※この作品はR-18です。

Fate/Tomoe night   作:形のない者

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幕間・暗躍

 シウネス・モルドールがアーチャーを召喚してから数時間後。

 

 闇夜に雪降る森の中、枯葉色の着物を羽織る初老の男性が、大股で獣道を歩いている。

 やがて、森の中でも拓けた場所に出た黒髪の男性――――ア(・)サ(・)シ(・)ン(・)は、雪の大地に草履の足跡を残して立ち止まった。

 

「ほう……奇襲もせず、堂々と前に出てくるか。ランサーのサーヴァント」

 

 無精ひげをさするアサシンは、霊体化を解いて目の前に現れた紅顔の青年――――ラ(・)ン(・)サ(・)ー(・)に対し、感心するように声を掛ける。

 

「そちらこそ、アサシンのサーヴァントなのに気配を絶っていないとは、どういう?」

 

 その場に佇むランサーは、右手に全長二メートルほどの槍を携えている。しかし敵意はないようで、表情の変化なく問いかける。

 

「いやな。儂は気配を断つ必要がない宝具を有しているのだ」

 

 あっけらかんと己の手の内を晒したアサシン。彼は破顔一笑というくらいの和やかな微笑みでランサーに語りかけた。

 

「儂の宝具はな。儂の要求を貴様が断った場合にのみ発動するのだ。あいや、嘘はついておらん。まぁ信じるかどうかはお主の勝手だがな」

 

「嘘はついていないだろう。本当のことを言っているように見える」

 

「うはは! お主、実は疑いを知らぬ小童だな? そのように人を信じていると、いつか足をすくわれるぞ?」

 

「……? 足をすくわれる? あいにく僕は、角力で負けたことは一度もない」

 

 少しズレたランサーの返答に、アサシンは一本取られたと言いたげに腹を抱えて笑い出す。

 

「うはははは! お主、まさかの天然坊主であったか! さらに力持ちときた! いや気に入ったぞ! どうだ!?

 ――――お主、儂(・)と(・)同(・)盟(・)を(・)組(・)ま(・)な(・)い(・)か(・)?」

 

 唐突なアサシンの同盟要求。それにランサーは、すぐには答えず黙して熟考する。

 

「……うむ、ランサー。儂はさらにお主を気に入ったぞ。そうじゃ。今のは、すぐに断ってはならぬ。だからといって、すぐに了承してもならぬ。どうやら天然坊主といえど、考える頭は持っているようだ」

 

「えぇ。一応、僕は王様をしていたこともあるので」

 

 泰然とランサーは答える。

 その独特な雰囲気を持つ槍兵を見て、アサシンはさらに彼を気に入ったようだった。

 

「よろしい。では、儂の宝具のカラクリを教えよう。儂の宝具はな? 同盟を一度(ひとたび)結ぶと、Cランク級の宝具を防げる自動防御システム搭載型の青い盾を一枚生成できるのだ。そして、もう一つの宝具には幾つか条件があり、儂(・)の(・)同(・)盟(・)要(・)求(・)を(・)断(・)っ(・)た(・)、または、同(・)盟(・)者(・)が(・)明(・)確(・)に(・)儂(・)と(・)敵(・)対(・)し(・)た(・)。その瞬間、儂はどのような妨害を受けても一瞬にして相手の背後にまわり、Dランク級の宝具で確実に暗殺することができる。というものだ!」

 

「ほう……」

 

 己の秘技を淡々と語ったアサシンに対し、素直にランサーは感心する。

 

「だとするならば、なるほど……では、アサシン。その生成できる一枚の盾について、ひとつ問いたい」

 

「なんじゃ?」

 

「その盾は、なにもあなたのみが使える盾ではないのだろう? あなたは『生成』という言葉を使っただけで、そ(・)れ(・)の(・)所(・)有(・)権(・)が(・)自(・)分(・)に(・)あ(・)る(・)と(・)は(・)一(・)言(・)も(・)言(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)」

 

 どうやらランサーは今の説明で、アサシンが気配を隠さない理由に勘づいたらしい。

 さらに暗殺者の目的さえも見抜いたその眼光は、たしかに一国の王として在った威風が備わっていた。

 

「……うむ。ご名答だ、ランサーの。……儂の盾はの? 同盟を結ぶ際に行われる契約書の書き方によっては、なんと敵方にも盾を与えることができるのだ。それはつまり、あ(・)と(・)で(・)同(・)盟(・)者(・)に(・)同(・)盟(・)の(・)破(・)棄(・)を(・)宣(・)言(・)さ(・)れ(・)た(・)場(・)合(・)、(・)そ(・)の(・)裏(・)切(・)り(・)者(・)は(・)儂(・)の(・)暗(・)殺(・)宝(・)具(・)を(・)一(・)回(・)だ(・)け(・)防(・)げ(・)る(・)ということにほかならない。

 さて、これを知った上で、そろそろお主の返事が欲しいところだが……どうする?」

 

「どうするもなにも。ここでその要求を蹴ってしまえば、僕はあなたの宝具を受けることになる。だから教えてくれ。その盾の所有権の決め方は、どうすれば決められるものなのか」

 

「おぉ、そうだった、そうだった」

 

 話が早いランサーに対し、アサシンは懐から一枚の契約書を取り出す。

 

「この一枚の契約書にある『盾譲渡権の欄』に己の真名を書いた者が、盾の所有権を得られる。だがその前に『同盟者の欄』という項目があり、ここに儂と儂のマスターの真名、そしてお主とお主のマスターの真名を記入しなければ、この契約は成立しない。ちなみにマスターが複数いる場合や協力者が存在する場合、その人物の真名を記入するも良し、しないも良しだ」

 

 説明は以上であると、アサシンは契約書を見せびらかす。

 一方のランサーは、どうやら念話を使って自分のマスターと相談しているようだった。

 

 それから暫くして、俯いていたランサーは顔を上げる。

 

「マスターからの承諾が得られた。その同盟要求を呑もう」

 

「宜しい! では不正がないよう、先に『同盟者の欄』に己が真名とマスターの名を書き記そう。あとは……ほれ。ランサー、お主の番だ」

 

 契約書に己の真名とマスターの名前を記入したアサシンは、ランサーに契約書を手渡す。

 

「では、同盟者の欄には僕の真名を。そして盾譲渡権の欄にはマスターの真名……グラロッソ・ヒートン……と」

 

 ランサーが二人分の真名を綴り終えると、契約が遂行されたのか、とたん契約書が光り始める。

 

「あとは儂のハンコを押すだけじゃ。――さて、これで儂とお主は同盟関係と相成った。今頃は青い盾が一枚、お主のマスターの周囲を旋回し始めている頃だろう。ちなみに契約書は儂の懐にあるが、一度(ひとたび)契約してしまうと、儂でも書き換えられない。魔術界隈で言うところの自己強制証明(セルフ・ギアス・スクロール)のようなものと思えば良い」

 

「分かった。それとマスターの方でも、盾の発現を確認したようだ。それでは僕は、これからマスターの命令がない限り、あなたを狙うことはしない。互いにほかのサーヴァントを狙うとしよう」

 

 そう言って跳躍したランサーは、森の外へ駆けていく。

 見送るアサシンは、木々の隙間から垣間見える月と雪と花を見据えて、静かに呟いた。

 

「……さて、これでライダー、ランサーとの契約は済んだ。あとはもう一騎ほど欲しいか」

 

 かくしてアサシンは、夜の肌寒さに身を震わせながら、狼の遠吠え響く森林を後にした。

 

 

 

   /了

 

 

 

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