※この作品はR-18です。

マスタースレイブ・リストリクテッド   作:ランプライト

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058「死線」

軽井沢っぽい所にある、とある政治家の別荘、

と言うのも僕と万絢は目隠しをされた状態で車に載せられて此処迄連れて来られた訳で、すっかり黄昏れた林の奥と言うこと以外詳しい事は何も知らされていない。 軽井沢と言うのも、実はさっき玄関の脇のクロークルームに無造作に放置されていた「軽井沢、鹿島の森」と書かれた小冊子から勝手に推測したに過ぎなかったりする、

 

僕と万絢は用意されていた黒いスーツに着替えて、一般のセキュリティポリスに紛れ込む、

 

一貴:「へえ、結構似合ってるじゃん、」……スーツ姿の万絢は、何時もより何だか少し大人っぽく見える、

万絢:「余計な事言うな、」……で、万絢は、真っ赤になりながら僕を睨みつけて外方を向いてしまう、

 

相澤:「フランスの大臣が日本に来てるのは知ってるだろう?」……今回の実地研修で僕達の面倒を見る爽やか兄さん、相澤さんが話し掛けて来た、

一貴:「いえ、そうなんですか?」

相澤:「おいおい、良いか、最低限一般常識として新聞とテレビの政治経済ニュースには目を通しておけよ、で、こっから先は未公開事項だが、今夜此処でユーロ崩壊後の経済支援の枠組みについて論議されることになっている、」

一貴:「え、ユーロって崩壊するんですか?」

相澤:「それでドイツを含む幾つかのくEU加盟国としては日本とフランスの相談内容に興味がある訳だ、」……そこへリムジンで到着する、美女5人?

一貴:「あの、いくつか質問したいというか突っ込みたい事があるんですが、」

相澤:「今は止めておけ、」

 

相澤:「兎に角今回の俺達の仕事は、会議に邪魔が入らないように不審者の接近を阻止する事だ、敵も当然この会議の事は知っているから事前に罠を仕掛けてくる可能性がある、俺達は4つのチームに別れて警戒に当たり、君達には敷地周りに結界が仕掛けられていないかを調べてもらう、」……で、渡されるスマートウォッチ、

相澤:「この機械で半径3m以内の結界装置を検出する事ができる、これを身に着けて、敷地の周りを足で歩いてチェックすると言う簡単な仕事だ、異常が発見された場合は自分で対応しようとせずに私に連絡して指示を仰ぐ事、作戦中の携帯の使用は禁止だ、敵に傍受されるからな、連絡にはこのスマートウォッチを使え、そちらからの交信は内臓マイクで拾う、内臓カメラで映像を送る事も可能だ、こちらからの交信は暗号化した通信をスマートウォッチで受信して画面上にテキストで表示されるようになっている、ここまで了解か?」

一貴/万絢:「はい、」

 

 

 

ーーー

で、18時過ぎ、暗くなりかけた林の中を二人して散策する、

 

一貴:「敷地周りって、一体どれくらい有るんだ?」

万絢:「敷地面積3300坪、外周約420mって、さっき説明聞いてなかったんですか? しっかりして下さい、そんなんじゃこの先思いやられます、」……結構手厳しい、

 

万絢:「それより、もう少し離れて歩いてください、セクハラで訴えますよ、私は奥さんじゃないんですから、余り慣れ慣れしくしないで下さい、」……って、そんなにくっ付いている積りはないのだけど、この会話聞いてる人は絶対誤解してるよな、

 

で、ぐるっと一周回り終わって、門の前に戻って来る、

 

一貴:「特に異常は見つかりませんでした、」

 

スマートウォッチ画面:「了解、それでは今の位置から5m外側に離れてもう一度一周回ってくれ、」……って、もしかしてこれって朝迄少しずつ半径拡げながら歩き続ける体力根性試し的イベントだったりするのか??

