次の日の朝、ホームルーム前……
文華:「お早う!北条クン何だか元気ないぞ、」……廊下ですれ違い様に藤塚が元気な挨拶をくれる、
藤塚の笑顔は相変わらず可愛くて、思わずつられて僕も藤塚に微笑み返す。 コレで良かったのかな、コレで良いのかも知れない。 元々僕と藤塚が釣り合わない事位分かっていた筈なのだ。 学校で明るく声をかけてくれる優しい藤塚。 それ以上を望むなんてそっちの方がどうかして居たのかも知れない。 だって4月に転校して来た彼女に僕が求めていたのは確かにこんな藤塚文華だった筈なのだ。
弓月:「来週19日、夏休み前日の金曜日に、体育祭の打ち上げパーティやります。 今の処、男子12名、女子9名の予定ですが、まだ人数変えられますので出席できる様になった人は是非出席して下さい。二次会はカラオケやります。」
「あんた行くの?」……、そんな風に話し掛けてくれていた藤塚はもういない。 やっぱり一寸寂しい。 僕は知らず知らずいつの間にか大きな溜息を吐いている。
三枝:「北条クン、打ち上げ行くの?」
一貴:「えっ!?」……吃驚して顔を上げると、三枝が立っていた、
何だか三枝の顔は少し緊張してミタイに頬が赤い。
一貴:「あっ、多分…行かないかな。」
三枝:「そっ、それじゃあさ、その日ちょっと付き合ってもらえないかな。」
一貴:「良いけど、何かするの?」
三枝:「前に相談に乗ってほしいって言ってた事が有ったでしょ。」……何だか、そう言えば僕の誕生日にそんな話をした気がする、
一貴:「うん、」
三枝:「良かったら、その件で 今日の放課後少し時間もらえる?」……何だか、三枝が三枝らしく無い! モジモジして視点が定まっていない。
一貴:「金平も一緒の方が良い、かな。」……何だか二人きりで会うのは怖い気がする。
三枝:「そ、そうね。もし都合が合えば、金平クンも誘ってくれる?」
一貴:「分かった。」……何だか、二人とも 声が裏返ってる??
三枝:「じゃ、あ 後でねぇ~。」……って、コイツ誰だっけ?
ーーー
三枝が、余り人気の無い所が良いと言うので、放課後オカルト研、もとい文芸部の部室に集合する事になった。 集まったのは、三枝、高野、金平、それと僕の四人。 三枝は話し出す前から何を言いたいのか分かってしまう位緊張していた。 顔は真っ赤で、俯いたまま視線が合わせられない。 いつまでたっても話し出せない。 口火を切って切っ掛けを作ろうとする金平を高野が優しく制止する。
三枝:「あの、」……いよいよ、三枝が告白する、
三枝:「私、…す、」
頑張れ! 3人は何故か優しい眼差しで見守る。
三枝:「好きな人ができました。」
朋生:「御目出度う!!」
三枝:「一寸!まだ恋が成就した訳でもないのに適当な事言わないでよ。」
三枝、顔真っ赤、でも一言喋っちゃった後だから、流暢にポロポロ言葉は流れ出る。
高野:「でも、とても良い事だと思うよ。」
全くだ、こんな風に友達に告白出来るなんてなんて素敵な事なんだろう。 僕は意味不明に涙が零れて来るのを止められないでいた、
朋生:「それで、相手は誰なんだよ。」
再び、沈黙…
三枝:「それは、」
三枝:「その、」
三枝が、とうとうその名前の一文字目を言葉にしようとした、その時、
女子:「キャアアァァアーー!」
隣の旧図書室から女生徒の悲鳴!!
高野:「何?」
朋生:「行ってみよう!」
ーーー
三枝の勇気は置いてけぼりで、僕たちは急いで 隣の旧図書室に駆けつける!
