鏡に映っているのは見た事も無いイケメンだった。
一貴:「誰これ?」……結構彫りの深い濃い顔、
顔の要所に注射器で何だかゴムっぽいものを注射し、形を整えて2時間位放置して固めれば出来上がり、眉と髪型もさっぱり爽やか目に整えて眼鏡を掛ければ、それだけで随分印象が変わるモノなのだな、
佳枝:「写真撮ります、」……デジカメで撮影した写真で何故だかお手軽にパスポートが出来上がる、
一貴:「西加茂良太、この人って理夜の知り合い?」
理夜:「会った事無いですが、親戚筋では放蕩息子として有名なのです、」
朱莉:「本人とはちょっと印象は違うけど、私が推薦人として同行すれば怪しまれる事は無いと思うわ、一人称も変えた方が良さそうね、少し高飛車な感じで「俺」で良いんじゃない?」
ーーー
僕と朱莉さんは地中海を航行中のクルーズに紛れ込んでイタリアに上陸し、其処から飛行機でイギリスのロンドンに向う事となった、
朱莉:「私と西加茂はヴェネチアから出発して一つ目の寄港地イタリアのヴァリで乗船時刻に間に合わず乗り遅れて、単独でクルーズの船を追いかけていると言う体になっている。 クルーズはこの後ギリシャのカタコロンを経てサントリーニ島に寄港する、私達はサントリーニ島でクルーズに合流する訳、その後ピラレウス、コルフ、ドブロブニクを経てヴェネチアに戻り、そこから飛行機でロンドンに渡る、」
一貴:「どうしてそんな面倒臭い事をするんですか?」
朱莉:「今回の作戦は極秘任務だから、組合の人間にも詳細を知られる訳にはいかないの、それで誰にも怪しまれない様に、私が休暇を楽しんだ後ギルフォード訓練校の視察を兼ねて西加茂クンを学校迄連れて行く、という筋書きにした訳、」
理夜:「無理有り過ぎなのです、45過ぎのばばあが17歳の男子高校生とアバンチュールとか、どんだけ夢見てんですかって事なのです、」……朱莉さんスルー、
一貴:「もう面倒臭い事は端折って、その翠川って男を掴まえて無理矢理自白剤を飲ましちゃえば早いんじゃないですか?」
朱莉:「翠川は一応組合協力者だけど式神でも陰陽師でも巫女でもない、そう言う人間に組合の許可なく呪術を仕掛けるのは禁止されているの、組合規定読んでないの?」
一貴:「あ、そう言えば、そうだったっけ、」……やぶ蛇、、
ーーー
理夜:「音声通信良好、コンタクトカメラ映像良好なのです、これから10日間はお兄ちゃんのトイレとかお風呂とか一人エッチとか見たい放題なのです、」……タブレット型パソコンに僕が見ている映像が映し出される、なんか変な感じだ、
朱莉:「パスポート、イミグレレター、忘れ物ない?」
一貴:「はい、」
理夜:「それじゃ、後で合流するのです、」
佳枝:「お気を付けて、」
僕と朱莉さんは、セントマーキュリー号の船底からスクーバダイビングの装備一式で海中に潜り、抱き枕の様な水中モーターに掴まって、サントリーニ島の岸壁へと向う。 その後岩陰に隠れて上陸、人目に付かない場所でダイビングスーツを脱ぎ捨てて、持って来た服に着替える、
朱莉:「髪の毛ベタベタ、早くシャワー浴びたい、」……下着姿の朱莉さんは熟女なりのふっくらした肉付きとは言えそれは寧ろエロイとも言い換えられる艶かしさであって、とても母親と同い年には見えなくて僕にはどうしたって直視出来ない訳で、
朱莉:「どうしたの?」
一貴:「いえ、なんでも、」
理夜(通信):「お兄ちゃん、何を見てるんですか?」……って頭の中で理夜の声? 頭蓋骨に埋め込んだ通信機か、
一貴:「五月蝿いよ、何にも見てないってば、」
僕達は着替えを済ませて、潜水道具装備と一緒に水中モーターに括り付けて海中に戻す、これでリモコン操作でセントマーキュリー号迄戻ってくれる事になっている、
朱莉:「行きましょう、」
火山の噴火口クレーターの様な環状三日月型の赤い断崖絶壁の島、そのテッペンに白砂糖のトッピングの様に人の住む家々が連なっている。 アトランティスの神話にもなぞられる古代ギリシャの神秘の島はシーズンオフの所為も有ってか、何だか少し寂しげにも感じる、
一貴:「何だか何にも無い島なんですね、」
朱莉:「崖を上がった所にフィラの街があるの、其処はもっと賑わってる筈よ、此処のフローズンヨーグルトは絶品なんだから、良かったら今度ゆっくり遊びに来ましょうか、」……朱莉はそう言うと一寸お茶目にウィンクして見せる、
一貴:「へえ、」……何故だろう、自分の母親程の歳の女性なのに、そんな他愛も無い仕草にドキッとしてしまう訳で、
理夜(通信):「お兄ちゃん!妖怪に魅入られない様に気をつけるのです!油断してると精気を全部吸い取られるのですよ!」
一貴:「だからしてないって!」
ーーー
僕達は崖の上の街には行かず、その侭海岸沿いの小径を伝ってクルーズのシャトルランチ(上陸用の小舟)が停泊するオールドポートへ、待ち合わせ用テントでクルーズ参加者のIDカードを見せてクルーズ船に戻るシャトルランチに乗り込む。
ランチは波を蹴って、三日月型の島の中程に浮かぶクルーズ船へ、…船?……船?? いや、これは、……
一貴:「でかずぎるだろ、」……海に浮かぶ超巨大マンション?
