019「禁忌の書」
7月4日昼休み……
今週は明後日の日曜日に控えた体育祭本番に向けての学内合同練習準備週間になっている。 午前中の予定を終えた全校生徒は「体操服のまま校内を彷徨く」と言うある種の「非日常なシチュエーション」を謳歌していたのだが、若い僕らがその希少性と重大性に気付く為には恐らく後10余年の醸成期間が必要だった。
朋生:「カズっち、今度一年に転校して来た「2人組の女の子」知ってるか?」
一貴:「知らないけど、それがどうかしたの?」
朋生:「もの凄い美少女らしいぞ、藤塚さんと言い今回の一年生と言い、うちの学校って入学基準に「ビジュアル審査」を取り入れたのかな?」
一貴:「そんな訳無いだろ。」
そんなくだらない話をしている僕らの下へ、トコトコと三枝が近づいて来た、
三枝:「これ、クッキー焼いたの。 良かったら食べて。」
朋生:「おお、サンキュ、てか珍しいな。 ガリ勉三枝がクッキーなんか焼くなんて。」
三枝:「私だって「一応女子」なんですからね、口の利き方には気をつけてよね。」……三枝はクッキーの詰まったバスケットを朋生から取り上げると、改めて僕に手渡す。
一貴:「ありがとう。」
三枝:「それでさ、先払い…って訳じゃないんだけど、実は折り入って二人に相談したい事があるのよ。」
朋生:「なんだよ、そう言う事か。」……朋生がクッキーを味見する、多少神妙な面持ち、
一貴:「何かな?」
三枝:「此処じゃ一寸不味いかな。 また今度改めてお願いするわ。」
朋生:「そういや、今日カズっちの「誕生日」じゃ無かったっけ?」
一貴:「そうだけど、よく覚えてるな。」
そう、7月4日は僕=北条一貴の誕生日である。とは言っても中学になった頃からは取り立てて改まったイベント発生も無く、ただ単に「数字が一つ増えるだけの日」に成り下がっていた。
朋生:「忘れる訳無いだろ、カズっちの誕生日だぞ。」
三枝:「やっぱり貴方達二人ってどっか怪しいのよね、」……伊達眼鏡の奥で三枝の目がニヤケてる 、
何で女子って、そう言う「あり得ない事」に興味が行くのだろうか、
朋生:「人聞きの悪い事を言うなよ! 俺はアキラ一筋だぜ、」……実は6月には朋生は高野と付き合っている事を皆に公言していた、
三枝:「そう言えば、南中から来たのって、北条クンと金平クンの二人だけだよね。」
朋生:「今ん処な。」
三枝:「二人って、中学時代はどんなだったの?」……またつまらない事を話題にする、
僕には中学時代に置き去りにした「黒い過去」が有るのだ、
朋生:「俺は普通だけど、カズっちは普通じゃなかったよな。」
三枝:「今よりもっと「ショタ」っぽかったとか?」
朋生:「全然! それどころか…」
一貴:「朋生ー、昔の話はやめようよ、」
朋生:「あぁ、ごめん、そうだったな、」
僕が「昔の事」に触れられたく無い事は朋生にも何度も言い含めてあるのだが、朋生は時々「約束」を忘れて喋りそうになるので注意が必要、
高野:「あらあら、どうしたの、うちのトモクンが何か粗相したかな?」
朋生:「アキラ、カズっちが虐めるんだよ。」
高野:「よしよし。」……遅れて教室に戻って来た微少女が朋生の頭を胸に抱きしめる。
背が小さいから「微」少女、
高野:「北条クン、後で渡したい物があるから、放課後部室まで来てくれるかな。」
一貴:「渡したい物って?」
高野:「来てのお楽しみ! 誕生日プレゼントよ、」……そう言って高野は可愛らしく微笑む、
三枝:「そう言えば文芸部の隣の旧図書室って、夕方の6時過ぎると幽霊が出るって本当なの?」
高野:「そうなの!私も一度だけポルターガイストを体験した事が有るわ、」……確かその時僕は高野と、
東郷:「ええー、カズくん今日誕生日なの?」……ショートカットの美少女が行成素っ頓狂な声を上げる、
一貴:「うん、」
東郷:「どうして、もっと早く教えてくれなかったのぉ。何にも用意してないじゃないの〜!」
東郷冴子と藤塚文華がちょうど良い?タイミングで教室に戻って来た所だった。 何だか大騒ぎする東郷とは対照的に、藤塚は「興味の無い素振り」で自分の席に着く。
一貴:「良いよ、そんなに気を使わなくても。」
東郷:「そんな寂しい事言わないでよ。」…東郷、今にも泣きそうな顔、
僕ってそんなに悪い事をしてるのか?? 周囲の男子の視線がキツい。 何処かで割り箸をへし折る様な音がする、
東郷:「分った、じゃあ。」……そして東郷が、いきなり僕に抱きついた!
