「最ッ高に熱い時間だったぜッ!!お前ら!!今日はありがとう!!また来てくれよなッ!!」
「「イエエエエエェェェェェェイ!!!」」
AccelBeatsのライブは終始熱い盛り上がりを見せた。
メンバーが退場した後もしばらくは歓声が上がり続けていた。
「紗夜、どうだった?彼らの音楽は。」
「素晴らしい演奏でした。流石、湊さんが一目置くだけのことはありますね。彼らの熱意というのも確かに感じました。」
「そう、良かったわ。私達Roseliaもまだまだ上を目指せるわ。頑張りましょう。」
「ええ、そうですね。」
「さあ、観るものは観たから帰りましょうか。」
「湊さん、何か飲んで行きませんか?少し喉が渇いてしまいました。」
そう言うと紗夜は片隅にあるバーカウンターを指差した。
すると友希那は怪訝そうな表情を浮かべて紗夜を見つめる。
「な、何ですか?湊さん…」
「…紗夜、お酒は駄目よ?」
「と、当然です!何を言いだすんですか!?」
「ふふ、冗談よ。」
「…やめてください。全く。」
少しムスッとした表情になった紗夜はフイッとそっぽを向いた。
そんな紗夜を見て友希那はフッと微笑む。
「さて、何を頼もうかしら?紗夜は何を飲むの?」
「私は…そうですね。アイスティーにします。」
「良いわね。私もそれにするわ。…アイスティーを2つお願い。」
友希那が注文してから間も無く、グラスに入ったアイスティーが2つカウンターに並べられた。カランカラン…とグラスと氷のぶつかる音が心地良く聞こえる。2人はそれぞれ手に取り一口飲む。
「美味しいですね。」
「ええ、すっきりしていて凄く飲みやすいわ。」
「湊さん、この後練習しようと思うのですが、良ければ付き合ってもらえませんか?」
「奇遇ね。私もそうしようと思っていたところよ。」
アイスティーを飲み終え、グラスをカウンターに置く。
そして2人が出口へと向かおうとしたその時だった。
「なあ、ひょっとして君達Roseliaじゃないか?」
突然、友希那と紗夜のところへ5人組の男達が押しかけて来た。
「…! 何ですか?あなた達は…」
いきなり現れた男達に身構える友希那と紗夜。しかし5人の男達はお構い無しに2人に近づき、まるで逃げ場を無くすように周囲を取り囲んだ。酒に酔っているのか、彼らの顔は紅く染まっており、手には酒瓶が握られていた。
「やっぱりRoseliaだ。会えて光栄だな〜。俺達はEvil-Guyってバンドだ。知ってるだろ?」
「…Evil-Guy?…ああ、私達がこのライブハウスに入った時、最初に演奏していたバンドね。」
「それで、私達に何か御用ですか?」
警戒心を剥き出しにする友希那と紗夜。だが、男達はそんな事は気にせずに尚もズイッと2人に躙り寄る。
「そんなに固くならないでよ〜。この後、俺達と一緒に遊びに行こうよ。退屈なんてさせないからさぁ。」
ニヤニヤと邪な笑みを浮かべながら舐め回すような視線で友希那と紗夜の体をジロジロと見る男達。
…気持ち悪い。紗夜は不快感をあらわにしながら男達をキッと睨みつける。それは友希那も同じだったようで、正面に立つ男を真っ直ぐに見据えながら彼女は言った。
「悪いけど、お断りするわ。二度と私達に近づかないで。…紗夜、行きましょう。」
友希那はそう言い切ると紗夜の手を引いて強引に男達の間をすり抜けようとする。しかしーー
「おっと!逃がさないよ〜。良いじゃないか〜俺達と楽しいことしようぜ〜?」
逃すまいとする男達に友希那と紗夜は肩を掴まれ壁に押し付けられてしまった。
「…くっ!」
「は、離してください…!」
2人を掴んでいる男達はニヤけた表情を崩さず、ズイッと彼女達に顔を近づける。紗夜は表情に恐怖の色が混ざりはじめるが、友希那は尚も男を睨みつける。
