一貴:「思ってた以上に大変だな、もう一寸簡単に何か手掛かりが見つかるかと思ってた、」
理夜(通信):「甘かったのです、」
僕は昼ごはんの後、中庭のベンチに腰掛けて加茂理夜と独り言っぽく相談中、
残すところ三日、次のプランは今晩文華が翠川と出かけるのを見計らって翠川の自宅を調べてみる事だが、
一貴:「翠川の家ってどうやって行けば良いの?」
理夜(通信):「お兄ちゃんはバイクに乗れますか?」
一貴:「無理、」
理夜(通信):「ではチャリを用意するのです、翠川の家は此処から学校の前の道を西へ6km程行った先の住宅街の中に有るのです、」……それなら楽勝か、
ふと校舎の方を見ると、土御門に引き連れられて体験入学生達がゾロゾロと歩いて来る、紅一点の万絢は皆にチヤホヤされているみたいで、まあ苛められるよりは全然マシか、……それにしても土御門が万絢に対して一寸横柄に馴れ馴れしいのはカチンとくるが、要するに陰陽師は此の世界の上流階級なので、本心では嫌だと思っていても迎合しない訳には行かないと言う事なのだろうか? 何だか何処ぞの学校の不良グループを見てるみたいで遣る瀬無く惨めな気分になってしまう、
万絢が僕に気付いて近づいて来た、……また土御門に怒鳴られるぞ、
万絢:「こんにちは西加茂さん、」
一貴:「やあ、」……化粧で目鼻立ちがパッチリ際立った万絢の顔は、確かに可愛いんだけど、何だか一寸寂しかったりもする、
万絢:「これから皆さんと一緒にクラブ見学に行くんですけど、ご一緒にいかがですか?」
一貴:「ありがとう、でも遠慮しておくよ、」
万絢:「えー、本当に付き合い悪いんだから、ねえ、行きましょうよ!」……なんでそんなに必死になって誘う?
それで、驚いた事に土御門が近づいて来た、
土御門:「折角だからお前も来いよ、「ライタイ」(注、戦闘訓練用の土俵)でスパーリング体験が出来るらしいぜ、」……成る程、言いがかりをつけて僕をコテンパンに伸して万絢に良い所を見せようって言う魂胆なのか、
一貴:「俺はそういうの苦手だからパスするよ、皆で行って来るといい、」
土御門:「西加茂の陰陽師ともあろう者が何を遠慮してるんだ? 噂じゃかなり腕が立つって聞いてるぜ、それともまさか本当は土蜘蛛見習いの素人相手に怖じ気付く様な腰抜けだったって事か? そんなのが陰陽師じゃ加茂もこの先長くは無いな、」……いや実際の所西加茂良太は何方かと言えば文系のチャラ男で、だから土御門もそれを知ってて煽って来るのだろう、
一貴:「まあ、そう言う事で良いよ、」
理夜(通信):「良く無いのでし!お兄ちゃんやるでし!」
一貴:「何で?」
理夜(通信):「阿部の分家の分際で加茂に喧嘩売るなんて1000年早いのでし、絶対捨て置けないのでし! こんな街のチンピラに毛の生えた様な連中、軽くひねり潰してやるのでし!」……僕だって似たようなモノなのだけど、
山田:「実はこのスパークリングで勝った人が、最終日の「セクシャル・エントラップメント」の実習体験で度会さんとペアを組む事になっているんですよ、一応、何も事前告知しないのはフェアじゃないかと思いまして、」……僕は唖然として万絢の顔を見る、
万絢:「行き掛り上そういう事になりまして、あ、大丈夫ですよ、今回はキスだけですし、私も一応そういう覚悟はしてきましたから、」
一貴:「そうか、」……ならば僕が口を出す事では無いな、万絢だってこれからは自分で色んな事を乗り越えていかなければならないのだ、その一つ一つに僕が手を貸してやる事は出来ない、が、
万絢:「それでもやっぱり、やらない?」……で、意味深な上目使いで僕を見る、
一貴:「判ったよ、参加するよ、」
ーーー
それで、集合した屋外の対人戦闘訓練場、昨日のP.T.の授業と同じサイズの円柱の土俵が4つ並んでいる。 手で触ってみた土俵は、粘土が固まったような土で結構硬い、
部活の先輩:「それではルールを説明します、……今回は武器は無し、噛み付きと目に指を突っ込む以外の急所攻撃は有り、倒れた相手への関節技は無し、舞台から落ちるか、ギブアップするか、気を失うかしたら負け、……良いかな?」
上野:「防具とかは無いんですか?」
先輩:「無い、勝てないと思ったら、怪我をする前にギブアップする事だ、実はそう言う見極めを養う事が最も大切な事なんだ、」
土御門:「最初は誰からだ?……山田と上野、行け、」……土御門の指示で比較的標準体型の二人が土俵に上がる、高さ1.5mはあるから落ちる時はそれなりに注意が必要そうだ、
上野:「頑張ります!」……何だか万絢はニコニコ手を振っているが、自分が賞品だって認識はあるのだろうか???
