※この作品はR-18です。

マスタースレイブ・リストリクテッド   作:ランプライト

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第七章「操られ人形」
037「人形遣い」


今日姉ちゃんの家を訪ねた日に30通以上のメールを送って来たのを最後に、藤塚が消息を絶って、早一週間が経った。 また何かしらで臍を曲げてしまったのだろうか? 或は何か厄介事に巻き込まれていなければ良いのだけれど、僕から送ったメールに藤塚からの返信は無く、どうやら家に帰っている様子も無い。 何一つ事情が分からないから余計に不安になる。

 

僕は其れ以来、暇さえ有ればぼんやりと窓から藤塚の家を眺めている様になっていた。 もはや半分ストーカーみたいだと自分でも呆れるが、恋するとそれは必要不可欠な優先事項の様に信じられてしまうから不思議だ。

 

玄関のベルが鳴る:「ピンポーン!」……母親は仕事で不在だから、

一貴:「はい、」……僕が玄関の戸を開ける、

 

驚いた事にそこに立っていたのは、森雅生徒会長ともう一人、日本人形ミタイな黒髪オカッパの美少女だった、確か何処かで見た事が有る、

 

森:「突然すみません、」……森雅はあの事件の後、2か月間療養の為に休学し7月頭から学校に戻ってきていた。

 

しかしそれ以降彼女はすっかり覇気を失ってしまった様に見える。 当然と言えば当然だろう、PTSDを患って当然の体験をしたのだ、戻って来れただけでも大したものだと思う。 でもその生徒会長がどうして僕の家に?

 

森:「あの、変な事を聞いたら、ごめんなさい。…北条さん、4月に、深夜の学校で、私と会いませんでしたか?」

 

確かに僕は森雅が襲われていた現場に居合わせた、でもその事を森雅が知りたいのだとすれば、僕は一体何を伝えれば良いのだろう? あの事件は表向きは今も犯人が掴まっていない猟奇殺人未遂事件として取り扱われている。 そして僕が知っている事実はそれとは違っていた。

 

一貴:「はい、」……それでもわざわざ僕を訪ねてくれたと言う事は、きっと僕に何か力になれる事が有ると言う事に違いなかった、

森:「その事について、一寸、お話しできませんでしょうか?」……黒髪の少女は無言の侭励ます様に森雅に寄り添って、不安そうに震える彼女の手を握り締める、

 

 

 

ーーー

僕は森雅と黒髪少女を応接間兼リビングに通して、お茶を用意する間少し待っていてと席を立った処で、……僕の携帯に電話が掛かって来た。 相手は電話番号非通知? 僕は躊躇しつつも10回目のベルの後、藤塚からの連絡の可能性も期待して電話を着信する、

 

一貴:「はい、もしもし、」

録音:「やあ、こんにちは北条一貴クン、私の名前は楓明、森雅の件で少しお願いしたい事が有る。 この通話は録音だから聞くだけ聞いてどうするかは君が決めてくれれば良い。 まず最初に私は藤塚文華の後を継いで森雅を狙う「裏陰陽師」の正体を調査している巫女だ。 と言えば大体の事情は察してくれるかな。 そして察しの良い君なら判ってくれると思うが、今応接間で森雅の隣に座っているのが私だ。 私は似た様な境遇を持つストーカー被害者を装って彼女に近づき彼女の傍で警護しながら敵の正体を調査している訳だ。 此処までOKかな? 彼女は今とても精神的に不安定な状態になっている、あんな体験をしたのだから当然だよね。 彼女は記憶操作とカウンセリングで当時の恐怖体験の事をオブラートに包んだ状態で心の奥に閉じ込めているのだけれど、事件の時に君の顔を見たと言う記憶がどうしても忘れられなかったみたいなんだ、それでわざわざ学校の全校生徒名簿から君を見つけ出して、とうとう君に会う決心をして今日此処に至った言う訳だ。 それで君にお願いが有るのだけれど、あの日君は文芸部の部室に携帯を置き忘れて取りに戻った際に偶然、学校の教室で変質者に乱暴されていた森雅を見つけた第一発見者、と言う事にしておいてもらえないだろうか? 犯人は君に現場を見られた事に気付いて逃げ出した、君が警察に連絡し、犯人が証拠隠滅の為に用意した自家製の時限火炎瓶で教室は滅茶苦茶にされた、そういう筋書きだ。 今の森雅には精神を安定させるために納得し易いストーリーが必要なんだ、そしてあの日の恐怖体験を共有して味方になってくれる仲間が必要なんだ。 どうか彼女の力になってあげてくれないだろうか? 勿論ただでとは言わない、見返りとして君に取って有益と思われる情報を提供してあげるつもりだ。」……録音終わり、

 

森雅の境遇を気の毒だと思えば、少しでも彼女の力になれるのであればそうするべきだと思う。 確かに真実を告げた所で森雅が救われるとは思えない。 ましてや僕が何とかしてあげる事など到底不可能だ。 であれば楓明と名乗る巫女の話に乗っかる事はきちんと筋も通っていてそれ程間違った事には思えなかった。 僕は間に合わせの紅茶とお菓子をテーブルに並べて、二人の反対側に座る。

