Fate/stay night : 2.5i+3.10i+BERSERK = The Future Remember 作:形のない者
朝。
私は再三の決定を再三覆して、学校に足を運んでいた。
「もう行かない。もう行かないと言い聞かせてはや何日? 我ながら我慢ができない娘だ……」
呟きながら学校の門を跨ぐ。
こうなったら聖杯戦争中でもなんでも、学校にだけは毎日通うのもアリかなぁ……なんて、バカなことを考えていたら――――
――――刹那、吐き気を催す不快感に襲われた。
……学校全域に結界が張られている。体中に血糊が塗りたくられたような水気の感触。
はて、魔術結界はキャスターの仕業なのだろうか? しかし、私はずっと柳洞寺を観ていたというのに、キャスターが学校に結界を張り巡らす瞬間を見逃すはずがない。となれば、この結界はほかのサーヴァントの仕業と見るべき。なのだが……。
「とにかく翌朝には、バーサーカーに柳洞寺へ向かうよう伝えておきましょうか」
聖杯戦争は動き始めている。だけど学校だけは安全と思っていた。その考えは誤りだったことを認めて、きっと私はこれからも学校に通い続ける。
もしこの結界が発動したら、この身に代えてもみんなを守るために。
◇
夜の学校。
紅い剣士と青い槍使いの死闘を目撃し、俺は青い方に心臓を貫かれた。しかし、死ぬ寸前だった自分を誰かが助けてくれたらしく、俺はふらつきながら家に帰宅した。が、なんとあの青い槍使いが追ってきて、俺は何度も死に目に遭いながら抵抗した。
そして、土蔵の中に追い詰められた俺は――こんなところでテメェに殺されてたまるか――と、眼前の殺人気に叫ぶ。次の瞬間――――
――――その日は、運命の夜だった。
「バカな、第八のサーヴァントだと……!」
青装束の槍兵が驚きの声を上げる。
光と旋風を巻き起こして現れたのは、聖緑の瞳に銀の甲冑を着こなした金髪の美少女。
その手には不可視の剣を携えており、彼女は俺に向けてこう言った。
「問おう――貴方が私のマスターか」
清涼なる響き。琳とした声のセイバーと名乗る少女は、ハッキリ言って、俺の負けだった。
――これを一目惚れと言うのだろうか?
煌びやか騎士は土蔵から庭に飛び出て、青い槍兵と鍔迫り合う。
「信じられねぇ。テメェ、セイバーのサーヴァントか!」
「どうかな。何を以て私を剣使いと断じる?」
「ぬかせ剣使い。しかし畜生、これはどういうこった。あいつがバーサーカーでないのなら、セイバーだと思っていたんだがな……」
「あまり独り言を呟いていても良いことはないぞ、ランサー!」
それこそ超人の死闘。
目前で起こっている尋常の埒外にある剣戟は、人の身で出来る業ではなかった。
◇
――強い。
不可視の剣を手に、華奢な体つきでありながら怪物並みの膂力を以て、堅実な一手を畳み掛けてくる剣騎のサーヴァント。
その本領はまだまだ発揮したりてないようだが、それを差っ引いてもオレは動揺していた。
……まぁ、イレギュラーなんてのはいつの世にも憚るものさ。気にしていたら、いちいち満足にチェスも打てやしねぇ。
「なぁセイバー。召喚されて早々、何やら勝ちにこだわっているらしいが、分けにするつもりはねぇか?」
「断る。無論、貴様はここで倒す!」
なら仕方ねぇ。オレの必殺を喰らわせるほか道はない。
「ならば覚悟しろ、セイバー!
