7月6日 体育祭本番お昼休み……
困った事にお弁当が見当たらない。 確かに持って来た筈なのだけど、何処かに置き忘れたのかな?? 心当たりをひっくり返してみて、持って来るのを忘れたのかな?? まさか誰かの悪戯?地味な苛め? 愈愈ウチに電話かけて確かめようとした2回目のベルの最中、クラス一の巨漢早乙女クンが僕のお弁当の包みを持って現れた。 確かに見覚えの有る黄色地に白の水玉の包み、
一貴:「有難う、何処に有ったの?」
早乙女:「ご馳走様、美味かった、」……手渡されたお弁当箱が軽い? あれ?
一貴:「何で!食べちゃったの?」
身長210cmの巨人が、照れ臭そうに、ぽりぽりと頭を掻く、
早乙女:「これ、良かったら喰ってくれ、」……そう言って僕に手渡すもう一つの弁当の包み@廊下、
一年女子1:「えっ、嘘ぉ…、」
一年女子2:「お弁当、交換?」
一年女子3:「キャーー!」
数人の女子が顔を真っ赤にしながら僕達の横を走り過ぎて行く、
一貴:「ナンか、また変な噂が立っちゃうんじゃ無いかなあ、」
早乙女:「別に俺は、構わんが、」……ポッと赤くなる巨人、
一貴:「僕は構うよ!」……ゲンナリ白くなる僕、
一貴:「これって、早乙女クンが作ったの?」……結構ずっしり重量感の有るお弁当箱、
早乙女:「いや、今日の弁当はフミカが作ったんだ、と言う訳だから後で「世辞」の一つも忘れん様にな、」……それからぷいと背中を向けて何処へとも無く歩き去る巨人、
つまり早乙女はどうやら藤塚から「何としてでも藤塚が作った弁当を僕に食べさせる」様にと指令を受けていたらしい。 僕はついつい頬っぺたの筋肉が緩んでしまう訳で、小豆色のお弁当容れに微かに残る「藤塚の匂い」を探してしまう訳で、……
写メ1:「カシャ!」
写メ2:「チロリーン!」
振り向くと廊下の隅から、僕の事を携帯で盗撮してる一年女子達、
一年女子1:「きゃーー、見つかった〜!」
一年女子2:「北条先輩、匂い嗅いでたよ〜!」
一年女子3:「チョット、置いてかないでよ〜〜!」
パタパタ逃げて行く女子達、絶対変な噂が流れるに違いない。
ーーー
朋生:「見つかったのか?」
一貴:「うん、有った。」
僕達は、折角だからとクラスの応援席の隅っこを陣取って男女数名で昼食を取っていた。 そうは言っても一寸埃っぽい、
会津(ブラバン部♂):「それにしても、凄い一般市民の数だな〜、」……父兄用の観覧席は、ビッシリ立ち見が出来る程混み合っている。
三枝:「ウチの高校の体育祭って結構「名物」ミタイよ、「演劇組体操」がネットでも紹介されてたわ、」
三枝の言う「ウチの学校の名物」の一つが、この体育祭の午前中最期の競技(つまり終了済み)、「演劇組体操」である。 まあ言ってみれば「ミュージカルモドキ」なのだが。 年度ごとに「物語のテーマ」を決めて、各組で組体操演技の完成度を競い合う訳だ。 衣装やら小道具やら迄かなり凝ったモノを用意して全校生徒の気合いの入り様は尋常では無い。 昨晩も僕達は遅く迄学校に居残って、盾やら、剣やら、兜やらを拵えていたのだった。 今年のテーマは「冒険ファンタジー」! 青組の演目は「竜と戦う勇者の物語」、様々な手下の怪物を倒し、最後にラスボスの竜に辿り着く。 そうして勇者が救い出すのは囚われの姫君(当然藤塚)。 僕は龍の尻尾その一だった。
体育会系女子西口が近づいて来る、
高野:「お疲れ様〜、」
西口:「ねえ晶、「楓明」が来てるって、ホント?」
高野:「そう言えば、校門の前に人集りが出来てたわね、」……オカルトフリークな微少女が、マスタード過多のサンドイッチに涙滲ませながらボソリと答える、
朋生:「「ふうめい」って?…何だ?」
高野:「「カリスマ女子高生美少女占い師」、青山に占いの店を出してるプロの占い師よ、ファッション雑誌の占いコーナーもやってたかな?確か、」
朋生:「へえ、流石アキラ、詳しいんだな、」
女子達、いや知らない方がどうかしてるし、ミタイな顔で軽い溜息、
三枝:「でも、どうしてそんな「有名人」がウチの高校の体育祭に来てる訳?」
高野:「3年の片桐先輩の知り合いなんだって、」
西口:「えっ!そうなんだ、そう言えば、片桐先輩も占いやってたよね?」
高野:「うん、あの人「占いオタク」だもの、実はウチの部のOGだったりする、」
(OG:Old Girl、3年生は受験のため、部活動から抜ける生徒が多い、)
高野、当然の事の様に朋生のお茶のペットボトルに口を付けて、ゴクゴクゴク、
