ある日起きたらクラスメイトから男子が減っていた。
ついでに言えば街中で見かける男性の数も心なしか少なく、アイドルは男性グループが中心。
そしてそんな状況に違和感を抱えるのが俺一人であるという事実。
とはいえ日々の生活を送るのに問題があるほどではない。
例えばこれが無人島への移動やファンタジー世界への転移だったりしたら大慌てだったろうが。
仲のいい知り合いが消えてなくなったわけじゃないってのも大きいだろう。
なんだかんだでいつもの生活ってやつを送れていた。
その『いつもの生活』ってやつが薄氷の上に存在してるなんてことは分かっていなかったのだ。
それどころか側にいる人間にどんな目で見られているかなんてことも。
「京ちゃんお待たせ」
待ち合わせ場所にとことこと歩いてくる咲の姿に軽く手を振り返して近寄る。
「また夜遅くまで本でも読んでたのか?」
「そんないつも困ったやつみたいに言わないでよぉ」
ぷくっとちょっと頬を膨らまして拗ねる姿に苦笑しながら遊んでいる手を握る。
「ふえっ!?」
「どうした?」
わたわたとしている咲に首を傾げると顔を赤くしてもじもじしている。
「きょ、京ちゃんこそどうしたのさ」
「迷子の子猫には妥当な対応だと思うけどな」
遠回しに迷子常習犯が悪いと伝えると顔をうかがうように上目づかいで。
「こんなこと他の子にしたらいけないんだからね」
「するわけないだろ」
小学生に上がる前の子供みたいに迷子になるやつは周囲にいないという意図を込めて言うと、さらにもぞもぞする。
「そ、そうなんだ」
咲の頭の中で『手をつなぐ相手は自分だけ=自分は特別』などという方程式が展開されていることに気づくこともなく、学校に遅れないように手を引く。
「ほら、行くぞ」
「うん」
京太郎的価値観にのっとれば見た目ギャルの幼馴染が文学少年の手を気軽に握ってぐいぐい引っ張っていくような光景に周囲の羨むような視線が集中しているのだが、それにも気づくことはない。
単にこの年で手をつないで登校なんていうのが珍しいから目を引いているのだろうと自己解決している。
周囲の男女の割合は明らかに京太郎の知るものとはかけ離れている。
大体にして女性5人に対して男性が1人、その少ない男性にちらちらと視線を注ぐ女性の姿が見受けられる。
その中でも明らかに目立っているのが仲よさそうに手をつないで登校しているコンビ。
まさか当の男の中で庇護対象に分類されているなどと周囲が分かるはずもなく、きっと恋人同士なのだろうとみられている。
ちょっと早足についていく咲すらドキドキしているということに全く気付く気配もなく、京太郎的にはいつものことという感覚で学校まで繋いだまま歩いていく。
学校に近づけば近づくほど周囲の世代は同年代が多くなっていき、羨む視線と『ああやっぱりあの二人付き合ってるのか』なんて種類のものに変わっていく。
廃部寸前だった弱小麻雀部にただ一人男性が入部したことは結構な噂になっており、その渦中の人がおとなしい文学少女と仲がよさそうということも知られていた。
それでもまだワンチャンを狙っていた者どもは結構な数いたのだが、この現状を目の当たりにさせられて打ちひしがれていた。
潜在的にモテモテであるということに自覚のない京太郎もまたチャンスを潰していることを分かってない。
男女を逆にして考えれば京太郎は誰にでも優しいギャル。頭こそよくないが運動神経はよく顔立ちもそこそこ整っている。
男性が少ないこの世界では気安さは勘違いさせる要因に十分なりえた。
「しっかし暑くなってきたなー」
「な、何してるの京ちゃん!?」
制服の裾をぱたぱたしているとそれを見咎めた咲が慌てて盾になろうとする。
全く意識していない京太郎ではあるがその行為は女の子が胸元を開けてブラをチラ見せするようなもの、端的に言ってはしたない行為であった。
「いやだって暑いし」
「暑いからってそんなことしちゃダメ!」
遊んでそうな見た目と相まってその所作が『頼み込んだらやらせてくれそうなギャル』的印象を与えている。
まあ実際に仲のいい子に頼み込まれたら断れそうにないのも事実なため質が悪い。
「もう京ちゃんはガード緩すぎ!」
「いやお前はあんまり人のこと言えない」
というか麻雀部で常識人のまこですら実家のお店でコスプレするため、全体的に麻雀部はほぼ全員ガードが緩い。
それを意識して交渉ごとに使う久や家業の売り上げにしているまこはともかく、それ以外は無意識の発露であるため1年生組は全滅と言えた。
「……京ちゃんは私が守らなきゃ」
「何言ってんだか」
女性から守るという観念では咲の心配の方がよっぽど正しいのだが未だこの世界の常識に馴染んでいない京太郎は聞き流す。
咲に守られるというビジョンが全く当人の頭の中にないのも、戯言のような印象を手伝っていた。
そも、京太郎は男女比が1対1だろうと距離感が近いため異性の友達も多いが一歩間違えば勘違いさせそうなところがある。
残念なところもちらほらあるのと高校生の男性観というかストライクゾーンから微妙に外れていたから問題にならなかっただけで。
むしろ大学生や社会人であればモテるタイプの男である。
そんな人間が男女比が偏った世界ではどうなるか、咲の心配はまごうことなく的中である。
さて、そんなガードゆるゆるな京太郎は麻雀部においてどんな人材であるか、それはこんな例を挙げてみればイメージしやすい。
廃部寸前だった弱小運動部になぜか入部してきたギャルが献身的に雑用をしてくれ、マネージャー的位置におさまっている。
そしてインターハイに出るまで強豪になるまで支えてくれた気安いながらも実は真面目なギャル。
そんな状況で好きになる人間が誰もいないなんてことはありうるであろうか?
