第41話
1言だけ言い残すとしたら、エンリは吸血鬼ではなくサキュバスだった。
だとしても朝まで元気におせっせとは一体どういう了見なんだ。
おかげでもう日が昇ってしまっている。
エモット家の目の前に転移した頃にはオレの体力はレッドゲージだ。
そんなことを知ったか知らずか、エンリは扉を開け放った。
「おねーちゃん!どこに行ってたの?」
「き…じゃなくて、ブラッド様と少しお話があって…」
「ブラッド様?」
続いてオレが扉から顔を出すと、ネムがキラキラした表情でオレを見上げていた。
そして次の瞬間には突撃攻撃に入っていた。オレは少し屈んでネムの抱擁を受け止める。
オレはピンチだったHPバーがぐんぐんと回復していく幻影を見た。
どうやらネムの物理攻撃には相手を回復させる効果があるらしい。タレントかな?
くっついているネムをそのまま肩に抱え上げて、オレは家の中に足を踏み入れる。
(朝までしっぽり…若いって良いわね…)
オーマは少しそわそわしているように見えるが、まさか起きてたってことはないよな?
それとも、細心の注意は払ったはずのシーツに何か散っていたのか、朝帰りの娘を見て動揺しただけかもしれない。
何にせよ、オレ達が何をやっていたかなど彼女には筒抜けのようだ。
幸いと言っていいのか、エンリは何も感じていないようなのでこのままスルーさせてもらおう。
「ブラッド様はご飯を食べて行かれるんですか?」
「そうだな…オーマ。今からでもオレの分の朝食も作れそうか?」
オレは頭にへばりつくネムを軽く撫で、椅子の上に下ろして、自らもその隣の椅子へと腰掛けた。
舌ったらずな口で綺麗な敬語を使うじゃないか。
可愛いなあ。本当に可愛いなあお前は。
「はい。まだ始めたばかりなので大丈夫ですよ。」
「じゃあ頼めるか。」
普通の返答だ。どうやら何か突っ込む気はないらしい。
突っ込むのは男の仕事だ。
「わかりました。では、美味しいものを作りますね。」
「期待してる。」
「私も作るよ!楽しみにしててねっ!」
「お、おう…」
オレの座っていた椅子をよじ登って、背中から顔を出したネム。
お前さっきまで隣に座ってなかったか?いつの間に…
「こら、ネム!行儀の悪いことしないの。」
「はぁい」
しかしこの行為はエンリ的にはアウトだったようだ。
ネムは渋々といった様子で椅子を降りる。
もし椅子が壊れでもしたら危ないからな。
「ネム〜。ご飯作るならおいで。」
「はぁい!」
オーマの呼びかけとともにネムがオレの元を離れてトコトコと走っていく。
ああ、ネム…行かないで。帰っておいで…
「出来上がるまでに暫くかかるので、ブラッド様は村を散歩なされるのはどうでしょうか。エンリも一緒に。ね?」
オーマは台所から顔だけ振り向き、エンリへとバッチリとウインクを飛ばした。
くそ、あまりにも綺麗だ。こんなん惚れてまうやろ!と叫びたくなってしまった。
「あの、さっきはネムがすみません。普段はとても良い子なんですけど…」
「いや…子供は元気なのが一番だ。」
結局オレたちは家から追い出された。
朝食なんてそんなにかからないだろうから軽く一周したら充分な時間だろう。
寝てないこともあって日差しがやけに眩しい。
オレは高位の
「お父さんがいなくなっってから、ネムは我儘をあまり言わないようになったんです。でも、ブラッド様が来た時には少し…もしかすると、お父さんの代わりに甘えているのかもしれません。」
「父の代わりか…ま、それも悪くはないな。」
ネムのような娘なら何人いても良い。
オーマと結婚すればネムは娘になるが、エンリと結婚したらネムは義妹か…
妹か。妹も良いな。お兄ちゃん呼びのネムは破滅的な可愛さとなってしまうだろう。
いや、義妹は義妹でもそういう義妹ではないが。
「す、すみません…ブラッド様の前でこんな事。もう、忘れようとはしているんですが…」
「…いや。忘れるな。そんなことはオレが許さん。」
「え?」
「お前達を生んだ親の記憶だろう。大切に取っておけ。」
エンリはぽかんとした表情でオレを見上げた。
なんでそんなに驚いているんだ。そんなに意外な事か?