西口:「晶は、観てもらった事あるの?」
高野:「私、占いには言う程興味ないのよね、未来の事が判るなんて信じられないし、巧妙な「人心掌握術」の類いでしょ、それに私にはもう必要ないかなぁって、」……高野、チッチャイ足で朋生のお尻をツンツン突っ付く、
西口、乾いた皿の様な目とスイカの様な口で:「ご馳走様、」
高野:「それよりも、今、私が興味あるのは、」
朋生:「カズっちの弁当、豪華だな、」
行成、好奇なる視線が僕のお弁当に注がれる。
鰹節と胡麻をまぶしたオニギリ、……パプリカ、人参、豚肉を、薄焼き卵で包んだ揚げ物、……フライドチキン風の唐揚げ、…竹輪に巻いて照り焼き風の甘辛アンで絡めた鶉卵、……チョット、ピリ辛味付けの蓮根キンピラ、……アスパラガスの天ぷら、……そしてデザートがスイートポテト、……
三枝:「気合い入ってるわね、」
高野:「誰が作ったの?」
一貴:「お、カあさん。」……僕は、思わず声が裏返って、
三枝:「いや〜、絶対違うわよね、」
一貴:「何でだよ。」
高野:「だって、食べてる北条クンの顔見れば分るよ。」
朋生:「うん、判るな。」
西口:「ねえねえ、男子? 女子?」
其処へ近づいて来る、一年男子、結構可愛い?? 左胸の名札を見ると山川クン、
山川:「あのぉ、北条サン、スミマセン、」……行成、色めき立つ女子達!!!!
一貴:「はイ?」……僕は、思わず声が裏返って、
山川:「一寸、良いですか。」……一年男子、何故だかモジモジしてる??
僕は何だかイヤな予感しかしない。
西口:「もしかして、北条クンとうとう「受け」卒業?とか?」
三枝:「それとも「誘い受け」に進化??とか??」
一貴:「なに訳分んない事言ってんの!」
ーーー
僕はイソイソと皆から離れて、山川クンはオドオドしながら僕に手紙?を手渡す、
山川:「これ、…」
チラ見した朋生達の視線は、当然嬉しそう? 僕は意味不明に赤くなる、いや女の子にもこんなの貰った事無いのに〜何で行成り男の子なの????
山川:「あのぉ、今此処で、読んでもらえますか? とても大事な事なんだそうです。」
僕は多少困惑しながらも、言われる侭封筒を開けて、…
山川:「じゃあ、僕、確かに渡しましたから、」……逃げる様に走り去って行く山川クン、
そして僕は、便せんの中身に凍り付く、
本文:「フミカの事で話が有る、今直ぐ、運動場脇の通用口まで来い、」
文末:「真島」
ーーー
僕は藤塚の弁当も食べ終わらない侭に急いで「呼び出し」に駆けつける。 運動場脇のフェンスの通用口から外に出ると、其処に居たのは何処かで見た事の有る様な顔ぶれ、以前GWに僕の事を呼び出してリンチを仕掛けた不良達だ。 どうやら真島の姿は見当たら無かった、
オッサン:「よう、北条クン、」
私服の不良達:「「北条クンでーす、…!」」
明らかに高校生離れした、派手でチャラい「オッサン」が、行成僕に肩を組んで来る。 執拗に体重をかけて僕を押し潰そうとする。 まるでGWのデジャヴュの様だが、これって何かの儀式なのか?
僕は、僅かに片足を浮かせて「オッサン」の安定を奪って重心を逸らす、つまり「暖簾に腕押し」状態を演出する。 人は不安定な物に力を加えるのが苦手だ。「オッサン」は蹌踉そうになりながらも僕に覆い被さって必死に耐える。
オッサン:「「フミカ」の事で(真島)純と揉めてた、北条クンだろ?」
オッサン:「俺、興味あんだよね、純が入れ込んでた「スッゲー美人」ってどんなだか、悪いけど連れて来てくんないかな、此処に今直ぐ、」
オッサン:「でないと、体育祭午後の部「欠場」って事になっちゃうけど、それでも良いかな? 一寸痛いかも知んないし、俺もあんま男が泣く所興味ないし、ソレってあんま良く無くね、」
まさか、こんな奴等の言い成りになる事は有り得ないが、
オッサン:「北条クン、一寸車行こうか、此処「通行人」の邪魔だしネ、」
見ると直ぐ傍に「バルブの遺産」の様な厳い外国製高級ミニバン、
どうしようか? もし、今逃げたとしても別の誰かに藤塚の事を探られたらその方が面倒だ、でも、
其処に現れる横田鷹臣、ウチの不良グループの頭、チラリと状況を一瞥して、
横田:「小林サン、此の学校占めてんの、一応俺なんで、ウチの生徒にチョッカイ出すの勘弁してもらえますか。」
オッサン(小林):「おう、タカじゃねえか、久しぶりダナ、」……オッサン(小林)、妙に低く囁く様な声で、どうでも良いが口が臭い、