結論から言えば全員が惚の字であった。
分かりやすいのは優希と咲、意識してない風を装ってチラチラ見ているのが和、信頼されている先輩ポジをしっかり確保しているまこに、いたずらでちょっかいをかけている久。
そしてそんなことに一切気が付いていない京太郎。
というか、咲と優希に関しては以前の世界においても距離感が男女のそれを感じさせるほどに近かった。
それでなお意識していなかったのは二人に脈がないのか、それとも馴染みすぎて逆効果になっていたのか。
「ちわー」
「おう犬、よく来たな」
相変わらず気安いものどうしのあいさつを交わす京太郎と優希であるが、それを見咎めるものが一人。
「優希、男性を犬呼ばわりなんて外部に知られたら炎上しますよ。須賀くんが優しいから成り立ってるだけなんですから」
誰からも注目されていなかった以前とは異なり取材も受ける身となった今ではそんなことになれば致命的、数少ない男性を守ろうとする世論も後押しして間違いなく面倒なことになるだろう。
「う、すまん」
「ま、周囲に聞かれなけりゃいつも通りでいいって」
しゅんとする優希の頭をガシガシと撫でる京太郎。
優希の耳が赤くなっているのに気が付いていない。
「まったく須賀くんは甘いんですから」
ぼやく和であるがその目線は撫でられる優希へ羨ましそうに注がれている。
「京太郎、咲はどうしたんじゃ?」
「あいつなら図書室に本を返しに行ってますよ」
さすがに校内、その中でもよく訪ねる図書室までの道で迷ったりはしない。
冗談でついていってやろうかと口にしたものの拗ねて怒ってしまったのでしばし放置である。
「ふああ、みんなおはよ~」
ベッドで仮眠していた久が背伸びをして起き上がり、乱れた制服の隙間から双丘がポロリと見える。
「久、はしたないじゃろ」
まこも一応口にしただけというように注意こそすれ大したことだと思っていないのが見て取れる。
「あら、須賀くんもいたの?」
てへ、と舌を可愛らしく出すだけで久は流し、和すら仕方なさそうに肩をすくめるだけで受け流す。
(え、これいいの? え?)
ちらっとピンク色の突起が見えてしまって焦っているのは京太郎一人。
貞操観念も一部影響されて変化しているのがこの事件からもうかがえる。
「どうしたの須賀くん、見惚れちゃったのかしら?」
「え、あ、はい」
「ふへ、そ、そう?」
からかいの言葉につい素直に返してしまえば、攻めるのはよくても攻められるのに弱い久は顔を真っ赤にして内ももを擦り合わせる。
その姿に面白くなさそうにする面々。
「みんな待たせてごめん。え、何この空気? 京ちゃんまた何かやったの?」
「とりあえず俺がやった前提なのはやめろ」
「えー、だって実際大体は京ちゃんか優希ちゃんじゃない」
「お前も結構な割合でやらかしてるからな」
中学からの付き合いコンビがわちゃわちゃと罪をなすりつけ合っていると変な空気も霧散していく。
「そろそろ部活始めませんか?」
しらっとした視線で言う和だが、その内心は仲よさそうな二人の姿に嫉妬している。
「じゃ、お茶切らしてたから俺は買い出しに行ってくるな」
「あ、一人じゃ……」
「それなら私がついていくわよ。他に買いたいものもあるし」
部長権限を振りかざし自然にポジションを奪った久に白い視線が注がれるが、それで堪える性格ではない。
京太郎と久は連れ立って部室を出ていき、残された4人はしぶしぶと雀卓を囲む。
名残惜し気に二人の背をちらちら見る面々であった。
「大体買い終わりましたね」
「そーね。あちょっとお花摘みに行ってもいい?」
「じゃ荷物見とくんでどーぞ」
久から荷物を受け取ってトイレの近くの壁にもたれかかって京太郎は待つ。
(しかしこう見るとホント女子ばっかだなあ)
店も女性ものの数が多く、男性物の服なんかを扱っているのはあまり見られない。
ついでに言えばいわゆるコンカフェなんかも執事系の服を着ている中性的な女性や少人数の男性を雇っているようだ。
それでもちらほらとみられる男性に対しては遠巻きに女性の視線が注がれている様子が見える。
