オレがログインできた時にはもう11時50分だった。
こんなやりとりだけで、もうかなり時間が経ってしまっている。
「そろそろ12時近いですね。」
「そうだねえ…」
コンソールには現在の時間が表示されている。
現在の時刻は11:56分。大した話はできなかったか。
ただ、昔のように馬鹿みたいな話ができてオレは満足だった。
モモンガさんはどうだったのかな?
「そろそろお別れか、モモンガギルド長。」
モモンガさんの悲しげな雰囲気に当てられる。
モモンガさんが他のゲームを遊ぶとは限らないし、もしかしたらこれが一生の別れかもしれないんだ。
「長い事インしなくなってごめんな。久しぶりに、楽しかった。」
「いえいえそんな!今日来て頂けただけで、嬉しかったです…」
…でも、オレはどうせなら笑顔で別れたい。
「…なあ、モモンガさん。最後なんだしさ、その堅っ苦しい話し方やめにしない?」
「えっ?話し方、ですか?」
「確かに今更だけどさ、モモンガさんずっと敬語だったでしょ。最後に、ギルド長らしい威厳のある感じで締めようぜ?」
11:57:30
オレはポコポコときらびやかな装備の施された肩を叩く。
そんな弱攻撃に、モモンガさんは迷惑そうな顔をしていた。
(ユグドラシルでは広い自由度の割に表情のアニメーションはない。つまりはモモンガは一年中迷惑そうな顔をしていることになる)
オレとモモンガさんは同年代だった。
それなら敬語は外してくれと言われたため、遠慮無く仲良くさせてもらっていたのだが…
モモンガさんの方は敬語がスタンダードなようで、年下のギルメンにすら丁寧な口調を徹底していた。
今思うと、アレはもしかすると職業病ではなかろうか。そしてついぞ他のギルメン達へも敬語が取れることはなかった。
「…初めてで少し難しいですけど、魔王ロールみたいな感じで行きますか。」
「おお、いいね、それ!」
「そうですね…じゃあ。コホン。」
11:58:00
モモンガさんは大きく咳払いをして、空気を変えた。
絶望のオーラまで出して、こりゃガチだな。
「プレアデス。そして守護者たちよ、聞け!今日でこの世界、ユグドラシルは崩壊を迎える。…だが!アインズ・ウールゴウンは不滅だ!」
「…ブフッ!」
11:59:00
オレは、思わず吹き出してしまった。
だって、さっきまで敬語の及び腰だった人が急に…w
「ちょ、きるゆーさん!?」
「ごめんごめん。でも、面白くってつい」
「カッコつけた私が恥ずかしいですよ…」
「ごめんってば。」
しかし、オレは笑いを止めることができなかった。
深夜テンションって怖い。
「って、時間マジでヤバいぜ?」
「ああもう!きるゆーさんが口挟むから…」
「いや、だってあれは誰でも笑うって…」
11:59:30
「じゃ、本当にお別れだな。
11:59:50
ニヤニヤしながらクサい台詞を吐く。
最後なんだしこのくらい良いだろう。
「きるゆーさん!あの…!」
「…ん?」
最後に最後。
モモンガがオレを呼ぶ。
しかし、その口からは何も言葉が出てこなかった。
…短い時間だったけど、楽しかったよ。モモンガさん。
12:00:00
まったく。楽しい時間だったな。
さようなら、ユグドラシル。さようなら、ナザリック。
…さようなら、モモンガさん。
12:00:01
12:00:05
12:00:10
「ん?」
「あれ?」
あとはログアウトを待つのみだったのだが…
12時を回ってもオレとモモンガがログアウトする気配はなかった。
なんだこれ?
「…あれ?時間が…」
モモンガも不審に思ったようで、髑髏の頭が首を傾げていた。
ま、オレにとってはもう少しモモンガと話したかったからどうでもいい。
積もる話もあることだ。運営が対処するまでぐだぐだ話でもしていようか。
「っていうか、何でゲーム落ちないんだ?運営がサボったか?」
「考えにくいですが、ログアウトしないってことは、あるいは…」
チャットやGMコールもコンソールも機能しなかった。
…でも情報ウィンドウは出るな。どういうことだ?
