ンフィーレア・バレアレ。
エンリの記憶の中にあった、おそらくエンリにほの字の少年。
エ・ランテルで薬師をしている祖母と一緒に暮らしていて、時々カルネ村に薬を売りに来る。
エンリの記憶にあるのは、全て青いポーションだ。
だが、ユグドラシルにて青いポーションは存在しない。
ユグドラシルとこちらのアイテムで効果が違う可能性がある。
陽が傾き始めてからモンスターを追い回すのをやめ、仕事を終えた。
オレはモンスターの換金を漆黒の剣のメンバーとルプーに任せ、バレアレ家の店へと来ていた。
「すみませーん。」
「はーい。」
出てきたのは、記憶にあるンフィーレア・バレアレその人だった。
祖母ではなくいきなり当人が出てきたことに驚いたが、まあ良い。
別に怪し事をしにきた訳じゃないんだ。
「最近冒険者になった者です。ポーションを見せてくれませんか?」
冒険者相手だと同業同志敬語も外れるが、どうも相手が店員や受付の場合敬語が出てしまうようだ。
これは、こんな姿になっても心は日本人、という事なんだろうか。
舐められたくないから敬語はやめたいんだけどなあ。
「はい、わかりました。少し値が張りますが、大丈夫ですか?」
「ポーション1つくらいなら余裕で。お金も、命には変えられないですから。」
「それもそうですね。少しお待ちください。」
やはり、ンフィーレアが持ってきたのは小瓶に入った青い液体。
オレは鑑定用のためポーションを1本のみ購入する。
「ポーション1本、金貨一枚です。」
「OK。」
オレはポケットに手を入れているように見せて、カウンターの下の方でアイテムボックスを開いた。
今は人がいないから良いものの、毎回こうするわけにもいかない。
財布とかないとまずいな。
「ところで、薬屋さん。実はこんなものを持っているんですが…」
オレは再びアイテムボックスを操作し、ユグドラシル産の
「これもポーションだと思うんですが、見たことはありますか?」
「…これ…!」
ンフィーレアが大きく目を見開く。
おや、やはりこっちの世界にも赤いポーションがあるのか?
「すみません、僕では鑑定ができないので…祖母に鑑定してもらってもいいですか?」
「勿論です。」
「んひひひ!これは凄い!これは凄い!」
…どうしてこうなった。
オレの前では、悪い魔女のような見た目で悪い魔女のような笑い方をする老婆が大騒ぎしていた。
「ンフィーレア!これは誰にも開発できなかった完成されたポーションじゃ!」
「それって…!」
「これが、これこそが神の血を示すポーション!
え、なに?どうしたの?
またユグドラシルTUEEEなの?
「おんし!これはどこで手に入れたものじゃ!?」
オレは興奮した老婆に詰め寄られた。
こんな大ごとになるとは…考えなしだった。記憶操作をするか?
にしても、記憶をどう書き換えるか…
ガヤガヤと声の飛び交う飲食店。
オレとルプー、そして漆黒の剣のメンバーはそんな場所にいた。
「いやー!まさかお2人があんなにお強かったとは!」
報酬を受け、山分けをした頃にはもうすっかりと夜だった。
オレたちの加入のおかげでいつもより稼げたと嬉しそうな漆黒の剣のメンバー。
一緒に食事でもと誘われ、今はとある飲食店で打ち上げをしていた。
「これなら、ルプスちゃんみたいな美人を連れてることにも納得だな。」
「噂に名高い、かの王国戦士長に匹敵する強さであるな。」
「ふっふっふ。当然っすよ!」
ああ、もしかしてその戦士長ってのは、ガゼフ・ストロノーフとかいうダンディな男の事か。
図らずとも知り合いの名が出てきて驚いた。
別に面識がある事を隠すこともないが、自分から言うことでもないだろう。
「ところで、漆黒の剣とはどう言う意味なんだ?」
「あ、それはですね。ニニャが…」
「やめてください!若気の至りですから…」
「恥じるところは、ないのである。」
ニニャが慌てている。何かまずい事を聞いてしまったのか?
