049「五頭龍伝説」
9月頭、鎌倉高徳院から程近い森雅の家、
白を基調としたお洒落なダイニングで、僕と文華は森雅主催のランチパーティにお呼ばれしていた(ゲストは僕達二人だけ、)。 本日のメニューはミラノ風カツレツとサフラン風味のリゾット、……味が微妙なのはこの際置いておく、
森:「藤塚さんが彼女じゃ、私なんか最初っから勝ち目ないわよね、」
文華:「そんな事ないですよ、私達なんか只の幼馴染って言うか、腐れ縁なだけで、」……まあ、強ち嘘ではない、
一貴:「藤塚って、3年生の間でも有名なんですか?」
森:「そりゃそうよ、だって学校の裏サイト人気ランキングトップ3常駐者なのよ、ウチのクラスでも狙ってる子結構居たんだから、」……かく言う森雅は連続105週トップの記録保持者である、因に現在の1位は富士本佳枝、2位が文華、加茂理夜が4位で、森雅は生徒会長を辞めてからは10位辺りにまで後退していた、
一貴:「森先輩でも裏サイトのランキングなんか気にするんですか?」
森:「正直自分がどう評価されているのかは、やっぱり気になっちゃうわよね、」
食後はアメリカンコーヒーと一口サイズのチョコレートケーキ、
一貴:「あれから楓明さんとは会ってるんですか?」
森:「ここ暫くは会ってないな、何か占って貰いたい事でもあるの?」
一貴:「いえ、そうじゃなくって、一寸人形に興味があって、」
森:「人形? 楓明さんと人形がどうかしたの?」
一貴:「前にうちに来たとき、楓明さん凄く綺麗な人形を鞄に入れてたんで、どう言うものなのか聞いてみたかったんです、」
森:「へえ、そうなんだ、ぜんぜん気づかなかった、」……あんなに目立つ派手な人形なのに気づかなかった? そう言えば初めて楓明と学校で会った時に「人形が見えるとか見えないとか」そんな話をした記憶が有る、まさか本当にあの人形は普通の人には見えないのだろうか??
森:「今度会ったら聞いておいてあげるね、」
一貴:「宜しくお願いします」
森:「また、遊びに来てくださいね、」
一貴:「ありがとうございます、」
森:「本当に、私これ迄こんな風にお友達に家に来てもらった事なくって、何だか今日はとっても楽しくって、何だか今までずいぶん損してた気分です、藤塚さんもお友達になってもらえたら嬉しいな、」
文華:「喜んで、またお邪魔させて下さいね、」
ーーー
で、江ノ島電鉄長谷駅、
文華:「ねえ一貴、ちょっとデートしない?」
一貴:「良いけど、どこ行くの?」
文華:「江ノ島、」……そう言って文華が腕に抱きついて来る、
一貴:「ちょっと!恥ずかしいってば、」……僕は思わず照れて拒否ってしまいながらも、当然満更でも無いと言うか心はどうしようもなくウキウキしてしまう訳で、
文華:「だってこれ迄碌にデートなんて出来なかったでしょう、」
ーーー
で、江ノ電を西へ、
日曜午後の観光スポットは灼熱の炎天下にも関わらず思いの外混雑していた。 僕達は江ノ島駅からぶらぶらと歩いて弁天橋を渡るが、で、どうしたって僕は周りの視線が気になる訳で、……ヒソヒソ話の女子中学生から、アカラサマ立ち止まって凝視する男共から、親子連れビシっと指差して来る小さな女の子迄、やっぱり文華の存在感は半端ない。 しかも本日の文華の出で立ちはと言うとミニスカ丈の白いシャツワンピースに黒のオックスフォードシューズと言うパッと見男物を羽織ったギャップ感のドキッとするエロっぽさで、僕としてはこんな姿を僕以外の誰かに見られるのは本当の所は厭な訳で、、、
で、そんな僕のモヤモヤ感なんかお構い無しに文華はと言うと、いつの間にどうやって回収してきたのかおそらく森雅のモノと思われる髪の毛を数本、小さなサンプル瓶に入れて鞄にしまっている、
一貴:「どうするの、そんなもの?」
文華:「覚えてる? 私が最初に此処に来た目的は、森雅を狙っている連中の正体を探りにきたって言ったでしょ、」
一貴:「うん、」
文華:「一体どんなDNAなのか、興味ない?」
一貴:「滅ぼされた古代王朝の末裔だっけ? 一体それって何なの?」
文華:「さあ、そんな失われたモノには興味ないけど、今生きている人間には少し関心があるわ、」
一貴:「でもそんなのどうやって調べるのさ?」
文華:「組合に頼むと面倒な事になりそうだから、ちょっと個人的な知り合いに頼んでみる、ついでに一貴のDNAも調べさせてよ、」
一貴:「なんで?」
文華:「愛する旦那様のDNAを端から端まで知っておきたいと思うのは、可愛い妻としては極普通の衝動だと思わない?」……言いながら文華はニヤニヤと僕の瞳の奥を覗き込む、
一貴:「変だよ、」……絶対浮気したりしないかの証拠にするつもりなんだ、
文華:「あら、何か疚しい事でも有るのかしら?」
一貴:「…ないから別に構わないけど、髪の毛でいいの?」
文華:「何で調べてもらいたい?血液?それとも今晩搾精してあげようか?」……って無駄に口元がエロい!