一貴:「了解です、万絢、行こうか、」

万絢:「また! もう、作戦中に名前を呼んじゃイケナイって説明聞いてなかったんですか?」……そう言えば、敵に素性を知られる様な行為は御法度だった、

一貴:「スミマセン、」……結構面倒臭い、

 

 

 

ーーー

で、ぐるっと二週目も回り終える、

 

一貴:「二周目終了、特に問題無しです、」

 

スマートウォッチ画面:「了解、それでは今の位置から更に5m外側に離れて調査してくれ、」……予想通り! と言う訳で一周0.5kmのトレッキングを再開する、既に舗装された道から離れて、立ち木や伐採された材木、ぬかるみ、雑草、ゴロゴロした石ころやら何やらで結構歩き難い、……何だか地味な苛めにさえ思えて来た、

 

万絢:「あっ、」……暗い足下を取られて転びかけた万絢を、僕は咄嗟に支える、

一貴:「大丈夫?」

万絢:「……うん、」……万絢は俯いた侭、周囲は灯りも無くてすっかり暗いからどんな顔をしているのかもよく見えないが、緊張の所為なのか早鐘の様な万絢の心臓の鼓動が、掴んだ掌を通じて伝わって来る様な気がした、

一貴:「大丈夫だよ、僕が付いてるから、」

万絢:「…うん、」

 

で、僕はその侭其処に、万絢を押し倒した、

 

万絢:「きゃ、」

 

何かが立ち木にぶつかって、メリメリと裂ける音が辺りに反響する! 何かが、ぞっとする何かが、……

 

一貴:「万絢、立って!」……僕は万絢を力づくで引っ張り起こして、……ヴィィィン…と、まるでのこぎりの刃が振動する様な音がして、僕は不意に握りしめていた万絢の腕の重さを感じなくなって、蹌踉めいて、その場に素っ転んだ!

 

妙な違和感だけで痛みは無かった、それなのに僕の右肘から先が、切断されて無くなっていた。

 

何時の間に斬られた? 訳も分らない内に、今度は火花を散らしながら轟音を立てて、目に見えないチェーンソーが辺り中の立ち木を次々に切断していく!

 

こいつは「見えない鎧」だ!……僕達は襲われているのか? 

僕は、残っている左手に嵌めたスマートウォッチに向って叫ぶ、

 

一貴:「攻撃された!助けてくれ!」……なのにスマートウォッチの画面には何の反応もない、……もしかして通信が妨害されているのか?

 

僕は必死に脇の下の血管を押さえて止血しようとするが、……血が止まらない、

 

一貴:「逃げるぞ!」……でも、見えない鎧を相手に逃げ切れるのか? 屋敷の門までは200m以上ある、

 

そして、呆然と立ち尽くす万絢に何かが激突して!

鈍い打撃音と共に万絢の身体が吹っ飛んで、立ち木に激突する!

 

一貴:「万絢!」……暗くてよく見えないが、万絢の顔面が変形している? そして駆け寄ろうとした僕の右足首が、……無い。 また何時の間にか切断されている? 僕はそのまま再び素っ転んで、 無様に泥水の中に顔からダイブする!

 

一貴:「くそぉ!」……辺りに鳴り響くチェーンソーの轟音!

 

万絢:「ううぅ、……」……呻く万絢の足元の地面が、見えないチェーンソーで穿たれていく!

一貴:「万絢、逃げろ!」

万絢:「ぎゃぁあああぁ…あああああぁ!!!!」……躊躇なくその時にはもう、万絢の太腿から先が切断されて、吹っ飛ぶ!

 

一貴:「万絢!」……今度は地面に転がった僕のすぐ傍に出現する見えないチェーンソー! ぞっとする殺気が埋没した脳内記憶から意識から切り離された筈の視覚情報を、引っ張り戻す!

 

そこには、特徴的なガスタンク型の「見えない鎧」が確かに存在していた! こいつは前に沙紀と一緒に襲ってきた土蜘蛛だ!

 

僕は必死に地面を転がって逃れようとするが、……ガスタンクは凄い力で僕の頭を地面に押し付けて身動きを封じる、……手も足もでない、

 

巨大なチェーンソーが、食い止めようとした僕の左手の指を吹き飛ばして、……容赦なく僕の胴体に少しずつ、食い込んでいく!

