※この作品はR-18です。

蟲の王   作:ふくふくろう

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閑話・水面に揺れる華2(終)

 

 

 

 準備。

 そう言われ、いそいそと立ち上がって早苗が部屋の隅にある金庫から出したのは、準備という言葉にはふさわしくない銀色の物体。

 

 ジャラッ。

 

 そんな音を立てる金属製の物体を、早苗は酷くうれしそうにしながら真に手渡す。

 

「なんで2つも。1つでいいでしょうに」

「絶対に途中で必要になるもの。ねえ、それより早くして」

「はいはい。でもまあ、まずはこうだな」

 

 真の手が早苗の胸元へ伸びる。

 

「あんっ」

 

 別に着物の上からでもわかる巨乳をどうこうしたのではないのに、そんな嬌声が上がった。

 真が掴んだのは着物の胸元、その衿だ。

 

 見るからに高級そうな和服であるのに、それが傷む事など気にも留めていないような乱暴な動きで、大きな乳房の半分ほどが外気に晒される。

 

「よし、いい眺めだ。今日もいいおっぱいと谷間をしてますね」

「どれだけ半脱ぎが好きなのよ。これじゃ、咥えながら乳首をイジメてもらえないじゃないの」

「口で上手にできたら、手を突っ込んで抓り上げてあげますって。手はどっちです?」

「後ろがいいわ。咥えたら髪を掴んで、乱暴にピストン運動してもらえるように」

「変態」

「誰のせいよ」

「何の事やら。ほら、後ろを向いてください」

 

 嬉々としてその言葉に従った早苗が両の手首を腰の後ろに回すと、すぐにガシャリと音がしてその両手が拘束された。

 

「ねぇ、早くぅ」

「うん。今日もいい尻だ」

「あんっ」

 

 かなり乱暴な動きで大きな尻が撫で回され、まるでその大きさと柔らかさをたしかめるように揉まれる。

 最後にそこをピシリと叩くと、真は満足したようでソファーに腰を下ろした。

 

「どっちでします、早苗さん?」

「床がいいわ。見下ろされながら口奉仕したい気分なの」

「なるほど」

 

 真が少しばかりテーブルを押すと、早苗は待ってましたとばかりに床へ跪く。

 

「ああっ、今日も素敵な匂いをさせちゃって……」

「風呂には入って来たから、スラックス越しに臭うほどじゃないんですけど」

「索敵向きの特性に感謝ね」

 

 女に股間で鼻を鳴らされながら、男がビールやタバコを口にする。

 

 真も早苗もそれを特に変態的な行為だとは思っていない。

 なのでしばらく、リビングには真が飲み食いをする音と早苗の鼻音だけが流れていた。

 

「もう満足したみたいですね」

「ええ。早くお口も満足させたいわ」

「ならまずはこれです。ほら、口を開けて」

 

 真が立てた人差し指の先に、音もなく小豆大の水の玉が出現する。

 それは宙を漂いながら、早苗が素直に開いた口の中へとするりと入り込んでしまった。

 

 水系統の能力者、それも医療系の能力に長けた者が操る、各種の病気予防と避妊の効果がある万能薬のような水。

 『避妊水』などという呼び方もある。

 

「うふ。イチゴ味って、子供じゃないんだから」

「あはは。それと、あんま最初から張り切んないでくださいよ? 引っ越しの準備やらなにやら色々と忙しかったんで、こんなのは1か月ぶりなんです」

「ひと月分の特濃精子なの? どこで受け止めるべきか悩むわね。いっそ、あの子の部屋に押し入って処女オマンコの奥にぶち撒けちゃいましょうか?」

「嫌ですって」

「うふふ」

 

 とても母親の言葉とは思えないが、早苗は朗らかに、心の底から楽しそうに笑う。

 

「あんまふざけてると、スーツを脱ぎませんよ? 早苗さんの聴覚嗅覚向上特性は、本社謹製のその手錠でかなり封じられてるんだし。もしも杏ちゃんに、こんなトコ見られたら」

「いっそ見せた方がいいのよ。だからきちんと閉まってないドアも、そのままにしてるんだし」

「杏ちゃんにはできるだけ普通の初体験をしてもらいたいですけどねえ」

「優しいのね、お兄ちゃん?」

「茶化さないでくださいって。ほら、脱ぎますよ。お待ちかねのチンポです」

 

 期待と情欲でその瞳を濡らしながら、早苗は食い入るように真の動きを見ている。

 

「ああっ……」

 

 そんなうっとりとした声は、真の男根が眼前にだらりと下がった瞬間に発せられた。

 