其処に居たのは…、
目を大きく見開き、歯を剝き出しにしながら、まるで紐でつられた操り人形の様にぎこちなく歩きまわる女生徒。 目の焦点は合わず、首はカクカクと前後に揺れている、そして意味も無く笑う。 それはとても女の笑い声じゃない。 いや、こんな笑い方をする人間はいない 。
高野:「影山先輩!」
僕は、おかしくなってしまった人間を始めて目の当たりにした。
影山千草は学校からそのまま市民病院に搬送された……
影山と一緒にいた女生徒の証言は次の様な内容だった。 その日の放課後、影山はクラスの女生徒に頼まれて「首堂さん」の「お告げ」を聞いていた。 その最中に、突然 「霊が見える。」「霊が私に付きまとって離れてくれない。」等と奇妙な事を言い出した。 その後影山は意味不明なうわ言を喋り出し、最後には正気を失って首を前後に痙攣させながらピョンピョン飛び跳ねて周囲に居た人間を脅かした。 放課後の出来事にも関わらず学校の裏サイトでは影山が「首堂さん」に祟られたという噂があっという間に広まっていた。
ーーー
帰りの駅のホーム……
三枝と僕は下りの電車を待っている。
一貴:「驚いた。」
三枝:「本当だね、…前にテレビか何かで見た事が有るんだけど。 癲癇っていう症状なのかな、先輩早く良くなると良いわね、」……どうやら三枝は、本心ではオカルトを信じてはいない様子だった。
一貴:「うん、あれも大変だったけど、もっと驚いたのは三枝の告白だよ、」
三枝:「えっ、ああ、うん。」……三枝は恥ずかしい事を思い出した様に赤くなる。
三枝:「私、これまでずっと勉強しかして来なかったから、人を好きになるって事がよく分からない 。」……急にテンションが下がって溜息をつく、
三枝:「私、自分が本当は何がしたいのか分からなくなってきたんだ。」
三枝:「このままじゃ勉強も中途半端だし、人を好きだって気持ちもどんどん大きくなって抑えきれなくなって来て、」
ホームに急行電車が入って来る。 駅名を告げるアナウンスと共に、雪崩の様に零れ出して来る勤め帰りの乗客達。車内は未だ満員状態で、僕と三枝はドアの端にくっ付いて立つ、何だか壁ドン体勢、
一貴:「誰が、好きなの?」
三枝は背が低い。だから上目遣いに一寸困った風に僕を見つめて、
三枝:「委員長。みんなにはまだ内緒ね。」
一貴:「うん。」
三枝:「とにかく、次のステップに進むには、この気持ちを伝えないといけないと思ったの。でもどうすれば良いのか分からなくて。」
恋愛に悩むガリ勉少女は意外にも可愛かった。 なんだか僕の方が胸がドキドキしてくる。
一貴:「ぼ、僕が驚いたのは、…その気持ちを僕達に伝えた三枝の勇気だよ。 僕にはそんな事とても出来そうも無い。」
三枝:「北条クンは、今でも藤塚さんの事が好きなの?」
僕は言葉に詰まる。でも正直な気持ちを伝えてくれた三枝を偽る事は出来そうにも無かった。
一貴:「うん、」
三枝は、恋愛告白仲間?の僕に更に心を開く。
三枝:「前にも聞いたけど、どうして藤塚さんなの? 確かに藤塚さんは女子としてはほぼ完璧だけど、言ってみれば宝くじみたいなモノじゃない。 どうして手に入りそうもない憧れの為に貴重な高校生活を浪費しようとするのかな?」
僕は、恋愛告白仲間?の三枝にもう少し心を開く。
一貴:「藤塚は、そんなんじゃないんだ。 皆が考えてる様な、皆が知っている様な藤塚は、本当の藤塚じゃない。 あいつは、もっと愚痴っぽくて、負けず嫌いで、嫉妬深くて、人を信用しなくて、言葉使いも悪くて、怖がりで、もっと小さな人間なんだ。」
三枝:「ふーん、北条君は、本当の藤塚さんを知っているんだ。」……三枝は、不思議そうな瞳で僕の顔を覗き込んだ、
