思わぬ形でホムラさんとアヤメさんに再会した翌日、出社して挨拶もそこそこに桃さんから告げられたのは、これまた思わぬ形の仕事だった。
「じゃあ駐車場で棗さんを待って、今日は支社でアルバイトをすればいいんですね?」
「ん。いい金額になるから。バイクで行って、帰りはそのまま直帰でいい。そして明日は休み」
「わかりました。では、いってきます」
「ん」
突然のアルバイト。
というか、アルバイト中にアルバイトするのもアルバイトと呼んでいいんだろうか。
そんなどうでもいい事を考えながらエレベーターで1階まで降りると、エレベーターを待っている人が1人いた。
真っ白なスーツ。
派手な髪型。
セイとフウカも大好きでよくふくらませてはしゃいでいるフーセンガムが割れると同時に、その少年が僕を指差す。
「やっぱこないだのあんちゃんだ。あん時はありがとうなっ!」
「あー。あんな暗い路地で走りながら擦れ違っただけなのに、よく見えてたし覚えてたねえ」
「昔っから、昼でも夜でも人より目が良くってな」
そう言いながらニカッと笑うのは、僕がテストに合格して桃さんの事務所で飲み会をやった時、買い出しに行く途中で擦れ違った少年。
少年はガムを噛みながら器用にタバコを咥えて火を点け、なぜか自己紹介を始める。
仕方なく僕も名乗ると、今度は自分の勤め先は3階のニコニコローンだから休みの前日の夜にでも飲みに行こうぜとまで言われてしまう。
「ヤクザってのに興味はあるけど、付き合ってアルバイト先に迷惑はかけられないからなあ」
「だーいじょぶだって。ヒロキの勤め先には顔出したりしねえし。ほら、これが俺の名刺な。スマホの番号もアドレスも書いてあっから、飲みに行ける時にでも連絡してくれ。なんたってヒロキは、ツキをくれる存在だからな。じゃ、そういう事で。連絡待ってんぞー」
ひらひらと手を振りながらエレベーターに乗って少年、結城真白が上に消える。
「台風みたいな子だねえ。同年代の男の子とこんなに話したの初めてだ」
(まーいいんじゃね。あの日とーちゃんに助けられたとは思ってねえけど、逃げ切れたラッキーはとーちゃんのおかげかもって感じてるみてーだし)
(座敷童じゃないんだけど。僕もフウカも)
(それよりととさま、棗ママの車が駐車場に着いたのっ)
(わわっ。急げ急げ)
押し付けられた名刺を胸ポケットに突っ込んで慌てて駐車場まで走ると、赤いボルボの窓が下がって棗さんが顔を出した。
「おはようございます、棗さん」
「おはよう。桃から話は聞いてるわよね?」
「あ、はい。今日は棗さんの指示に従って、それが終わったら帰っていいって」
「それだけ?」
「ですね」
「またあの子は。今夜あたり、本当にヒロキ君のデカチンで躾けてやろうかしら」
「あはは」
「じゃあ支社に着いたら説明するから、まずはバイクでこの車の後を追って」
「了解です」
僕が愛車を駐車場に引き出してエンジンに火を入れると、棗さんのボルボはゆっくりと走り出す。
それに導かれて辿り着いたのは、驚くほど大きくて高いビル。
従業員用だという駐車場から上を見上げると、最上階が霞んで見えるくらいだ。
「でっかー」
「能力者の家系に生まれた一般人。能力者でも裏の仕事に向かなかったり、そうであってもそれを望まない者達を食べさせていくために必要な規模なのよ。さ、行きましょ。まず正面玄関に向かって、受付の場所を覚えてもらうわ」
「はい」
とんでもなく高いビルの、とんでもなく大きな玄関。
そこを抜けると天井の高いホールがあって、これまた大きな受付があった。
そこに8人もいる女の人は、皆さんがそれぞれ違う魅力を持った美人さん達。やっぱ顔で選んでるんだろうか。
