GW前日放課後、驚いた事に結局2のCの殆どが「ボーリング&カラオケ」パーティに参加する事になっていた。 これも「藤塚効果」の成せる技なのだろうか? そして発表される「組み分け」は、一体どう言う裏工作をしたのか、僕、藤塚、三枝、朋生、高野が同じグループになっている。 残るメンバーは、真島(♂不良グループ)、染谷(♂帰宅部ガリ勉)、西口(♀陸上部)、この8名で、15、16レーンを使う事となった。
三枝:「北条クン喉渇かない? 家で蜂蜜レモネード作って来たの、」…で、三枝はナップザックから携帯魔法瓶を取り出してコップになっている蓋に冷えたジュースを注ぐ、
一貴:「ありがとう、」
処が三枝は僕に手渡し掛けたコップを直前で止めて、
三枝:「あ、一寸待って、念の為に味見するね、」……と、自分で一口、口を付けてから、
三枝:「はい、大丈夫ミタイ、」……、で、残りを僕に押し付ける、
これって間接キスだよなと思いつつも残りを一気飲みする。 それで恐る恐る盗み見た藤塚は、……何も気付かなかった様子で真島と話を続けている。
ーーー
漸く、全員のボールが決まった所でゲーム開始。 二人ペアで一投ずつ投げて合計4ペアの2ゲーム合計得点で優勝チームを決めると言うルールである。
先ずは高野から、無難に8本、結構上手い。フォローが朋生、難なくスペア。
高野/朋生:「イエーィ!」……二人ノリノリのハイタッチ、
続いて西口、6、9、10の3本、フォローが染谷、7番の1本、何故だか、二人とも無言で席に着く。
3組目が三枝、見事にガーター、フォローが僕で、何とか6ピンを挽回、
三枝:「結構難しいのね、」
4組目が藤塚、7番と10番を残すスプリット! フォロー真島、これを見事スペア!
文華:「凄~い、真島くん、あんなの倒せるんだ、」……と、驚きの声も可愛い藤塚、
真島:「まあな、」……で、藤塚、真島、ハイタッチ! その侭二人並んで席に戻る、他所のレーンの男子からは刺さる様な羨望の眼差し。
まあ、こんな感じでゲームは続き、…1ゲーム目は、高野/金平160点+西口/染谷41点+三枝/北条85点+藤塚/真島192点、合計478点と言う結果に終わった。
ーーー
途中集計の中休み、……
三枝:「北条クン、GW何か予定有るの?」……三枝が靴下の爪先で僕の脛を突く、
一貴:「特に、何もないけど、」
三枝:「多分これが受験前の最後の息抜き出来るお休みだと思うのよね、それで丹沢に泊まりがけでバーベキューに行こうかと思ってるんだけど、一緒にいかない?」
行成りのお泊りデート宣言に、当然周囲の気圧は俄かに上昇する。 それで恐る恐る盗み見た藤塚は、……やはり何も気にしていない風に真島と話を続けている。 本当にこんな事で効果があるのだろうか?
一貴:「でも僕なんかが着いて行ったら、家の人が吃驚するんじゃないの?」
三枝:「やだぁ、自分達だけでいくに決まってるじゃないの、高野サンと一緒にいく事にしてアリバイ工作しておくのよ、」
高野:「そんなの駄目に決まってるじゃない、私も行くわよ、」
朋生:「え、じゃあ俺も行こうかな、」
高野:「朋生は力仕事担当ね、」
一貴:「でも、高校生だけで泊りがけで出かけるなんて良いのかな?」
三枝:「私は平気よ、日頃から信用されてるもの、」
高野:「私は原稿締め切り前に学校泊まり込みとかやった事有るから慣れてるかな、」
朋生:「良いじゃんカズっち、俺と二人で行くって言っとけば、」
三枝:「じゃあさ、勝負して決めない?」
三枝:「第二ゲームの第一投で倒したピンの数の多い方が勝ち、それで負けたら勝った方の言う事をなんでも聞くの、」……で、当然周りの皆が聞き耳を立てる、
一貴:「なんでもは、不味いんじゃ無いかな?」
高野:「あら、北条クンもう勝ったつもり? 良いわよ、もしも私が負けたら奴隷ミタイになんでもしてあげる、」……高野は時々冗談なのか本気なのか分らなくなる所が怖い、
西口:「高野サンってそう言う人だったの?」……と、目が点な西口、
見ると、藤塚が真っ青な顔で、……僕を睨んでる?
