一貴:「あ痛っ!」……再び誰かが僕の頬っぺたを打っ叩く!
文華:「しっかりしなさい!」
文華:「息をして!」……強引に、藤塚文華が僕の唇に侵入して人工呼吸する、
一貴:「げほっ、」……僕は、息を吹き返した?
見ると、藤塚が僕の上に覆い被さっていた、でも何故?藤塚はパジャマの侭なんだ? 僕の隣には同じ様に沙紀が倒れている。 一体何があったんだ? もしかして今迄のは全部夢?なのか?
藤塚:「気が付いた? 逃げるわよ、」……でも、僕の身体は痺れていて、立ち上がる事も侭ならない、
真島:「待てよ、」……そして真島が教室に入ってくる、
真島:「よくも俺を騙してくれたな、」……真島の両手には銀のバタフライナイフ、
藤塚が僕を庇って真島の前に立ちふさがる、
真島:「俺の所に来い、俺が気が済むまで股を開いたら命だけは助けてやる、」
文華:「誰がアンタなんかに、」
次の瞬間、ダーツの矢が藤塚の首に突き刺さる! 藤塚は其の儘膝を付いて、
文華:「カズキ、早く、逃げて、」
真島:「死ね、」……真島がナイフを振りかざして飛び掛かる、
真島のナイフは藤塚の胸に深く突き刺さって、一瞬間を置いて大量の血液が藤塚の身体から迸る!
一貴:「藤塚!」
ぴゅっぴゅと断続的に水鉄砲の様に噴き出す藤塚の血液が、やがて勢いを失って、
真島:「今度はお前の番だ、」
未だ身体が痺れて動けない僕の前に、
沙紀:「だめ、純くん、やめて!」……今度は沙紀が飛び出した、
真島:「邪魔すんな、お前も殺すぞ!」
沙紀:「こんなのおかしいよ、駄目だよ!」
そして沙紀の取り出した防犯用カラシスプレーが真島の視界を奪う!
沙紀は、僕の身体を引き摺って廊下に逃げようとするが、
真島:「くそっ、沙紀、お前どうなるか解ってるんだろうな!」……真島はメクラ滅法にナイフを振り回して、
ナイフを避けてしゃがみ込んだ沙紀は弾みで真島の足を引っかける、思わずヨロケテ転んだ真島の側頭部に、剥き出しのベタ基礎から突きだした細い金属製のパイプが突き刺さった。
ドロリと赤いモノと透明なモノと白いモノが、真島の髪を濡らしながら零れ出す、
沙紀:「どうしよう、病院、」
一貴:「もう、死んでる、」
僕は藤塚の下に膝行りよってその体温を確かめる。 藤塚は既に痙攣も止めて、冷たく硬くなっていた。
何で、こんな事になった?
沙紀:「逃げなきゃ、」……沙紀が泣きながら僕に縋る、
一貴:「正当防衛だ、僕が証言する、」
沙紀:「駄目だよ、虎狼(不良グループ)は絶対に許してくれない、」
沙紀:「お願い一緒に逃げて、ねえ、何でもするから一人にしないで、」
僕は漸く立ち上がって、此れが夢なら覚めて欲しい、
ーーー
夢から覚めるにはどうすれば良い?
僕はキツく目蓋を閉じて考える、考える考える考える考える、……只管にエロい事を考えるオカズは当然、
一貴:「フミカ、」……力任せに開いた目蓋の向こう側には、
沙紀:「あら、気がついちゃったの?」
沙紀が僕の上に伸し掛っていた。 辺りには藤塚の死体も真島の死体も転がっては居ない。
沙紀:「北条クン凄い、どうやって幻術を破ったの?」
僕はこの状況の把握に数秒を要した。 そして確信する、僕は同じ様な光景を目の当たりにした事が有る、丁度此の教室でだ、……死体の手術、瓶詰めの臓器、床に転がった臓器提供者達の成れの果て、旧世紀の亡霊、拘束されて強制開脚された森雅生徒会長の、アソコ、……全部思い出した、
沙紀:「残念、北条クンの事傷つけたく無かったんだけどなぁ、仕方ないよね、」……そう言って沙紀は柔軟にしなる長くて細い針を僕の鼻の穴に射し込んで、
沙紀:「ゴメンね、最初一寸だけチクッとするよ、そしたらもう一生何も感じなくなるからね、」
一貴:「やめろ、」
そして、
僕のポケットが爆発した、
正確には僕のポケットに入っていたモノが爆発した、要するに藤塚の靴下が爆発した。 爆発とは言っても人体欠損して腑が飛び出したり手足がもげたりする程強力な物ではない、ちょっと一週間くらい風呂に入る時に沁みる程度の火傷を負う、そんな程度の爆発、しかし、撒き散らされた煙と匂いが周囲10m四方の生物の意識をドッカに持ち去ってしまう、……匂い爆弾?
沙紀:「ぐぁ、」
一貴:「……、」
沙紀が、溜まらず僕の身体から飛び退いて、涙で失った視界を取り戻そうと必死に探す、
一貴:「なんじゃ、こりゃあ!」……兎に角臭い、
そして姿を見せるガスマスクの女、いや藤塚だろ!