「大人しく一緒に来るなら今すぐにでも離してやるよ〜?へへへ」
ベロリと男がイヤらしく舌舐めずりをすると友希那が口を開いた。
「…離して。あなた達には興味は無いわ。」
「…あぁ?」
興味が無い。そう言われて頭にきたのか、男の顳顬にピキッと青筋が浮かぶ。今までヘラヘラしていた男がギロリと友希那を睨み返す。
「何だって?オイ、よく聞こえなかった。もう一回言ってみろ?」
「そう、ならもう一度ハッキリ言うわ。」
すうっと友希那は静かに息を吸い込んだ。そしてーー
「あなた達のような輩に興味は微塵も無いと言ったの!私達を離しなさい!」
それほど大きな声ではなかったが、友希那は強く、ハッキリした口調で目の前の男に言葉をぶつけた。瞬間、男の眼球がビシッと血走る。
「このクソアマァ!!調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
男がブワッと右腕を振り上げる。そして、その勢いのまま友希那の顔面に向かって拳を突き出した。
「…っ!!」
「湊さんっ!!」
紗夜が友希那の身を案じ叫ぶ。友希那は殴られる事を覚悟してグッと目を瞑り、歯をくいしばる。
しかし、いつまで経っても痛みが友希那を襲う事は無かった。男が殴りかかろうとしてから数秒が経過した。拳はとっくに振り抜かれている頃だろう。だが、体のどこにも痛みを感じない。
状況確認のため、友希那はそっと目を開ける。
するとすぐ目の前でピタリと止まっている男の拳。そして傍には「彼」が居た。男の拳が友希那の顔面に到達しようとした刹那、彼が男の腕を掴んで拳を止めていた。
「…何してんだ?
「てめぇ、白鷺…!!」
獄門と呼ばれた男はバンドグループEvil-Guyのボーカルでリーダーを務める男であった。
「ここは音楽が好きな奴らが集まる場所だ。ナンパしに来る場所じゃねぇぞ。ましてや客に暴力を振るおうとするとは…」
そう言うと彼は掴んでいる獄門の腕に更にググッと力を込める。
「ぐ…うっ!?は、離しやがれ!!」
掴まれた腕に激痛が走った事に耐えられなくなった獄門はバッと腕を振り払って彼から距離を取った。
(こいつ…細い体の癖になんて力してやがる…!!)
痛みの走った右腕を抑えながら彼を睨みつける獄門。
「おい、獄門。酔っ払ってて気分が昂ぶってたのか、元からそんな奴だったのか知らねぇが、女に手を上げるのは見過ごせねぇな。これ以上やるなら俺が相手になるぞ。」
彼は友希那と紗夜を庇うように彼女達の前に立って獄門と対峙する。
「上等じゃねぇか、白鷺!…なら、先ずはテメェからボコしてやらぁ!!」
獄門は拳をボキボキと鳴らして彼を威嚇する。
その時、Evil-Guyのメンバーが獄門の方へ駆け寄り耳打ちし始めた。
「獄門さん、あまり騒ぎを大きくするとマズイですよ…!」
「あぁ!?」
そう言われた獄門はふと周囲を見渡す。まわりの観客達が皆こちらに注目している。中にはスマートフォンを向けて撮影をしている者もいた。
「クソ共が…!!」
獄門はギロッと彼の方へ向き直る。拳を握りしめ、今にも殴りかかりそうな雰囲気を醸し出す。
だがその時、騒ぎを聞きつけたスタッフ数名が2人の間に割って入った。
「そこまでです!これ以上事を荒立てるのであれば、警察に通報し、あなた達を出入り禁止とします!」
しばらく睨み合いが続いた後、観念したのか獄門は苛立たしげに拳を下ろした。
「…チィッ!!…行くぞ、てめぇら。」
大きく舌打ちすると、獄門はバンドメンバーを引き連れてライブハウスから出て行った。
「…覚えてやがれよ、クソガキが…」
