第4話
噛み切った肌の奥から、ゆっくりとどろりとした鉄分がじんわりと出てきた。
その傷口に、オレは夢中になって吸い付いた。
喉の奥へ血が流れ落ちていく。
瞬間、何かが頭の中を駆け巡った。
3Dグラを作っているタブラ・スマラグディナさん。
アルベドを守護者統括として設定したギルメン達。
こちらをいやらしい目線で見つめるペロロンチーノさん。
この走馬灯のような記憶の濁流は、楽しかった思い出から寂しいものへと段々変わっていった。
最後に、一言別れを言ってからは戻ってくることのなかったタブラさん。
ギルドメンバーが去り、暗い玉座の間で待機させられる守護者達NPC。
1人、玉座の間に座るモモンガさん。
最後に見たのは、モモンガさんがアルベドコンソールを操作している場面だった。
モモンガさんは、設定文の最後に書かれていた、ビッチであるという文を削除した。
そして、ギルメンがログインしたことを知らせる効果音が鳴り、オレが現れた。
────まさか、これはアルベドの記憶…?
走馬灯が終わり、オレの意識はアルベドに噛み付いているところまで戻っていた。
ちゅうちゅう。ちゅうちゅう。と、いやらしく啜る。
吸い上げる度、舌先に甘美な味わいを覚える。ああ、美味しい…
これを続けていると、段々と吸血衝動がおさまってきた。
「はぁっ…う、ふぅん…はぁっ…♡と、とても…気持ちが良いですぅ…♡きるゆー様ァ…!」
オレは、このままずっと味わっていたい衝動に駆られる。
が、すぐ隣で発せられたアルベドらしきものの声で我に帰った。
「って、オレは何を…!」
ちゅぽん!と音を響かせて、オレはアルベドから離れた。
舌先に残る甘い味を残念に思ってしまう。
…いやいや!オレはなんて事を…
っていうか、その前にハラスメントに厳しいユグドラシルが、R18行為を容認している。
これは…一体どういう事だ…
「はぁ…はぁ…き、きるゆー様ぁ…もっと、吸血してください…」
それはもう、アルベドの顔はかなりの愉悦に歪んでいた。
その顔は、多くの男が引いてしまっても仕方がないようなものだった。
だが、オレはそんなアルベドにも興奮を覚えた。
「あぁ!きるゆー様ぁ…♡これからベッドにでもどうですかぁ…?」
「…いや。多少落ち着いた。」
フラフラと鳴りながらも、オレはアルベドをやんわりと拒絶する。
というか、何なんだ、この状況は…
「あの…きるゆーさん…?」
「あぁ…悪い…多分
「吸血衝動」
スキル、吸血。吸血時のダメージ力の幾らかのHPを回復する。
吸血衝動は、吸血の際にMPも回復するようになり、更にその回復量の割合を上昇させる。
…設定テキストには、吸血力の上昇と引き換えに、自分の気に入った者の血を吸う衝動に駆られる。と書かれている。
だが…
「吸血衝動って、スキルのですか?」
「多分…というか、絶対そうだ。じゃないと、こんなの説明がつかない。」
肩に噛み付くなんて、吸血衝動じゃなければゾンビだ。オレはゾンビになったのか?
「あの…何か問題がございましたか?」
「…GMコールが効かないようだ。」
「!…お許しを。無知な私には、GMコールというものに心当たりがございません…」
アルベドは心底申し訳なさそうに答える。
アルベドが動いている。アルベドがしゃべっている。
NPCが、勝手に動いて、勝手に喋って…
「?」
「?」
オレとモモンガさんは再び顔を見合わせる。
なんじゃこりゃ?
「セバス!」
「は。」
オレが混乱しているうちに、モモンガさんが行動し始める。
え、セバスが答えた!え、アルベド以外のNPCも喋っとる…
「大墳墓を出て、ナザリックの周辺地理を確認せよ。」
「…かしこまりました。」
「プレアデス達は9階層に上がり、侵入者の警戒にあたれ。」
「かしこまりました。」
え、え、え、え???
何でモモンガさんはこの状況に順応してるん???
オレが混乱しているうちに、セバスとプレアデスは出ていってしまう。
え、ナニコレ…
「では、私はどういたしましょうか。」
「アルベド。そうだな…第四、第八を除く各階層の守護者に6階層の闘技場まで来るように伝えよ。時間は、今から一時間後だ。」
「かしこまりました、モモンガ様。」
腰から生えた羽をぴょこぴょこと動かしながら、アルベドも出て行く。
後ろ姿エロいな。特に、女性的なラインを出しているお尻…
「っく!…また…」
オレは、再び湧き出した吸血衝動に、口を押さえて抵抗する。
「…大丈夫ですか?きるゆーさん。」
「はい、まあ…ちょっと危なかったですが…」
最後の最後まで、時間までナザリックにいたい。
そんな、ほんの軽い気持ちだった。
オレ達は、そしてナザリックは、ユグドラシルは。
どうなってしまったんだろうか。
スキルとその設定は適当に考えました