※この作品はR-18です。

Fate/Tomoe night   作:形のない者

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第五章・vsライダー

 聖杯戦争、五日目の夜。

 体調は万全ではないものの、そのくらいは気力で押し返してみせるシウネスは、妻がいなくなったためにアーチャーに家事を任せ、彼女の潰れたおにぎりを頬張ったあと、復讐相手を探すため探索に赴くのだった。

 

 防腐処理を済ませたサリアの死体は棺桶に寝かせてある。聖杯に願えば、その場で生き返るのかどうかは判らない。しかし安置しておくに越したことはないとし、たとえ工房が蹂躙されてもサリアの棺桶だけは無事なように、シウネスは館の離れに隠しておいた。

 

 このように準備を整えた上で、マスターとサーヴァントは、教会のある片田舎まで足を運んでいた。

 

「アーチャー。現界したままでいい。ここでライダーを見つけ次第、狙撃兵は無視して、ただただライダーを始末することを考えろ。数減らしの為だ。アサシンに近付く為には、ほかのサーヴァントを減らして、一騎打ちに持ち込まなければならない」

 

 マスターの命令に、アーチャーは実体化を伴って言葉を返す。

 

「それは、ダメージを無視しての特攻……という意味で?」

 

「あぁ。とにかく各個撃破を狙うんだ。君の火力ならそれが可能だ。宝具の使用も許可する。……ただし宝具を使用するには、狙撃兵が邪魔だと言いたそうだね? もちろん。こういう時にこそバーサーカーだ。使い魔を通じて、君が宝具を使用する際、バーサーカーと狙撃兵を接触させる。……まぁ、あいつは信用ならないけど、一応、今は言うことを聞いてくれている。なんとかなるだろ。――さ、そういうわけで、戦いの火ぶたを空に撃ち上げてくれ」

 

 坂道の煉瓦に腰を掛けるシウネスは、アーチャーに炎の矢を空に撃ち上げろと命令する。

 言わずもがな、誘いの文句の為の鯉口代わりである。

 

「お任せください」

 

 弓を夜に向け、燃え上がる矢を月に射る。

 やがて夜空の輝きに負けない光で炎熱の矢は爆発し、花火となった。

 それからアーチャーとシウネスの頭上にのみ、暫く雪が降ってこない。

 

「短期決戦だ。判ったな、アーチャー。まず狙撃兵の居場所を突き止めたら、僕は物陰に隠れる。向こうは執拗に僕を追っては来ないだろう。どうやら狙撃手はライダーの援護に集中しているようだからね。ただし、もしそっちの戦いが白熱している間、僕が狙われるようなことがあった場合、必然バーサーカーを接触させて、僕から気を逸らさせる必要がある。そうなる前にケリをつけろ、という話だ」

 

「承知しました。ではマスターはそこの壁の裏に。どうやら敵の立ち位置は、以前のままのようです」

 

 アーチャーは教会のある方向を見据えると、不意に背後の闇へ振り返る。

 そこから黒い服を着たカトラスの少女、ライダーが現れた。

 

「今の矢の打ち上げは君のかい? 花火みたいで綺麗だったけど、挑発だと思うとそうそう喜んではいられないね。いいよ、受けて立とうじゃないか」

 

 ニヤケ顔でカトラスを回すライダー。

 対するアーチャーは何を答えるでもなく、いきなり戦いの火蓋を落とすことで応えた。

 

「ハァアァ! 燃えろぉ!」

 

 鬨の声を上げてライダーに斬りかかり、アーチャーは刹那のうちに手持ちを切り替えて薙刀の爆砕を放つ。

 次いで、今の攻撃を躱されたら、すぐに弓矢で追撃に走る。

 そのような猛火の連撃を浴びせるうちに、周囲一帯が誘爆する地雷原のように轟音を響かせて更地と化していく。

 

「ちょ、ちょっとちょっと! いきなり本気すぎない!?」

 