高野:「そう言うって?どう言う事を命令すると思ったの?」……と、あどけないキョトン顔も演じ分ける高野、
高野:「因に私の命令はGWに水着買いに行くの付き合って、だけど、」
三枝:「私が勝ったら北条クンもバーベキューキャンプ参加って言う事で良いわよね、」
三枝:「西口さんも参加する?」
西口:「何を命令しても良いの?」……と、何だか俄然ノリノリな西口、
高野:「何を命令されても拒否権無しだけどね、」……と、何だか鼻息の荒い高野、
西口:「その前に北条クンって今本当にフリーなの? 誰かに迷惑かけたりするのは厭だからさ、」
一貴:「別に誰とも付き合ってないよ、」
西口:「あの始業式の時のお姉さんは?」……と、疑心暗鬼な西口、
一貴:「あの人は本当に姉貴みたいな人で、僕の事をからかうのが趣味なんだ、」
西口:「へー、そうなんだ、じゃあさ一日デートとかでも良いかな?」……で、西口言ってて顔が赤い、
高野:「おー、そう来ましたか、でも北条クンガード固いよ、何だか心に決めた人が居るみたいだからね、」
西口:「それよそれ、誰なの?北条クンの想い人って?」
朋生:「カズっちが好きなのって、藤塚サンだよな、」……で、唐突に暴露する朋生、
僕は飲みかけのレモネードを噴き出しそうになる、
一貴:「嘘、そんな事一言も言ってない、」……けほけほ咽ながら、きっと誰が見ても分かるくらい僕の顔は紅潮しているに違いなかった、
西口:「やっぱりねぇ、男子は皆藤塚さんの事好きだからなぁ、」……で、納得の表情で全面降伏の西口、
高野:「処で藤塚さんは、今、誰か付き合ってる人居るの?」
ホール内の男子、一斉に耳がダンボ!
文華:「居ないよ、」……意外にもあっさりと答える藤塚、
真島:「えっ、そうなの?」……と、不良グループNo2、何時の間にか恋バナに混ざってる?
文華:「私、彼氏居ない暦=年齢、だよ。」……と、キョトン顔の藤塚、
西口:「へー、意外、…もてそうなのに。」
高野:「ふーん、じゃあさ藤塚さんはどういう人がタイプなの?」……更に突っ込んで来る高野、
ホール内の男子、一斉に16レーンを凝視、
文華:「何だか恥ずかしいな、」……と、珍しく照れた顔の藤塚、
高野:「じゃあさ、北条クンみたいな男の子の事どう思う?」
思わず飲みかけのレモネードが鼻に逆流する、
文華:「えっ、カ… 北条くん?」……藤塚、何故だか赤面?