朱莉:「全長333m、全幅38m、総トン数13万8000トン、最大旅客定員3900人、海を走る18階建て超豪華ホテル、と言った所ね、」
ランチは超巨大クルーズ船の横に着けて、僕達はギャングウェイ(乗下船用タラップ)を登って、入口でIDカードをチェック、係員の見ている画面には、既に整形後の僕の顔写真が登録されていて、僕達はクルーの和やかな笑顔と挨拶で船内へと迎え入れられる、
クルー:「Welcome back!」
朱莉:「先ずはレセプションに行って、船に戻った手続きをして来ましょう、」……そう言えば、僕達は一つ目の寄港地で乗り遅れた事になっていたのだ。 まあ、難しい手続きは全部朱莉さん任せで、僕は兎に角巨大で豪華なクルーズ船の内装に圧倒され続けてしまう、加茂のメガヨットも豪華だったが、これは明らかにスケールが違う、
朱莉:「手続き終ったわ、部屋に戻りましょうか、」
一貴:「はい、」……で、ホテルの様な広い船内をどんどん歩いて、カードキーで「13029」と書かれた部屋のドアを開ける。 バルコニー付のお洒落なキャビンには可愛らしいダブルベッドが一つ、
朱莉:「私先にシャワー使っても良いかしら、」
一貴:「はい、えと、……あの、」
朱莉:「なあに?」……バスルームから可愛らしく顔を出した朱莉さんに、
一貴:「僕の部屋は、何処でしょうか?」
朱莉:「やだ、何言ってるの? 此処に決まってるじゃない、」
一貴:「でも、ベッド一つしか無い、」
朱莉:「心配しなくっても、ちゃんと優しくしてあげるわよ、」……僕は何一つ言い返す事なんて出来る訳無くて、
一貴:「宜しくお願いします、」……一体僕はどうなってしまうのだろう、
ーーー
夕刻、事前に朱莉さんが用意してくれていたスーツに着替えて夕食に出掛ける、
朱莉:「今日はドレスコードが指定されているの、」……それで登場した朱莉さんは大人し目の黒のイブニングドレスに可愛らしいネックレス、まるでハリウッド女優の様な歳上の女性に僕は圧倒されてしまう訳で、
朱莉:「どうかな?変じゃない?」
一貴:「とても綺麗です、」
朱莉:「ありがと、良太くんも格好いいわよ、」……もう、役作りは始まっているらしい、
一貴:「何だか此の靴、」……上げ底?
朱莉:「5cm背が高くなる様になってるわ、それだけで随分印象変わるわよ、」
ーーー
とても船の中とは思えない様な広い高級イタリアンレストラン、
入口でクルーズ用のIDカードを見せてテーブル迄案内してもらう、
朱莉:「此処の料理は結構美味しいわよ、少しワインとか飲んでみる?」
一貴:「いえ、水で良いです、」……もう多分、大人になる迄お酒は飲まない、
窓の外を見ると、何時の間にか船は出港している様だった、
一貴:「この後の予定は?」
朱莉:「楽しみましょう、それでその間に西加茂良太になり切るの、出来るだけ元の自分とは違う雰囲気を纏うのよ、」
一貴:「そう言えば、加茂も随分変なキャラ作りしてましたね、」……のです、
朱莉:「彼女の場合は、陰陽師として自分の正体をボヤカす為に少し突飛な印象を演出して居るのだけれど、今回は実在のモデルが居る訳だから、出来るだけその人物になり切る様にした方が良い、……放蕩息子、ギャンブラー、ちょっとスケコマシって噂も聞いたわ、あちらの方も随分勇ましいって話、ヴェニスに到着する迄の間に私が教えてあげられる事は何でも教えてあげる、」……そう言って僕を見る朱莉さんの眼差しが、何だか妖し過ぎて怖い、
ーーー
食事の後は船内シアターでミュージカルを鑑賞、その後カジノで人生初のスロットマシンを体験し、勧められるままにバーでカクテルを一杯、
朱莉:「飲み方さえ間違えなければお酒は良いモノよ、」……心無しか朱莉さんの瞳も蕩けてる?
そして愈々、二人きりの部屋に戻って来る、
朱莉:「さてと、お勉強の時間ね、」
一貴:「はい、」……僕はどうしたって緊張してしまう訳で、
朱莉:「背中のボタン、外してくれる?」
一貴:「はい、」……髪を持ち上げた項が艶っぽい、
朱莉:「良太くんも、早く脱いで、皺になるとイケナイから、」
一貴:「はい、」……これはあくまでも勉強なのであって、
朱莉:「ベッドの上で良いかな?」……他に何処で?
それで、どさっとベッドの上に拡げられる書類、タブレット、組合規定集、……
朱莉:「最初は、ギルフォード訓練校の敷地見取り図から始めましょうか、」
一貴:「はい?」
朱莉:「あ、もしかして何か別の事を期待しちゃった?」……で、悪戯そうに僕の顔を覗き込む朱莉さん、
一貴:「はい、…いえ!」……ちょっと自分が恥ずかしい、
朱莉:「それはお勉強が終ってから、ね、」……朱莉さん、人差し指を唇の前で立ててシークレットのジェスチャ、それで可愛らしく微笑む、