早朝稽古を始める様になってから、僕は出勤時刻の早い母親とも一緒に朝食をとるようになっていた。
で、その母親の様子が変だ、何だか顔が赤い? 見ると母親の隣に座っている万絢の顔も、何だかぼおっと物欲しそうな顔でコッチを見ている?
文華:「はいどうぞ、」……文華が僕の茶碗に御代わりをよそってくれる、
それで僕の隣に座るのだけど、二人の椅子は何だかピッタリくっついていて不自然に近い、
文華:「今朝は卵焼きにシラス入れてみたの、」
一貴:「うん、美味しい、」
文華:「よかったぁ、私の分もあげる、」
文華:「もう、法蓮草もちゃんと食べないと駄目だよ、」
一貴:「うん、食べる、」
文華:「ほらぁ、あーん、」
一貴:「あーん、」
文華:「あっ、カズキ、シャツの肩の所綻びてるよ、どっかで引っかけたんでしょう、もう慌てんぼさんなんだからぁ、」……で、文華は何故だか恥ずかしそうに指先で僕の頬っぺたをツンツン突く、
一貴:「うん、」……何だ?
文華:「後で縫ってあげるから、今日は違うシャツを着て行こうね、」
一貴:「うん、」……この可愛らしい女の子??
万絢:「何だか今日は仲良しさんです、」……万絢、箸を咥えた侭顔が真っ赤、
母親:「まあちゃん、見ちゃ駄目よ、」……母親、神妙
ーーー
で、出勤前の母親に呼びつけられる、
母親:「アンタに限って、って油断はいけないのよね、」
一貴:「何の話だよ、」
母親:「正直に言いなさい、これまでに女の子とセックスした事有るの?」
一貴:「せ、ってなんでそんな事言わなきゃいけないんだよ、」
母親:「大切な事、アンタにとっても、ふみちゃんにとっても、」
一貴:「無いよ、」
母親:「まあ、するなって言っても無理よね、そんなの判り切ってるわ、」……母親、年甲斐も無く照れてる?
母親:「兎に角、今日学校の帰りに二人で病院に行って来なさい、」
一貴:「病院って、何の?」……まさか昨日の夜の事がバレてる? それで昨日の今日で妊娠とか分るのか?
母親:「HIVと感染症の検査、二人が許嫁になったって言えば、それで解ってもらえるから、」
一貴:「えいち? って、何それ?」
母親:「性病の検査よ、最初にやっとけばお互いに安心でしょ、夫婦になるんだからソレなりに自覚を持ちなさい、……良い?フミちゃんを泣かせる様な事をしたら家を追い出すわよ、判ってんの!」
ーーー
で、駅、
文華:「どうしよう、冴子にばれちゃうかも、顔がニヤケるの止まらない、」
文華:「私先に行くから、カズキは次の電車に乗ってきて、」……で、すたこらと階段を駆け上って行く文華、
万絢:「どうして今日は、文華さんは恥ずかしがり屋さんなんですか?」
一貴:「うーん、」……僕も顔が赤くなる、
ーーー
学校までの道すがら、満身創痍ライフポイントゼロの朋生が近づいて来る、
朋生:「カズっちは何だかご機嫌だなぁ、」……そんなにバレバレなのか?
一貴:「たまにはね、朋生は高野さんと仲直りしたの?」……僕はカエルの和尚さんの姿を思い浮かべて平常心を取り戻す、
朋生:「未だなんだよぉ、なんか良い仲直りの方法知らないか?」……知っているけれど、あれは教えられない、
三枝がニヤニヤそれから溜息、
三枝:「貴方達って本当に分かり易いわね、」
一貴:「何がだよ、」……平常心、平常心、
三枝:「それで、どうだったの?」
一貴:「どうって、何の事?」
三枝:「とぼけたって駄目よ、あんな挙動不審に浮かれてる藤塚さん見たの初めてだもの、」
一貴:「別に、そういう三枝はどうなんだよ、」
三枝:「秘密、」
一貴:「狡い!今度から三枝の事「多恵」って呼び捨てにするよ、」
三枝:「全然良いわよ其れ位、流石に一皮むけた男は肚が据わりますなぁ、」
一貴:「何だよそれ、」
三枝:「でも、藤塚さんの相手がカズキだってバレたら面白い事になりそうね、」
一貴:「脅迫するのかぁ?」
三枝:「キャラメルマキアートで手を打ってあげるわよ、」
ーーー
で、昼休みに加茂理夜から呼び出し、
理夜:「お兄ちゃん見損ないましたよ!」
一貴:「今迄は見損なってなかったんだ、」
理夜:「何時でもやりたい放題の嫁なんか放置して、今こそ可愛い義妹との禁断の愛を育むのです!」
一貴:「なんか変な漫画でも読んだのか?」
佳枝:「はい、一発で見抜くとは流石お兄さんですね、」
一貴:「でもどうやって義妹になるつもりなんだよ?」
理夜:「ウチのお父さんとお兄ちゃんのお母さんが再婚すれば万事OKです、」
一貴:「処で、僕ってそんなに判り易くバレちゃってるの?」
佳枝:「お兄さんが、と言うよりは藤塚先輩の方ですね、全く羨ましい、」
一貴:「そう言えば佳枝ちゃんって僕を誘惑出来なかった所為で減点されたりするの?」……で、見ると何故だか富士本が真っ赤になって照れている?