……その結果が、これだ。
悔しい。一言でいえば、それに尽きる。
真名、クー・フーリンとしての矜持でもある必中必殺の宝具を、こう何度も躱されちゃあ、殺意というものでは形容しきれない屈辱に、何度も己を殺したくなる。
まさか連日連夜、自慢の宝具を撃ち放って生還するサーヴァントが三騎――修羅の剣士に蒼銀の剣騎。そして魔術師の方は、まんまと騙されて偽物だったわけだが――と、殺されておきながらも生き返るサーヴァントが一騎いるとは思わなかった。
だが、なにも面白くないわけじゃない。逆に昂ぶってきた。簡単に殺されるようなやつじゃあ英霊とは呼べない。二つ目の令呪の縛りもこれで解けた。次からやつらと全力で打ち合えるとなると、胸が躍る。
(ランサー。次の指示を出す)
――と、思ったらマスターのお出ましだ。次は何を言われるのやら……。
(全ての偵察を終えて帰還したな。ならば、あとは盤上の様子見だけをしていればいい。余計な行動はするなよ。活動は私からの命令を待て。以上だ)
――チッ。一転、暇になった。
こんなん生殺しじゃねぇか。自分の幸運を恨むぜ、まったく。
◇
「ふふっ」
笑った。わたしは笑っていた。では、いったい何に笑っているのか。
「ねぇバーサーカー。わたし、ようやくお兄ちゃんと殺し
傍らに佇立するバーサーカーの大きな手を握って、わたしは道路を歩いている。
これよりキリツグの息子は、トオサカリンと共に教会から出て、この道を通る。
つまりわたしは、待ち伏せをしているのだ!
「行きに通った道なら、帰りもこの道を通るはずだわ。遠くから傍観するサーヴァントなんて放っときなさい。狙いはお兄ちゃんのサーヴァントなんだから」
「――――――――」
緘黙のサーヴァント。バーサーカー。
今は停止状態にさせているけど、戦闘が始まったら雄叫びを上げて敵に襲いかかる。
赤く光らせる眼は片方のみで良い。まずは肩慣らし。すぐに決着がついちゃうと面白くないからね。
そして、霞の奥から歩いてくる人影が複数。
何やら言い合っているようで、こちらは余裕の構えでしばらく黙っていてあげた。
それも静けさを取り戻してきたとき。わたしは張り切って――じゃなくて、冷静に冷徹に気品ある態度で声をかけた。
「ねぇ、お話は終わり? ……リンには初めまして。わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。そして、これで会うのは三度目だね、お兄ちゃん?」
「あれっ、君は……」
「……ちょっと。なによ士郎。あんた、まさかアインツベルンと知り合いだったの?」
あぁ良かった。覚えていてくれた。
お兄ちゃんにとって、わたしはただの女の子だったらどうしようかと思っていた。でも、これなら心配ない。
――なにが、心配ないんだろう?
「それじゃあ始めようか。やっちゃえ、バーサーカー」
歌うようにバーサーカーを戦闘状態に移行させる。
活動を開始し、わたしの体から七割の魔力が吸い上げられていった。
「■■■■――――!!」
◇
跳躍するバーサーカーと呼ばれた隕石は、俺めがけてその斧剣を振り下ろしてきた。
「下がって、シロウ!」
間一髪、セイバーが間に入らなければ、俺はどうなっていたことか、考えるだに恐ろしい。
だが、もっと恐ろしかったことは――――
巌のような黒い巨人と剣戟を重ねること十合にも満たないうちに、セイバーが押され始める。
――俺のせいか。俺が、マスターとしての力不足のせいなのか……。
「ぐっ――!」
脇に一撃。鎧ともども抉り取られた。
半身を吹き飛ばされてもなお絶命しないセイバーもセイバーだが、それ以上にバーサーカーの容赦のなさが恐ろしかった。
――俺に出来ることはなんだ。俺が出来ることはなんだ。セイバーのために出来ることはなんだ。
「なぁんだ。拍子抜けね。このまま殺しちゃってもいいかも」
――出来ることなんて、ない。
相手は人外の理にある英霊、サーヴァントだ。
こっちは魔術師といってもただの人間、勝ち目はおろか生き残る道すらない。
「士郎、逃げなさい。アーチャーの援護があれば、あなただけでも――」
――うるさい。自分の身の安全なんて二の次だ。
俺の前には、命をかけて俺を守ろうとしているセイバーがいる。
「■■■■――――!」
……なにより。
――――たとえ、死ぬことが分かっていても。
どうしてか、死ぬより恐ろしいことがあったんだ――――
それは自殺同然の愚行。走れば死ぬことは自明の理。頭の中で何回も何回もこの先を予測して、何度も何度もセイバーを助ける方法を考えて、そして必ず俺は死ぬのだという解を出し続ける。
この矮小な身を以てして、バーサーカーの攻撃を止めることは不可能。前に出ても、セイバーともども吹き飛ばされるのがオチだ。それを理解していた上で、俺は走っていた。馬鹿だな、俺は。いったい何を考えているんだ?