 爆熱に疾駆するアーチャーの猛進撃に、ライダーはたたらを踏んで後退を余儀なくされる。

 その間、狙撃兵に一切注意を払っていないアーチャーのもとには、何故か一発の銃弾も放たれなかった。

 ――代わりに、もう一人の女性の声が、鍔迫り合う二人の近くで囁かれる。

 

「もう。わたくしを無視してそんなに熱くあの子に迫っちゃうと、こうして出てこざるを得ませんわ。仕方のないサーヴァントですね。――さて、行きますわよ!」

 

 その女性は、金髪にツインテールの美女。マスケット銃を構えて、美女はアーチャーに狙いを定める。

 かたやライダーは、美女の動きと掛け声に応えるように、その目つきを鋭くさせた。

 

「突撃準備、完了! いっくよぉ!」

 

『――おバカさぁん!』

 

 まるで双子のように息のあった声を掛け合わせて、ライダーのカトラスが、美女のマスケット銃が、アーチャーを挟み込むようにして……その威を知らしめる。

 それは、己の体に付けられる傷をものともしない蛮勇の切り込み。背後からの正確無比な一撃で発射される火薬玉。前後左右、あらゆる角度からアーチャーを追い立てる怒涛のコンビネーション攻撃は、まさに――――

 

「――――比翼にして連理(カリビアン・フリーバード)――――!」

 

 ――――そう称される荒波技だった。

 海賊衣装を身にまとう彼女たちは、そう……かのカリブ海で有名な名コンビ。

 その名をアン・ボニー、メアリー・リードと申す英雄たちだった。

 

「一組で、二体のサーヴァント……っ!」

 

 ライダー・メアリーの連撃に押されて、アーチャーはたたらを踏む。

 さらに間隙を突いて放たれた、ライダー・アンの超火力狙撃。

 

 対するアーチャーは、前後の同時攻撃にどう対処するのか。全てが単純な攻撃といえど、それが積み重なれば宝具級の威力と変わらない。

 シウネスは令呪の輝きを胸に溜めるも、しかしまだ温存しておくべきだとして、アーチャーの奮闘を見守っていた。

 

「ッ――――猪口才なァ!」

 

 己を信じて令呪を使わなかったマスター。

 あれほど隠れていろと言ったのに、しっかりとマスターはアーチャーの戦闘を己の目で目視していた。

 

 その事実に鼓舞されたのか、灼熱の女武者は――――迫り来る火力砲を前にして、躱すことをしなかった。

 

『なに――ッ!?』

 

 刀と薙刀、弓矢を捨てて、ライダーのカトラスに肩から袈裟斬りにされたアーチャーは、その代わりとしてガッシリとライダーの胴体を掴み、抱えて放さない。その捕らえ方は、日の本の相撲の取っ組み合いに近い状態。それからアーチャーは怪力を以て、背中を貫くであろう砲撃の前に――――ライダーを持ち上げて、その立ち位置を逆転させた。

 

「危ない、メアリー!」

 

「ウォォオオオオォオォオオオ!!」

 

 ――この時のアーチャーは、自身でも知らずしてあるスキルを開放していた。

 それは血脈励起という、生前、巴御前が無意識のうちに行なっていた自己暗示。

 彼女自身ですら把握していないスキルのため、能力の詳細は不詳だが、ただひとつだけ判っていることは――――

 

「この鬼の血は忌むべきもの。しかしこの血は、私を産んでくれた、ご先祖様のもの!」

 

 彼女は己の血脈があるからこそ、愛する者に出会えたのだという、強い感謝の念が存在していたという事実。

 それは日の本の者ならば誰もが胸に秘めおく、縁という願掛けの想いだった。

 

「う、うわぁああ!?」

 

 ――――勝負は一瞬だった。

 メアリーが怒涛の攻撃宝具を発動して、アンが砲撃といえる一撃を射出した、次の瞬間。

 アーチャーが鬼種という血脈を励起させ、霊基の限界を一時的に突破したが故に起きた逆転劇。

 