オレたちが気まずくなっているのを尻目に、ルプーは来た料理に目を輝かせている。
オレはエモット家で手作りを食べたが、ルプーはこっちの食事は初めてだもんな。君は大物だよ。
「漆黒の剣というのは、昔いらっしゃった十三英雄の1人が持つ剣に因んでいるんです。」
…十三英雄。
エンリの記憶にあるのは、200年以上前の昔話の中に登場する、とてもすごい人たち…というざっくりとした情報のみ。
村の小さな男の子たちが十三英雄ごっこなるものをしていた記憶もあるため、エンリが男だったらもう少し詳しかったのかもしれない。
が、その場合は吸血もしなかっただろうし言っても仕方のない事だ。
「なるほど。ニニャが恥ずかしがっている理由も、わかった気がするよ。」
「勘弁してください…」
小さな頃、ごっこ遊びで夢見ていたものを追い続けている…みたいな事だろうか。
男子ならばヒーローに憧れるのは当たり前のことだが、歳をとって振り返ると恥ずかしくなる事もある。
「そいつを発見するのが、俺たちの第一の目標って訳。」
「そして、出来ればその魔剣を1人ずつ装備したいって、そう、僕が昔…」
ニニャが顔を赤くして照れながら答える。
…にしても、コイツからはどうも…
いや、勘違いだと思いたいが。
「もしよければ、ランクが上がるまでで良いので、期間限定でうちのパーティーに加入しませんか?」
「そりゃあいい!ルプスちゃんと一緒なら大変な狩りでも楽しくなりそうだぜ。」
別に断る理由はない。
…が、名声を広めるなら、1つのパーティーだけでなく色々なパーティーと組んだ方が良いかもしれない。
オレは決めかねてルプーへと視線を向けると、シチューのような料理を食べている彼女と目があった。
ルプーは特に興味がなさそうだ。そのままシチューを食べ続けている。
私はどっちでも良いっすよー、なんて声が聞こえた気がした。
「オレたちは良いんですが…ペテルさんたちにはメリットはあるんですか?」
「強い人がいれば、それだけ戦闘の安全度が上がりますからね。」
「それに加え、その魔剣。まさに漆黒の剣にも劣らぬ名剣と見たのである。」
そりゃあ君達の名前から思い出して選んだ武器だしな。
そのパーティー名の元ネタの武器がどれほどのものかは知らないが、絶対にそれよりもこっちの剣の方が絶対に強いしかっこいいと思う。
「これほどの実力ならば、僕たちが追い抜かれるのも数日かもしれませんが…どうでしょうか?」
「…今日は楽しかったよ。」
オレがそう言ったことにより、漆黒の剣のメンバーが肩を落とした。
断られたと思ったのだろう。
「それが、もう一度味わえるなら…それも良いかもな。」
「ブラッドさん!」
「皆さん。改めて、よろしくお願いします。」
「ずずずっ!ぷはぁ!あ、私もついでにお願いするっす!」
オレが頭を下げると、器につがれたものをすべて飲み干したルプーが後に続いた。
ルプーは人間と関わるには心配になるようなカルマ値だったが…どうやら杞憂だったようだ。
心の底では何を思っているかはわからないが、今のところは仲良くできている様子。
「これだけ強ければ、すぐに有名になるさ。となれば、昔仲間だったって冒険者仲間に自慢できるしな!」
「ルクルット!すみません、ブラッドさん、そんなつもりは…!」
「ははは。いやいや。もしオレたちが有名になったら、周りに自慢して回ってもいいぜ。」
「美人なお付きの事も、忘れないで広めてほしいっす!」
「勿論!よし、言質とった!」
オレの名前を触れ回ってくれるのなら、それは良い宣伝になる。
迷惑行為をするようなパーティーならともかく、漆黒の剣にならむしろそれは積極的にやってもらいたい事だ。
「では、これから組む臨時パーティーを祝って!今日はパーっといきましょう!」
「良いっすね!私、おかわり食べたいっす!」
「やるねえ、ルプスちゃん。」
…仲間って良いな。