ーーー
島に渡った所で美味しそうな匂いにつられて、僕達はイカの丸焼きを一つ購入、結構でかいから二人で分ける事にする、
文華:「一口頂戴〜、」……で、端っこの耳の部分に齧りつく文華、
文華:「おいひ、」……あ〜あ、口の周りがべちょべちょになってる、
で、テレビのロケかなんかと勘違いして俄に騒がしくなって来る人集り、僕達は早々に退却、
弁財天仲見通りをとぼとぼ登っていくと、今度は何処からとも無く一眼レフのシャッター音、振り返ると見知らぬバンダナ男が無断で写真を撮っている、僕は苦虫を噛み潰してレンズの間に割って入る、
文華:「ふふん、その美人俺の嫁的な優越感?」
一貴:「そんなんじゃないけど、非常識だよ勝手に写真撮るなんて、」
ーーー
で、江ノ島神社の階段辺りから子猫がついてくる、
文華:「人懐っこいね、」
一貴:「イカ焼きあげようか、」
文華:「駄目だよ、猫にイカ食べさせたら腰抜けちゃうんだから!」
一貴:「そうなの?」
文華がしゃがみ込むと、その足元にひっくり返ってお腹を晒す、それでワシャワシャと撫ぜてやるとゴロゴロ喉を鳴らす、
文華:「へへ、もふもふだぁ、」
一貴:「こいつも雄かよ、お前、文華に色目使うと赦さないぞ、」……で、僕が触ろうとすると途端にパッと飛び退いて警戒の姿勢、
文華:「なあにそれ、もしかして子猫に嫉妬してるの? 変な人、」……僕はバツが悪くなって、
一貴:「正直言うと僕は、…みっともないけど、何だか僕って独占欲強いミタイ、文華の事を僕以外の誰かに厭らしい目で見られるの嫌なんだ、」
文華:「うっわあ〜おもっ、」……で、文華がピッタリと僕と腕を組む、
文華:「じゃあ、ちゃんと一貴だけのモノにしてね、」
ーーー
展望台に辿り着く頃にはかなり日も傾いて、辺りの人影も段々疎らになってくる、
文華:「ねえ、この先に「恋人の丘」って処が有るんだけど、……行ってミタイ、」
一貴:「うん、」……見ると、どうやら他にもカップルらしき人影がちらりほらり、肩を寄せ合って海に沈んでいく夕日を眺めている、
一貴:「手をつないでもいい?」……文華が笑う、
文華:「どうしてそんな事で遠慮なんてするの? おかしな人、」……文華は腕を回してそのまま僕にくっ付いてきて、不意に唇を触れさせて、
文華:「好き、」……僕はそれだけでもうぼおっとなってしまって、
一貴:「…もう一回良い?」
文華:「…焼きイカ味で良ければどうぞ、」……今度はもう少しお互い身を寄せ合って、もう疾っくに夕日なんかどうでもよくなってしまっていて、気がついたら、二人は指を絡ませあっていて、
一貴:「…帰ろっか、」
文華:「駄目ぇ!ちゃんと鐘鳴らしてっから!」