……そうか。俺はとにかく、死んでもセイバーを――――――――
――感覚が、跳ねる。
「シロウ――?」
――――きがつけば、セイバーの身長が俺よりも高くなっているようにみえた。
おかしいな、俺より小さかったはずなのに。
「うそ、なんで……」
なんでそこで、お前が涙するんだ。
「あ、あんた、馬鹿なの?!」
遠坂にまで怒られた。
あぁ、どうしよう。俺は、なんて馬鹿なやつなんだろう。
――――女の子を三人も、しかも同時に泣かせちまうだなんて…………――――
◇
――もうしらない。しらないもん。わたしはしらない。もうどうでもいいもん。
キリツグの息子は死んだ。あれだけお兄ちゃんだけは殺すなとバーサーカーに命じておいたのに、バーサーカーはしくじった。
それもこれもお兄ちゃんが馬鹿みたいに突っ込んでくるのが悪い。
はぁ、なんであんなことをしたんだろう。そんなにセイバーが大事なの?
……サーヴァントは、自分を守ってくれる存在なのに? なのにあの少年は、サーヴァントを守るために自分を捨てたっていうの?
――虫の居所が悪かった。
新都の広い公園に差し掛かったとき、かつて目にした謎の黒いサーヴァントを見つけた。
つまり、わたしは八つ当たりの対象を発見したのだ。
「……あなた、今日もここにいるの?」
背後から冷ややかな視線を送る。
黒い男は振り向いて、これまたぶっきらぼうにレディをあしらった。
「あ? なんだアインツベルンの娘か。またオレに喧嘩を吹っかけてきたのか? こりねぇやつだな」
「――ッ。今のわたしは怒っているの。だからバーサーカー、あいつを殺せっ!」
「■■■■■■■――――!!」
「おいおい――っ!」
バーサーカーを実体化させたと同時に斧剣を叩き込む。今回は魔力を全開に回してのフル狂化だ。
不意打ちだけどそんなの知るもんか。こんなところを彷徨い歩いている異分子が悪いんだから。
さて、とにもかくにも、これで黒い剣士は死んだ。
……はずなのに。
「――ったく。癇癪で人を殺すたァ怖ぇガキだこと」
「な……そ、そんなはずは……!」
ど、どういうことなの。黒い男――いや、黒い剣士は生きていた。
その手に巨大な鉄の塊のような剣を持って、バーサーカーの一撃を正面から受け止めている!
「オレと戦うってんなら腹を決めな嬢ちゃん。虫を嬲り殺すつもりでいると、後悔することになるぜ!」
◇
――――殺セ 昂 愉 斬――――
煩い。黙れ。
心を侵食してくる闇狼を振り払いながら、バーサーカーの斧剣を打ち払っていく。
まるで台風だ。オレとバーサーカーが打ち合うごとに周りの木々が倒れていく。
「■■■■■■■――――!!」
狂化してなお衰えぬ剣技。
こいつは大物だ。大物過ぎてやべぇくらいにな――――!
頭上を潰してくる振り下ろし。胴体を横に両断しようと切り払う薙ぎ払い。
それらを交錯するように大剣を奮って弾く。こっちが攻撃する暇がない。この猛攻を凌ぐので精一杯だった。だが、やられてばかりのオレじゃない。僅かにバーサーカーと対面する位置をずらし、バーサーカーの胴から脇までを切りつけようと姿勢を変える。
それも次の瞬間、オレは奴に、狂戦士とは思えない体術を披露された。
瞬時にオレの思惑を読んだのか、バーサーカーは返す斧剣でオレの薙ぎ払いを受け止め、回した身体でオレの胴に回し蹴りを当ててくる。
あっけなく吹き飛ばされた自分の身体。背中から木々を二つ三つぶち倒してから地面を転がる。
「ガハッ――!!」
血反吐を吐き出すもすぐに立ち上がり、バーサーカーの追撃を間一髪の連続で凌いでいく。
「のろいわね」
――歯を食いしばるのをやめて口を噤む。
――――刹那、オレは銀髪の少女の背後に……
なにやらおかしな影が揺らめいているのを垣間見た――――
次の瞬間、バーサーカーは斧剣を持っていない左腕で、オレの身体を鷲掴みにする。
「のろすぎちゃって、ほら、バーサーカーならこんなふうに掴めちゃう。このままあなたというお人形さんを握りつぶすことだってできるのよ?」
「…………」
段々とバーサーカーの腕に力が入る。
鎧が軋み、体の中の骨まで息苦しくなってきた。
――このままだと殺られる。檸檬のように片手で搾り取られ殺される……!