始まってみるとそれは結構地味な喧嘩だった。 式神を目指しているというから其れ也に体を鍛えてきているのかと思いきや、皆が皆そうでもないらしい。 それでも一応空手かボクシングかを齧った程度の知識はあるらしく、構えだけはそれっぽくなっている。 二人ともジリジリと相手の間合いを気にしながら、如何にして自分の拳を届かせようかと牽制する内に何時の間にか自然と姿勢が前のめりになっている。……成る程、こうやって外から冷静に見るのも結構勉強になるかも知れない、
山田のボクシングジャブが素手で上野の顔面に極まって、……二三度頭を揺らされた上野が一歩退く、それで意を決して突っ込んだ山田の右ストレートが見事に躱されて、上野の綺麗な中段突きのカウンターが山田の胸に極まる、……それで山田、両膝を地面に付いて、
山田:「…ギブアップ、」
先輩:「勝負あり、」
万絢:「うわぁ、痛そう、大丈夫かなぁ、」……って、自分が賞品なの判ってるんだよね?
先輩達も手馴れたもので、試合後の怪我のチェックと、必要な傷の治療は迅速だった。 それにしても一番ひょろっとしていた上野くん、結構強い、
ーーー
土御門:「次、前ヶ崎と溝口、」……今度はガタイのでかい二人が土俵に上がる、溝口はレスラータイプで、土御門の付き人の前ヶ崎は恐らくムエタイっぽい動きで身体を解している、
一貴:「なあ、あんなのに勝てる気しないんだけど、」
理夜(通信):「死んでも勝つのです!」……コイツ本当に喧嘩好きだな、
先輩:「始め!」……で、今度は行成り取っ組み合いが始まった。 溝口のファイティングスタイルはどうやら柔道らしい、もの凄い迫力でムエタイ前ヶ崎の襟元を掴んだかと思った瞬間、……前ヶ崎は柔軟な体を活かして溝口の顔面に膝蹴りを極めた!
一貴:「凄いな、」……優勝するとしたらこのムエタイ君だろうか、一方溝口も鼻血を出しながらも未だ怯んだ様子を見せない。 僕はコイツらと当たった時にどうすれば痛い目を見ないで済むかを考える、……まあ、勝てない相手とは戦わない事、やっぱりそうだよな、
で、結構長時間に及んだ取っ組み合いも、とうとう何十発目かの膝蹴りで脳震盪を余儀なくされた溝口がその場に倒れて、勝負が決まる、
土御門:「それでは、俺達の番だな、」……で、何だか阿部vs加茂の決闘みたいになっている、僕は関係ないのに〜、
一貴:「お互い痛い目見るのは嫌だろう、取り敢えず小手調べしてそれで済ませない?」
土御門:「ふーん、それが加茂流って事か、」
理夜(通信):「お兄ちゃん!そんなのは理夜が許さないのです、負けたらチンコ切って糠味噌に漬けるのです!」……コイツ、今晩翠川の所に潜入調査に行く事忘れてないか?