「今日、ヒロキ君にあるカードが発行されるわ。次からは、それをこの受付に提示して目的を告げれば大丈夫」
「次ってなんですかとか、なんのカードだとか、なんのために提示するんだとかは」
「後でわかるわ。1時間か2時間後、またここに来て流れを説明するし」
「はあ」
「じゃ、こっちよ」
エレベーター。
それに僕を連れて乗り込んだ棗さんは胸ポケットからカードを出して、ただの継ぎ目にしか見えない階数を指定したりドアを開け閉めしたりするパネルの溝に通す。
「ああ、カードってこういう」
「そうね。ところで、エレベーターには慣れた?」
「ぜんっぜんです!」
「そう。なら、頑張りなさい。目的地はかなり上にあるから」
「げえっ」
地獄のような数分間。
ようやくそれを終えて動かない床に降り立った僕は、アルバイトを始める前からすでにぐったりしてしまっている。
「唯一の弱点がエレベーターだなんて、本当に不思議な子ねえ。高いところは平気で、ビルの10階から飛び下りたりは平気でするくせに」
「そういう問題じゃないんです。それに、こんなの非効率ですよ。何分もエレベーターに閉じ込められてなきゃ行けない部屋で仕事をするより、階段でサッと行ける場所で仕事をした方がいいに決まってます」
「はいはい。着いたわよ」
「ちょ、ノックとかっ」
「自分の部屋に入るんだからいらないわよ」
ノックもせずに棗さんがドアを押しかけたので思わず止めかけてしまったけれど、なるほどそういう事か。
「でも人が」
「いるわよ。すぐに紹介するわ。お待たせしてごめんなさいね」
「いえいえ。とんでもありません」
「気にしなくていいよ、室長」
部屋にいたのは2人。
メガネとスーツの似合う背の高い20代の男の人と、まるでテレビに出ている女優さんのような女の人。
「これがヒロキ君。ちなみにこの子、あまりテレビとか観ないのよ」
「あらら。せっかくの趣向が台無しじゃん」
「普通が一番よ、あなたはいつでも誰より魅力的なんだから。紹介するわね、ヒロキ君。こちらの男性は、早瀬さん。水系で、一般人と同じ医師免許も持ってる腕のいい医療系能力者よ」
「よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
初めて見た。
なんというか、完璧ってくらいに色々と優れてる大人の男の人に。
身長が高くてほどよく筋肉質で、知的なハンサム。
僕もこういう大人になりたいなあ。
「うちは夜宮。室長の部下。どんな能力者かは、クイズにしよっか」
「えっと、あーっと」
言い淀む。
だって、見た目だけで能力がわかるはずもない。
「ヒント。うちは、いつもこんな姿じゃない。顔や髪型、体形だって違う」
「えっ」
となると……
「まさかの変化系でしたか。あれ、変身系だっけ?」
「ざーんねん」
「ええっ!?」
「ヒント。うちは今、たしかに変化はしています。高視聴率ドラマの主演をやっている女優に。でもこれから、キミが今セックスがしたい相手に変化します。さて、どうしてそんな事ができるんでしょう」
「それはやっぱり読心系の」
「ちなみにうちが読めるのは、性癖や今したいプレイの内容、それをしたいと思う相手の容姿だけ」
「えっと、そんな限定的な能力ってあります?」
「あるんだよねー、これが。難しいみたいだから、問題を変更。うちの能力は種族系です。さて、どんな種族でしょうか」
「種族系。……ヤバイ」
なにがヤバイって、棗さんの視線がヤバイ。
その目は、教師に恥をかかせるなと言っているに違いない。
思い出せ。
頑張って思い出せ、僕ー!
じゃないと後が怖いなんてもんじゃないぞ!
