※この作品はR-18です。

Fate/Tomoe night   作:形のない者

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第六章・vsランサー

 聖杯戦争、六日目の夜。

 八割方の傷の治癒を終えたアーチャーを連れて、シウネスは夜の森に出向いていた。

 バーサーカーからの連絡は未だになく、アサシンの行方は知れない。

 だからといって落ち着いていられる彼らではなく、次はランサーを狙って、以前戦ったことのある森の拓けたところにやって来ていた。

 

 シウネスから渡されたフ(・)レ(・)ア(・)代(・)わ(・)り(・)の(・)火(・)矢(・)をアーチャーが上空に放ち、これを見た者を挑発する。

 

 

 

 それから暫く経つと、案の定、雪の夜空に散った花火を見てランサーが現れた。

 

「先ほどの赤(・)と(・)緑(・)が(・)混(・)じ(・)っ(・)た(・)花(・)火(・)。僕はあれを快い挑戦状として受け取ろう。マスターもそろそろ聖杯戦争を終わらせたいと思っているようだし、これからは様子見ではなく、倒すつもりで行くとする」

 

「それはこちらも同じこと。いざ、尋常に――――勝負!」

 

 アーチャーは刀を抜いて駆ける。

 対するランサーは、その身を風のように駆けて槍を奮ってくるかと思いきや、なんと後退した。

 

 予想外の後退に、アーチャーは足を止める。

 途端、どこから湧いてきたのか、多数のグレイハウンドが森の奥から現れた。猟犬の群れはアーチャーとシウネスを囲い、唸り声を上げる。

 

「マスター、私の後ろに! 離れないでください!」

 

「判った。どうやらランサーの方は、俺たちの真名が割れていることを警戒して近寄らせない気でいるらしい」

 

「しかし、このような小細工は紙切れも同然。しゃがんでください。参ります。マスター!」

 

 アーチャーの指示通り、シウネスはその場で腰を低くする。

 するとアーチャーは弓を取り、数本の矢を以て体を旋回させながら周囲に撃ち放った。

 

 まず火矢は数頭の猟犬の頭を次々と撃ち抜き、貫通した火矢が木々に刺さって森が燃え広がっていく。

 次いでランサーにも速射の火矢を放つが、金髪の槍兵は槍を回して難なく打ち払う。

 

「アーチャー。おそらく敵は魔力がある限り猟犬を召喚できる。といってもグレイハウンドは幻術の類なんだが、それがあたかも実体であるかのように見せて、その実、真に実体であるのが、虹の魔術師の恐ろしいところなんだ。気をつけてくれ!」

 

「要するに、マスターを置き去りにして戦えないということですね!」

 

 次々と生まれて飛びかかってくる猟犬を、アーチャーは返す刀で斬り殺していく。

 その様子を静かに見つめるランサーは、不意に「了解。父さん」と呟いたあと、槍を投げるモーションに入った。

 

「来るぞ!」

 

 猟犬に囲まれるアーチャー陣営が、身動きが取りにくい状況になった瞬間、ランサーは動きを見せてきた。

 その槍の宝具を、シウネスは知っている。否、その真名を看破している。

 

 ――かの者はウェールズのホムンクルス。生まれついて母親から認知を得られず、兄弟は海に流され、己は養父の大魔術師に拾われたという。まるでアーサー王伝説の反逆の騎士モードレッドに似た逸話を有する青年は、剣術と魔術に優れ、聖槍以外の攻撃をものともしない『永遠の花婿(アマランタイン)』という無敵の加護を持つ、のちにウェールズ全体の王となる無敵の英雄。そんな彼の最も有名な伝説といえば、己の嫁を旅の男に奪われ、その復讐として岩の影に隠れた男を槍で岩ごと貫き殺した――

 

「――――破岩の槍(グロヌウ・クラッグ)――――」

 

 ――岩ごと貫き殺した男の名を冠する、あらゆる結界と防壁を突破する単純威力系宝具の一投。

 それだけの威力ならば、Bランク級の対人宝具に匹敵する投槍。それがシウネスとアーチャーめがけて投げ放たれた。

 

「――令呪を以て命じる!」

 

 刹那、シウネスは叫ぶ。

 たとえ、その宝具がただの一投だとしても、神速の勢いで迫り来る豪槍を躱すのは至難の業。

 マスターを守りながらで、雑魚といえどグレイハウンドの群れという障害物に囲まれた状況下では、回避の難易度は飛躍的に跳ね上がる。だが、難易度が跳ね上がるからこそ、高まる絶体絶命のピンチとは、ひっくり返される布石となるのだ。

 

「――『宝具を躱し、次の一撃を宝具のみで決めろ』!」

 

