アルベドが退室して、NPC達がいなくなったところでオレ達はほっと息を吐き出した。
「一体、何なんですかね、これ…」
「わかりません。でも、しばらくはここから出られないのは確定みたいですね。」
「そうですね…ああ、僕明日早いんですよ…」
「オレもです。」
「…さっきから何で敬語なんですか?」
「あ、いや、その…さっきのプレアデス達に対するモモンガさんの威厳に当てられてさあ…」
オレは頭を掻きながら苦笑いする。
NPC達に、まさにナザリックの支配者然とした態度で接しているモモンガさん。
あんな姿を見て、気安く接せるほどオレの心は強くなかった。情けない事だが…
だが、指摘されてしまった以上戻す他ないか。
「もしかしたら…ゲームの世界が現実になった、とか…?」
「はは、まさかあ…」
「ですよね。そんなまさか…」
「「…」」
出ないコンソール。効かないGMコール。
コマンドで動く事しかできなかったNPCが動き、喋り出した事。
表情、そしてしゃべる言葉に合わせて口が動いている事。
更には、先程のアルベドへの吸血衝動により溢れ出した情欲。
どう考えても、そうとしか考えられないんだよな。
「ところで、よくあんな冷静で居られたな、モモンガさん。」
「これは…何というか。慌てるとすぐに気持ちが落ち着くんですよ。きっと、きるゆーさんと同じでユグドラシルのスキルが発動しているんだと思います。」
「なるほど。精神作用無効化か…あれ?じゃあ何でオレには発動しないんだ?」
「?さあ…吸血衝動のスキルで上書きされてるとか、ですかね?」
「なるほど…」
いまいち腑に落ちないながらも、オレは無理矢理納得した。
「っていうか、モモンガさん。アルベドの設定、消したのビッチっていう設定ですよね?」
「えっ!?!?えっ!?」
「吸血でアルベドから記憶を吸い出せました。モモンガさんはアルベドみたいな子が好みだったんですかぁ??」
「ちょっ!ちっ、ちがっ!あ、あれは!あのままだとかわいそうだと思って…!」
「はいはい、わかったわかった。」
「違うんですよ、きるゆーさん!」
え?墓まで持っていった、ってのはなんだったんだって?
馬鹿だなあ、ここは
「わかりましたから。今は現状を考えましょう。」
「そのニヤニヤ顔は絶対わかってない顔ですよね!?」
何せ、こんな小さな事でうだうだいってられない程大きなことが起きてしまっているのだ。
モモンガさんが階層支配者達を呼んだのは一時間後。
こんな無駄話で時間を潰している暇はないのだ。かっこわらい。
「まだ状況が掴めませんが…ゲームが現実のようになって、スキルが勝手に発動する。…ここまでは確定で良いですかね。」
「そうみたいだな。本当の現実になったのかは一考の余地ありだが…にしても、小説みたいな話だな。」
「ですね…」
オレ達は2人で考え込んだ。
骸骨が唸ってるのビジュアル的に面白いな。
「本当にユグドラシルが現実になって、それからゲームから出られなかったとすると…オレ達は、NPC達にどう接していけばいいと思う?」
「それは…ギルメンとして、NPCの上に立つものとして、それ相応の態度をとるべきだと思います。」
「…だよなあ。オレ、ただの平社員なんだけど…」
「私もですよ。」
2人は頭を抱えて悩み始めた。
つまりはロールプレイ、って事だよな…
第六階層。
双子のダークエルフが管理する闘技場。
そこには、ヴィクティムとガルガンチュアを除く全ての階層守護者が揃っていた。
彼らは皆膝をつき、こうべを垂れていた。
「面を上げよ。」
サッ!と訓練された衛兵のように統率のとれた動きで顔を上げる階層守護者達。
モモンガさん、絶望のオーラ出てますよ…
お漏ーラしてますよ、モモンガさん。モモンガさーん?
全然引っ込めないことから、もう垂れ流し続けることに決めたのだろう。
んじゃオレも、という形で絶望のオーラをレベルIVで発動させる。
ギルド長のモモンガさんはVだったため、少し身を引いての判断だ。
これ、中位程度のレベルならオーラを感じただけで即死するぞ…
「よく集まってくれたな。感謝しよう。」
「感謝など勿体ない!我ら、モモンガ様、きるゆー様にこの身を捧げた者たち。ご命令に従える事が何よりの喜びでございます。」
な、なんなんだ、この圧は…信頼が、責任が重い…
オレは、モモンガさんとNPCたちとの会話を聞きながら、遠い目をしていた。
話はモモンガさんが進めることとなった。この人、魔王ロールとか得意そうだし。
ギルド長ということで、NPC達に対する対話を全て押し付けた。
…っていうか、ナザリックの外が草原って…
ここ、ユグドラシルでもないのかよ…どこだよ…
ユグドラシルが現実になったというより、ナザリックが異世界に転移した、という考え方の方が近そうだ。
え?オレ達への評価を聞くんですか?ちょ、勘弁してくださいよ、モモンガさん…
え?美麗美丈夫?え?至高の、何だって?え?端倪すべかろかれられる…ハァ?なんて言ったの!?