 

一貴:「森先輩、それでお話って、何ですか?」

森:「……あの時、本当は何があったのか、教えて欲しいの。」……森雅はまるで迷子の幼女の様に困り果てた表情で僕の顔を見る、

 

僕はチラリと楓明と名乗る黒髪少女を一瞥して、それから筋書き通りの事を、辿々しく説明しはじめた。

 

 

 

ーーー

そうだ思い出した。 此の黒髪少女は体育祭の日に会ったあの少女だ。 楓明の足下におかれたバッグの奥からは、見覚えの有る球体関節人形がじっと僕の様子を伺っていた。

 

森雅:「ありがとうございました、此れまでお礼も言えないでごめんなさい。」……森雅の涙が僕を責める、

楓明:「北条さん、彼女はとても深く傷ついているの、どうかもう暫くそっとしておいてあげて欲しい、あの事件の事は誰にも言わないであげてくれるかな、」

一貴:「判ってます、勿論誰にも言うつもりは有りません、」……森雅が僕の手を取って縋って何度も何度も頭を下げる、

森雅:「どうやってこのご恩をお返しすれば良いのか分からない。でもいつか必ずお返ししますから、」……僕にはそんな資格はない、

 

森雅の帰宅後、再び非通知の電話のベル、

 

録音:「助かったよ、これで暫くは森雅も落ち着いていられるだろう。 それで約束通り君に一つお返しをしようと思う。 これを君がどの様に考えるかは君次第だ。 でもこれは紛れもない事実だから、君がこの事を知らないでいるのはフェアじゃないと思うんだ。 これが少しでも君の役に立つことを祈っているよ。 それじゃあまたね、」……そうして今度は一通のメールが送られて来た、件名も本文も無し、写真が一枚添付されているだけ。

 

其処には全裸で抱き合って口付けをする、早乙女光と藤塚文華の姿が写っていた。

 

 

 

ーーー

気が付いたら夜中になっていた。 

 

母親:「ご飯早く食べちゃってよ、」……いつの間にか仕事から帰ってきた母親が電気も付けないまま暗い部屋でベッドに寝転がる僕の顔を覗き込む、

一貴:「いらない、」

母親:「どうしたの、具合悪いの?」

一貴:「お腹すいてない、後で食べる、」

母親:「休みだからって不規則な生活してちゃ駄目よ、」

 

僕はさっきから何度も飽きる程穴が空く程に、送られて来た写真を眺めてはその真偽を確かめる。 藤塚は腰を浮かし大きく両脚開いて早乙女の大きな身体を迎え入れ、早乙女の首にしがみ付く様に藤塚が腕を回して、二人は貪るミタイに口づけを交し合っている、

 

僕はきっとあれから何度か泣いたに違いなかった。 だからと言って痛みが洗い流されたりすることは無く、どうしようもなく手出しの出来ない侭様々な想いが渦巻いて来て、片付けられない侭散らかった侭何が本当の事なのか何もかも判らなくなっていた。 考える度に考える事を拒絶する様に胸が締め付けられて、恐る恐る傷口を舐めるミタイにギリギリの現実をでっち上げ様とする。

 

きっと何か事情が有るに違いないのだ。 でもどう考えた所で藤塚が早乙女と愛し合っている事は間違いなかった。 それは早乙女自身が「お互いに将来を誓い合った仲」だと言っていた事とも合致する。 それならばどうして藤塚は僕に対してあんなにも思わせぶりな態度をとったのだろうか? きっとそれが藤塚の役目だったからと考えるのが妥当なのだろう。 

 

これは裏切り等ではないのだと僕は何度も自分に言い聞かせようとする。 何故なら藤塚は一度も一言も自分の事を愛してくれなんて言った事は無くて、これは僕が勝手に手に入る訳のないモノを欲しがって、真実を突きつけられて勝手に失恋した、只それだけの事に過ぎないのだから、

 

結局藤塚は契約の為に僕の傍に居てくれるだけであって、本当に僕の事が好きな訳では無かったのだ。 そんな辛い思いを藤塚にさせ続けて来たのかと思うととても居たたまれなくて、それならば僕は一体どうすれば良いのだろうか? そんなの藤塚が本当に好きな相手と結ばれる様に身を引くのが良いに決まっていた。

 

でもそんな風に簡単に割り切れる訳がない位、僕は疾っくに藤塚の事が好きになってしまっていた。 藤塚の言葉が聞きたい、藤塚の想いが知りたい、仮令嘘でも構わないから、藤塚に承認されないならば生きていても仕方がないとさえ思える、藤塚が望むならば僕はどんな結末だって受け入れて構わないと思える。

 

それは三日月の呪いの所為だと諭されたならば、今こそ僕はそれを納得せざるを得ないだろう。 さもなければ僕は本当の愚か者に違いなかった。

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