 苦笑いしながら空色のスラックスと黒いボクサーパンツを完全に脱いだ真は、標準よりだいぶ大きなそれを自身の手で早苗の鼻先へと差し出す。

 

「クサイでしょう?」

「それがいいのよ。あぁ、匂いだけでイッちゃいそう……」

「好きですねえ」

「大好き。うふっ」

「そんじゃ口で清めてもらいましょうか。隅から隅まで丁寧に」

「うれしいわ。ねえ、いつもみたいに口奉仕を命じて」

「はいはい。いいからしゃぶれよ、肉便器」

 

 ねっとりとした口淫が始まった。

 

 まず早苗が紅を引いた形の良い唇を落としたのは、陰毛の生え際、腹との境目である。

 

 くちづけ。

 それから慈しむように陰毛を食む。

 舌が肌をなぞるのはその後だ。

 

 それを繰り返しながらゆっくりと、早苗の顔が下りてゆく。

 

「ん。おちんちん、美味しい……」

「まだ根元なんだから汗の味しかしないでしょうに」

「それもいいの。真ちゃんのなら、汗だって天上の甘露」

 

 苦笑いをしながら真はグラスを呷る。

 

「ああ、気持ちいいな」

「1か月ぶりって本当なのね。根元をちょっと舐めただけで、もうこんなにしちゃって」

 

 屹立した男根。

 剛直と呼ぶに相応しいそれの根元を、早苗は大きく舌を伸ばして舐め上げた。

 

 その頬を撫でてやった真は口の端を吊り上げるようにして笑み、テーブルに手を伸ばしてタバコに火を点ける。

 

「いい眺めだ。早苗さんはいつ見ても美人だけど、俺のチンポ越しに見せる表情が一番色っぽい」

「うふふ」

 

 後ろ手に拘束されながらの口淫、その行為を早苗は口奉仕と言った。

 さらにその始まりを命じてくれと言えば、真は年上の女に当たり前の命令口調で肉便器呼ばわり。

 

 それでわかるように極度のマゾである早苗だが、己を焦らすため酷くゆっくりとした速度で剛直の頂点を目指していた訳ではないらしい。

 その理由は早苗が背中を向けている、リビングの出口にあった。

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

 危うく出しかけた声を口を強く手で塞ぐ事でどうにか押し止め、杏は極限まで目を見開きながらドアの隙間から見える景色に目を凝らす。

 

 ウソ。

 お母さんとお兄ちゃんがそういう関係なのは知ってたけど、まさかリビングで……

 

 自慰を覚えたての頃、借りていた本の続きを探すために入った母の部屋。

 そこでテーブルに置き忘れられたらしいDVDを見つけ、杏は何気なくそれをその場で再生した。

 

 画面で繰り広げられていたのは母と、血の繋がりこそないが自分が兄と呼ぶ男の濃密な痴態。

 

 その日から母のいない隙を狙ってはその部屋からDVDを持ち出し、自室でヘッドホンをしながら自慰をするのが密かな愉しみになっていたのである。

 

「ヤバイ。あたし、今までで一番濡れてるかも……」

 

 杏は真の言葉通り、自室で着替えを済ませていた。

 

 パーカーにミニスカートいうラフな格好。

 そのスカートの中に、細く白い指が伸びる。

 

 くちゅっ。

 

 そんな音が未成熟な秘裂の入り口から背骨を駆け上がり、脳天で頭蓋に弾かれ、酷く淫靡に響くのを杏は聞いた。

 

「あっく、ダメ。お母さんとお兄ちゃんに聞こえちゃう……」

 

 だが、杏の手は止まらない。

 それどころかショーツに染み切った淫液が潤滑液となって、秘裂を上下する手の動きは加速してしまう。

 

 ダメ、ダメ、……ダメなのにっ!

 

 忌避するべき行為だからこそ昂る。

 そんな人間なら誰もが持つ機微など、つい1時間ほど前どれだけ勇気を振り絞っても思い人の手すら握れなかった少女には、わからなくて当然か。

 

「お母さん、あんなにはしたない音を立てながらお兄ちゃんのタマタマを。んっ………」

 

 ドアの隙間の向こうでは、たしかに早苗が『ブボッ』だの『ジュルルッ』だのという下品な音を鳴らしながら真の玉袋を口いっぱいに頬張って、口奉仕に励んでいる。

 

 まるでその母の熱意に引っ張られでもしているかのように、杏の手の動きもまた激しさを増した。

 

「ヤバイ、ヤバイよぉ。止まんないの、指ぃっ……」

 