 ……令呪とは、限定的に過ぎれば過ぎるほど、その願いを強制的に叶える魔法級の秘術。

 人間の肉眼では視認できないランサーのレーザー光線といえる投槍に対し、ほぼ同時に令呪で命令を下していたシウネスは、一か八かの賭けに出ていた。

 

 その賭けとは、ランサーの宝具が、シウネスとアーチャー。

 はたして、どちらに向けられたものなのかという二択の運命。

 

 しかして、その結果は――――神速にかっ飛ぶ槍が、シウネスの頭上を掠めていくという運命だった。

 つまり今の宝具は、アーチャーを狙った攻撃だったことにほかならない。

 

 ――――遠く見える山脈の麓に、天然の洞窟を刳り貫いて開通させたであろう、ランサーの全力投擲。

 

「――――なるほど。これが戦場を共にするマスターと、そうでない者との些細な違いか」

 

 槍を失い、一瞬の隙が生じたランサーの懐に、数間もの距離をいつの間に縮めていたのか、アーチャーの鎧姿が躍り出る。その縮地は、令呪による空間転移の成し得る技。

 刹那の光明に機転を巡らせた者が、この勝機を勝ち取った。

 アーチャーはランサーの身体を挟み込むように掴み、怪力を以て夜空へ投げ飛ばそうとする。

 

「――聖観世音菩薩(しょうかんぜおんぼさつ)――」

 

 真言の言霊を紡ぎ、金髪の青年を夜空に投げ飛ばす。

 

「私に……力を! 旭(あさひ)の……輝きをォッ!」

 

 紅蓮に燃え上がる弓矢を引番えて、アーチャーは上空に投げ飛ばされた標的に狙いを絞る。

 

 かたや中空に舞うランサーは身動きが取れず、かつ宝具の反動もあり打つ手なしの状態。おそらく今頃ランサーのマスターが令呪を働かせようとしても遅いだろう。何故ならランサーのマスターは、既に使(・)い(・)魔(・)と(・)の(・)通(・)信(・)を(・)妨(・)害(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)のだから、今(・)の(・)状(・)況(・)に(・)気(・)付(・)い(・)て(・)さ(・)え(・)い(・)な(・)い(・)のだ。

 

「赤と緑の花火……か。その時に気が付いておくべきだった。いや、気が付いてはいたが、マスターが気付いてくれるかどうか確かめようとしてしまった。負けたのは、そんな僕の甘さのせいか……」

 

(そんなことはない。スェウ。今回もまた美しい花を持たせてやれなかったけど、そう気に病むな。この世界ならいくらでもチャンスはある。それより強者と戦えたことを誇るがいい)

 

 ランサーの真名は、スェウ・スァウ・ゲフェス。意味は、手先の器用な金髪の子。

 かたやランサーの養父である虹の魔術師の真名は、神授の智慧を持つ虹の魔術師グウィディオン。

 彼らもまた、生前の苦い思い出をやり直すため聖杯戦争に参加した、どこにでもいる普通の親子だった。

 

 しかしてアーチャーが、トドメの真名を開放する。

 

「――――真言・(オン・)聖観世音菩薩(アロリキヤ・ソワカ)――――」

 

 真名、巴御前の宝具。

 それは、太陽の灼熱よりも強く眩く愛しているという、彼女の義仲への愛を叫んだ一射。

 つまり愛の爆発といえる純粋な魔力攻撃の矢は、着弾点に太陽面爆発を引き起こすほどの火力となって、Bランク級の破壊力をもたらす。

 

 曇天に陰る深い闇の夜が、灼熱の業火により星空を切り裂いて白夜のように明るく光る。

 上空にて爆発したランサーは疾うに黄金の粒子を散らして消滅しており、アーチャーは全てを出し切ったような顔ばせで、大量の魔力の消費に疲弊していた。

 

「……よくやった。アーチャー」

 

 己の火炎により解けた雪の下で、アーチャーは膝をつく。

 その肩に、シウネスが手を置いた。

 

「あとはアサシンだけだ。バーサーカーとは最後に蹴りをつければいい。今夜はもう帰ろう」

 

「はい……マスター」

 

 魔力の温存のため、アーチャーは霊体化する。

 

 

 

 かくして聖杯戦争の残りサーヴァントは、アーチャー、アサシン、バーサーカーの三騎と相成った。

 自陣は二騎で、敵は一騎。いよいよ舞台も大詰めとなる。

 

 最終決戦は明日の夜。

 それまでシウネスとアーチャーは体を休めるべく、静かな一日を過ごすのであった。

 

 

 

   /了

 

 

 

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