「おにーさん、こんなとこで何してるんですかー」
ギャルっぽい少し年下の二人連れに声をかけられて京太郎は少し腰を浮かす。
「ん、俺? 人待ちだけど」
「それってもしかして男の人ですか?」
「いや女の人だけど」
やたらぐいぐい来ることに困惑する京太郎。
「えー、男の人を待たせるとか信じられなーい。私ならそんなことしないのになー」
あれ、これひょっとしてナンパ? と遅まきながら気づく。
「よかったら私たちと楽しいことしませんか?」
こんな状況に慣れていない男、困惑が勝つ。
「……あなたたち私の彼に何してるのかしら」
冷たい声が背中側から聞こえて腕に胸の当たる感触とともに絡めとられる。
「行きましょ」
「ぶちょ」
呼びかけようとした声を唇の前で指でふさがれくいっと引っ張られていく。
恨めし気な二対の視線を背に離れたところまで連れていかれて、腕が解かれる。
「ごめんなさい、怖かったわよね」
「え、別に」
むしろどこに怖い要素があったのか分からない京太郎。
本人はピンと来てないが、チャラ男二人に絡まれてるギャル的な縮図だったと考えれば久の心配もむべなるかな。
「そんな強がらないでいいの。よしよし」
抱き寄せられ胸元に顔をうずめる形になる。京太郎からすれば役得でしかない。
一方で久の方も慰める名目で触れ合えていて役得を感じていたりする。
そしてこんなことされて無反応でいろと言えばそれは無理で。
「す、須賀くん、これって」
そそり立つものが久の体に押し付けられる形になっている。
「あ、す、すみません」
「ううん、いいの。でもこれって……そういうことよね?」
さわさわと掌の柔らかい部分でなぞるように撫でながら久は熱のこもった声で告げる。
「ねえ、ホテル、寄っちゃう?」
こくりと頷いた京太郎に対して久は目を細めて微笑んで、気の変わる前にと足早に手を引いた。
「あ♡あ♡ああ♡んん♡須賀くん♡須賀くん♡」
ホテルの一室に入るなりシャワーを浴びる時間も惜しんで久は制服をはだけ挿入を媚びた。
エッチなことに対する興味は人一倍、部にただ一人いる異性を意識しなかったなんて嘘。
こうやってつながる夢想をして慰めた日だって数えきれないほど。
それが現実になっている。
「うう、部長」
「んあ♡今は名前で♡すごい♡須賀くんの逞しくて私♡あ”ぉ♡」
ベッドにたどり着く前に交尾を始めた二人は扉のすぐそばで立ちバックの体勢でつながっている。
突き上げる度に久のポニーテールに結んだ髪が京太郎の胸板をくすぐる。
「久さん、久さん、可愛い」
「嬉しい♡あひ♡ぇあ♡須賀くんのおちんぽ♡しゅごいの♡交尾頭馬鹿になっちゃう♡あ”ぁぁ”♡」
部屋に据え置きの鏡が久の乱れている姿を映して快楽を貪っている姿をあらわにする。
「時間ないから♡早くイッて♡私はいつでも相手してあげるから♡」
ちゃっかり次のチャンスなんかも約束しちゃって久は首を後ろに回してキスをねだりながら、こみあげる感覚に身を委ねて痙攣する。
「んんん~~♡あは♡はー♡はー♡んん♡皆には、内緒ね♡」
こんな事明らかにすれば部内で内紛が起こると久は理解していた。
だからこそこの関係を続けるために隠し通す。
果たしてその選択が正しいのか、一概には言えない。
ただ、無難すぎて『悪待ち』の選択ではないのは確かだったろう。
遅い帰りを訝しげられながらも回る口先で煙に巻いた久は京太郎にウインクを一つよこして部活の解散を告げる。
それを見咎めた人間がいたのに二人は気が付いていなかった。
なんだかアンケート取ったら予想以上に接戦してたので、男女比偏差社会と催眠京ちゃんは両方書くことにしました。
たぶん催眠京ちゃんの方が次にできると思うけど、アンケートは男女比偏差社会でナンパしてくるなら誰か?
霞さんはナンパどころか誘拐してきそうなイメージがあるので除外しています(ド偏見)。
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