一貴:「以前は、藤塚は僕にだけは本音を見せてくれていた……と思う。 でも今はもう変わっちゃったけどね。」
僕は、藤塚の事を相談できる友達が欲しかった。 僕だけが知っていた藤塚、僕と藤塚の関係を相談できる友達が欲しかった。 三枝になら、秘密をばらしてしまっても大丈夫な気がした。
三枝:「変わった? 何時から?」……三枝は、どこか遠くを、いや何かに思い耽っている様に焦点の合わない目で僕を見つめ続ける。
一貴:「一週間くらい前からかな。」
三枝:「変わる前と、変わってしまった後で、何か違っている事はないかな。変化した事。」
一貴:「体育祭があった。」
三枝:「ちょっと違うかな、もっと色恋沙汰がらみ。」
そして、三枝は目を閉じて 少し微笑んだ。
三枝:「そうね、解ったわ。」
一貴:「何が、解ったの?」
三枝:「とにかく、北条クン、あなたこれから藤塚さんの家に言って、直ぐに土下座しなさい。」……行成り、三枝は厳しい表情で僕の胸に人差し指を突きつけた
一貴:「なんで?」
三枝:「全く、これだから男子って駄目なのよね。」……三枝、大きく溜息をつく、
三枝:「あなた、藤塚さんの気持ち考えた事無いでしょう。」
一貴:「藤塚さんの気持ち?」
三枝:「藤塚さんがどうして変わってしまったのか、考えた事無いでしょう!」……三枝の声が次第に大きくなる。 電車の中の乗客が何事かと僕たちを見る。
一貴:「なんで、…そんな怒るの?」
三枝、ちょっと恥ずかしそうに、声のトーンを落す。
三枝:「いい?よく解んないけど、藤塚さんは貴方にだけは特別な自分を見せてたんでしょう?」
一貴:「うん。」
三枝:「それって、貴方の事が好きだって言ってるのと同じじゃない。」
一貴:「そうなの?」……僕は、混乱する! 動転する! 赤面する!
三枝:「それで、変わったんでしょ、」
一貴:「うん。」
三枝:「変わったって言う事は何か原因となる変化があったって事よ。」
三枝:「こんなのシステムシンキングの基本じゃない。」
一貴:「なに、それ?」
今や三枝は、こそこそ声で僕に耳打ちする様に囁きかけていた。
三枝:「大体、恋愛なんてネガティブな活動なんだから、平衡プロセスに閉じてるに決まってる。」
一貴「ヘイコウ?? 何?」
三枝:「つまり、この変化は、元に戻りたいと言う藤塚さんの想いから繋がってるのよ。」
一貴:「どういう事?」
三枝:「わかんないの? 追っかけて欲しいから逃げてるんじゃないの!」
三枝:「変わってしまった北条君に、元に戻って欲しいのよ。」
一貴:「僕が? 変わった??」
三枝:「変化が起きたのは1週間前よね、」……三枝、一旦離れて腕を組む、
一貴:「確か、そのくらい、」
三枝:「問題が起きた時は「問題の起きる前」と「起きた後」の変化点を探すの。これはKT法の基本だわ。」
一貴:「KT法??」
三枝:「その時に起きた北条君の変化って言ったら、…私だって知ってる。」
一貴:「何?」
三枝は、僕の瞳の奥に視線を付き立てる
三枝:「あの子よ、一年生のあの子達が現れたの。」
一貴:「だから?」
三枝、ちょっと呆れた表情で
三枝:「アンタ、本当に鈍いわね。いい加減友達やめるわよ。」
一貴:「ごめんなさい!」……三枝、再び大きな溜息、
三枝:「いい? 藤塚さんは、北条クンがあの一年生と仲良くしてるから、拗ねてんじゃない! …可愛そうに。」
一貴:「えっ、うそ、」
三枝:「そうに決まってるわよ。早く謝ってらっしゃい。この幸せ者!」
そして電車のドアが開いて、……僕はホームに零れ出る。
一貴:「お前って、一体何者なの?」
三枝:「私? 私はアンタの親友よ、カズキクン!」
電車の扉が閉まる。 走り出す電車の扉の向こうで、三枝は笑いながら僕に手を振った。