番外・白糸台生活with咲ちゃん①
宮永咲が高校受験を東京へと決めたのは一つの雑誌が原因だった。
より正確に言えばその雑誌に載っていた己の姉とその所属校が判明したからともいう。
普段であれば遠ざけていた麻雀雑誌が家に転がっていたのはやはり父も母方についていった姉のことを気にしていたのだろう。
喧嘩別れのようになってしまった姉に会いたい。できれば仲直りして前みたいに過ごしたい。
そんな気持ちがわくのは当然だったが同時に父への申し訳なさもあった。
自分まで父の元から去るような真似をしてもいいのかなんて、悶々と悩んでしまう日々。
必要に駆られて覚えた拙い家事もそんなおろそかな心持ちでは焦げた料理を作ってしまったりする。
そんな分かりやすすぎる態度なのだから肉親がそうと察するのにさして時間はいらなかった。
娘想いの彼はふと考える。しかしあのいろいろ抜けたところのある娘は東京で一人暮らしができるのであろうか?
家事スキルはともかく危機感の足りなさや迷子癖など心配である。
そこで彼は天啓を受けた。否、天啓というよりはただの思い付きとか気の迷いといった方が真実に近いが、その日の彼の煮詰まった頭はいい考えだとそれをなぜか信じ込んだのである。
娘の信頼する同級生、最近よく話に出てくる人物も一緒に東京に行ってくれれば問題は解決するのではないかと。
あるいは咲の呼び方が誤解を招いた部分はあったかもしれない。
『京ちゃんがね』『京ちゃんはね』などと嬉しそうに友達のほとんどいなかった娘が呼ぶ響きは確かに女友達の名前であっても違和感はない。
また異性の話なんてものは隠すという固定概念が男親にはあったかもしれない。
単にその娘にそういう意識自体が芽生えてはいなかったというだけではあるが誤解の要素はあった。
そこで言ってしまったのだ。東京の学校に通う条件として『お友達と一緒ならいい』なんて。
咲は咲で深く意図を問い詰めたりはせず、ぱあっと顔を明るくして頭の中は『お姉ちゃんと仲直り!』に一直線。
いつも我儘を聞いてくれるお友達におねだりに行ったのです。
そしてまあ、そんなこんなで宮永咲と須賀京太郎は東京の白糸台高校を受験、無事に合格したのでした。
そしていまだに性別を誤解している咲の父は娘の安全のために寮生活ではなく二人暮らし用のお部屋を東京に用意してあげたのです。
『住む場所に遠慮はいらない、娘が世話になるのだから』ポンコツな娘のやらかしに苦労させられるんだろうという対価のように押し付けた好意。
あるいは姉妹のポンコツ遺伝子は母方ではなく父方からなのかもしれないとすら思わせるやらかしである。
何も知らない新高校生の二人は、これから住む場所として用意されたどう見ても一つの家を見て困惑にかられるのです。
「ええ……?」
「おい、お前のお父さん何考えてるんだ?」
「京ちゃん、お義父さん呼びは気が早いよ」
「お前こそ何言ってんの?正気に戻れ」
こうして宮永咲と須賀京太郎の同棲生活は幕を開けたのでした。
「咲、この皿どこに置けばいいー?」
「そこの下の棚に置いといてー」
いつまでもきゃんきゃんと自分たちで言い合っていても無駄だということを割と早い段階で悟った二人はどうせ自分たちにそんな色っぽいことなんてあるはずもないと割り切って手分けしながらも声を掛け合って荷物を整理していく。
こういう部分が中学時代からの知り合いからは『あれは恋人というより夫婦』なんて言われてしまう所以であるのだが本人たちに自覚はない。
互いに気の置けない仲であるという認識はあってもそれがドキドキに繋がらないがゆえに恋愛対象ではないと思い込んでいる節がある。
まともに考えるならばごく普通のちょっと恵まれた家庭環境で育った結構お気楽な性格をしている京太郎はともかく、色々歪む要素がちりばめられてよく言えば一途悪く言えば執着しがちな咲が相手をそんな適当に扱ってしまうという時点でかなり特別扱いなのだが残念ながら気が付いていない。