「GMコール、発動しませんね…どうしますか?」
「そうだなあ…ってかコレ、もしかしなくてもゲームに閉じ込められてない?」
「コンソールが出ない以上、ログアウトも出来なさそうですね…私、今日も仕事なんですよ…」
「オレもだぜ、モモンガさん。ネットで騒げば大問題になりそうだなあ、コリャ。」
オレは運営に頭の中で合掌した。
ま、オレからたらどうでもいいことだが…
「…モモンガ様、きるゆー様…?」
「「!?」」
オレとモモンガは、同時に驚愕を露わにした。
聞こえるはずのない第三者の声が聞こえてきたからだ。
「いかがされましたか?」
それは、若く可憐な女の声だった。
うちのギルドには女性プレイヤーは3人存在していた。
しかし、こんな声、聞いたことがない。
…というか、その声の主は側に控えていたアルベドのように思えた。
声の聞こえる方向には、アルベドしかいなかったから。
「あ…アルベド…?」
その声の発生源はアルベド。
…いや、アルベドだと!?
オレが困惑する間に、モモンガさんがアルベドに問いかけた。
「アルベド…なのか?」
「はい。ナザリック地下大墳墓、守護者統括。アルベドです。」
アルベドから、可愛い女の子の声がする。
…は??アルベドから声が…??
「?」
「?」
オレとモモンガさんは、互いに顔を見合わせて疑問を浮かべた。
ドユコト??
「えっ!?きるゆーさん、顔動いてますよ、顔!」
「えっ!?ドユコト!?」
オレはびっくらこいた!と腕を広げて大げさにリアクションを取った。
顔が動いている…?モモンガさんはガイコツだから顔がどうなってンのかわっかんねーな…
ユグドラシルには、表情の実装すらされていなかった。
真顔のまま、感情は表情アイコンで伝えることはできるが…
オレは待機コマンドを使っているはずが勝手に動いているアルベドの方を見やる。
「っ!?」
瞬間、オレの中におかしな衝動が駆け抜けた。
それは、例えるなら性の衝動のようなものだった。
アルベドのあまりのオレの心をくすぐる姿に、オレはフラっと倒れかけた。
アルベドはサキュバスだ。服装も、それなりに誘惑的なものを着用している。
「大丈夫ですか!?きるゆー様…」
そんなオレを心配したのか、アルベドが大きな声をあげた。
ンだ、これ…っ!?露出した上乳と肩…白い肌がオレを誘う。
ああっ!
「クソ…これ…吸血衝動…?」
オレの種族は吸血鬼。血を吸ってナンボの種族だ。
自制していなければ、噛み付いてしまいそうだ。オレは咄嗟に口を隠す。
それを見たモモンガが驚いたように問いかける。
「どうしました!?大丈夫ですか、きるゆーさん!?」
「…モモンガさん…ちょ、ヤバいかも…」
オレは突然襲う意味のわからない感覚に、ヨロヨロと倒れる。
そんなオレに、アルベドはこの世の終わりを見たかのような顔を近づける。
ヤメロコラァ!!この異常はきっとお前が原因なんだよ!!
「きるゆー様!きるゆー様!?ああ、どうしましょう…!?」
「アルベド…」
アルベドの顔が…口が動いている!?
って事は…いや、そんなはずは…いや、もしかすると…!?
オレは衝動に突き動かされ、アルベドのその露出した首元に噛み付いた。
「あぁん♡」
「えっ!?きるゆーさん!?な、何を…!?」
ガリ!と擬音がつくほどに、激しく歯を立てる。
アルベドは一切抵抗を見せず、というかむしろオレに体を差し出すように近づけた。
理性を蒸発させ、目の前の女を貪る事にしか意識が行かなくなってしまう。
モモンガさんが隣で動揺しているが、そんな事に気を配る余裕はなかった。
アルベドさん大歓喜