思い出す度に悲しいなら、忘れてしまった方がいい事もある。
だが、人間の死は簡単に忘れて良いものではない。
どこかで、人間は2度死ぬと聞いたことがある。
1度目は肉体が死んだ時で、2度目は誰からも存在を忘れ去られた時だ。
思い出す人間がいるのなら、そいつはまだ死んでいない。
オレの背中に、この胸に、1つになって生き続ける。
……あれ?
「オレは、お前の親が命を張って騎士を引き付けエンリとネムの逃げる時間を稼いでいた事を知っている。
そのおかげでオレはエンリ達が殺される前に間に合った。
そんな男を尊敬こそすれ、忘れろなんて言うはずがないだろう。」
オーマの記憶を覗いた事で情が移った所為もある。
これもマッチポンプの一種になるのだろうか。
オレがエンリの父親を生き返らせていたら、どうなっていたのだろうか。
親のことを思い出させてしまった所為か、沈んだエンリの頭を抱きかかえた。
早朝ということもあり、目に見える範囲に人がいないから助かる。
「お前の父は立派な男だ。オレの勝手な都合で助けられなくて悪かったな。」
「…」
エンリがオレを恨んでいる事実はない。寧ろ母だけでも生き返らせた事に心より感謝をしている。
が、それは全てを納得したという事ではない。オレはエンリの後頭部を乱雑に撫でた。
「エンリの姐さん!」
誰だ、オレとエンリの会話に水を差すのは!
……なんだ、角笛でエンリが呼び出したゴブリン達か。
エンリの記憶によると、彼らはよく働いているようだ。
働きは良いのだが、どうやらエンリを憧れの対象として見ているようなのだ。
「おっと…お邪魔でしたか?」
「いや。そんな事はない。」
ゴブリンに見られるのを嫌ってか、エンリはパパッと離れていってしまった。
オレが抱いた所為で出来てしまった髪の乱れを直すその顔は少しばかり赤い。
「お前達はよく働いているそうだな。礼を言おう。ありがとう、ジュゲム。」
「あの…そのゴブリンさんはゴコウさんですけど…」
エンリの記憶で、彼ら全員の名前を聞いたことはあるのだが。
カイジャリが顔に大きな傷がある奴で、コナーが骨付きの奴。ウンライがアフロのゴブリン。
ここまでは良い。しかし特徴の無い普通のゴブリンの違いはオレには見分けがつかない。
正直覚える必要もないと思うためあやふやな奴は適当に呼んでいる。
ただ本人達は間違えたところで誰も訂正してこないので覚える事も出来ない。
「おっと、すまないゴコウ。お前達のおかげでこの村は助かっている。」
「いえ…」
まともに言葉を発せないジュゲム改めゴコウに近づき、エンリに聞こえない声量で呟く。
「ただエンリに指一本でも手を出してみろ。喉を縊り潰して引き千切り体はチリすら残さずに消し飛ばして頭はギルドに討伐証明部位を提出してやる。わかったな?」
これだけは譲れない。ゴブリン共にはきっちりと釘を刺しておく。
こっちの世界のゴブリンは知能や理性があり言葉も喋ることが出来る。
それはわかっているのだが、色々な漫画で大活躍のイメージを覆すのは難しい。
不安になって少し脅してしまっても仕方がない事だ。うん。
「その事を肝に命じて、これからも頑張ってくれたまえ。褒美代わりと言ってはなんだが、何か必要なものがあればマリーを通じて遠慮なく提案して欲しい。便宜を図ろう。」
汗を流して動けなくもなってしまったゴブリンに、少し言い過ぎたかと労をねぎらってやる。
大きなことはできないが、肉や服、防具といった物資の斡旋くらいならいくらでもやってやろう。
「あの…何を話されていたんですか?」
「物資の相談だ。不足なものがあればマリーに頼んでくれ。」
様子のおかしいゴブリンに、心優しいエンリは不安になったようだ。
嘘は言っていない。嘘はな。
赤さ他さま。高評価ありがとうございました!
今回でがっこうぐらしの文字数を超えましたね。
他の作品も書きたい。時間が足りない…頑張れ。
1番期待しているのは誰?(別に出すとは言ってない)
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エンリ(正妻)
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ルプスレギナ
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マリー
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その他プレイアデス
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ヒルマ(麻薬部門長)
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踊るシミターちゃん(六腕)
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ツアレ・ニニャ
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ラナー
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青薔薇
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クレマンティーヌ再登場