 廊下で足を開き、荒い息を吐きながら自慰に耽る杏。

 その興奮を煽る母親は、真だけに見える妖艶な笑みを浮かべながらさらに顔を下げた。

 

 2人は、廊下で自慰に興じる杏の存在に気付いている。

 

 杏ちゃんの前でさすがにそれはと言いかけた真だが、結局は口を噤んで早苗の行為がやりやすいように浅く腰かけ直してやっている。

 早苗の目論見通り杏がリビングを覗いているのはいいが、廊下で自慰を始めてしまっているので、動きを決めかねているのだ。

 

「や、やっぱりお尻の穴まで、そんなトコまで舐めちゃうんだ。お母さん……」

 

 DVDの中でも繰り返されていた行為だが、実際に目の前でそれが行われるのを見ると、興奮はひとしおであるらしい。

 

 くちゅ、ちゅくっ、ぐちゅっ。

 

 先程から廊下の空気を揺らすそんな水音がさらに大きくなり、そのリズムも大幅に上がる。

 息も荒い。

 杏の限界は近そうだ。

 

 もはや開いた足は肩幅より広く、腰を突き出すようにしながら割れ目を上下する指には、ショーツに染みた淫液が、これでもかと付着している。

 

 それどころかこの男を知らぬ少女は、廊下で他人の情事を盗み見ながらする自慰の快感で、その薄い桜色の唇の端から涎までをも垂らしていた。

 

「ダメ、もう直接じゃないとおかしくなっちゃう……」

 

 杏は淫液が染み切って重さを増したショーツを一気に膝まで下ろすと、布越しに刺激するだけで何度も達しかけていた、皮被りの幼い淫核を指の腹で撫で上げた。

 

「ひぐっ……」

 

 仮性包茎であっても陰核、クリトリスを直接指で擦り上げる刺激に杏の背が仰け反る。

 ちゅくちゅくという音を掻き消すほどに、息が荒い。

 

「ご主人様のアヌス、今日も美味しいですわ」

 

 母親が娘の自慰を、そんなセリフで煽る。

 

「……い、いいなぁ。お兄ちゃんのアナル、あたしも舐め。んんっ!」

 

 突如として訪れた、限界。

 

 あまりの興奮から生まれてこの方、味わったことがないほどの絶頂に襲われ、杏は膝から板張りの床に崩れ落ちた。

 

「━━━━━━っ! ━━━━━ッッ!?」

 

 膝が笑ってしまっている。

 全力で口を押えて声を殺しながら杏は思ったが、そうではない。

 

 膝が笑っているどころか、杏は全身を痙攣させながら絶頂の大波に飲み込まれているのだ。

 

 パタッ、パタタッ。

 

 そんな音すら、杏の耳には届かない。

 人生初の潮吹き。

 その潮が板張りの床に小さな水溜りを作っている。

 

 

 

 

 

「さあて、始めましょうか」

「お願いだからムチャだけはしないでくださいよ?」

「あの子次第ね、それは」

 

 立ち上がった早苗は困ったと顔に書いてあるような表情の真に笑みを見せ、後ろを向いて手錠を外させてからドアに足を向けた。

 杏は未だ絶頂の余韻に小さな体を震わせているので、それには気づかない。

 

「どうすんのが正解なのかねえ……」

 

 早苗が連れて来るであろう杏にどんな言葉をかけるべきか。

 それよりまず、この勃起したままの息子をムリにでもスラックスかクッションで隠すべきか。

 

 そんな考えを、真は途中で放棄した。

 

「まあ、約束は約束だからなあ」

 

 それは、まだ中学に上がったばかりだった真が、妊娠安定期に入った早苗と優しく緩やかなセックスをしながら交わした約束。

 

 もし生まれてくる子が女の子で、その子が望んだなら、いつかお姉ちゃんと同じように抱いてあげて。

 

 恩人であり姉であり、生れて初めて惚れた女が、どこの誰かもわかぬ男の種で身籠った子供。

 その子を抱けと言われ、思春期の真は言葉を詰まらせたものだ。

 

 父親の顔は、早苗ですら知らない。

 名家とまで称される前衛系の能力者の家を絶やさぬため、親が選んだ同じ前衛系の能力者の男から本社を仲介して精液を高額で買い取り、医療系の能力で人工授精をして杏を授かったからだ。

 

 本社はそんな仕事に慣れているので、完璧にその依頼に応えた。

 母と子は、父の名前すら知らない。

 

 女の子なら、名前は杏がいいわ。

 真、杏。そして早苗。

 まるで家族みたいでしょ?

