「きるゆー様!…こほん。お帰りなさいませ。」
「アルベドか。出迎えご苦労。」
指輪を使い玉座の間へと転移した瞬間、アルベドが、目を輝かせてオレの名を叫んで詰め寄る。
アルベドが近づいてきたことにより、ぞわり、と身体中の毛が逆つ。
ひい、ひい。怖い怖い。
一瞬我を失ったかのように見えたアルベドだったが、咳払いと共に直ぐに真面目モードへと切り替わりった。
オレは不自然にならないようアルベドから若干距離を取る。
あの件以来、アルベドにここまで近寄られたのは初めてだ。
「ギルド長。話があるとの事だが?」
「きるゆーさん。今のところ計画は順調のようだな。」
「少し妙な事件に巻き込まれたが、概ねはな。」
「その事件というのは?」
少し長くなるが、情報を共有しなければならない。
吸血鬼の、漆黒の剣の事も頼まなきゃならないしな。
「───その賊というのが、
「そうだ。そして、アインズさんに話を通してある戦士長と同じかそれ以上の力を持つ者でもある。
「裏社会の人間、とか言っていたか。」
ポーションを渡した女の冒険者。
ンフィーレアのタレント。
森の賢王。
漆黒の剣。
これまでの経緯を軽く流した後、本題の2人についての話となった。
「男の方は記憶を魔法で弄り、女の記憶を消した上でエ・ランテルへの攻撃の準備を整えさせている。冒険者ブラッドの名声の足がかりになってもらう予定だ。」
「…そうか。今回はそちらから対処すべきか…」
「何か不備でもあったか?」
「いや、その判断は適切だ。が、タイミングがなあ…」
なにか悩んでいる様子のモモンガさん。
オレは面倒事に巻き込まれる前に、続けてクレマンティーヌの事情も報告する。
「女の方は随分と複雑な事情があるようでな。どうやら出身はスレイン法国で、そこからとあるアイテムを盗んでこの国へと逃亡しているようだ。今回の事件に関わっているのは、大きな事件を起こす事で少しでも足跡を消して追っ手を撒いくのが目的のようだ。」
スレイン法国。
クレマンティーヌの出身国だと思われる国。
レベル30前後程度のクレマンティーヌをもってしても逃亡の困難な国。
クレマンティーヌ然り、他の国と比べかなりの力を持っていると考えられる。
「ふむ。それで、そのアイテムというのは?」
「これだ。」
オレは異空間から叡者の額冠を取り出す。
見た目はただの綺麗な装飾の付いた白銀の髪飾りだ。
「これは叡者の額冠。装備主を物言わぬ人形にすることで、人知を超えた魔法を行使することができるようになる。…と言っても、せいぜいが第6位階までだと思うがな。」
「これは興味深い。ユグドラシルでは再現不可能なアイテムか。」
「オレが持っていてもしょうがない。使うことはないだろうが、アインズさんに預けても良いか?」
「そうだな。私が受け取ろう。」
「頼んだ。どうやらこの世界は、低レベルの者しかいないというわけではないようだ。」
ユグドラシルでは有り得ない効果を持つアイテム。
つまり、この世界で創造されたということだ。
こんな低レベルの世界でこんなアイテムが作れるとは、優秀な魔法技師がいるのか。
───あるいは、元ユグドラシルプレイヤーが作り出したのか。
何らかのアイテムで、それこそ
「きるゆー様。そのような者へ不用意に接するのは危険だったのでは?」
「…確かにそうだった。すまないな。」
「!私どもにとって、御方々の安全が何よりの幸せです。わかって下されば、これ以上のことはありません。」
アルベドが本当に心配そうな声を出したため、つい謝ってしまった。
だが、言われてみれば少し危険な真似をしていたかもしれない。
あの時はつい感情に任せて事を進めてしまっていたが、ルプーもいなかった。
オレはこの世界を甘く見ていた。たかが低レベルと侮り油断して攻撃も受けた。
情けない。本当に情けない。
「ところで、きるゆー様。アインズ様。先程から気になっていたのですが…」
「何だ?」
アルベドは口を開け、しかし言葉にする事を躊躇った。
オレたち2人を見て、何やら迷っているようだ。
…アルベドが気になっている、聞くのを躊躇うような気になっている事とは。
転移してまだ数日だと言うのにNPC達に知られたくない事が沢山出来ているオレの背中に、冷や汗が流れる。
例の村娘と性交された理由をお教え下さいとか言われたら…
「アルベド。お前の知恵には期待している。例えどのような小さな疑問でも口に出して欲しい。」
「あ、ありがとう…ございます…くふっ、くふふっ…」
オレの焦りを知ってか知らずか、モモンガさんは話の先を促した。
アルベドは上がる口端を抑えてはいるものの、しかし不気味とも取れる笑い声が漏れている。
わ、笑ってる…何聞かれるんだ?コワイ…
「御二方は、どうして口調を崩されていないのでしょうか?」
しかしアルベドが口にしたのは、オレの全く予想出来ていないものだった。
あまりにも死角から飛んできた質問に、一瞬脳が活動を停止させた。
「な、何で、そんな事…」
「ここには、私以外の階層守護者やプレアデス、メイドがおりません。普段のお言葉遣いをなされないのには、何か事情があるのでしょうか…?」
お前がいるからだよ!…と叫ぶわけにはいかず、オレもモモンガさんも返答に困ってしまった。
というより、状況についていけていなかった。
やっと感情抑制のスキルが発動して冷静になってきたが…
「あー。コホン。アルベドよ。普段の言葉遣いとは何の事かな?」
「はい。お二人で会話されている時の、砕けた話し言葉の事でございます。」
先に復活したモモンガさんの白々しい質問に、アルベドは的確に答えた。
アルベドには、オレたち2人が支配者ロールをしていた事がバレていた。
「恐れながら、私はお2人が我々の為に無理をなさって演技をされている事を理解しております。」
「…」
オレは背筋を凍らせた。
モモンガさんは頭に手を置いて天を仰いだ。
初めから看破されていたのだ。
その上で、踊ってくれていただけとは。
なんて滑稽なんだ…