じわじわとピントの合ってくる意識の中で、少しずつ周囲の状況が飲み込めて来た。
軍服も、包帯だらけの負傷者も、瓶詰めの内臓も、そんな物は何処にも見当たらない。 ガランドウの教室の真ん中には、只一人森雅が産婦人科の健診台の様な椅子で両脚を強制開脚されて、性器を露に晒した格好で拘束されている。
そして再び、目に見えない巨大な何かが轟音を立てて激しくぶつかり合う! ゆらりと部分的に空間が歪んで見えて、一瞬その見えない何者かの輪郭が背景から浮き彫りにされる。
一体、何が居るんだ?
藤塚:「早く立って!」
僕は藤塚に引っ張り起こされて、蹌踉ける足でナントカ立ち上がろうとするが、まるで長時間座禅して痺れきったみたいに足の感覚が定かでない、
藤塚:「行くわよ、」
一貴:「待って、森先輩を助けなきゃ、」
藤塚:「馬鹿なの? アンタが生きて帰れるかどうかも怪しいのよ、あの女の事は諦めなさい、」
一貴:「だって、」
そして、行き成り空間に光の泡が出現して!ドリーミーなバックグラウンドミュージックと共に、……
呪文詠唱:「メタモルフォーーゼ!」……魔法幼女が出現した!
一貴:「女の子?」
魔法幼女:「何処の家のモンかは知らんけど、ウチらの事を知られたからにはタダで帰す訳にはいかへんなぁ、」
身長は130cm位?髪はピンクのお姫様カットで、まるでアニメから出て来たようなロリスレンダー体型、その姿格好は白赤の巫女装束の様だが、白地部分は所々スケルトンになっていて、更に袴は超ミニでしかも四分割に深いスリットが入っている。 当然つんつるてんの上から下まで際疾い部分が諸々見えそうで見えないと言うか、寧ろ見せつけている?
魔法幼女:「天翔ける白虎のジャレッコ神雷猫パぁーンチ!」
出鱈目な呪文詠唱に合わせて魔法幼女が何だかチアリーダーのバトンの様に鉾先舞鈴を振り回すと、行成り何も無い上下左右の空間から強烈な稲妻が僕達目掛けて襲い掛かって来た!
雷撃:「ばちっ!」
一瞬早く藤塚が展開した防電ビニールシートが超強力スタンガンの電撃を弾き返すが、……
魔法幼女:「業火為す朱雀のサエズリ魔炎鱗バレットぉー!」
今度は魔法幼女の持つ鉾先舞鈴の先端からマシンガンの様に火炎放射がパルス発射されて、一瞬の内に防電シートが燃え上がる!
咄嗟に杖の射程角度から逃れようとする藤塚だが、……いつの間にか隙を突かれて身体の自由を奪う毒針が、藤塚の足の甲に突き刺さっている!
文華:「ちっ!」
魔法幼女:「敵陣にノコノコ入り込んで来て勝てると思うなや、この顔が綺麗なだけのど素人娘が!」……で、完全に勝利を確信した嘲笑いのポーズ、
文華:「この、合法ロリババァァ!」
そして次の瞬間! 一際高い轟音と共に、まるでアーク溶接の如き火花が弾け飛び! 今迄光学迷彩を纏っていたロボット?鎧?の様なモノがハンダの焼ける様な匂いと共に姿を現す! それで目に見えない敵に吹っ飛ばされて……、教室の壁に激突!