 家族なんだけどね。

 

 そう言って早苗が心からの笑みを浮かべたので、真は約束を決意した。

 

「派手にイッたわねえ。さ、立ちなさい。予行演習が終わったなら、あとは本番に臨むだけよ」

 

 早苗の母親とは思えぬセリフの後に、杏の絶叫が上がる。

 それを聞きながら真は、苦笑いを浮かべてタバコに火を点けた。

 怒張した股間の剛直を特に隠す事もせず、どこか泰然とした様子で。

 

「だから違うって言ってるでしょ、バカッ!」

「むっ。親に向かってバカとはなんですか、バカとは」

「バカだからバカって言ってるんでしょ、このヘンタイっ!」

「なぁんですってぇ?」

「するんだったら自分の部屋でしてって言ってるのよ、このヘンタイオバサン!」

「あーもー、ブチギレたわ。おかーさんブチギレちゃった。知らないわよ? どうなるかわかってるんでしょうねえ、ええ?」

「あ、あたしは悪くないもんっ!」

「……だよなぁ。どう考えたって杏ちゃんは悪くない」

 

 悪かったのは、喧嘩を売る相手だ。

 

 真がそう続きを口にする前に、また杏の絶叫が尾を引きながらリビングにまで響く。

 家全体に防音加工がなされているし、敷地が広いので人様に聞かれる心配こそないが、もしそうなったら事件でも起きたかと警察に通報されかねない。

 

「は、離せぇーっ!」

「うるっさいわねえ。私なんかよりずうっと素質はあるくせに、日々の修行が足りないからこうなるの。悔しかったら体術の稽古に励みなさい。さ、行くわよ。大好きなお兄ちゃんが待ってるわ」

「うるっさい、いいから離せーっ!」

「嫌に決まってるでしょ、バカな子ねえ」

 

 開けっぱなしだったドアの向こうから、杏を肩に軽々と担いだ早苗がリビングに足を踏み入れる。

 

「早苗さん、もうちょっと穏便に……」

「母親であり師匠である存在にバカなんて言う子は、こんな扱いで充分よ」

「お兄ちゃん助けてっ!」

「ああもう、耳元で怒鳴ってるんじゃないわよ。うるさい子ねえ。あんまり騒ぐようだと、このマン汁まみれのお子様オマンコとアヌスをお兄ちゃんの目の前に持ってくわよ? いいの?」

「ちょ、待っ、お兄ちゃん見ないでーッ!?」

 

 あまりのバカ騒ぎに呆れ、真が大きなため息をつく。

 それを見た早苗は苦笑いを浮かべ、全力で身を捩ったり足をバタつかせている杏の抵抗をいなしながら、真の座るソファーに歩み寄った。

 

「さあ、悪い子にはお仕置きが必要よね。このままお尻ペンペンしてあげましょうか、昔みたいに」

「ご、ごめんさいごめんなさいっ! お願いだからアレだけはやめてぇーっ!」

「なら、大人しく座ってお話しできるの?」

「できますっ! ぜんっぜん、できますっ!」

「ホントかしら」

「まあまあ、そのくらいにしてあげましょうよ」

「仕方ないわねえ」

 

 ひょいと、まるでダンボールの空箱でも置くような気軽さで杏が床に下ろされる。

 

「うわぁあぁん。お、お兄ちゃーん!」

「よしよし」

「甘えん坊ねえ」

「だって、こんなカッコを。お兄ちゃんに。ううっ、うえぇ……」

「はいはい。大丈夫だから泣かないの」

 

 ソファーに座る真に抱き着きながら鼻を啜る杏が、ビタッと動きを止めた。

 自身の体と、真の体の間で天を指すモノの存在に気がついてしまったからだ。

 

「うふふ。どう、お兄ちゃんの生チンポは? DVDで見るよりずうっと興奮するでしょ?」

「お、お母さん。まさか……」

「当然よ。あんなのを仕舞い忘れるなんて、わざとに決まってるでしょ」

「ううっ」

 

 バツの悪さが頂点に達し、唸る事しかできない杏。

 その頭を真が撫でる。

 

 大好きなお兄ちゃんに優しくそうされた杏は酷く嬉し気に瞳を細めたが、状況が状況だけに、すぐ真っ赤になって顔を背けた。

 

「気持ちは固まったみたいだから、具体的な説明をするわね」

「な、なにがよ?」

「だから早苗さん、急ぎすぎですから」

「だって、見ててイライラするんだもの」

「そんくらい許してあげましょうって。それで、杏ちゃん」

「ひゃいっ」

「本当に、こんなオジサンでいいの? この家がお婿さんを探してますって通達を出せば、若くてイケメンな能力者がたくさん、我こそはと殺到して来るんだよ?」

 

