朝4時起床、4時30分から6時まで庭で立ち方の練習、
宅間:「とりあえず、まともに立てなければ、相手を撃つ事は出来ないからな。 まともに立つって言うのは、撃った威力を余さず相手に伝えられる姿勢を作るって事だ。」……言われた通りただ立ってみる。 そもそも立つ事を意識した事なんてこれまでには無かったから何だか変な感じと言うか恥ずかしい、
宅間:「首と肩と腰、これで身体に軸を作る、」
宅間:「先ずは肩、肩が上がっていると腕の筋肉しか使えないし、敵に腕を取られたらそこで極められてしまう。 最初に肩を思い切り上迄上げて、首をすくめる感じで、それから両肩をぐぅっと後ろに追いやって、肩甲骨を狭める感じだな、それから脱力して肩を落とす。 ま、最初は肩甲骨を意識する事も難しいけどな。 それで次が首、頭頂部を天井に突き当てるようにして顎は引く、一旦真後ろに倒れるだけ倒して顎を引く様に首を戻すとやり易い。 これで首の骨の稼働率が上がる、首の稼働率が上がると脳の働きも活性化するから更に楽に動ける様になる。」……言われる通りにやってみるが、
宅間:「次は腰回りの調整だ、今のお前の状態だと胸を張って腰が後ろに折れ曲がりお尻が出ている姿勢になっている。 それで後ろに突き出してる尾骶骨を下からグルッと前に持って来る。 腰の辺りの背骨を後ろに突き出す感じで。 お陰で腹は凹む。」……すると今度は爪先が妙に浮いてバランスが悪い。
宅間:「それで今度は足の調整だ、膝を緩めて、そして何よりも大切なのは足首を緩めることだ。 関節を固定しようと意識するな。 不要な筋肉を使わなければ身体が勝手に最も効率の良い立ち方を探し出してくれる。」……成る程しかし、立つ事がこんなにも理屈っぽい物だとは想像もしなかった、
で、その格好でじっと30分立たされる。
宅間:「比較的基礎は出来ているから後は微修正だな、たまに猫背気味になるのと骨盤が後ろに出る癖があるから意識して治す事、但し意識すると無駄な筋力を使い易くなるから注意するんだ、」
一貴:「無駄な筋力って何ですか?」……宅間は掌を上に向けて僕の方に差出す、
宅間:「例えばこの俺の掌の上に肘を乗せて見ろ、それで全ての腕の筋力を抜いてみるんだ、」……僕は言われた通りにして、
宅間:「抜いたか、」
一貴:「はい、」……それで、宅間はすっと支えの手を放す、
一貴:「これが何か?」
宅間:「本当に力を抜いていたなら、俺が手を放した途端にお前の腕はだらんと下に落ちた筈だろう、」
一貴:「あ、」……確かに僕の腕は前に突き出したままの形を保った侭だ、
宅間:「つまり知らず知らずに筋肉を使っていると言う訳だ、そうしてこの姿勢を維持しようとする筋力は、お前が技の為に使う筋肉を阻害して威力と効果を激減させる。 だからこそ筋力のニュートラル状態を体に浸み込ませるのが大事なんだ、」
ーーー
練習終了、
一貴:「母が、朝食を一緒にどうですかって、」
宅間:「奥方様のお気持ちは有難いが止めて置こう、我々は出来る限り地に潜って正体を晒さないものだ、飯の事なら早乙女がいるから心配するな、」……宅間は暫くの間、早乙女と隣の家に住む事になっていた、
で、練習終わりに渡会万絢が菓子折りを持って挨拶に来る、
万絢:「おはようございます。」
母親:「どちら様?」
万絢:「一貴さんと一緒にお仕事させていただく事になりました渡会万絢と申します。 よろしくお願いします。」
一貴:「やあ、万絢ちゃん、」……下の名前で呼んでくれって言われたから、つい、
僕は一瞬、母親の後ろに控えた藤塚に怯えるが、特に何も反応は無し、
万絢:「今日からお隣の家でお世話になる事になりました。」
母親:「仕事って、陰陽師のお仕事? 貴方幾つなの?」
万絢:「はい、中学2年生です、」
母親:「中学2年生? 隣に住むって男の人二人と一つ屋根の下に同居なの?」 ……苦虫を噛み潰す母親、
母親:「ふみちゃん、どうしよう?」
文華:「早乙女君も宅間さんも巫女の純潔の重要性は十分に理解している大人ですし、お義母さんが心配されているような問題は起きないと思いますよ、」
母親:「そうは言ってもねぇ、色々と女の子一人じゃ心細い事も有るんじゃないのかな、」
母親:「しょうがないウチに来なさい、一人預かるも二人預かるも同じだわ、」
一貴:「でも、部屋はどうするのさ?」
母親:「この際しょうがない、一寸早い気もするけど、ふみちゃんは一貴と同じ部屋使ってもらえるかな?」
文華:「私は良いですけど、一貴さんがなんて言うか、」……そう言う藤塚は僕の事をちらりとも見ていない、
母親:「アンタが文句付ける事なんて無いわよね、」
一貴:「え、あ、うん、」
ーーー
学校が終わった後、万絢の引越を手伝う、
文華:「取り敢えず今週使うモノだけこっちの家に移しなさい、」
万絢:「すみません手伝って貰っちゃって、……でも本当に良かったんですか、一貴さんと文華さんは新婚さんなんですよね、私みたいなのが一つ屋根の下にお邪魔してご迷惑じゃないですか?」
文華:「私達は全然そんな浮いた感じじゃないし気にする事は無いわよ、それに巫女と式神は近くにいた方が何かと便利だから、良かったんじゃないの、」
ーーー
晩御飯、
食事は僕の分と万絢の分だけが食卓に並んでいる、藤塚はと言うと、……御勝手で一人食べている。
一貴:「こっちへ来て一緒に食べたらどうかな?」……ところが一言も返事してくれないどころか、目も合わせてくれない、
万絢:「もしかして、喧嘩中ですか?」……小声で囁いてるつもりなんだろうけど、恐らく丸聞こえ、
一貴:「うん、ちょっとね、」……僕は情けなく苦笑い、
ーーー
夜、
緊張の面持ちで一人ソワソワしていると、とうとう襖があいて藤塚が部屋に入ってくる。 風呂上りの寝間着姿で、両手いっぱいに自分の布団抱えている、
一貴:「あ、手伝うよ、」
藤塚は僕を丸っ切り無視した侭一人で自分の布団を僕の布団の隣に並べて、……結構隙間が空いているのが寂しい、……それで反対側を向いてさっさと眠ってしまう、一言も口利いてくれない。
やっぱり嫌われているのだろうか? 嫌々なのに傍に居られる方がかえって辛い。 僕はこんなにも好きなのに、こんなにも手の届く距離でこんなにも拒絶された侭だなんて堪らなく辛い、