文華:「まさかこんなに簡単に喰い付いて来るとは思わなかったわ、」
沙紀:「このぉ、雑魚が!」
そして四方八方から絡み付くピアノ線が沙紀の身体を拘束する、
文華:「今度こそ、その正体暴いてやる!」
沙紀:「ふっ、」……処があっさりピアノ線は切断されて、予想外の運動神経で沙紀が跳躍する、
その背後から出現する早乙女光? 巨体がしなやかに唸って沙紀の背中に手刀を叩き付ける、……そのはずがヌルっと滑り抜ける様にして衝撃をイナす沙紀!
早乙女:「ちぃ!」
沙紀:「見かけ倒しの噛ませ犬はさっさと退場してよね!」
そして両手を交差させたガードごと、早乙女の巨体が目に見えない何者かに弾き飛ばされる!
早乙女:「ぐぅうう!」……教室の壁に叩き付けられて早乙女が唸る、
やがて、空間から滲み出す様に姿を見せる目に見えない鎧、その姿形はクリーム色のガスタンクの様な球形に申し訳程度の手足が着いている。 それでガスタンクは沙紀を肩に担ぎ上げて、
沙紀:「北条クン、又、気持ちイイコトしようね、」……その侭姿を眩ました、
文華:「このビッチが!」……飛び出そうとした藤塚を、
早乙女:「フミカ、動くな!」……早乙女が制止する!
その瞬間! 僕は直ぐ背後に誰かが立っている気配に気が付いた! 藤塚でも早乙女でも沙紀でもガスタンクでも無いもっと、
それは触れるだけで斬れてしまう様な濡れて重い金属の刃物ミタイな、……
それは猛スピードで走る急行電車の前に飛び出したらどうなるのか、高速回転するミキサーの中に指を突っ込んだらどうなるのか、それと同じ位確実的な「危険」の情動、
僕は考える以前に自分でも気付かない内に自ら床に転がって逃げていた。 転がりながら確認したその視線の先にはチャコールのステンカラーコートに色付き丸眼鏡の男が立っている。
「誰?」
丸眼鏡の男はほんの少し楽しそうに無言の侭僕に近づいて、僕は更に飛び退いて辛うじてそれを躱す!
「殺される?」
「何故?」
丸眼鏡の男が口の端をにやりと上げる。 踏み込みのスピードもそれでいて重心を崩しきらない身体の使い方も、さっきのガスタンクや沙紀とは比べ物にならない、その姿勢には無理も焦りも興りも無く静かに整っていて、身体の軸はまるで床に突き刺さった様にブレも無く、重心は足裏から地の底にまで堕ちている。 その立居は「能」や「日本舞踊」の振舞にも似て素人目に見ても酷く美しい、
丸眼鏡は今度こそ仕留めるつもりで狙いを定めている? 空手か? 古武術か? 中国拳法か? 手筋が読めない、自分が何をされようとしているのかが予測出来ない、
「無理だ、コイツには勝てない、」……一瞬で理解して一瞬で観念する、そうだだから沙紀は逃げたのか、
そして丸眼鏡は何故だかすっと一歩後退りする、……消した気配の影から早乙女光が!! 行成り出現して!!! 今さっき迄丸眼鏡の居た空間に肘撃ちを喰らわせる!!!! まるで爆弾の炸裂の様な瞬間的な突進力で2mの巨体が丸眼鏡の「居た空間」を強奪する! しかし既に丸眼鏡はすり抜ける様にすれ違い間合いを取って涼しげな表情で早乙女の「体術」を値踏みする。
早乙女は振り返り様!次の突撃の為の腰の深い沈み込み驚く程柔らかい股関節の開きとその巨体を生かした体軸の移動、そして大きくて深い踏み込みと合わせて追撃の中段突き!を丸眼鏡の「居た空間」に打ち噛ます!
丸眼鏡はその強烈な一撃を、「当たらなければどうと言う事は無い」ミタイな余裕の「紙一重」で躱して、未だ運動エネルギーを直進させ続けている早乙女の懐に潜り込み、そっと幼子の頭を撫ぜるミタイに優しくその鳩尾に、掌を、…
触れた途端!
早乙女の身体が、爆発した!
破裂音:「「…… バン!!……」」……飛び散る火炎と、破裂音?
早乙女の服に仕込まれた「特製の液体火薬」が、圧電センサに繋がれた起爆装置によって、丸眼鏡が寸勁を発動させるよりも一瞬だけ早く作動する!
1mばかり吹き飛ばされた丸眼鏡が、それでも尚身体の軸を保ったまま早乙女を警戒する、そして今度は「囮」でも「誘い」でも無い温やかな肘撃ちの一撃が、音も無く早乙女光の巨体から放たれて、……尚もその早乙女の懐に滑り込む丸眼鏡! 爆発する「服」を避けて裏拳の柔らかな指先が早乙女の眼球を狙う。
早乙女:「くっ!」
片目を払われて涙で視界を失った早乙女のほんの直ぐ傍らをすり抜けた丸眼鏡は、
それっきり気配を消した。