 母と兄に見られぬようそっぽを向いていた杏の顔が、ゆっくりと真の正面に向けられる。

 

 生まれた時から今まで妹同然の、これからようやく高校に入学する子供の真剣な表情に気圧されたような気分になった真は、その眼差しに子供ではなく、女の色を見つけてまたさらに覚悟を決めた。

 

 このいつもかわいらしい妹はまだ子供であるが、同時に女でもあるのだと。

 

「お兄ちゃんが、真さんがいいの。他の人とするなんて考えらんない。お兄ちゃんじゃなきゃ、絶対にヤダ」

「……そうか」

 

 真が早苗を見遣る。

 その早苗は、黙って首を横に振った。

 

 この子が、最愛の娘が、将来どんな選択をするのかはわからない。

 もしかしたら自分とは違って、家のためだからと惚れた男以外の種で身籠るのを拒否するかもしれない。

 

 それならばそれでいい。

 

 早苗は心からそう思ったからこそ首を横に振ったのだ。

 

 万葉の頃より続く名家が何だ。

 100年ごとに開く扉と、その向こうに暮らす住民との大戦が何だ。

 陰陽寮に端を発し、複数の企業として今も本州全土の能力者を束ねる本社が何だ。

 

「この子が望むなら、世界中の能力者だって敵に回してやるわ」

「な、なに言ってんのよ?」

「俺達はそういう心構えって事だよ。杏ちゃん、キスの経験は?」

「う。……な、ない」

「なら、まずはこうだね」

 

 真が眼鏡を外す。

 ゆっくりと近づいてくる愛しい男の顔。

 そこにいつもある眼鏡がないのを、杏は不思議な感情で見守った。

 

 眼鏡してなくてもカッコイイ。

 でも、なんか変な感じ。

 ……あ、わかった。

 コレ、この表情はDVDの映像の中で、お兄ちゃんがお母さんを押し倒す時の顔だ。

 

「んっ……」

 

 触れただけのキス。

 

 まだ子供であっても、好きな男が1匹の雄となって自分という雌を求めているのを察すると、女はそれに応えてやりたいと思うらしい。

 

「あらあら。がっつくわねえ」

 

 離された唇。

 それを追ったのは、キスの経験なんてない杏の方だった。

 

 真が思わず動きを止めてしまうほどの迷いのなさで、その未成熟な舌が大人の男の唇を割る。

 

「んっ、ふっ、んっ……」

 

 舌を絡めたのも杏からで、先に唾液を吸い上げて飲み下したのも杏だ。

 技巧の欠片もなく、性的な快感などまず与えられないほどに拙い、だが心のこもった、これ以上はないだろうと思わせるほどに熱心なキス。

 

 それに真は優しく、時に激しく応えた。

 細く小さい体を抱きしめながら。

 

「ホント、妬けちゃうわ」

 

 焦らすように動きを止めた真の舌を、杏が吸い上げる。

 その舌を甘く噛み、杏の体が予期せぬ刺激でピクリと動けば、微笑みを形作りながら真の唇が離れてゆく。

 

「やっ」

 

 自らを追った乙女の唇を、今度は真の方から割ってやる。

 

「んぅっ。は、激しっ……」

 

 強く、深く、まるで蹂躙のようなキス。

 それがひと段落すると、これから結ばれる男女は熱い抱擁を交わす。

 

「場所を変えよっか、杏ちゃん」

「う、うん」

「どこがいいかな。俺の部屋はまだ使えるし、杏ちゃんの部屋でもいいよ」

「ちなみにお母さんの部屋でするなら、お兄ちゃんのDVDをすべて焼き増ししてプレゼントするわよ」

「えっ」

「童貞をお母さんで捨てた瞬間。まだ小さかったお兄ちゃんの初めてのオナ見せ、からの射精おねだり。初めての人前でのおしっこ。ありとあらゆる初体験を収録したスペシャルDVDボックス、欲しくないの?」

「ほ、欲しい……」

「なら決まりね。私の部屋に行きましょう」

「ちょ!?」

 

 杏は慌てるが、プレゼントの魅力には抗えないのをしっかりと自覚している。

 

 そして杏は実の母親の部屋で、母親に見られながらその処女を散らし、能力者ならではの回復力で自ら求めた2回戦では母親を交えた3Pでとてつもない絶頂を迎えるのだが、今の杏がそれを知る由はない。

 

 

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