※この作品はR-18です。

マスタースレイブ・リストリクテッド   作:ランプライト

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030「プロポーズ」

見えない鎧の自爆と共に影山の病室からも煙が上がる。 自然発火の様に影山の身体が内側から焦げ始め、やがて部屋の壁からもキナ臭い酸の匂いが充満し始める。 藤塚が部屋の鍵を内側から分解解除、僕達は廊下へ飛び出すが、既に特別病棟は他数カ所からも同時に火の手が上がっていて、辺りは逃げ惑う患者と誘導する病院職員でパニック状態になっていた。 僕達は非常用サイレンと避難誘導に紛れてその侭病因外に脱出する。

 

佳枝:「理夜!」……どうやら無事だったらしい富士本が駆けつける、

理夜:「敵の正体は確認出来たの?」

佳枝:「御免なさい、」……富士本は首を横に振る、

理夜:「まあ、仕方ないですね、」

 

今や特別棟の全ての窓から煙が立ち昇り始めていた。 丑三つ時を過ぎた闇の中で赤い炎の舌に焼かれて、全ての証拠が周到に隠滅されて行く。

 

一貴:「早乙女クンは?」

早乙女:「此処だ、」……モロに敵の自爆に巻き込まれた筈の早乙女が、左手の上腕部を抑えながら近づいて来る。

文華:「無事だったの?」

早乙女:「まあな、肋骨何本かと片腕はいかれちまったが、」……見ると身に着けていたトレーナーは既にぼろ切れになっていて、対地雷用のインナーウェアが剥き出しになっている。 ゴーグルは粉砕して目出し帽の穴から覗く顔面は血塗れで、左腕は完全に折れているのか不自然な角度に折れ曲がっていた。

 

 

 

ーーー

25分後、加茂邸(一貴の家の裏)……

富士本と藤塚が重傷を負った早乙女を応急処置している間、僕と加茂はリビングで黙りこくっていた。 時折心配そうに加茂が僕の様子を伺うが、余りの衝撃に僕は何一つ反応出来ないでいた。 ミュートにしたテレビが病院火災のニュースを報道し始めている。 原因は漏電とされていて、職員用駐車場のアスファルトを深く抉った爆発の事には一切何も触れていない。 少なくとも今日僕は、目の前で二人の人間が死ぬ所を見た。 一人は友人によって首を斬り落とされ、一人は爆弾で自爆した。 どう考えても、百万歩譲歩しても、夏休み前の高校2年生の日常に発生するイベントとしては到底受け容れられるものでは無い。

 

文華:「少し眠りなさい、」……藤塚がソファの隣に座って、力づくで僕の頭を自分の膝に抱き寄せる、

一貴:「早乙女クンは大丈夫なの?」

文華:「頑丈だけが取り柄の男だからね、直ぐに病院から迎えが来るわ、心配ないよ。」……そう言って、優しく僕の髪を撫ぜる、

 

文華:「怖かったでしょう、だからよく考えなさい、こんな事はカズキの生活には必要ない事の筈だから、……普通に学校に通って、普通にお母さんと食事をして、普通の女の子と恋をして、普通に大人になって、普通に結婚して、……わざわざ貴方が暗い舞台裏に降りてくる必要は無いわ、」

 

6年前の京都の神社で、僕に「人ではなくなってしまった」と告白した藤塚には既にその覚悟が出来ていたのだろうか、余りにも迂闊に近づいてしまった僕には今更その覚悟が出来るのだろうか。 「一貴はこっち側に戻ってきたいのか?」と問うた土蜘蛛の真意が少しだけ実感出来た様な気がする。

 

佳枝:「敵の正体が特定出来るかも知れません、」……富士本がタブレットを片手にリビングに戻って来た、シャワーで返り血を洗い流したのか、タンクトップにパンティ一丁と言う出で立ちだ。

理夜:「何か分ったの?」

佳枝:「早乙女先輩が見た式神は「西園寺家」の次女の様です、合わせて理夜が撮影した「仁丹」状の埋め込み型洗脳デバイスは、恐らく「時任技研」で開発中の試作品かと思われます、両者は共に3年前の政府要人洗脳事件の際に「裏」の嫌疑を掛けられています、」

理夜:「成る程ねぇ、でも前回は森雅の膣内から発見された「道具」が「加茂家」のシリアルナンバーだったからウチが疑われたのよね、「西園寺」にしても「時任」にしても、メジャードコロが組織的な「裏」の活動に関与しているとは思えないのよ、もっと個人単位でのサークル活動的な匂いがする、」

文華:「大体、奴等のそもそもの目的は何なのよ、アンタなら知ってるんでしょ?」……藤塚は、起き上がろうとした僕の頭を無理矢理太腿に押し付ける、

理夜:「知ってても先輩には教えられないです、」

 

 

 

ーーー

明け方4時過ぎになってからまるで霊柩車の様な黒塗りのステーションワゴンが到着、負傷した早乙女を載せて、何処へとも無く連れ去って行った。

 

