セントマーキュリー号のヘリポートに着艦するアグスタA119コアラ。
白青を基調とした可愛らしい機体から降りて来る二人組、一人はまるで吸血鬼の様な風貌の長身の男、僕の怪我を直してくれた医師、関目亨、もう一人は長い髪を風に靡かせた妖艶の美女、陰陽師組合の総務課長、朱莉さんだ、
小型ヘリは二人を降ろした後、直ちにヘリポートから離陸、僕と加茂理夜がメインデッキ迄二人を出迎えるが、
朱莉:「貴方達、一体どうしたのその顔?」……頭が痛くて気持ち悪い、いや気持ち悪くて頭が痛い、
一貴:「何か飲みますか?」……僕達はダイニングテーブルに座って、
朱莉:「ありがとう、コーヒー貰えるかな?」……朱莉は豪華絢爛乙女チックな船の内装に目をキラキラさせる、
朱莉:「凄いわね、一体幾らするのこの船?」
理夜:「さあ、」……加茂理夜、明らかにテンション低い、
一貴:「組合の協力者って、朱莉さんだったんですね、」
朱莉:「私は加茂さんに組合からの仕事を依頼しにきただけよ、」……富士本がコーヒーを持って来るが、
朱莉:「処で何なのその格好?」……富士本、裸エプロン、
理夜:「気にする必要は無いのです、躾の一環なのです、」
佳枝:「うぅ……、」……富士本は諸々取り返しのつかない出来事の記憶を一切覚えていないらしかった、酒とは斯くも恐ろしいモノなのだと僕は知る、
ーーー
朱莉が仕事の内容を伝える、
朱莉:「北条一貴殺害事件の現場から回収された式神の遺骸を調べた結果、容疑者の身元は小田家の次男明星と池島家の長男吉武で有る事が分かりました。 前回の西園寺つくしと今回の二人に家同士の関わりは殆どなかったのだけれど、逆にそのお陰で有力な手掛かりを掴む事が出来たの、」
朱莉はクリアファイルから三枚の写真を取り出して僕達に見せる。 それぞれ何処かの学校の集合写真の様だが、…恐らく印を付けられた生徒が今回の事件に関与した「裏」の式神達で、その隅っこの方にもう一つの印が付けられた共通の人物が写っている。 ハーフ?っぽい趣のハンサム顔の教師、
朱莉:「翠川正、此の男は幾つもの異なる学校を赴任しながら素質の有る生徒を洗脳して「裏」に勧誘している疑いが有ります。 今回の依頼は、此の男の身辺を調査して「ブリーディング実験」に関する極秘情報を隠し持っていないか調べる事です、」
一貴:「どうやって調べるんですか?」
朱莉:「現在翠川が赴任しているギルフォード訓練校に一人の「サンプル」が通っています。 翠川が自分の担当する歴史以外の事に関してこの生徒の情報を集めていれば、「サンプル」を調査していると考えてまず間違いないでしょう、」
一貴:「ギルフォード校って、イギリスの?」
朱莉:「そうです、」
一貴:「それって、イギリスに行くって事?」
朱莉:「そうです、」
確か、文華は今イギリスに居る筈、そしてギルフォード訓練校は文華の父親が理事をしている学校、もしかしたら文華に会う事が出来たりするのだろうか?
朱莉:「今回は一貴くんに変装して潜入調査してもらう事になります。 加茂さんや富士本さんは有名過ぎて翠川に警戒される恐れが有るのと、内容が極秘なだけにこれ以上関係者を増やしたく無いしね。 一貴くんには加茂家の分家親戚に当たる西加茂良太として、ギルフォード校の体験入学に参加してもらいます、体験入学は12月頭の次年度編入試験までの一週間、この間に翠川が「サンプル」に関する情報を持っていないかを調べる。 ブリーディング計画は組合の中でも極秘中の極秘事項だから、その事を調べていると言うだけで逮捕する事が出来るわ、それで逮捕してしまえば自白剤を使って「裏」に関する情報を聞き出す事もできる、」
文華に会えるかも知れない?
理夜:「お兄ちゃん、何を考えているのか一目でお見通しなのですが、もしもそんな事になっても絶対に藤塚先輩と接触しては駄目なのです、」
一貴:「どうして?」
朱莉:「翠川は「サンプル」が誰か判っていて接触、洗脳している可能性が高いの。 西園寺つくしも「サンプル」だったし、一貴くんも知っての通り藤塚さんも「サンプル」の一人。 3年前に藤塚さんが学校に通っていた時に翠川はギルフォード校に赴任して来た、そして彼女が翠川の特にお気に入りの生徒の一人だった事は誰もが知っている事実。 信じたくは無いけれど、藤塚文華が「裏」に洗脳されている可能性はゼロではないわ。 事実として彼女は一貴くんの死亡後、イギリスに戻って直ぐに父親の居るギルフォード訓練校を訪れ、そこで翠川と接触しているの。 それに恋人が死んで一ヶ月も経たない内に身辺整理するなんて事は、普通はちょっと、考え難い、」
そんな事、有り得る訳が無い、
朱莉:「兎に角、藤塚さんの無実がハッキリする迄は一貴くんには藤塚さんに気付かれない様に調査してもらう必要が有る訳、だから潜入調査中は出来るだけ彼女と接触しない様に気を付けて、」
一貴:「でもそんなの無理ですよ、会えばきっと直ぐにバレてしまうに決まってる、」
朱莉:「多分、大丈夫だと思う、一貴くんには組合の最新の整形手術技術で完璧に西加茂良太に成りすましてもらう、声帯もいじって声色も変える、恐らく貴方のお母さんでも気付かなくなると思うわよ、」
理夜:「理夜が考える限り最高のイケメンに改造してあげるのです、」
一貴:「お前、今さらっと非道い事言ったよな、」
朱莉:「後、加茂さん達と連絡を取れる様に頭蓋骨の中に通信機を埋め込むわ、それとコンタクトレンズ型のカメラを装着してもらって現場の状況を中継してもらう、」
吸血鬼の様な医師が、黒い鞄を拡げてぎっしりと詰まった手術道具を見せつける、
朱莉:「それともう一つ、」……関目が鞄から単2乾電池サイズの何かを取り出した、
朱莉:「これは遠隔操作で人体を発火溶解させることが出来る自爆装置。 君の正体がバレそうになった場合や今回の作戦が外部に漏れそうになった場合は、証拠隠滅の為に一貴くんには今度こそ本当に消えてもらう事になる。 くれぐれもそんな事にならない様にしっかり頼むわね、」