一貴:「どうしたの?」
佳枝:「何でも無い!」……で、外方を向いた侭ドッカに走り去ってしまう、
理夜:「お兄ちゃん、今更富士本を誘惑してどうするつもりですか、ヤリますね、ヤリますか?」
一貴:「え?僕何かした?」
ーーー
で、放課後、
下駄箱に「赤いラブレター」が入れられていた。 僕は急いで中身を確認する、差出人は、
一貴:「…楓明?」……あの、妖しい球体関節人形遣い、
本文:「やあ北条クン、久しぶりだね、藤塚の巫女と婚約したんだって聞いたよ、御目出度う。 優しい君が選択した道だから勿論祝福するし応援するよ。 さて、正式に三日月様の式神になった北条クンだから、言って見れば私とは同門ミタイナものになった訳だ、そこで同門の先輩からの婚約祝いに一つ君にとって有益な情報を教えて上げようと思う。」
手紙は其処で終っていた、藤塚の写真の時もそうだがこの楓明と言う女、本当に味方なのか敵なのか正体がつかめない。 前回のあの写真で僕が何か得をした事が有るかと言えば何一つ良い事は無かったのだ。 そんな風に人心を惑わせる事が陰陽師だか巫女だかの本領なのかも知れないけれど、何度も同じ様な術に嵌るものかと僕は身構える。 そしてしかし幾ら待てどもメールも録音の電話も掛かって来る様子も無くて、それともただのハッタリだったのだろうか?
森:「こんにちは、」……声の方を振り返ると、何だか嬉しそうに森先輩が近づいて来る。 少しずつ元気を取り戻しているミタイで僕はちょっとほっとする、
一貴:「こんにちは、」
森:「この間のランチの話なんですけど、」
一貴:「ああ、はい、」……春に森先輩が変質者に襲われた時に僕が危機を救った事になっていて、そのお礼に手作りランチを御馳走してもらう事になっていたのだ、
森:「今週末の日曜日とか時間取れたりしますか?」……ってなんでそんなに恥ずかしそうに上目使いするんだ? 年上の妙に可愛らしい仕草がギャップ萌えで何だかちょっとこっちまで恥ずかしくなってくる、いや、これは決して浮気等では無くて、森先輩には心の支えになる共通の体験をした知人が必要な訳であって、あくまでもこれは人道支援的な、って、ドキマギ僕は一体誰に言い訳しようとしてるんだ! でもどうしよう本当に行っても良いのかな少なくとも文華に相談してからにした方が、、、、(要するに軽くパニック)
一貴:「ちょっとスケジュール見てみます、後で連絡で良いですか?」
森:「はい、じゃあ、連絡先とか教えてもらってもいいですか?」……ってなんでそんな蕩けた貌で僕を見るんだ?? 年上の……以下略、
一貴:「はい、」……僕は携帯を取り出してメアドを交換、
森:「そう言えば、この間お家に伺った時に一緒にいた女の人の事覚えてますか?」
一貴:「はい、」……目下そいつのお蔭で無駄に神経をすり減らしている所です、
森:「彼女、プロの占い師なんですよ、この前私も占って貰っちゃっいました、」
一貴:「へー意外、森先輩でも占いとか信じたりするんですか?」
森:「あぁ、これでも女の子なんですよぉ、人並みに恋愛とか興味あるし、」……だからそんなに可愛らしい眼差しで見ないで~
森:「彼女凄いんですよ、私の家の事とか家族の事とか全部言い当てちゃうんです、」……それは多分、ホットリーディングと言う奴ですね、
森:「それで彼女が言うには、私と北条さんって、結構相性良いってことなんですけど、本当かなぁ、」……僕は、何と答えるべきなのだろう、
一貴:「はは、」……笑って誤魔化す、
森:「やっぱり私なんかじゃあ、嫌ですよね、傷物だし、」……って、何でそんな急に俯いて悲しそうな顔になる!
一貴:「そう言う意味じゃなくって、森先輩は完璧超人だから、僕なんかじゃ全然釣り合わないって言うか、……あの、本当の事言うと僕付き合ってる人がいるんで、そうじゃ無かったらきっと凄く浮かれてると思います。それ位、森先輩は魅力的です。」
森:「そうなんだぁ、残念!ちょっと期待しちゃったのになぁ、」
一貴:「はは、」
森:「じゃあ、ランチには是非彼女さんにも一緒に来てもらった方が良いかな? 誤解されない様に、」……ちょっと悪戯っぽく微笑む森先輩、
一貴:「ありがとうございます、聞いてみます、」
森:「そうそう、それなら是非、妹さんもご一緒に、」
一貴:「妹?は居ないです、」
森:「え、そうなんですか? 楓明さんから北条さんには凄く仲の良い妹がいるって聞いていたんですけど、占いが外れたのかな? とても霊感の強い女の子だって聞いてたから一度会ってみたいなと思ってたんだけどな、」
妹?……楓明が言うからには単なるあてずっぽでない事は確かだ、そしてこの森雅の発言がさっきの赤いラブレターを補完するものである事は明らかだ。 でも実際僕には妹なんて居ない訳で、もしかしてそれは妹的な誰かの事を指しているのだろうか? 例えば万絢とか、加茂理夜とか? でも仮にそうだったとしても、それで彼女達が一体何だと言うのだ?
一貴:「それで、楓明、さんは、…妹について他に何か言ってませんでしたか?」
森:「そうですね、近い内に友達関係でトラブルに巻き込まれるかもしれないから注意した方が良いとか、でも実際に妹さんがいないのなら安心ですね、」……そしてそれが、単なるティーンエイジャーの恋愛事情なんかでない事は、明らかだった、
森:「それじゃあ、日曜日楽しみにしてますね、」……僕は森雅を見送って、夕焼けの射し込む下足室で一人佇む、
一体楓明は、僕に何を伝え様としているんだ?