 捨て身の抱え込みでメアリーを持ち上げたアーチャーは、その体を旋回させ、アンの砲撃をメアリーの土手っ腹に命中させた。無論、砲撃の余波をアーチャーも喰らったが、メアリーがクッションになったことにより致命傷は避けられた。しかし問題は、カトラスによって袈裟斬りにされた、アーチャーの深い傷である。

 

 しかして砲撃を喰らったアーチャーとメアリーは、雪解けの焦土に大きくその身を転がした。

 

「アーチャー!」

 

 思わず立ち上がり、シウネスはアーチャーのもとに駆けつけようとする。が、そんなことをすれば、アンからの銃撃が待っているだろう。

 そう思ったシウネスは、ふとアンの方を見てみる。すると、なんと彼女は片膝を付いているではないか。

 さらに聖杯に選ばれたマスターであるシウネスには、アンの負傷具合がメアリーと同一であることが手に取るように判った。

 

 ここから導き出される結論とは。

 今回の聖杯戦争に参加するため、数ある亜種聖杯戦争の資料を読みあさっていたシウネスには、すぐに辿り着けるものだった。

 

「二人で一組のサーヴァント。となると、まさか霊核がひとつしかない? だとすると片方のダメージが、そのままもう片方の損傷になるのか? 狙撃手が傷一つないのに疲弊しているというのは、つまりそういうことか!」

 

 だからといって、今すぐアーチャーのもとに駆けつけられるというわけではない。

 しばらくシウネスは戦況を見守ることにする。

 

「……いや、ダメだ!」

 

 しかし何を思ったのか、シウネスは理性で判っていても、本能が先に動いていた。彼は雪に巻かれるアーチャーのもとに駆け寄る。

 そしてアーチャーを抱き上げて、その肩口からおびただしい量の血が流れているのを目にする。

 まるでサリアの亡骸を彷彿とさせるような死相に、思わずシウネスは面食らった。

 

「……っ! 起きろ、アーチャー! まだ戦いは終わってないぞ!」

 

「うっ……えぇ……もちろん。わかって、おります……」

 

 強気に微笑んでも、アーチャーは立ち上がれないでいる。

 そこにマスケット銃を構えて立ち上がったアンが呟いた。

 

「め、メアリーは……もう、ダメですわ……ならば、せめて、道連れにでも……」

 

 照準をシウネスとアーチャーに合わせて、アンは引き金を引こうとする。

 しかし、次の瞬間。突如としてアンの背中に必殺の一撃が入った。メアリーの傍まで吹き飛ばされたアン。それから二人は光の粒子となり消滅する。

 これにて二人一組のライダーが脱落した。だが、最後に止めを刺したのは、いったい誰なのか。

 

「まったく。そこはおとなしく死んでくれ」

 

 それは、シウネスの指示を待って周辺で待機していた、サリアのバーサーカーだった。

 

「バーサーカー。……礼を言う。助かった」

 

「礼は不要です。もとよりこの狙撃手の相手をするのは、私の手筈でしたので」

 

 冷ややかな口調で言って、バーサーカーはすぐに踵を返す。アサシンの捜索を再開するつもりなのだろう。

 その去りゆく背中を見送ったシウネスは、武装を解いて軽くなったアーチャーを負ぶさり、急いで館に戻るのであった。

 

 

 

 ……サーヴァントの肉体は、エーテルという属性を用いた仮初の器でできている。元は魔力であるため、魔力を注いだ分だけ損傷は穴埋めのように修復されていく。最も手っ取り早い方法は魔力供給なのだが、それには些か倫理的な問題が付きまとうため、シウネスは単に魔力を回すことで、アーチャーの回復を図る。

 

 かくしてシウネスとアーチャーはライダーを打倒した。これにて聖杯戦争に参加するサーヴァントの数を五騎から四騎に減らすことができた。

 そして次の日も彼らは、昼を休みにして、夜を戦場とするだろう。

 

 復讐を遂げ、聖杯を手に入れ、サリアを蘇らせる。その為ならば、己の命すら賭してみせる。

 闘争の対価といえる覚悟を以て明日を見据える両名は、もう既に戦友といっても差し支えない繋がりが出来ていた。

 

 

 

   /了

 

 

 

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