「此処まで来れば大丈夫ですよね?」
「はい。ありがとうございます、小悪魔さん」
私は小悪魔さんの案内で地下の大図書館から抜け、紅魔館のエントランスホールまで来ると彼女にお礼を言う。
「気にしないで下さい!それでは私はこれで!」
小悪魔さんは明るく、そう言うと元来た道を歩いて行く。
ーーとエントランスホールから出ようとするとドンと言う音が響き、何事かとそちらを振り返る。
すると、そこには美鈴さんと壁に叩き付けられてグッタリする鎧に身を包む人物がいた。
兜も被って男性か女性かは解らないし、気を失っているのか死んでいるのかも解らない。
そんな美鈴さんを囲む様に更に数人のーー如何にも剣士の格好をした男女が身構えている。
ーーと男の一人が剣を振り上げながら美鈴さんに襲い掛かって行く。
美鈴さんはその斬撃を上体を反らせて避け、その男の顎へ掌底のカウンターを食らわせて転倒させる。
素人目にも今のはクリーンヒットしたろう。
その証拠に掌底を貰った男は転倒したまま、呻いている。
美鈴さんは弾幕勝負では弱い部類らしいが、体術では人間相手なら達人レベルでもない限り、まず勝てないだろうと言われている。
案の定、数人の男女はあっと言う間に倒された。
正直、下手なカンフーアクションより凄い。
そんな美鈴さんの背後に先程までグッタリしていた鎧姿の人物が剣を手に美鈴さんの背後を狙う。
「美鈴さん!後ろ!」
私の声が届くよりも先に美鈴さんはしゃがんで鎧姿の人物の攻撃を避けると振り向き様に鎧姿の人物に気で出来たバスケットボール大の球を放つ。
鎧姿の人物は気の球を胴体に食らい、再び壁に叩き付けられるとピクピクと痙攣する。
美鈴さんは一息吐くと此方へと振り返り、屈託のない笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、陰猫さん。お蔭で助かりましたよ」
「いやいや、私が叫ぶより前に美鈴さん、対応してたじゃないですか?
私が何も言わなくても避けれたんじゃないですか?」
「あはは……」
私は照れた様に頭を掻く美鈴さんに歩み寄ると床に倒れて呻く数人の男女を見る。
「この人達は?」
「バイト募集の人達ですよ」
「……え?バイト募集?」
「はいーーと言っても警備の部類ですので。
あ、勿論、雑用の募集の方には手荒な事はしてませんから」
「そ、そうですか……」
私は未だ呻く男女から美鈴さんに視線を戻す。
この人もやっぱり、なんだかんだ言っても強いんだな。
「それはそうと陰猫さんはなんで、こんな所に?」
「あ、はい。地下の大図書館から戻って来た所です」
「ああ。パチュリー様にお会いしてたんですか……」
美鈴さんは納得した様に頷く。
すると、また別の数人の男女が武器を手に入って来る。
「やれやれ。気の早い人達ですね?」
美鈴さんはポツリと呟くとその数人の男女に身構える。
「陰猫さん。危ないですから、この場は任せて下さい」
「はい。美鈴さんもどうか、気を付けて」
美鈴さんにそう言うと足早にその場を後にする。
普通のラブコメなんかのシリアスな展開だと、ヒーローである男性がヒロインの女性に言うのだが、今の場合、全くの逆である。
まあ、武術の達人である美鈴さんと一般人の私じゃ、どっちが強いのかは明白だから仕方ないが……。
私がエントランスホールを後にすると咲夜さんが待っていた。
「お帰りなさい、陰猫さん」
「ただいま戻りました、咲夜さん」
「戻って来て、早々驚かれたでしょう?」
「ええ。まさか、あんな試験もやっていたとは……」
「警備志願者の大半はただのチンピラですから、こう言うテストもやっているのです。
まあ、そんな輩程度に美鈴が負ける事はあり得ませんけどね?」
「でしょうね?」
あんな凄いシーンを見たら納得する。
「それよりも陰猫さん、ベッドメイキングを手伝って貰えませんか?」
「あ、はい」
「一応、確認ですが、ベッドメイキングの経験は?」
「ベッドを整える事ですよね。福祉学校で少しかじった程度ですが、お手伝いは出来るかと思います」
「そうですか。介護施設のベッドメイキングとは違うので、一から教える様ですが、少しでも経験があるのならスムーズに終わりそうですね?」
私と咲夜さんは真新しいシーツの入った籠を手に部屋を回ってシーツを取り替える。
ーーと言っても大半は使われてないので新品同様だ。
「陰猫さん。ゆっくりで構いませんので、もっと丁寧にお願いします」
「あ、はい」
私は久々のシーツの取り替えをぎこちない手付きで行う。
いやはや、やはり、介護施設のベッドと違うから作業に手こずる手こずる。
咲夜さんは慣れているのか速くて丁寧だ。
これだけ見ていると私と同じ病と手際の悪さとは思えない。
ー
ーー
ーーー
「ふう。終わった」
私は最後のシーツを取り替えると一息吐く。
「ご苦労様です。後半は手際が良かったですね?」
「ははっ。少しは勘を取り戻せましたかね?