…あ、なんか落ち着いてきた。これが精神作用無効のスキルか…
「最後に、きるゆーさんからお前達に伝えたい事があるようなのだ。」
モモンガさんが、オレへ前へ出るように促す。
これは、オレが事前にモモンガさんへお願いしていたことだ。
オレには、守護者各員にどうしても言わなければならない事があった。
「すいまっせんでっした!!!!!」
とりあえず、DOGEZA!DA!
オレが勢い良く頭と膝を地面に付けると、守護者達がどよめいた。
ああ、地面が土だから手が痛い…
「オレは一度ナザリックを見捨てた身。こんな事を言える立場ではないかもしれないが…」
「こんなオレを、どうかナザリックで再び活動する事を許してもらえないだろうか!!」
心の底から叫んだ。
ここで断られたら、オレはこんなわけのわからない世界で1人で生きていかなければならなくなる…
まあ、先の発言を聞くにそんなことはないとは思うが…これは
「あっあああああ頭をお上げください!!!」
「オ止メクダサイ!キルユー様!!」
「えっと、えっと!き、きるゆー様は何も悪くないです…!」
「私たちにとってはお帰りなされた事だけで至上の喜びでございます!!」
「そんな!きるゆー様が謝るような事では!!」
「それも見放されるような私どもが悪いんです!!」
うるせ!うるせえな!!一度に全員が叫ぶな!
それもそれぞれ別のことを喋るから何を言ってるのかわからん!!
「…許してくれるか。お前たち…」
オレは、きっと許してくれているのだろうと判断して顔を上げた。
何も聞こえなかったため、全員が全員罵詈雑言を履いているという可能性もあったが…
「勿論でございます!きるゆー様に悪いところなどございません!」
「ああっ!きるゆー様にそのような姿勢を取らせてしまうなど…我が人生一生の不覚です…!」
「申し訳ございません、きるゆー様ぁ…!」
だぁかぁらぁ!一度に喋るなって…
ただ、今度は何となく聞き取れた。怒っている様子ではなさそうだ。
というか、シャルティアちゃんに至っては涙を流していた。
こんな事で泣くなよ…
オレはシャルティアちゃんの瞳に溜まった雫を、指先で拭ってやる。
「大切なお前を泣かせてしまった。すまないな。」
「…っ!っ!…はふぅ…♡」
シャルティアちゃんはオレに触れられ、恍惚とした吐息を漏らす。その表情は、まるで恋する乙女。
もうなんなの…
「…お前たち。そのくらいにしておいてくれないか。きるゆーさんと今後のことに関する大切な話をしなければならない。」
オレが困惑していることを察してか、モモンガさんが助け舟を出してくれた。
こんな状況にしたのはオレなのに、悪いのが階層守護者たちみたいになっとる…ごめんなお前たち…
「お前たちの気持ちは受け取った。これからは、ナザリックへ。そしてモモンガさんへ絶対の忠義を誓おう。」
「きるゆーさん。そろそろ…」
「わかった。」
オレは影の眷属をこの場に残し、モモンガさんと転移でこの場を後にした。
視覚共有、聴覚共有、場所把握などなど出来ることは多岐にわたる。
しかも空気に溶け込み実体を持たないため、気づかれにくい。
眷属を残したのは、オレたちがいなくなった後のNPCの言動を監視してその忠誠が本物かどうか確認するためだ。
「でも、土下座はやりすぎたっぽいな…」
「当たり前ですよ。あれ、どう見ても
確かに、オレから見ても階層守護者のギルメンに対する忠義は本物だったように見えた。
が、本当かどうかは未だ分からないだろう。
オレたちがいる場で謀反を企てる馬鹿はいないからだ。
「ちなみに、眷属を残して彼女らを監視してる。色々と言っているようだけど、忠誠心は本物っぽいな。」
「へえ…そういえば、きるゆーさんは潜伏とか暗躍が得意でしたね。それで、どんな話をしてるんですか?」
「あー、今はシャルティアちゃんとアルベドが喧嘩してますね。」
「喧嘩って…大丈夫なんですか!?」
「ああ、まあ…平和的なものだよ。下着が濡れたか濡れてないか、っていうのが最初の火種だから…」
「ペロロンチーノさん…」
モモンガさんもなんとなく察してしまったようだ。