079「密会」
結局時間ギリギリ迄調べたが、何処にも、パソコンにも、クラウドにも、室戸達也に関する情報は無かった、
僕は富士本から10分後に到着するとの連絡を受けて、翠川の家を元通りに片付けて、まさに家を出た所で文華達の乗ったベンツが到着する。 二人は車から降りて来て、
翠川:「こういう事は余り深く悩んでも仕方の無い事だ、明日、返事を聞かせてくれるかな、……君の考える最善を選択すれば良い、」
文華:「分りました、」……そう言って、翠川は文華の頬っぺたにキス、何だか馴れ馴れしく手も握って、僕は思わず!
理夜(通信):「お兄ちゃん!ステイ!ステイ!!」
それから文華は車に戻り、翠川に見送られながら去って行く、
ーーー
僕は自転車で元来た道を学校に戻り、裏口で富士本と合流、トライアンフの後ろに跨がって、学校から程近いB&B(注、ベッドと朝食付きの安宿)の一室で加茂理夜と再開した、
富士本が二人の会話を盗聴した音声をパソコンで再生する、
二人が食事に出掛けたのはコベントガーデンのルールズというレストラン、何でもローストビーフで有名らしいが、どうやら翠川は予め其処に予約を入れていたらしい、
佳枝:「想定していた店と違っていた為、予約なしでは店内迄入ることができませんでした、という訳でこれは外から集音機で拾った音声をパソコンで修正した内容になります、少し聞きづらいのはご容赦願います、」
音声を聞く感じでは、……二人は先ず食事の前のアペリティフを頼み、暫く他愛のない昔話を幾つか交わした後、白ワインの栓を抜いて乾杯、それから問題の会話が始まった、
翠川(録音):「藤塚さん、君が調べようとしている事はとても危険な内容だという事は判った。 これが組合に知られたら、二度と日の光の下で生活できなくなってしまうかも知れないよ、運よく生きていられればという事だけど、」
翠川(録音):「それでも私は出来る限りの事をしたいと考えている、勿論君が思い留まってくれるのが一番良いのだけれど、」
文華(録音):「判っています、先生にご迷惑が掛かる様ならば、無理にお願いするつもりはありません、今回の事はどうか忘れてください、」
文華(録音):「それとも私を組合に引き渡しますか?」
翠川(録音):「そんな事はしない、当然だろう。 君だって、私が君の事をどんなに大切に思っているのか判っているのだろう、……相変わらず君は意地悪な人だな。 つまりもう私は君と同じ罪を背負う覚悟が出来ていると言う事だよ、」
文華(録音):「有り難うございます、私には先生の他に頼れる人が居ないのです。 どうかお力を貸して下さい、……代わりに私に出来る事があるなら、どんな事をしてでも償うつもりです、」
翠川(録音):「私にとっては、君の為に力になれる事が、何にも代え難い最大の報酬だよ、」
それから暫くの間、食事と一緒に最近の学校の話題、家族の事、新しく見つかった古い歴史書の話題、……お互いに核心を外した会話はふわふわと取り止めがなくて、
やがてデザートと一緒に紅茶が運ばれてきたらしい、
翠川(録音):「こんな事を言うのは、私はどうかしているのかも知れない。 でも、私が、本当に君の事をかけがえのない人だと考えている事だけは、どうか信じて欲しい、」
文華(録音):「先生、なんでもおっしゃって下さい、私は目的の為になら、どんな代償も払う覚悟があります、」
暫くの沈黙、……
翠川(録音):「私には、これまで寄り添える人が居なかった、心を許せる人が居なかった、必要なかったといってもいいかも知れない。 結婚は一度したが、長くは続かなかった、研究だけが私に価値をもたらしてくれる、私が縋れるただ一つのものだと錯覚してきたのかも知れない。」
翠川(録音):「でも、そんな綺麗事を言いながら、本当の私はとても人には言えないような恥ずかしい人間なんだ、とても人には言えないような醜い傷を心に負っている、だから、誰かと分かり合える事など不可能だとずっと考えてきたんだ、」
翠川(録音):「藤塚さん、…文華さん、」
文華(録音):「はい、」
翠川(録音):「もしも許されるなら、私が君を愛する事を許してはくれないだろうか、」
沈黙、……
翠川(録音):「勿論、君の心が一生私の事等を歯牙にも掛けない事は承知している。 それは君が命を賭して迄成し遂げようとしている事を知って痛い程身に沁みて判る、だから、私を愛してくれ等と烏滸がましい事を頼むつもりは毛頭も無いんだ、」
翠川(録音):「ただ、私が君の事を愛する事を許可して欲しいんだ、」
文華(録音):「……どういう、事ですか?」
翠川(録音):「君の身体の全てを私の自由にさせてはくれないだろうか、」
翠川(録音):「恥を忍んでお願いする、私には、拠り所になってくれる人が必要なのだと漸く気づいたのだ、君と再会して、以前にも増して美しくなった君を見て、君の為になら命を掛けてもかまわないと思う程に、君が愛おしくて、もっと傍に寄り添いたいと言う気持ちを抑えられなくなってしまった、」
翠川(録音):「君が望みを叶える為になら私は命を捨てても構わない。 君が手に入れようとしているモノは其れほど迄に危険なものなのだ、それは君自身が一番良く判っていると思う、だから、」
翠川(録音):「君が君の身体の全てを私の自由にすると誓うならば、私は私の持ちえる全ての情報を君の自由にすると誓おう、」
翠川(録音):「これは全うで正当な契約だ、だから当然君には拒否権がある、私もここ迄言ったのだから、君が拒否したからといって君を組合に引き渡したりする事は有り得ない、それだけは信じてほしい、」
一貴:「こいつ、一体何を言ってるんだ?」……僕は思わず、テーブルに拳を叩き付けていた、
理夜:「要するにNTR契約なのです、」……そんな事、天地がひっくり返ったって僕が許さない、
一貴:「こいつは盗撮魔のストーカーなんだぞ、家の地下収納にはSMグッズが溢れかえってる、……駄目に、決まってるだろう、」
佳枝:「兎に角、藤塚先輩が何かを調べている事は確かの様ですね、」
理夜:「恐らく藤塚先輩は「裏」についての情報を調べようとしているに違いないのです、その為に翠川に接触したと考えるのが妥当そうです、」
理夜:「多分、お兄ちゃんの復讐を考えてる、」
佳枝:「でも巫女を引退した今、正式な組合への登録無しに組合に関係する仕事するのは重大な規定違反です、……止めないと、」
文華(録音):「少し、考えさせて貰っても良いですか、」
翠川(録音):「勿論だ、私も君の弱みに付け込むような真似はしたくないが、恐らく私にとってはこれが最後のチャンスだと思う。 もしも君が私の申し出を受け容れてくれるなら、私は私の持てる全てをかけて君が必要としている情報を探し出すと誓おう、」