目についた騎士を、片っ端から殺し回る。
小さな女の子の方は、マリーが手で目を隠していた。
「ひいっ!た、助け、たしゅけ…」
「黙れ。」
グチャ!
霧の眷属が、騎士の体を鎧ごと引き裂いた。
やはり、この騎士は手を振り払うだけで死んでしまう。
レベルで言うと1桁より上のものはいないようだ。
「全く。この程度の力で大きい顔をしているとはな。」
イラつくな。本当にイラつくぜ。
どんな理由があるのかは知らないが、こんなに
…って、違う違う。まったく、吸血鬼のスキルのせいで思考がおかしくなってきている。
「あの。きるゆー様は旅の方なのですか…?」
「…そんなところだ。」
様かあ…良いなあ。
主従プレイみたいで。
…いや、待て待て。名前を知られるのまずくないか?
ユグドラシルからこの世界に来たのがナザリックのメンバーだけとは限らない。
ギルド、アインズ・ウール・ゴウンはユグドラシルでは悪名高いギルドだった。
もしこの世界に他勢力が転移していたとしたら、オレ達のことを敵視されてもおかしくはない。
特に、きるゆーの名前は、他ギルドに密偵や偵察を行うアサシンとして嫌われまくっていたからな…
「…特殊な事情があって名前を言うわけにはいかないんだ。悪いが、オレの名前は忘れてくれないか?」
「そうですか…」
そんな悲しい顔をするな。
オレがいたいけな村娘をいじめているみたいじゃないか。
「それでは、オレのことはブラッドで頼む。」
「はい。ブラッド様!」
「ところで、お前達の名前を教えてくれないか?」
「私はエンリです。エンリ・エモットです。」
「ネムだよ!」
ああ。可愛いな、くそ。
マズイな、今すぐにでも血を吸いたい…
「すみません。私が不用意に名前を呼んでしまったばかりに…」
「お前が謝る必要はない。マリー。」
「ですが…」
「もう良い。謝るな。お前は悪くない。」
「…はい。」
2人の側についているマリーが深々と頭を下げる。
それをオレはやめさせる。別にマリーの失態じゃない。
オレの考えが浅かっただけだ。
「ふむ?村人が一箇所に集められているな。」
騎士を殺して殺して、殺して殺して。
そして村の中心部分に近づくと、生き残った村人を囲うように騎士が立っていた。
はて、何をしているのやら…
「マリー。お前は2人と共に物陰へ隠れていろ。」
「はい。」
オレは無駄にややこしくしてしまわないよう、マリーへと指示を飛ばした。
考えにくいがもし強者がいたとしても、村人を連れて出て行くよりは戦いやすいだろう。
…が、エンリ・エモットが呼び止める。
「あの!」
「…何だ?」
「お気をつけて。」
「ありがとう。」
あーーーーーいじらしい!可愛いなあ…
決めた。この村救ったお礼に血を吸わせてもらおう。
そのためにも、恩義を尽くしたくなるような働きを見せないとな。
「ん?何だ貴様…ぐおぉお!?」
オレに気づいた瞬間、命を散らす騎士。
ああ、かわいそうに。
「ひ、ひい…っ」
「この男は何だ!?」
「触れずに殺したのか…」
「この男を捕らえよ!」
「貴様何者だ!」
それぞれ警戒しながら武器を構える騎士達。
正義ごっこのロール、うまく振る舞えるだろうか。
「お前のその愚かな疑問に答えてやろう。我が名は
少し大仰に手振りを交え、騎士達に貴方方の敵ですよと伝える。
「…そして、私の目的は、お前達を殺すことだと知れ。」
「か、金をやる!!金貨200…いや!500でどうだ!?」
「そんな物に釣られるなど…いや、ふむ。待てよ?」
オレは少し考える。
金か。そう言えば、オレ達はこの世界の金を持っていない。
ここで資金を調達するのも悪くない選択か…?
「そんな…」
村人達が青ざめる。うん、でもまあお前たちを見捨てる気はないが。
「だ、そうだがお前達。それ以上の金を報酬として出せるか?」
「…すみません、それほどの蓄えはこの村には…」
「そうか…」
「ですが!!助けて頂けた時には、村人皆貴方様に忠誠を誓います!どうか!どうかお願いします!!せめて妻だけでも…!!」
「うるせえぞジジイ!」
まくし立てる村人(話からして多分村長?)に蹴りを入れる騎士。
ま、こいつに温情をかけられたら君たち死ぬもんな。
『きるゆー様…』
マリーから
安心しろ。別に助けないわけじゃねえよ。
オレは、ひとまず蹴りを入れた騎士へ右指を銃の形にして向ける。そして…
「ばん。」
ぐちゃ!