オッサン(小林):「お前さ、最近、挨拶(=入金/上納)足りないんじゃ無ねえか?チャンと挨拶出来ねえ奴はマトモな大人になんねえぞ、」
小林オッサン、頭を上下に振りながら横田の事を睨みつける。 横田は学ランの内ポケットから札束の入った封筒を取り出して小林オッサンに手渡す、
横田:「すんません、以後気を付けますんで今日のトコはこれで勘弁して下さい。」
封筒の中身を勘定する小林オッサン
小林:「まあ、良いだろ、今度俺んとこ連れて来い、その「フミカ」とか言う女、良いな、」
静かに頭を下げる横田。 僕を開放して車に戻って行くオッサン達、
私服の不良1:「良かったね、北条クン、」
私服の不良2:「オーコワ、マジコワ、」
私服の不良3:「またね、北条クン、」
ぞろぞろと、腰巾着が引っ付いて歩く、
一貴:「助けてくれたの?」
横田:「別に、俺は此処の「頭」だからな、当然の事をした迄だ、」……それから横田は、僕の事をじっと睨みつけた、
横田:「本当の事を言えば、俺はお前に面倒を起こされると困るんだ。」
横田:「なあ北条、この際「お互いの平和」の為にはっきりさせときたい事がある、」
僕は、直立不動の侭僕の事を見下ろす不良グループの「頭」を凝視する、
横田:「お前、なんで手を出さなかった?」
一貴:「えっ?」
横田:「真島ん時も、今も、お前がその気になりゃ、あんな連中簡単に畳めたんじゃないのか?」(畳む=沈黙させる、半殺しにする、)
思わず僕は、目が泳いで横田を直視出来ない訳で、
一貴:「畳むとか、そんなの、無理だよ、…あんな、怖そうな人達、」
横田:「誤魔化そうたって無駄だ、」
横田は、微動だにせずに僕の事を見詰め続けている、
横田:「お前、全然ビビッて無かっただろう。今も、この俺に対してもな、」
不良が大勢を統率する為に用いる最大の凶器は「恐怖」である。 正味の体力や身体能力では当然日々練習を重ねている運動部の生徒や武術を習っている生徒に敵う訳が無い。 それを補うのが「数」と「獲物(武器)」と「恐怖」である。 中でも最も重要なのが「恐怖」なのだ。 普通のマトモな「一般生徒」を怖がらせるのは比較的簡単だ、どんなに格闘技に長けた巨漢だったとしても、内申書の低下や部活の大会の出場停止は怖い、ましてや自分の家族に迄面倒が及んだり変な噂を流されるのは怖い、平和な学園生活とか常識的な日常とか進学とか就職とか自分の将来の生活を滅茶滅茶にされるのは誰だって怖い。 彼らはそう言った「恐怖」につけ込んで来る。 だから彼らに関わるのは怖い、目をつけられるのは怖い、逆らうのは怖い。 彼らはそういう「恐怖」を敏感に察知して、獲物を選び搾取する。
横田:「俺らの世界じゃビビったモン負けだ。 支配される。 上へ行けば行く程そういう「匂い」に敏感になる、そうなる事でシノぎが上手くなるし、そうじゃ無きゃ生き残れないからな。 あいつがあっさりと引き下がったのは、何も俺が金をやったからじゃない。 勿論「面子」を立てなけりゃあいつも下がるに下がれなかっただろうが、根っ子ん処ではお前に「面倒くさい匂い」を感じたからだ、簡単に言えば脅してもビビらないお前に、ビビったんだ。」
横田:「何年か前、面白い「伝説」を聞いた事がある。 ある中坊(中学生)が一人でヤクザの事務所を潰したって馬鹿げた伝説だ。 何でも連れの女が絡まれたのを助ける為だったって聞いたが、確かそいつの名前が「カッチン」。 女がそう呼んでたらしい。 北条カズキそれってお前の事じゃないのか? 今でも「カッチン」の事を探してる奴はゴロゴロいる。 不思議な事に「上」からはそいつの事は探るな手を出すなって指示が出てる、「幹部クラス」は「上」の命令に忠実だが若い奴らは心情的に放って置けない訳だ、舐められっぱなしでいられないと言うよりは「カッチン」を潰して伝説を上塗りしたいってそういう理由だけどな、」
横田:「俺は此処の「頭」だからな、そんな面倒臭い奴が俺の「テリトリ」にいるのは困るんだ。 もしもお前がそいつなんだとしたら、俺はそいつには手を出さない、そいつの女も含めてな、今日みたいな露払いもやってやる。 その代わりと言っちゃ何だが、そいつにはこの学校で面倒を起こさないで貰いたい、ずっと大人しくしてて欲しい訳だ。 俺の言いたいこと解るか?」
一貴:「僕は、喧嘩はしないよ。」
横田:「OK、つまり了解って事だな、じゃあ宜しく頼むぜ、」……不良グループの「頭」は、それだけ言うと、僕に背中を向けて校舎へと戻って行った。