ホール内、一瞬の沈黙、
文華:「か、可愛い、よね、」……藤塚、一寸いや大分困った笑顔、
仮令それが演技だと解っていても、否応が無く僕の心は期待に揺さぶられてしまう訳で、
西口:「それってやっぱり「ペット」っぽいって言う意味だよね。」……で、一瞬で全てを台無しにする西口、
文華:「うーんそうかも、…彼氏って感じじゃ無いかな、」……藤塚からの駄目押しコメント、
西口:「実はさ、2のCには「北条一貴を愛でる会」って言うのが有んだけど、藤塚サンも入会する?」
一貴:「なんなの? それ??」
西口:「皆で北条クンを観察して、発見した可愛い仕草を紹介し合うの。 携帯で写メとか撮ったりして、見せ合いっこすんのよ、」……そう言って、西口が携帯の写真アルバムを開いて藤塚に見せる。
文華:「わー、」……藤塚、何故だか食い入る様に携帯に見入ってる、
一貴:「ねえ、僕にも見せてよ、変な顔撮ったんじゃない?」……と、西口に詰め寄るが、
西口:「駄~目、悪いけど北条クンには見せらんないわ、コレはあくまでも「飾らない素の表情」を観察する為の活動であって、意識して表情やポーズを作られたら何の意味も無くなっちゃうもん、」……ニヤニヤ顏の西口は巧みに携帯を「胸の谷間」に密着させてガードする、
一貴:「いや、意味が分んない。」
朋生:「カズっちには、肖像権も無いのか、」……朋生、乾いた嗤い、
一貴:「何か可笑しいよね? これって良く無い事だよ。」……僕は、とうとう必死になって、
一貴:「ねえどんな写真なの?」……つい我を忘れて藤塚にまで食い下がる、
文華:「普通の写真、可愛く撮れてたよ、」
一貴:「可愛いってどう言う事?」
文華:「小動物的な感じ?」
いつの間にか二人して見つめ合って二人して顔を赤らめて、まるで二人はずっと昔からの友達みたいで、
あの化学実験室での出来事が全部信じられなくなる。
あの神社の境内での出来事を全部無かった事にしたくなる。
一貴:「藤塚サン、」
文華:「なに?」
もしも何かを間違えてしまったと言うのなら、全てを犠牲にしても構わないからもう一度チャンスが欲しい、
弓月:「後5分で後半戦始めるよ、」……それで女子達はドタバタと化粧室へ、
ーーー
僕は藤塚に一体何と言ってしまいそうになったのだろう? 「お願いだから友達になって」「嫌わないで」、それとも「好き」? 冷静さが戻る程に迂闊さに足が震えて呼吸が苦しくなる、心臓がどうにかなってしまいそうな位に胸の鼓動が早くなる、 どんな理由があるのかは分らないけれども藤塚が僕を嫌っている事は確実だった。 それなのにどうして僕は藤塚の事を諦められないのだろう? 藤塚の事を思う度に自分が自分でコントロール出来なくなってしまうのはどうしてなんだろう? こんなにも異性を意識したのは初めてで、そして藤塚の姿を見る度にその気持ちは上塗りされて益々身動きが取れなくなって行く。
第二ゲーム終了後、……
三枝:「あら、北条クンは2次会行かないの? 皆、玄関の前で集合してるわよ、」……すっかり帰り支度を整えた三枝が話し掛けて来る、
一貴:「うん、行かない、」
歌なんて歌えないし、藤塚が居る場所なんかに行きたく無い、藤塚が他の男子と楽しそうにしているのなんか見たく無い、
三枝:「どう、藤塚さん、少しは効果あったのかな?」
一貴:「よく分んない、」
三枝:「そう、結構頑張ったんだけどな、」
一貴:「ありがとね……、三枝さんも帰るの?」
三枝:「ええ、カラオケは受験生が最も行ってはイケナイ場所だからね。 問題起きやすいし何か有ったら内申に響くでしょ。 それにまかり間違ったら本当に勉強が手に付かなくなっちゃうじゃない。」
一貴:「ふーん、」……僕は、キョトンとした顔で三枝多恵を見つめ返す。
三枝:「そうだ、メアド教えてよ、後で連絡するからGWの旅行の件は考えて置いてね、」
一貴:「え、あれってお芝居じゃなかったの?」
三枝:「北条クン、嘘から出た実って言葉知ってる?」……で、三枝が僕の顔を覗きこむ、
一貴:「でも、それって?」……何だかもやもや感が込上げて来て、こんな時どんな顔をすればいいんだろうか?