それはクリーム色の鎧に全身を包んだ人間? とうとう力尽きたのか、或は何処かの機能が故障したのか、ついにその侭動きを止めてしまった。
そしてもう一体の見えない何かが、低周波な無音の圧力を撒き散らしながら、僕達の方に近づいて来る、
魔法幼女:「さーてと勝負は付いたミタイやけど、綺麗な死に方はさせへんよ、生きてる内にその綺麗な顔を強アルカリでボロボロにしたるさかい、心の底から藻掻き落ち込みーや!」
そして魔法幼女の持つ鉾先舞鈴が光の帯にクルクル巻かれたかと思った途端、ファンシーな水鉄砲に変形する! 当然銃口の照準は藤塚に、……
魔法幼女:「仄闇濁る玄武の真カセイソーダアタッ、……く?」
咄嗟に僕は、動けなくなった藤塚を庇って魔法幼女の前に飛び出していた、
次の瞬間!何故だか魔法幼女の顔が恐怖に引きつって、……一瞬の内に、まるでスクリーンに投影されていた映像がフィルムチェンジをしくじったミタイに姿を眩ませた。 辺りは不気味な沈黙に包まれる。
僕は藤塚を庇いつつ辺りの様子を探る、……と、振り返った僕達の直ぐ後ろに今日姉ちゃんが立っていた。
一貴:「今日姉ちゃん? どうして?」
今日姉ちゃんは、微笑みながら僕に近づいて来て両方の頬っぺたを摘む、
響子:「かっちん、夜更かししちゃ駄目って言ったでしょう?」
それからそのまま、僕は気を失ってしまった。
ーーー
次の日の朝、僕は何事も無かったかの様に自分のベッドの中で目を覚ます。 一瞬全ては悪い夢だった様な錯覚に囚われるが、どうやらそうではない事を証明するかの様に僕の身体には酷い筋肉痛と倦怠感と無数の切り傷が残っていた。
僕は真実を知りたくて、急ぎ着替えて今日姉ちゃんの家を訪ねるが、ドアは閉まった侭で何だか家の中にはまるっきり人の気配がしない。
ーーー
学校に駆けつけて旧校舎の様子を見に行くと、一階の廊下には立ち入り禁止のテープが張り巡らされていて、旧美術室は青いシートで覆い隠されている。
高野:「お早う、」……それで高野が背後から近づいて何故だか僕の肩を揉む。
高野:「ガス漏れ爆発だってさ、お陰で部室も立ち入り禁止。 そう言えばあの赤いラブレターに書いてあったのって、旧美術室じゃなかったっけ?」
どうやらそう言う事になっているらしいが、ならばそう言う事にしておいた方が良いのだろうか、
ーーー
それで一時限目の始業直前、僕は恐る恐る藤塚の背中をシャーペンで突いてみる、
文華:「死にたいの?」……と、本気の殺気が伝わって来る、
一貴:「あのさ、昨日の夜の事、話できないかな、」
藤塚は暫し沈黙して、それから、
文華:「判った、23時に此処に来て、」……と、僕にだけ聞こえる小さな声で囁いた。
と言う経緯で僕は二日連続で夜の学校に忍び込む事となった。 何故だか校舎のドアは鍵が開いていて、何の障害もなく僕は教室に辿り着く。 真夜中の教室の中では藤塚が机の上に腰かけて一人きりで窓の外を眺めていた。 まるで星の光を集積した夜光虫の様に、藤塚文華の綺麗な髪が仄闇にぼぅっと浮かび上がり、僕は暫しその美しい光景に見蕩れてしまう。
やがて藤塚が僕に目を配る。
一貴:「こんばんは、えと昨日のアレは一体何だったのかな、……僕、朝起きたらベッドに居たんだけど、あれって現実に起こった事だったんだよね、……藤塚さんは彼処で何をしていたの?」
藤塚はジロリと僕を睨んだまま口を開こうとしない、それでもわざわざ此処へ呼び出したのだから何時もみたいに全く口を利いてくれないと言う事は無いと思うのだが、
一貴:「藤塚さん?」
文華:「とても人にモノを尋ねる態度とは思えないわね、……まずはそこに座りなさい、」……で、何故だか僕は床に正座させられる、
一貴:「森先輩は、あの後どうなったの?」
文華:「アンタが心配しなくても今頃は病院のベッドの中よ、」
一貴:「昨日は有難う、助けてくれたんだよね、」
文華:「お蔭でこっちは大損害よ、何か月もかけて準備した仕事が全部水の泡になった、それに、……」
藤塚は徐にストッキングを脱いで、膝を組んだ左足の素足の爪先を僕の目の前に突き付けた。
文華:「どうしてくれるのかしら、」
見ると藤塚の足の甲に、昨日毒針で突刺された跡が赤い小さな傷になっている、
一貴:「どうすれば、良いのかな?」……と、恐る恐る顔色を伺う僕に、
文華:「取り敢えず舐めれば、」
僕は当然躊躇するが、当然抗う理由など何処にもない訳で、そのたおやかな藤塚の爪先を手に取って、そっと足の甲の小さな傷跡にキスをする、それで藤塚は擽ったそうに爪先を縮こめて、それからまるでねだる様に艶かしくくねらせたその指先の一つ一つを、丁寧に愛おしむ様に唇で愛撫する、
5分経過、……
文華:「もう良い、飽きた、」……と、何だか一寸満足げに上気した表情で藤塚はすっと足を引いて、爪で伝線した脱ぎたてのストッキングを、……
文華:「欲しい?」……何故だか僕にくれる、
文華:「さてと、帰るわ、」
一貴:「藤塚さんちょっと待って、昨日の……」
そこで藤塚は、僕の言葉を遮って、
文華:「私には関わらない方がアンタの為よ、」……6年前と同じセリフを呟く、
でも、その時僕の事を見詰める藤塚の瞳には、確かに憎悪の欠片等一つも見られなかったのだ。
一貴:「藤塚さん、」……だから僕はもう一度、
文華:「なんなのよ?」
一貴:「僕達、どうしても友達に成れないのかな、」……諦めきれなかった想いをぶつけてみる、
文華:「言ったでしょ、アンタは友達じゃない、これ迄もこれからもずっと、」
そう言って、藤塚はその侭僕に背中を向けて教室を後にする、