一貴:「な、何? どうしたの?」
東郷:「良いから、じっとしてて、私からのお誕生日プレゼント、ハグ一分間。」
体操服女子とのハグ。 暖かい体温と柔らかい感触が薄い生地を通り越して僕の全神経を支配する。 しかも東郷は小柄な割に凹凸がきっちりしているから僕の腹部には柔らかな粘弾性の感触がへばりついて、クラス中の男子の「憎悪の視線」が突き刺さる中、恥ずかしいと思いながらも何故かしら振りほどけない自分が居て、しかも次第に僕の身体は「健康な男子」としての「正常な攻撃形態」へと変形を開始してしまう訳で……
チラッと盗み見た藤塚がホオジロザメの様な三白眼で僕を睨んでいらっしゃる?
ーーー
弓月:「はい、みんな 席について! 最終のプログラムが出来ましたので配ります。」
クラスの仕切り屋女子、弓月サクラが「号令」をかける。3年生は受験で忙しい為この学校では2年生が体育祭の運営を仕切る事になっていた。 弓月は2のCの運営委員である。
弓月が当日の進行を説明する最中、僕の携帯のイルミネーションが点灯し始めた、
メール1件目:「フーン、アンタ今日、誕生日なんだ、」……藤塚様からだ、
メール2件目:「お目でと、良かったわね。」……藤塚を見るが、真面目に弓月の話に耳を傾けている様に見える、
いつもながらどうやってこのメールを打っているのかが分らない。
メール3件目:「皆に優しくもらえて、さぞかし舞い上がってる事でしょうね。」……なんか、また怒っていらっしゃる??
メール4件目:「皆の見てる前でチンコ大きくして、ホント男って哀れよね。」……僕は、顔を真っ赤にしたまま机に突っ伏す。
ちらり、と藤塚が僕の顔を見る…。
藤塚:「どうしたの北条クン、何だか顔色悪いよ、」……学園のアイドルが優しそうに僕に微笑む。
メール5件目:「私の誕生日は11月11日だから、」……11月11日なんだ、
メール6件目:「貰って上げるから忘れずにプレゼントを用意しなさい。」……僕はホンワカした気分で一人ニヤケル、
弓月:「それと、体育祭終了後、打ち上げパーティをやろうかと思ってるんだけど、参加希望する人は私か渡辺クンまで言って来て下さい、」
メール7件目:「アンタ行くの? 打ち上げ、」……再び藤塚様から、
返信1件目:「行かないと思うけど、」
メール8件目:「私、誘われてるんだけど、」……返信 速!
返信2件目:「行くの、止めたらどうかな、 」
メール9件目:「冴子がどうしても行くって五月蝿いんですけど、」……うう、それで僕にどうしろと言うのですか、
メール10件目:「結局私の事何にも考えてないよね、」……ええっ? なんでそうなるの??