出て行く直前に獄門が密かに吐き捨てた台詞は誰の耳にも届く事は無かった。
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獄門達が立ち去った後、友希那と紗夜は彼、白鷺千聖の弟と対面した。顔こそ千聖とそっくりだが、ロック系の服装にツーブロックの髪型、耳にはピアスなど清楚なイメージの千聖と違ってワイルドで少し不良っぽい印象を受ける。
「大丈夫っすか?怪我とかは?」
心配そうに彼は友希那と紗夜に声をかける。
「私達は大丈夫よ。ありがとう、助かったわ。」
「ええ、大丈夫です。あなたが止めてくれなければ、湊さんが怪我をするところでした。ありがとうございます。」
「そうっすか、良かった。」
2人は助けてくれた事の礼を言う。彼女達が無事だった事に安堵したのか彼はフッと表情を緩めた。
「湊友希那さんに氷川紗夜さん…っすよね?」
「ええ、そうよ。私達を知っているのね。」
「はい、クオリティーの高いバンドが居るって噂で聞いたもので気になってたんです。Roseliaのライブを何度か観に行きましたけど、想像してた以上の実力で圧倒されました。あなた達の演奏に感化されて俺達AccelBeatsも活動に一層熱が入るようになりましたよ。更に上を目指そうぜ…って。」
「ふふ、なんだか今日私達がここへ来るに至った経緯と似たような話ですね。あなた達のライブ、いろいろ参考になりました。今後の活動に活かしたいと思います。」
「そうね。あなた達AccelBeatsの演奏は素晴らしかった。私達も今日のライブを観て得るものがあったわ。これからもそうやってお互い高め合って行けたら良いわね。」
Roseliaの2人から思いがけない称賛を受け、彼は照れ臭そうに右手人差し指で頰を掻いた。
「この上なく嬉しい言葉っすよ。ありがとうございます。…あ!そう言えば、初めましてなのに自己紹介してませんでした。すみません。」
そう言うと彼はジャケットのポケットから取り出したケースから2枚の名刺を取り出した。
「改めまして。俺、AccelBeatsのボーカル担当の
そして先程取り出した名刺を1枚ずつ2人に差し出した。
バンド名と名前だけが書かれた白くてシンプルな名刺。
それを友希那と紗夜は受け取る。
「百輝也…ね。覚えておくわ。」
「私も覚えました。白鷺君、今日はありがとうございました。」
2人は貰った名刺を持っているポーチの中へと仕舞った。
「それじゃあ、俺この後メンバーとミーティングがあるので、これで。良ければまた観に来てください。」
「ええ、今度はRoselia全員で観に来させて貰うわ。」
百輝也はペコリとお辞儀すると足早に去って行った。
友希那と紗夜は少しの間、百輝也の去った方を見ていた。
「ステージの上とはまた違った印象でしたね。何というか、落ち着いていると言うか…彼、ライブ中は凄くハイテンションでしたから。てっきりそのような人だと思ってました。」
「パフォーマンスは大事なことよ。場を盛り上げるためにはね。…紗夜もやってみる?あのハイテンション。」
「な、何を言ってるんですか!?わ、私には出来ません…。」
「ふふ、冗談よ。」
「…やめてください。全く。」
「そうね、冗談はさておきCiRCLEへ向かいましょうか。」
「ええ、行きましょう。」
2人は練習時間はどれくらいにするか等の話をしながら出口へと向かって歩き出す。その時ーー
「…あら?もしかして友希那ちゃんと紗夜ちゃん?」
突然後ろから声をかけられた2人は振り返る。そこに居たのは先程までここで話をしていた白鷺百輝也の姉、白鷺千聖であった。
投稿は不定期になりますが週に1話、出来れば2話投稿することを目標に頑張ります。