再びスキマを抜けるとそこは深紅の洋館が佇んでいる門の前だった。
時刻は夕方。
深紅の洋館が更に紅く染まって見える。
その門の脇には立ったまま眠っている華人服とチャイナ服を足して二で割った様な格好の赤い髪の女性ーー紅美鈴(ホン メイリン)さんがいる。
「そこの門番は気にしなくて良いわ。中に入りましょう」
「いえ、一応、御世話になるかも知れませんし、挨拶だけでも……」
「そうは言うけど、陰猫さんも知っての通り、その娘は簡単には起きないわよ?」
「……ふむ」
私はしばし考え込むと美鈴さんのほっぺをツンツンして見る。
やはり、起きる気配はない。
本当に無防備だな。
そう思っていると門の扉が突然開かれ、銀髪のボブカットでモミアゲを三つ編みにした青と白のメイド服を着た美女ーー十六夜咲夜が現れる。
咲夜さんは美鈴さんの前まで来ると太股の辺りから銀製のナイフを取り出し、美鈴さんに向かって投げ付ける。
グサッ!
そんな効果音が聞こえそうな見事な刺さり具合でナイフは美鈴さんの額に刺さった。
「あた~っ!」
美鈴さんは情けない声を出しながら蹲る。
「も~。痛いですよ、咲夜さん」
いやいや、痛いって普通、額にナイフなんか刺さったら死んでるから。
そう言えば、美鈴さんも妖怪だったな。
何の妖怪かまでは知らないけど……。
しかし、実際に見てみるとシュールだ。
「あなたがキチンと仕事をしてないのが悪いんでしょう?
今日は特別な来客があるから起きている様にと言ったのに……」
そう言うと刺さったナイフを引っこ抜きながら額を擦る美鈴さんと咲夜さんが此方に顔を向ける。
「……あ~っと、こんにちは」
私はとりあえず、二人に挨拶した。
「はい。こんにちは。お恥ずかしいところを見せちゃいましたね?」
最初に挨拶を返してくれたのは美鈴さんだった。
「それで紅魔館に何か御用ですか?」
「あ、はい。短期のバイトの件で……」
「あ~。バイトを希望の方ですか。
本日のバイト募集は午後3時に終了しました。
ご足労頂いて申し訳ありませんが、また明日来て下さい」
「そうですか。ありがとうございまーー」
「待ちなさい、美鈴」
そう言って咲夜さんが美鈴さんと私の会話に割って入って来る。
「その男性が恐らく、お嬢様の言っていた方よ。そうでしょう、境界の妖怪さん?」
「ええ。その通りよ、メイドさん」
紫さんがそう言うと咲夜さんが私に顔を向け、軽く頭を下げた。
「大変失礼しました、陰猫(改)様。
お嬢様がお待ちです。どうぞ、此方へ」
「あ、はい」
私は咲夜さんに従って、その後ろについて行こうとする。
そこで紫さんがついて来てない事に気付き、足を止めて振り返る。
「紫さん?」
「此処から先は陰猫さん一人で行ってね。
私は陰猫さんの部屋から替えの衣服と薬を持って来るから。
心配しなくても陰猫さんの部屋をガサ入れする気はないわよ」
「そうですか。なら、お願いします」
「じゃあ、またね?」
紫さんが手を振ってスキマに消えると咲夜さんが訝しげに此方を見る。
「陰猫(改)様はあの八雲紫を信用しているのですか?」
「え?」
「八雲紫はその存在自体が胡散臭くて信用出来ないのです。
貴方の為に言いますが、くれぐれも八雲紫を信用し過ぎない様にして下さい」
「は、はあ。御忠告ありがとうございます」
咲夜さんは私を一瞥すると門をくぐり、館へと入って行こうとする。
「あ。咲夜さん」
そんな咲夜さんに美鈴さんが何か気になるのか、声を掛けた。
その声に咲夜さんが立ち止まって、美鈴さんに振り返る。
「何?美鈴?」
「いや、大した事じゃないんですが、無理はしないで下さい。
あんな事があったばかりなんですから……」
「……解っているわ」
咲夜さんは美鈴さんにそう言うと踵を返す。
そんな咲夜さんを見て、美鈴さんは後頭部を掻くと私に顔を向ける。
「貴方も気が少し乱れてますね?