メール11件目:「いつもその場凌ぎの口ばっか、」……、
東郷:「ふみかちゃん、練習行こう。」
藤塚:「あっ、うん、私、イマイチ組体操上手く出来ないんだよね、」
東郷:「そんな事無いよ、ちゃんと出来てるって、」……東郷が、藤塚を教室から連れ出して行く、
僕は、項垂れてホット溜息を付く、で、
メール12件目:「なんで返信しないの? 面倒臭いの?」
一貴:「ううっ…、」……胃がイタい。
ーーー
放課後18時過ぎ ……
北側に面した旧校舎の裏は薮になっていてすっかり暗い。 僕は神妙な面持ちで、静まり返った旧図書室の隣のポツンと灯りが点った準備室の扉を開ける。
高野:「北条クン、誕生日おめでとう!」
朋生:「お目でと!」……まさかの「クラッカー紙吹雪」が僕の顔面を襲った、
一貴:「ありがと、」
高野:「私達からの、ささやかな誕生日プレゼントです。」
文芸部の部室には「飲み物」と「スナック菓子」が用意されていた。
朋生:「ほらジュース持って、乾杯しようぜ。」……ちょっと、泣きそうになった。
高野:「あれ、トモクンのコップは、」
朋生:「あ、もしかして教室に忘れたかも。」
高野:「もう、しょうがないなぁトモクンは!」
朋生:「ゴメン、とって来ようか。」
高野:「良いよ、北条クン待たせちゃ悪いでしょ、私のコップで一緒に飲めば良いじゃない。」
朋生:「そうしよっか。」
高野&朋生:「じゃあ、かんぱーい。」
一貴:「ハハ、」……なんだろう、ちょっと、
高野:「あっ、ゴメン、ちょっと「唾」入っちゃったかも、」
朋生:「平気平気、アキラのなら「何」が入ってたって飲める。」
高野:「やだ、トモクンたら、北条クンが見てるじゃない。」
一貴:「ハハ、」……なんだろう、ちょっと、
その時メール着信のバイブレータが鳴動する、
メール45件目:「アンタ、何処うろついてんのよ、」……藤塚からのメール、どうしたんだろ、
メール46件目:「もう帰るんだけど、」……えっ?一緒に帰る約束してたっけ?
メール47件目:「私と帰るの嫌なの?」
返信:「直ぐ行きます。」……急いでメールを返信すると僕はいそいそと立ち上がる、
一貴:「あ、ありがと。 僕そろそろ帰るよ。」
朋生:「もう帰っちゃうのか?」……って、お前等結局二人で盛り上がってるだけじゃん、
一貴:「朋生、高野さん、ありがとね、嬉しかった、誕生日祝いなんて何年かぶりだったから、」
高野:「北条クン、これ 二人からのプレゼント、」……高野が包みを手渡してくれた、
一貴:「何かな?」……ワクワクしながら開けてみる。
中身は本?漫画??……ど、同人誌???
一貴:「????」
パラパラとページを捲ると、其処にはかつて見た事も無い様な「エロスな世界」が繰り広げられていて、しかも鮮明に何一つ包み隠す事無くクッキリと、
一貴:「何なのこれ!」
高野:「今度の「コミケ」で、知り合いのサークルに「うちの部で作った小説本」を置かせてもらうのよ。 そのサークルから貰ったんだけど、まだ試し刷りで「修正」入ってないの! あんまり内容が過激すぎるからさ。トモクンがのめり込んじゃってワタシ危険なのよね。……と言う訳で北条クンにプレゼント。 大事に使ってね!」
いきなり僕の顔が、赤く染まる。
一貴:「はぁ? いや、いやいやいや、意味分んないんだけど。 なに、使うって、一体!」
高野:「女の私が言うのもなんだけど、ホント、上手に描けてるわよね、ソレ。」……高野晶が妖しく笑う。
もしかして、お前等、既にこういう事してるのか!