三枝:「そんな困った顔しなくても襲ったりしないわよ、友達になりたいだけ、駄目かな?」
一貴:「ありがとう、僕も三枝さんと友達になりたい、」
三枝:「良かった、途中迄一緒に帰る?」……三枝は、何故だか少し頬を赤らめて優しそうに微笑む、
一貴:「うん、でも、帰りに一寸寄ってきたい所あるから。」
三枝:「そう、じゃあまたね。 バイバイ!」
何だか、三枝ってテキパキしてる。
そして僕は一人溜息を吐いて重い腰を上げる。
其処には何故だか「藤塚文華」が立っていた。
藤塚:「アンタ、行かないの?」
僕は自分の耳を疑った。 藤塚が自分から僕に話し掛けて来るなんてきっとこれが初めてだ。
一貴:「行かない。 その方が藤塚さんも良いでしょ。」……僕は、藤塚の顔を見もせずに淡々と答える。
それから早足で藤塚を置き去りにして受付に靴を返しに行く、それなのに藤塚が後から付いて来て、
藤塚:「待ちなさいよ、来れば良いじゃない。」
僕は再び自分の耳を疑った。 そして怯えた表情で不機嫌そうな美少女の顔色を伺う。
藤塚:「あ~あ、私だって「カラオケ」みたいなトコ行きたい訳無いじゃない。 あの真島とか言う奴何だかちょっと一緒にボーリングした位で付上っちゃって、人の事下の名前で呼ぼうとするし……、他の男子だって皆イヤらしい目で見て来るし、」
藤塚も本当はそんな風に人の事を見るんだ。 僕は改めて藤塚の事をしげしげと見つめる。
藤塚:「何よ、なんか目がイヤらしいんですけど。」
何だか藤塚の様子がおかしい。 どうして僕なんかを誘うんだ? どうして僕に「そんな愚痴」を言うんだ? どうして僕に見られて「少し照れた風な素振り」を見せるんだ?
一貴:「…行くの、止めれば、」
藤塚:「馬鹿なの? 無理に決まってるでしょう。 何だかお節介に「私の為」って事になってんだから。 少しは考えなさいよ。」
何でそんな事を僕に言うんだ? 僕にどうしろって言うんだ?
一貴:「でも、僕が行ったって、何も、…変わらないし、」
藤塚:「チッ!」……また、藤塚が舌打ちする。
藤塚:「アンタが隣に座れば、……半分は「ガード」出来るでしょ。 そんな事も分かんないの?」
僕は、三度自分の耳を疑った。
藤塚:「行くの? 行かないの?」……高圧的な台詞を吐く藤塚文華の瞳は、まるで僕に救いを求める様に潤んでいた。
一貴:「…い、くよ。」
藤塚:「そう、」……何故だか、藤塚の表情が少し和らいだ様な気がするのは目の錯覚だろうか、
藤塚:「なら早くしなさいよ、皆、下で待ってるんだから。」
藤塚:「本当、グズでしょうが無いわね。」
そこへ、高野が駆け上がって来た。
高野:「藤塚さん、探し物見つかった?」
藤塚:「あっ、うん! 北条クンが一緒に探してくれたの。」……藤塚は一瞬で学園のアイドルへと変貌する。
何だか、藤塚は「忘れ物を取りに戻った体」になっていたらしい。
高野:「北条クン、まだ居たんだ。」
一貴:「うん、」
藤塚:「それで、北条クンもやっぱり一緒に行くって。」
高野:「えっ、本当? ……多分、人数は、詰めて座れば大丈夫だし、」……高野がニヤニヤ、笑う。
高野:「良いんじゃないの。」
藤塚:「言っとくけど、勘違いしないでよね、」
藤塚:「横に座らせるからって、絶対に話し掛けたりしないでよね、」……先に階段を降りて行く高野には聞こえない様に、藤塚が僕に耳打ちする。
一貴:「分かった。」……分からない。
藤塚:「ほら、しっかりついて来なさいよ。 全くグズ!」……そう言って藤塚が、僕の手を引っ張る。
僕には、藤塚文華が、……分らない。