万絢:「頑張って~、」……って万絢、お前は自分が賞品だって事分ってんだろうな! 僕は深く溜息を一つ、
先輩:「始め!」……で、襲い掛かってきた土御門の戦闘スタイルは? 今迄に見た事もない型、行成り背中を見せたかと思うと、しゃがみ込んで回転しながら接近して、足を引っ掛ける! 所謂中国武術の掃腿に似ているが、……、僕は間一髪でジャンプして避けるが、土御門は止まる事なく回転し続け、まるで体操の鞍馬かカポエラみたいに両足を交互に地面すれすれに振り回し続ける、……変則すぎて何を狙っているのか判らない、引っ掛けて転ばせようとしているのか、捕まえようとしているのか、……しかもだんだんその回転はスピードを増して、何時迄もゴム跳びみたいに避けるのも面倒臭くなってくる、更にそのリズムは一定ではなくて、一寸でも気を抜いたらあっという間に素っ転ばされそうだ、それにしても凄いスタミナだな、
地面すれすれに這い蹲った土御門の攻撃姿勢は、こちらからの攻撃も届きにくいが、……見慣れてくれば、弱点は時折無防備に晒す背中で間違いない、……僕は土御門の足の回転に合わせて懐、と言うか背後に入りこんだ、と思った瞬間に、無拍子で土御門の回転方向が変わった!……その爪先は水平方向から垂直方向へ、それで僕の顔面を捉えようとした瞬間、間一髪で僕はその足を押さえた、……と思ったその踵は、なんだこの重さ? ……その靴の踵はまるまる重い金属の塊で、しかもその僕の防御を切っ掛けにして土御門は両腕を使って倒立の体勢、更に踵を僕の方に押し込みつつ体を捻って、同時に反対側の踵で僕の顎を刈りにきた!
極めて柔らかい蹴り技だ、……僕は咄嗟にその場にしゃがみこんで鉄の踵を避けながら土御門の胴体に体当たりして吹っ飛ばす!
土御門は二三歩退いて土俵の淵に立ち上がり、にやりと笑う、
土御門:「さて、準備運動は終わりだ、」……それからの攻撃は蹴りを中心としたキックボクシングスタイルに変化する、柔軟な体を活かしながら、休むことなく繰り出される鋭い蹴りは当たると結構痛そうだ、しかも靴の踵は明らかに凶器。 やがて蹴りの軌道は直線的なものから曲線的なもの、更に変則的なものへと変わって益々避けるのが厳しくなってくる、……こいつ結構、、
理夜(通信):「お兄ちゃん、結構やりますね、」
一貴:「どこが? やられっぱなしのジリ貧だよ!」
理夜(通信):「そう言う割には蹴りを全部避けてるのです、」……確かに言われてみれば、何で僕は見た事もない蹴り技を捌き切れるんだ?
佳枝:「変則的では有りますが、どんなに速い蹴りでも寸勁に比べれば準備動作が目に見え易くで対応を予測し易いとも言えます、」
一貴:「成る程、」……それでも次第に土俵の隅っこへと追いやられていく僕。 それで愈々追い詰めたと思ったのか土御門が止めの必殺技に切り替わる! 最大級攻撃力の蹴りを見舞おうと体勢を立て直した土御門の教科書のようなハイキックが僕の首を刈る!
その動作に合わせてしゃがみ込んだ僕はその侭無防備に目の前に曝け出された土御門の睾丸をむにゅっと鷲掴みにしつつ軽く寸勁、、富士本曰く、ぱん!とガラスが割れる様に瞬間的な感じで、……なに、ちっちゃな乳首に比べればそんなに難しい事ではない。 それでハイキックの動作が止められない土御門は其の侭腰を高速回転させて体を捻る動作で自ら追い打ちを掛けるかの様に、……陰嚢雑巾絞り!
土御門は喘ぎ声(注、呻き声ではない)を上げながら担架で医務室へ運ばれて行った。 他のメンバーは何故だか棄権、何だか知らない内に僕は優勝した事になる、
万絢:「西加茂さん凄—い! て言うかあんなの始めて見た、」
一貴:「自分でやっといてなんだけど、…なんだか股間がムズムズするな、」