再度メールの着信音
一貴:「ゴメン僕行かなきゃ、あ、ありがとね。」
朋生:「頑張れよ!」
一貴:「何を頑張れって言うのさ!」
ーーー
僕は睦まじい二人を後にして旧校舎の廊下を走る。
と、暗い廊下の反対側から歩いて来る二人の少女? 一人は腰迄伸びた長い黒髪の背の高い美少女、高校生離れしたグラマラスなモデル体型で、まるで西洋のアンティーク人形が日本人形の格好をした様な雰囲気に色香と可憐が同居している。 もう一人は柔らかそうな茶髪を両サイドでツインテールに束ねた小柄な女の子。 華奢な発達途上の身体だが目鼻立ちのはっきりした顔立ちに大きくて深い瞳、そしてコノ子、子猫だか赤ん坊だかミタイナ甘い匂いがする。 藤塚が完璧美少女であるのと同じ位この二人も紛れも無く美少女だった。 問題は何故「こんな二人」がこんな時刻にこんな旧校舎の一階に居たのかと言う事だったのだが、……僕には「そんな事」に気を巡らせる余裕等有りはしなかった。
気がついたら何時の間にか僕は二人の美少女にくぎ付けになっていて、すれ違うその刹那僕の足は自分でも気づかない内に立ち止まっていた。
茶髪少女:「先輩、本、落としましたよ。」
遠い所から聞こえて来る様な少女の声が僕を振り向かせる。 何故だか少女は僕を見て微笑んでいた。 それはもうずっと前からの友達に向ける様な優しい微笑みで、……
茶髪少女:「えっ、嘘! 何これ、」
一貴:「えっ?」……僕は突然!「我」に帰る。 一体、今、僕は何をしていたの?
茶髪少女は真剣な顔でその本にノメリコんでいる、次第にその頬の赤みは増して、僕は再度「我」に帰る、それは高野にもらった無修正本!
一貴:「違うんだ、それは、」
茶髪少女:「凄い、こんなの初めてです!」……茶髪少女が、キラキラした瞳で僕を見つめる、
一貴:「返してくれる、かな?」
茶髪少女:「もう一寸読んでも良いですか!」
黒髪グラマー美少女が茶髪少女の頭を、思いっきり叩く!
打突音:「「…ゴン!…」」……あり得ない音?がした。
グラマー美少女:「しっかりして下さい、「蠱惑」を仕掛けてる自分が魅了されてどうするんですか!」
茶髪少女:「うゔ〜、」……茶髪少女、頭を抑えて涙目、
気を取り直して、…
茶髪少女:「私、加茂理夜って言います。 北条先輩、また会えますか?」
一貴:「うん、多分、」
理夜:「では、また、見せて下さいね。その本の続き、…」
一貴:「いい…けど、」
理夜:「約束ですよ、指切りしましょう。」
一貴:「指切り?」……茶髪少女が小指を立てて、
僕も小指を立ててその少女の指に、……
藤塚:「全く、何時迄、待たせる気よ。」
一貴:「えっ?」
声に振り向くと藤塚文華が立っていた。 身長210cmの早乙女光も一緒だ。
一貴:「あっ、ゴメン。」
早乙女:「何か匂うな、」
藤塚:「「蠱惑」に使う「香」ミタイな匂いね。」……二人が不審そうに辺りを伺う、
藤塚:「カズキ、なんか落としたわよ。」
いつの間にか、二人の美少女の姿が見えない? 文華に気をとられて振り向いた瞬間に消えた?? まさか、旧校舎の幽霊???
藤塚:「男って哀れね、こんなものに頼らなければ生きていけないなんて、」……藤塚が、エロ漫画を真剣に読んでいる、
一貴:「違う、それは、」
藤塚、上目使いに僕を見る。 ナニげに顔が赤い。
藤塚:「アンタもこういう事がしたい訳?」
一貴:「えっ?」
藤塚:「まさか私に命令して無理矢理やらせようとか考えてるんじゃ無いでしょうね!」……藤塚、顔を真っ赤にして軽蔑の眼差しで僕を睨む、
一貴:「いや、そんな事は、」
藤塚:「そうなんだ、じゃあこんな本必要ないわよね、と言う事で没収!」
一貴:「えええっ!」
藤塚:「帰るわよ、カズキ。グズグズしないで付いて来なさい。」……藤塚は「無修正同人誌」を自分の鞄にしまうと、一人さっさと歩き始める。
早乙女:「フミカの奴、お前に誕生日プレゼント用意してたんだけど恥ずかしくて渡せてないんだ。 頼むから何とか理由コジツケて貰ってやれよ。 さもないと何時迄もブーブー五月蝿くってかなわん。」
巨人はほとほと困った体で僕を見下ろして、小さく溜息をついた。