咲夜さんには敵いませんけどね?」
私はそう言うと咲夜さんに尋ねる。
「でも、咲夜さんはもっと時間に厳しいのかと思ってましたけど、そんな事もありませんでしたね?」
「伊達に妖精メイドを一から鍛えていた訳ではありませんからね。覚えが良いだけ、陰猫さんはマシな方ですよ」
「ははっ。妖精のメイドと一緒ですか……」
咲夜さんと一緒に埃を被ったシーツの入った籠を手に私は笑うと洗い場へと到着する。
あ、流石に洗うのは洗濯機なんだ。
私はそんな事を思いながら、咲夜さんと一緒に汚れたシーツを大型の洗濯機の中へと入れる。
「洗い終わるまで時間がありますので、自室で休んでて頂いて結構です」
「咲夜さんは?」
「私はもう少し部屋の掃除をーー」
「駄目ですよ。咲夜さんも休まないと」
「いつもの事ですから大丈夫ですよ。終わったら私も休みますから」
「それなら良いんですが、くれぐれも無茶はしちゃ駄目ですよ?」
「御心配有難う御座います。では、後程……」
そう言うと咲夜さんの姿がまた消える。
時間を止めて仕事している辺り、まだ無茶していると思うんだけど、大丈夫だろうか?
……いや、ちょっと待てよ、私?
確か、周囲の時を止めていても、咲夜さん自身の時間は動いている訳だから、肉体的にも精神的にも疲労は蓄積されるんじゃないだろうか?
こんな事なら咲夜さんの事をもっと詳しく調べとくんだったな。
ーーいや、待てよ。
確認する方法はある。
私は休憩がてら自室へと向かう。
そこには案の定、紫さんが待っていた。
「ご苦労様。初仕事はどう?」
「ぼちぼちです。それより紫さんに折り入って、お願いがあるのですが……」
「なにかしら?恋人になってくれとか?
そうよねえ、陰猫さんも30半ば……恋人の一人や二人欲しいわよね?」
「ああ。それはないです。私、年下が好みなんで。
それに今は一人気ままな生活が気に入ってますから、恋人とかはいいです」
「あら。残念。フラれちゃったわ」
私はヨヨヨと泣き真似をする紫さんに困る。
泣き真似とは言え、昔から女性に泣かれると戸惑ってしまう。
私はしばらく茫然と立ち尽くし、沈黙を維持した。
「うふふっ。困っているわね?」
「……ええ」
「正直で結構な事ね。でも、こう言う時は気の効いた台詞を言ったり、抱き締めたりするものよ?」
そう言うと紫さんは泣き真似を止めて、満足そうに頷くと此方を見る。
「本題に入りましょうか。私にお願いって何なのかしら?」
「私を永遠亭に連れて行って下さい」
「え!?まさか、もう耐えられないの!?」
「あ、いえ。私の事じゃなくて咲夜さんの診断結果を聞きたくて……」
「ああ。なんだ。今のは私も少し焦ったわ。
でも、残念だけど、幻想郷に昨日今日来たばかりの貴方にあの永琳が患者の診断結果を話すとは思えないわ」
「それじゃあ、お嬢様にーー」
「それは止(よ)した方が良いわ」
私の言葉を遮って、紫さんはそう言うと真剣な表情をする。
「あの小さな吸血鬼さんーーいえ、レミリア・スカーレットは十六夜咲夜が倒れた事で自分を責めているの。
そこへ新たな事実を知らされたりしたら、今度はレミリアが自分を追い込んでしまうわ」
「そう言えば、私の知るレミリアお嬢様よりも大分、大人びて見えましたね?
もしかして、咲夜さんが倒れた事に責任を感じて?」
「ええ。今のレミリアは無理をして大人びてるーー例えるなら、パンパンに膨らませた風船よ。
何らかの刺激でいつ割れても、おかしくないわ」
紫さんのその言葉を聞いて、私は今までのレミリアお嬢様の言葉を思い出す。
『お願いよ、陰猫!あの娘の為にも私に力を貸して頂戴!』
『……本当に気を付けなさいよ。貴方達にもしもの事があったら、それこそ職場改善どころの騒ぎじゃなくなっていたもの』
……成る程。大人びた雰囲気もどこか疲れている理由も自分を責めての事か。
だけどーー
「それでも誰かが咲夜さんの事を聞かないと……。
咲夜さんは時間を止めて無理をしているに違いありません。
咲夜さんが時間を止めて無理をしてるんじゃ、意味が無い」
「あら?そんなに十六夜咲夜が心配?」
「ええ。咲夜さんだけじゃない。レミリアお嬢様や紅魔館の皆が心配です」
「そう。なら、貴方があのメイドさんの事を聞き出す方法を教えて上げるわ?」
「え?でも、私やレミリアお嬢様じゃ、駄目だとーー」
「確かに貴方達じゃ駄目だわ。でも、それでも聞ける人がいるでしょう?それも目の前にね?」
「え?紫さんが?」
私のその言葉に紫さんは頷く。
「貴方は職場改善の為になんの力も無いーーしかも作業動作的には並みの一般人よりも劣っているにも関わらず、幻想郷に選ばれた運命なのよ。
なら、その運命に選ばれた者をサポートするのも私の務めだわ」
「……紫さん。ありがとうございます!」
「お礼は全て終わってからで良いわよ」
紫さんはそう言うとクスクス笑いながらスキマへ入って行く。
「ただ、これはあくまでも異変じゃないから、私が出来るのはここまでよ。
だから、貴方のファンである一個人として応援しているわ、陰猫さん。
無理しない程度に頑張りなさい」
「はい。ありがとうございます、紫さん」
「お礼は終わってからで良いと言ってるでしょう?ーーそう言えば、まだ貴方に言ってなかった事があるわね?」
思い出した様にそう言うと紫さんはスキマに下半身だけ入って、上半身だけを覗かせたまま私に髭反りを手渡しながら囁く。
「改めて、幻想郷へようこそ」
紅魔館、短期バイトでR部分をハーメルンだけでも強調するかどうするか悩んでます。私と美鈴さんのエチエチ見たい人っています?
-
見たい
-
見たくない