転移した瞬間、騎士が村娘に斬りかかろうとしているのを見つけた。
「
ぐしゃり、と、手の中で柔らかな心臓を握りつぶすような感触を感じた。
と同時、片方の騎士の心臓が押し潰れた。
「ぶぺぁっ!?」
奇声を発しながら、その男は死に絶えた。
口から大量の血液を吐き出しているため、血の水たまりができている。汚ねえな…
この程度で死ぬとは…なんだ、即死耐性も持っていないただの雑魚じゃないか。
「た、助け…」
オレが何かしたのを感じ取ったのか、もう1人の騎士は尻餅をついて命乞いを始めた。
無様だ。無様すぎる。同じ男とは思いたくないな…
「はぁ?お前はそう言っていた奴を助けたのか?」
「ひ、ひぃ…」
オレが許す気がないことを悟ったのか、男は腰を抜かしながらもジタバタ暴れ始める。
這いずって逃げるつもりなのだろうが、鎧が重くてうまくいかないようだ。
「はぁ…本当に無様だな」
そんな姿に更に失望し、オレは軽く手を横薙ぎに振るった。
バシャ!
その騎士は、一瞬にして体を切断させて死に絶えた。
眷属の攻撃ですら一撃か。これは相当レベルが低いように見えるな。
オレは我が物顔で人を殺し回る騎士達を虐殺できることに喜びを覚えた。
オレのカルマ値は−100。
人を殺して回る悪人とはいえ、人を殺しても罪悪感が生まれるどころか、もっと殺したいとも思ってしまう。
気に入らない人間ならば何人殺しても心が痛むことはない。
「あ、あの…!助けていただき、ありがとうございました…!」
「あ、ありがとうございました!」
オレが考察をしていると、件の女の子がオレへ向かって話しかける。
その隣には、その女の子が庇っていた2回りほど小さな女の子。
今までよく見ていなかったが、なかなかどうして可愛い顔立ちをしている。
村娘らしく適度に焼けた肌に、それなりに手入れされ結われた髪。少し古臭い衣服。
「ゔっ…!」
人間の頃と比べて何倍、下手したら何十倍も鋭敏になった鼻が血の匂いを感じ取り、途端に抑えられなくなった吸血衝動に、オレは蹲り口を押さえる。
クソ…吸血衝動のことを全く考慮に入れてなかった…
今吸血するわけにはいかない。してしまったら、オレはあの騎士と変わらない。
「大丈夫ですか!?」
女の子が、斬られて痛む背中を気遣いながらもこちらへ近づく。
いや、近づくな。大丈夫じゃないのはお前のせいなんだ…
と言いたいが、それはこの子の傷を癒してからだ。
背中に一文字の傷があるそのままでいるのは辛いだろう。
「…少し気分が悪い。あの騎士のうちのどちらかが、精神作用系の魔法を使ったのかもしれない…」
吸血衝動をサラッとこの世にいない他人に押し付け、適当な嘘を並べる。
女の子はそんな!と悲しい顔を見せてくれた。
見ず知らずのオレの心配をしてくれるのか。可愛い上に優しい。天使か。
「お兄ちゃん、いたいの?」
うへえ、幼女か…子供もいなかったオレには扱い方がわからないぞ…
撫でてればいいのかな?いや、通報されたくないからやめておこう。
「…いや、大丈夫だ。心配してくれてありがとうな。」
意識を強く持ち、口から手を離す。
鼻腔をくすぐる美味しそうな匂いをできる限り無視して、勤めて笑顔で答える。
早く止血してやらないとマズいな。失血量的にも、オレの心情的にも。
オレはアイテムボックスから
「これで回復するといい。」
「これは…?」
うーん、この世界にはポーションがないのか?
異世界モノといえばファンタジー、というオレの考えは早計だったか。
「これはポーションといって、飲めば体の自然治癒力を…」
「ポーション?こんな色のポーション、見たことない…」
いや、あるのかよ。
まあ確かに、違う世界のポーションが、ユグドラシルのポーションと全く同じとは限らないか。
「これは秘密裏に作られた特殊なポーションだ。色は違っても効果は期待して良い。」
「ありがとうございます…んくっ…」
ずっと辛そうにしていたこともあって、そう言うと女の子はぐいっとポーションを呷る。
すると瞬く間に背中の傷が塞がり、服の亀裂だけが残った。
「うそ、すごい…」
なにやら驚いているが、ここでじっとしているわけにもいかない。
今もなお、村の中では大虐殺が行われているのだから。
「…お待たせしました、きるゆー様。」
マリー・ドールマ・イータ。オレの作り出した、最高傑作と言っていい愛しの娘。
金の長髪が腰まで伸びていて、右目は前髪で隠れている。
とても長いまつ毛の下にある瞳は閉じられた糸目で、自分では開けることができない。
開けたところで中には眼球に模した球が入っているだけだ。
体は関節人形のような見た目をしていて、関節はボールでできている。
見た目通り、木人形に命を吹き込まれた人形娘だ。
…と言っても、今はゆったりとしたローブにガントレットを装備しているため、可愛い関節は見えないが。
オートマトンだとバレない方が動きやすいと言うモモンガさんの配慮だろう。
「マリー。状況は聞いているな?」
「はい。できるだけたくさんの人を助けましょう!」
マリーのカルマ値は驚異の+300
悪のギルドとして名高いアインズ・ウール・ゴウンのマイナス勢の多い中、正義感の強いたっち・みーさんの作ったセバスと同じ高さだ。
マリーは助けられるなら助けたい、という純真な女の子として設定した。
代わりに、色々と不憫な子なのだが…その話は後々。
「マリー。その子たちはオレが助けた村の住民だ。しっかりと守ってやってくれ。」
「わかりました。」
マリーは糸目のまま、嬉しそうに微笑んだ。
さて、正義の味方ごっこの時間だ。