。
 ギリシャの大英雄、ヘラクレス。説明不要の超最強大英雄。
 ケルトの大英雄クー・フーリンとは、その土地ごとの知名度や偉大さにおいて並び立つ者。
 つまりアイルランドの英雄といえばクー・フーリン。ギリシャの英雄といえばヘラクレスというように。
(しかし物語の構成で区分けするなら、冒険譚のフィン・マックールとヘラクレス。戦争蹂躙型のクー・フーリンとアキレウスといえよう)

 ギリシャにおけるゴルゴーンの怪物。それが英雄としての側面を引き出されて召喚されたのが、女怪メドゥーサ。
 平地ではない場所なら持ち前の機動力を活かし、抜群の戦闘能力を発揮できるタイプ。
 魔術の心得があり白兵戦もこなすが、全ては二流程度。しかし石化の魔眼キュベレイを活用したスキルや宝具、手綱を使った騎乗物であるペガサスなど、様々な能力によって汎用的な運用を期待できるサーヴァント。その汎用性の高さから、マスターがかなりの戦術家であれば聖杯戦争の優勝も夢ではない。


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