いや、これはちょっとずつ回復しているのかな?
兎も角、無理はしないで下さい」
「はい。美鈴さんも無理はしないで下さいね?」
「私は大丈夫ですよ。たまに運動したり、寝てますからね?
……あれ?私、自分の名前言いましたっけ?」
「美鈴さんの事は知ってますよ。確か、気を操る程度の能力だとか……」
「わっ!凄い!よく知ってますね!」
「後は一日中、門番をさせられているとか、うたた寝して魔理沙を簡単に入れてしまうとか……」
「うぐっ!そこまで御存知ですか……。
でも、最近は咲夜さんが倒れてから、一日じゃなくて半日になったりしたんですよ」
「そうなんですか?あれ?でも、そうなるとその間は誰が門番を?」
「それが誰も見張ってないらしいんですよ。私もそれが心配でして……。
まあ、最近は滅多に悪い人が来ませんし、仮に入られても妖精メイドや咲夜さんが撃退してますから」
「それって咲夜さんに負担掛けてますよね?
妖精のメイドも今はいないんだし、せめて、二交代制にしては貰えなかったんですか?
そうすれば、仕事も楽になるし、勤務中眠らないかと」
「そうですね。そうすれば、私も悩みが減るんですが、私みたいな妖怪はなかなかいなくて……」
「陰猫(改)様。いつまでも美鈴なんかと話をしてないで、早くいらして下さい。お嬢様をお待たせする訳には参りませんので」
美鈴さんと話をしていると咲夜さんが館の扉の前で私が来るのを待つ。
「あ、はい。すぐ行きます。それじゃあ、美鈴さん。また今度」
「はい。またお話しましょうね?」
美鈴さんにそう言うと私は咲夜さんの後を追って館の中へと入って行った。
「まずはお嬢様の元へ御案内します。さ、どうぞ、此方へ」
そう言うと咲夜さんは私の前を歩く。
そこで私はある事を聞いてみる。
「咲夜さん。眠れてますか?」
「え?」
「化粧で誤魔化しているのかも知れませんが、目の下の隅が凄いですよ?
それに少しフラフラしている様に見えますし……」
「……なかなか、鋭いんですね?」
「美鈴さんも気にされてる様ですし、咲夜さんが倒れた事は紫さんからも聞いてますから」
「そう、ですか……」
咲夜さんはそう呟くとそれ以上は喋らず、私の前へと歩いて行く。
それにしても見た目以上に中が広いし、廊下が長い。
そう言えば、咲夜さんの能力は時を止める程度の能力だったかな?
確か、その応用で空間を広くしているんだとかって、とある百科にあったな。
つまり、この無駄に広い空間も咲夜さんが産み出した産物なのだろう。
「……咲夜さん」
「なんでしょうか?」
「こんなに空間広げて部屋の掃除とか大変じゃないですか?」
「そうですね。以前までは時を止めてないとやってられませんでしたが、今はゴブリンや妖精メイドがいますので、そんなに苦ではありませんね」
「じゃあ、なんで倒れたんですか?」
「解りません。永遠亭で診て貰った際には頑張り過ぎと……」
ああ。そうか。
咲夜さんも私と同じで頑張り過ぎちゃう人なんだ。
完璧で瀟酒なメイドなんて肩書きがある位だし、その重圧は私の経験した重圧より何十倍も重い筈だ。
私は何処か納得した様に頷く。
やがて、咲夜さんは数ある扉の一つで歩みを止め、私に振り返る。
「此処にお嬢様がいます。くれぐれも粗相のない様に……」
そう言うと咲夜さんは私の前から忽然と消えた。
あれが時を止める能力か……。
私はそう思いながら、扉をノックする。
紅魔館、短期バイトでR部分をハーメルンだけでも強調するかどうするか悩んでます。私と美鈴さんのエチエチ見たい人っています?
-
見たい
-
見たくない