なんでもかんでも行き過ぎさえしなければ受け入れてくれてやらかしたら軽い感じで叱ってくれる、それでいて普段は弄るタイプの男というのは無意識に女を甘えさせる傾向にある。
一緒に暮らしていってもまあいいか、などと妥協できる時点で高校生になりたて女子が普通は受け入れない心のハードルをとっくに超えている。
「きょ、京ちゃん、お互いの衣服は別々にお片付けしようか」
一度開けた段ボールをそっと閉じて押す咲。ありがちではあるが下着関係が含まれていたのだろう。
ぶっちゃけ男側は見られてもなんとも思わないのだが女側はその限りではない。
しかし多少なりとも意識している時点で脈がないというのは無理があるということに意識がいかない咲である。
ほんの少し前まで父親のパンツを洗っていたのに同じように接することができていないというのは明らかな矛盾。
ついでに言えばちょっと子供っぽいパジャマや露出の多い服を見られるのも改めて思えば気恥ずかしく感じ始めるものである。
「そろそろ先に照明つけとくか、暗くなってからだと困るしな」
背の高い人間の方がこういう高所の取り付けには重宝される。
女子だけの引っ越しだと脚立がないと難しい場面も段ボール一つでちょちょいと済ませられるのだから大きい。
その分一緒に住むとなるとその図体のでかさが女性側からすると威圧感にも変わりがちなのだがいざ襲ってくるなんて考えもしてないのでその辺りは流して感じている。
そういう無意識の信頼感が幼少期から構築されたわけでもないのに形成されていること自体が本当におかしいと周囲からは思われていたのだがやはりそれに気づくこともなかった。
他の誰にとって不自然であってもこの二人にとっては自然体の関係になってしまっている。
「夕ご飯何がいい? そんな難しくないなら大体作れるよ」
料理が得意とまではいかないが日常の及第点レベルであればそつなくこなせるようになってきているのが咲という少女である。
どちらかといえば夕飯の残りでお弁当を作るとかそういう所帯じみたスキルの方が優れている。
「任せきりもなんだし手伝うよ。これでも家でお手伝いぐらいはしてたんだぜ」
一方でこれまた上手いとまではいかないし一人で切り盛りできるほどではないが基礎の基礎ぐらいなら何とかなるのが須賀京太郎という男である。
見た目は軽そうに見えてスポーツがそれなりにできてちょこっとなら家事もでき、なにより相手任せにして甘えきらない辺り、中高生よりも大学生や社会人にモテそうな特性を持っている。
「へー、京ちゃんがね。焦がして手間増やさないでよね」
だが目の前にいるのは弄っても問題ないと判断している、悪友といった方が近い関係性のまだ恋愛を意識さえしていない女子。
お弁当の中身を互いに強奪し合うような関係性では甘い空気など入り込む余地がない。
「へーへー、言ってろ」
そんな風に生意気を受け流すことも自然。
結局並んで台所に立ち、料理をすることになるのであった。
やはりその姿を知り合いが見たならば、「新婚夫婦?」と首を傾げること請け合いであっただろう。
明日からの高校生活をあるいは楽しみに、あるいは不安に思いながら眠りにつく。
そうして始まる、白糸台生活。
元は全年齢作品としてプロローグだけは書き溜めてたのでnotエロ回。
最後に咲ちゃんのちゅくちゅくを書き足そうかちょっと悩んだのは内緒。
結局は清純ヒロイン候補として今はいてもらう結論に。
いやまあヒロインまだ決まってないんだけど。
アンケは白糸台生活のヒロインです。
感想もお待ちしております。
別キャラと幼馴染だったらverも考えてるけど、-toki-とかしのはゆも買うべきだろうか、悩む。
次回更新は?
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咏たんが幼馴染だったら
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白糸台生活の続き
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