 

一貴:「文華!」

 

最後に頭を過ったのは、愛する女の事だった、……出会ってから、色んな事があった、……もっと優しくしておけば良かった、もっと早く指輪を渡しておけば良かったな、

 

相澤:「終了かな、」……涙で滲んだ目を開けると、僕は頭を地面に押し付けられて、……生きている? 胴体は、腕は、足は? 辺りを見回すと、万絢は、万絢は立木に凭れ掛かった侭呆然としていた、スーツが茶色い嘔吐物で汚れている、……全部幻覚、だったのか?

 

一貴:「これは一体?」……僕は相澤に手を差し伸べられて、立ち上がる、

一貴:「もしかして、偽物? 模擬演習だったんですか?」

相澤:「そうだ、まさか実習一回目から実戦は有り得ないからね、」……僕は、伐採された木に座らされて、ペットボトルの水を貰う。 やがて闇の中からガスタンク型の見えない鎧が姿を現して、フードを開けて顔を見せる女の式神、

宇津木:「どうもぉ、ご苦労さん、」

 

相澤:「いくつか身に沁みて気が付いた事が有った筈だが、判るかな?」

相澤:「一つは、勝てない敵とは戦わない事、……そもそも巫女や式神は派遣業者みたいに同じ家から別の陰陽師に派遣されて仕事を請け負っている、だから敵対する式神が同じ家の出身だったり知り合いだったりって言うことは良くある事だ、それでも立ち向かってくれば対処しなければならない、親戚同士で命の奪い合いをする羽目にだってなりかねない、でもそこまで陰陽師に義理立てする必要は無いって事だ、相手の技量が分かれば立ち会った結果は自ずと最初から分かる、無駄に血を流す必要は無い、勝ち目が無いと判断した時点で逃げるのが正解、わかったかな?」

 

相澤:「もう一つは誰も信用しない事だ、今回の幻覚はそのスマートウォッチに仕込まれた機械で見せられていたものだ、味方だって信用すると危険だって事だよ、」……でもそんな事、そんなの只の引っかけじゃないか!

一貴:「…参考までに、今までにこの実習で死なずにクリアした人っているんですか?」……僕は苦虫を噛み潰して、苦し紛れの質問、

相澤:「実は一人だけ居るらしい、直接会った事は無いから詳しい事は知らないけれど、何か特別な事情が有ったんじゃないかな、普通は完全武装した式神に生身で勝てる訳が無い、」……でも、僕は、生身の海住が一撃で見えない鎧を戦闘不能にしたのを見た事がある、

 

相澤:「特別と言えば君も特別な例だと言えるかもな、最初の攻撃を察知して回避行動を起こした者は、過去に君を含めても5人しか居ない、どうやって攻撃に気づいたんだ?」

一貴:「何だか、怖気みたいな、気持ち悪い感覚って言うんですか、そういうのが有って、」……そうだ、あれは海住に襲われた時と同じ感覚だった、

相澤:「ふーん、もしかすると君には精神感応の素質が有るのかもね、」

 

相澤:「じゃあ、所定のフォームでレポートを提出する事、期限は一週間以内、提出先のアドレスは以前に配った冊子に書いてある筈だ、何か疑問点があれば私のメアド迄連絡してくれ、此処までいいかな?」

一貴:「了解です、」

 

取り敢えず、今日は死なないで済んだらしい、

 

 

 

ーーー

僕は、依然としてへたり込んだ侭の万絢の下へ、それで手を差し伸べる、

 

一貴:「撤収だって、帰ろう、」

万絢:「……ちかよらないで、」

一貴:「どうしたの?」……僕は傍にしゃがみ込んで、

万絢:「来ないで!」……見ると、嘔吐に加えて、失禁してしまったらしい、

 

一貴:「しょうがないよ、本当に死んだかと思ったもの、今でも全身の筋肉が痛いよ、実は僕もちびっちゃったんだ、」……ぼろぼろと涙を流す万絢、

一貴:「文華には内緒にしておこうな、」

 

万絢は、黙った侭こくりと頷いた、

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