銃の反動を受けた仕草をすると、その騎士は頭を潰され死に至った。
空気に溶けている霧の眷属は、こちらの意思を読み取って勝手に攻撃してくれる。
後でコウモリに戻して褒めてやろう。
「その行動は不快だ。…残念だったな、騎士たちよ。お前たちはオレの機嫌を損ねてしまったようだ。」
「き…貴様ら!奴を抑えろ!!俺の逃げる時間を稼げ!!!」
オレが再び敵に回ったことを察知した男…きっとこの騎士の隊長が叫ぶ。
うるせえ奴だな。オレは、そいつへと手を向ける。
遠距離の攻撃しか見せていないオレを足止めとは、笑えるな。
「ひ、ひい!わかった!金をやる!!金貨1000枚でどうだ!?許して頂けないだろうか!!!」
「ああ、いいぞ。」
「ほ、本当ですか…!」
一筋の希望が見えた、とばかりに表情があからさまに変わる騎士。
「だが、1000では駄目だ。お前が金を借りてでもすぐに払えるだけ全ての金。そしてこの村へ今後一切関わらないこと。それで手を打とう。」
「そっ、それは…」
「ああ、そうか。今すぐに死にたいのか。すまないな、気がつかなくて。」
「わかった!わかった!!それでいい!それでいい!!」
面白いなコイツ。オレが脅すとすぐに手のひらを返す。
ま、最初から何人かは生きて返すつもりだった。
この村に手を出せばタダじゃ済まないぞ、と伝えるためにな。
「では、お前には眷属を付けておく。嘘をつくなよ。お前が少しでも約束を違えた瞬間、お前を喰い殺す。」
「は、はい…」
「準備ができたらそいつに話しかけろ。すぐに飛んでいくからな。」
オレは新たにコウモリを生み出し、その男の肩に取り憑かせた。
コイツがいれば、眷属を仲介してその場の映像を見たり会話ができる。
「では、そこの男以外で助かりたい者はいるか?」
はあ?何驚いてるんだよ。コイツの金で助けるのはコイツだけだから。
…お金のせいで正義の味方ロールは無理だったよ…
「助けていただき、ありがとうございました…」
相手の資金を限界まで搾り取るオレに、少し恐れているかのような態度を取る村長。
せっかく救ってやったのに、そんなにそわそわしないでくれ。
「もしかすると報酬の心配をしているのか?」
1つの可能性に思い当たり、少し悪いことをしたと考える。
この村、どうみても金を持っているとは思えない。
金をせびられたらどうしようかと考えているのかもしれない。
「安心してほしい。オレが欲しいのは1つだけだ。」
「それは一体…?」
「エモット家の人間を、こちらで引き取りたい。」
「エモット…ですか。」
「何か問題でも?」
「いえ…その、申し訳ないのですが、本人に確認を取ってみてもよろしいでしょうか…?」
「そうだな。マリー。待たせている者を呼んで来てもらえないか。」
「はい。」
オレが命令し、マリーが扉を開ける。
すると、そこにはエンリ・エモットが立っていた。
既に呼んでいた事に、村長夫婦は驚いている様子だった。
「さて。話は聞いていたな?」
「は、はい…」
エンリ・エモットを扉の前で待たせていた。
それは、俺たちの話を聞いてもらい、交渉を円滑に進めるため。
「では、お前はどうしたい?」
「私は…」
エンリは一瞬の迷いもなく、自身の希望を話し始める。
「恩人であるブラッド様が私を欲しいのであれば、断るつもりはありません。…ですが、ネムだけは…」
「ああ。オレがネムを欲するのは、両親と別れた上に姉とまで離れてしまってはかわいそうだと思っての判断だ。安心して欲しい。お前にもネムにも、嫌がる事をするつもりはない。」
ずっと我慢していた吸血はさせてもらうけど。
というか、幸せにしてあげたくて言っているだけだしな。
綺麗な物を着て、美味しい者を食べて、暖かい布団で寝て欲しい。
オレの望みはそれだけだ。オレは推しが幸せなら投資を惜しまない性格なんだよ…
「…わかりました。私に異存はありません。」
「そうか。それは良かった。…という事で、村長。報酬の話はこれで終わりで良いだろうか。」
「はい。…村を救っていただき、ありがとうございました。」
「あっ、ありがとうございました!」
エンリ、村長、その妻。そしてマリー。
部屋にいた全員がオレに向かってこうべを垂れた。
うん。敬われるのは気分の良いな。
…って、マリーまでお辞儀しなくても良いんだよ。
エンリ・エモットとネム・エモットを手に入れた!