文華:「今日は学校休んだら?」……トボトボと加茂の家からの帰り道、

一貴:「うん、」

文華:「ウチ、寄ってく? 今帰ったらお母さんと鉢合わせしちゃうんじゃない? その格好で帰るのは、ちょっと不味く無い?」……確かに全身煤塗れで、一体何処で何して来たんだって格好になっている。でも、

一貴:「有難う、でもいいや、」

文華:「寄って行って、」……藤塚が僕の腕を掴んで、放さない、

 

僕はリビングに通されて、

 

文華:「お風呂、お湯張ったから、入って来たら、」……促される侭に風呂を借りる、

文華:「タオルおいとくよ、」……何だか、藤塚が優しい、

 

いや、藤塚は何時だって優しかった、

あんな非常識な世界に僕が足を踏み入れる事を何時も嫌ってた。 日常的に人が死んだり傷ついたりする、僕達とは違う世界に僕が近づかない様に何時だって気を遣ってくれていた、それなのに、それだけど、

 

藤塚自身は、ずっとそんな世界で生きて来たんだ、

 

文華:「ちょっと、良いかな、」……藤塚が、ドア越しに声をかけて来る、

一貴:「うん、」

文華:「入っても良い、かな、」

一貴:「うん?」

扉が開いて、ドアの影から藤塚が恥ずかしそうに顔を覗かせる、

文華:「恥ずかしいから、目瞑っててよ、」

 

藤塚は僕と一緒に湯船に浸かって、まるで子供扱いするみたいに僕を膝の間に座らせる、背中から抱きしめる、

 

文華:「良いから、一寸だけ、」

 

文華:「一つお願いしても良い?」

一貴:「うん、」

文華:「私達、やっぱり上手く行かないよね、」

一貴:「……、」

文華:「今日、私の事、好きにしても良いから、」

一貴:「……、」

文華:「それで、お別れしよう、」

一貴:「……、」

 

文華:「だからお願い、思い出を下さい、」

 

此の少女は、何時だって、何時も、何時まで経っても、一人きりで生きて行くつもりなのか? 藤塚に取って僕は一体何なんだ? 僕に取って藤塚は一体何なんだ? 僕達の出会いは仕組まれていて、僕達の出会いはどうにもならなくて、僕達の出会いは僕達に取って何の意味も無いモノだったのか?

 

そんな事最初から分り切ってるじゃないか、答えなんか最初から決まってるじゃないか、

 

一貴:「判った、」

 

僕はどうすれば其処に辿り着けるのかが判らないだけなんだ。

 

一貴:「二三七、」

文華:「え?」

 

僕は背中から僕を抱きしめる藤塚の手を取って、その薬指にキスをする、

 

一貴:「諱を以て北条一貴が命令する、」

 

藤塚の心臓の鼓動が背中越しに伝わって来て、僕の鼓動と共鳴する、

 

一貴:「これから僕と一緒にいっぱい思い出を作ろう、」

文華:「……はい、」

一貴:「今日だけじゃなくて、これからずっと、何年先も一緒に、」

 

僕は藤塚の方に向き直って、その泣き顔を、その生まれた侭の姿を直視する、

 

一貴:「僕と結婚して下さい。」

文華:「……、」……顔真っ赤、そして、

 

文華:「最低……、」……一世一代の告白が、意外に不評?

文華:「アンタ、諱で命令したら私が拒否れ無いの知ってる癖に、それでプロポーズするとか可笑しく無い? それって最早求婚じゃないわよね、頭のネジドッカ外れてるんじゃないの?」……それどころか酷評?

一貴:「あ、」……そう言われれば男らしく無いかも、

文華:「鬼畜、変態、サディスト、犯罪者、」

 

藤塚は真っ赤になって、僕の手の指を、自分の指に絡めて行く、

 

文華:「私がもしもアンタの事好きじゃなかったら、どうするつもりだったのよ、」

 

僕は切なそうな藤塚の上目遣いにキュンと胸を射抜かれて、もう何も言わないで唇を奪っていた。 柔らかな唇、甘くて透明な唾液、熱く蕩ける様な舌の感触、二人は裸の侭、肌が融け合うくらいに抱き合って、何時迄も何時迄もお互いの肉を貪り続ける、

 

一貴:「ごめん、馬鹿だった、」

文華:「ほんと馬鹿、こんな馬鹿見た事無い、迂闊にも程が有るわ、」

 

文華:「全然人の話聞かないし、」……怒った顔も決定的に可愛い、

一貴:「文華が僕の事心配してくれてるのは凄く判った、でも僕も同じ位文華の事が心配なんだ、」

 

一貴:「だから僕の傍に居てくれる?」

文華:「ワカッタ、」……藤塚、何故か片言で?

 

文華:「それで、する?」……藤塚、上目遣いで、何だかスイッチ入っちゃってる、

一貴:「うん、」……そして僕の全身が武者震いする、

 

文華:「ベッド行こっか、」

一貴:「うん、」

 

で、湯船から立ち上がった、

 

文華:「あ、」……藤塚の内腿を、つつーっと赤いモノが、

文華:「生理、」……藤塚、申し訳無さそうに安堵の表情で、

 

文華:「お口でも、良いかな?」……僕の瞳の奥を恥ずかしそうに見つめる、

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