「おしまいね。やっちゃえ、バーサーカー」
「――――フッ」
◇
「おしまいね。やっちゃえ、バーサーカー」
決着はついた。
バーサーカーの左手に囚われた黒い剣士は、このまま為すすべもなく身体を握りつぶされ、骨も砕かれ、血肉は果汁のように地面へとぶちまけられる。
「――――フッ」
だっていうのに、黒い剣士は哂った。
バーサーカーの手に力が入る。
同時に黒い剣士は、左腕をバーサーカーの顔面にかざした。
次の瞬間。
――――バーサーカーの首から上が、爆発とともに吹き飛ばされた。
「うそ、バーサーカーぁ!」
「――――、――――――――――――」
……首から上が、ない。バーサーカーは絶命していた。
「くそっ。こいつ死ぬ間際に自分の腕を固定させやがったな……岩みたいに動かねぇ!」
バーサーカーに握られる男の左腕から白煙が立ち上る。
そこでようやく、わたしは何が起こったのか気がついた。
暗闇で分からなかったけど、黒い剣士の左腕は義手で、さらにそれは大砲でもあったのだと……!
「よっと」
黒い剣士がバーサーカーの腕から逃れる。
そのときにはためいた男のマントの下を覗き見て、わたしはつい呟いてしまった。
「――――人間戦車」
「…………」
黒い剣士がわたしを見る。
別にそれは殺気という殺気ではなかった。
それでも、わずかにわたしは――――恐怖してしまった。
「ば、バーサーカー! 早く蘇生しなさい! じゃないと――――」
大剣を肩に通して、わたしに向かって駆け出す黒い剣士。
「――――、――」
バーサーカーは急いで蘇生しようとしているが、間に合わない。
やがて黒い剣士は、わたしの目の前まで走ってきて、そしてその分厚い大剣を――――
――こわくて、ぎゅっとめをつむる。すると……
――ひゅん、と。銀の髪が靡いた――
……黒い剣士はわたしの横を通り過ぎて、夜の街に消えていく。
たなびく髪は動きを止めて、心臓の鼓動に耳が驚く。
「――――――――」
硬直するわたしの体。
その頭にバーサーカーが手を置いてくれた。
――――怖かった。
今すぐバーサーカーにそう言って、抱き上げてもらいたかった。
でも、それはできない。マスターなら、弱いところを見せずに強気でいなくちゃ。
「――――」
「そうだね。もう今日は帰ろう、バーサーカー。なんだかとても疲れちゃった……」
バーサーカーに命令して肩に乗せてもらう。
そのままお城まで、わたしは寄り道せず帰路に就いた。
/了
「……そうか。俺はとにかく、死んでもセイバーを――――――――守りたかったんだ。」
衛宮士郎が恋をしたことで起きた明確なバグ。これについて後年、奈須きのこ氏は、次はもっとうまく書けるとおっしゃられていました。
であれば……どうかリメイクで、幻の慎二、ライダー、キャスター、イリヤルート……ありませんか? しかもエロ付きでお願いしまっす!
(強欲の人類悪顕現。ならばこの二次創作のように、自給自足するしかあるまいて……)
「――――そこでオレは、銀髪の少女の背後に、なにやらおかしな影が揺らめいていたのを垣間見た――――」
泥影、始動。
それは泥でもなく影でもない。泥と影が融合した、世界の悪意が顕現した存在。
ある少女の体を借りて、ある人物が受肉を図る。
「――ひゅん、と。銀の髪が靡いた――」
黄金の聖杯を狙う泥影を、修羅の剣士がその大剣で薙ぎ払ったシーン。
(特に意味があるシーンというわけではない)