「ヒロキ君?」
「ひゃいっ。しゅ、種族系はですね」
「種族系は?」
頭をフル回転させて過去の授業を思い出す。
「ちゃんと話を聞いてるのかしら?」と言いながら足を組み替えるついでに、赤いパンティーをチラリと見せる棗さん。
ノートを取る手元を覗き込みながら、大きなおっぱいを僕の肩で潰すようにして耳元で色っぽい吐息を漏らす棗さん。
小テストで満点を取った僕に「ご褒美よ」と言って、微笑みながらパンティストッキングで蒸れた足を差し出した棗さん。
「顔面騎乗して放尿してほしかったら、今日も100点を取りなさい」、そう言ってストップウォッチをスタートさせる棗さん。
……ダメだ、これ勉強じゃない。
(ととさま。足コキ暗記シリーズなのっ)
(ああっ!)
(もっと言うと、初めて全部の暗記に成功して赤い脱ぎたてパンツのニオイ嗅ぎながら足コキで射精させてもらった日な)
(あれかあっ!)
「ふふっ。学生の頃を思い出すなあ」
「覚えの悪い生徒には、補習が必要よね。それも、徹底的なスパルタで」
「種族系はその名の通り神話なんかに出てくりゅ種族の姿になれる能力で、数は少ないけど強力な能力ですっ!」
「にはは。カミカミ少年爆誕ー」
ほっといてください。
こっちは命がかかってるんです。
「笑ってやるな、夜宮。思春期の心は傷を負いやすいんだ」
「あら、残念。覚えてたのね」
「も、もちろんですよ」
「というか、問題が難しすぎる。いくら好みのかわいい男の子だからっておふざけが過ぎるぞ、夜宮」
「っはー。出たわ出たわ、マジメガネのお小言が」
「うるさい。いいから教えてやれ。時間は限られてるんだぞ」
「それを言われちゃ仕方ないわね。うちの種族は」
そうとまで言って夜宮さんは僕を手招きする。
なので歩み寄ると今度は仕草で耳を貸せと伝えられたので、素直に従った。
清潔で広いオフィスの空気が揺れ、僕の鼻になんとも言い難い、いい香りが届く。
「…………サキュバス」
その囁く声、それと耳にかかった吐息で、僕は一瞬にして勃起していた。
「サキュバスって。そりゃあ耳元で囁かれるだけで勃起しちゃいますよねえ」
「には。じゃ今度は、その勃起チンポに意識を集中して」
「はあ」
「それっ」
痛みが、スッと音もなく消える。
僕の肉棒は言霊系の能力のレジストに失敗したような感じで意思とは関係なく勃起していたので、ズボンの生地を押し上げてかなり痛みを感じていた。
それが、その痛みが今はまったくない。
「すっご。相手の勃起を操れるんですか」
「それだけじゃないんだなあ。うちとセックスをしてる時はどんな能力者でも、たとえ玉将級の能力者だってうちを殺せない。それどころか、かすり傷さえ負わせる事ができないんだよねー」
「と、とんでもないですね」
「本当にね。セックス中ならどんな痛みも、負うはずだった外傷の分までも快感に変化させるなんて。とんでもないとしか言えない。是非とも解剖してみたいものだ」
「ほえー」
てか解剖って。
お医者さんジョークなんだろうけれど、どこまでも生真面目そうな表情でメガネをくいっと上げながら言われると反応に困る。
「だからさ、キミ。うちとならどーんな変態プレイでもできるよ? それも、キミの限界が来るまで何回でも連続で」
「おおっ」
「まずは喉奥どころか食道まで使って胃に直接ザーメンを、その後はオシッコを注ぎ込む? それともアナルにチンポぶっ刺して、内臓を通って口から出たチンポを手コキさせる?」
「さ、さすがにそこまでのは……」
どこのホラー映画ですかそれ。
「ちぇっ。キミほどの変態でもムリかー」
「当り前だ。夜宮の性癖に付き合える人間などそうはいない。それより、そろそろ試験を始めるぞ」
「へ? 試験、ですか?」
聞いてないんですけど。
「そ。ここでうちとパコって中出し。簡単っしょ?」