061「新人類」
朝練の後、玄関で万絢とすれ違うが、
万絢:「行ってきます!」……僕の顔も見ないで逃げる様に飛び出して行った、……まあ、昨日あんな事が遭った後だから、ばつが悪いのは僕も同じだけれども、
文華:「まあ、学校に行ける様になっただけ良かったんじゃない?」……文華は鏡台に向って熱心に化粧しながらボソリと呟く、……って、ファンデーションを塗ってる文華を見たのは始めてかも知れない、
一貴:「楓明の「妹予言」ってもしかして万絢の事だったのかな、」
文華:「あの女がこんなホノボノ夢占いなんかするとは思えないわ、」……しきりに首回りを気にしているミタイだが、
一貴:「もしかして日焼け止め?」
文華:「うーん、惜しい、……正解はキスマーク隠してるんですねぇ、」……あ、昨日の、、、
一貴:「ごめん、跡残っちゃった?」
文華:「うーん、近い、……これもうハッキリ歯形ですよねぇ、」……え、
一貴:「スミマセン、」
ーーー
学校に着くと、諸々の報いなのだろうか、……僕の机が無くなっていた、
一貴:「一体何処に持ってったんだ?」……何と古典的な苛めか!
朋生:「かずっちに喧嘩売るなんて良い度胸してるよな、」……朋生が近づいて来て、僕の肩を揉む、
一貴:「人の事を裏番ミタイに言うの、止めてよね、」
一貴:「探してくるから荷物預かっててくれない、」……僕は文華に鞄を預けて、
文華:「探すの手伝おっか?」
早乙女:「お前の机なら屋上に上がる階段の踊り場にあるぞ、」……巨人が近づいて来て、ぼそりと呟く、
一貴:「ありがと、取って来るよ、」
ーーー
で、屋上階の階段の踊り場に行くと、僕の机の上には見知った顔の女が座っていた。 片膝を立てて、反対側の脚は机の端からブラブラさせて、相変わらず派手な柄の紫のパンツを履いている、
沙紀:「久しぶりだね、北条クン、」
一貴:「今度は何を企んでるの?」
沙紀:「嫌だなぁ、私達友達でしょ? 折角良い事を教えてあげようと思って来たのにな、」
一貴:「普通友達にロボトミー手術しようとしないよね、」
沙紀:「永遠に痛みから解放してあげようと言う私なりの思いやりじゃない、」
一貴:「もしかして今回も君が真島を操ってるの?」
沙紀:「純?そうかもね、でもあの子意外に役に立たないからなぁ、余計な事しないか心配、」
一貴:「一体何が目的なのさ、」
沙紀:「この前の続き、する?」……沙紀は言いながら、スカートの中身をM字開脚させて行く、
一貴:「で、何なのさ良い事って?」……僕は悪戯な上目遣いでパンティの右側半分を捲って見せる沙紀の股間から目を逸らす、
沙紀:「知ってた? 北条クンは三日月に騙されてるんだよ、あの藤塚とか言う女にも、」
一貴:「そんな事、今更どうでもいいよ、」
沙紀:「違う違う、つまり北条君はこっち側に居るべき人間なんだよ、」
一貴:「こっち側って「裏」の事?」
沙紀:「自分達が「表」だって思ってる時点で可笑しいよね、だってもともと陰陽師なんて陰に潜む存在の癖にさ、……私達はそんな陰陽師の利己的な支配から離れて本当の人類の為の活動を支援しているんだ、君だって奴らのやり方が時代錯誤で非効率だって事に気付いているでしょう?」……確かに、巫女は処女を護り通さなければならないとか、家に決められた相手としか結婚出来ないとか、やりたくもない色仕掛けが必須課題だとか、納得いかない事は沢山有る、
沙紀:「そんな奴らに任せておいたら世界は羽化を妨げられた蝶みたいに蛹の中で腐って死んでしまうよ。 奴等の方針は1000年前から変わらず「現状維持」なんだ、でも世界は疾っくに次の限界の時を迎えている。 一刻も早く新しい社会の有り様に進化しなければ再び取り返しのつかない滅びの時代を迎える事になってしまうんだよ、」……それはまるでカルトの様な物言いだ、
沙紀:「それに元々「君達」はそんな旧態依然とした陰陽師の支配から独立して新しい世代を導く為に作られた新人類なんだよ、」
一貴:「適当な事を色々ごちゃ混ぜに言われてもそんなの信用できないよ、だいたい「君達」って「誰たち」の事なのさ?」
沙紀:「君達とは、数字を「諱」に持つ子供達の事だよ、かずみくん、いや13番って呼んだ方が良いかな?」……そして沙紀が、ゾッとする様な微笑みを僕に向ける、
一貴:「何を、言ってる?」
沙紀:「これ以上を知りたいなら私に付いて来て、拒むなら少々面倒くさい事が起きちゃうかも知れない、」
一貴:「行かない、」
沙紀:「そう、残念、」……で、沙紀は机の上に立ち上がると、そのまま階段の手摺の向こう側に姿を眩ませる、
ーーー
僕は直ちに加茂理夜を旧図書室に呼び出した、
理夜:「お兄ちゃん未だ授業中ですよ、」……僕は沙紀から聞いた話を加茂理夜と富士本に伝える、
理夜:「何を信じるか信じないかはお兄ちゃんが決めれば良いのです、と、理夜もたまにはお兄ちゃんを突き放してみるのです、」
一貴:「つまり否定もしないっていう事か、」
理夜:「否定なんかしたら、かえってお兄ちゃんはそんな世迷言を信じてしまうに決まってるのです、」
一貴:「何であいつは僕の諱を知っていたんだ?」
理夜:「それは問題なのです、「忌み名」は滅多な事で他人に知られてはいけないものなのです、知られたからには生かしてはおけない位秘密なものです、」
一貴:「前にお前が「危機はまだ始まっていない」って言ってたのって、この事なのか?」
理夜:「今はまだはっきりとは判らないのです、」
一貴:「ねえ理夜ぁ、教えてくれよぉ、僕と理夜の仲だろ?」
理夜:「下の名前を呼び捨てにすれば誰でも言う事を聞くと思ったら大間違いなのです、」
一貴:「けち、」
佳枝:「兎に角、その沙紀とか言う女には要注意ですね、何か仕掛けてくると考えておいて間違いないでしょう、」
そして、思いがけない処で事件は勃発する、
ーーー
その夜、晩ご飯を食べている処に高野から電話が掛かって来た。
高野:「…どうしよう、…朋生が、変な奴等に襲われて、……バットで背骨折られて、…」……受話器の向こう側の高野は、今迄に聞いた事が無い位切羽詰まった声で、震えた声で、……泣きじゃくっていた、