能力者って、こんなにいるのか。
これから3年間通う能磨学園高等部の入学式が始まると、僕はまずそう思った。
でも広い体育館に集まった全校生徒と全職員は通常の高校と比べると、もの凄く少ないらしい。
(まあ、だからこそこんなイベントがあるってホムラさんとアヤメさんが笑ってたなあ)
(んだよ、とーちゃん。もしかして緊張してんの?)
(そりゃーするでしょ。全員が壇上に1人ずつ上がって自己紹介だよ? 小学校を低学年で中退の僕にはハードルが高いって)
(ととさまならへーきなのっ。なんなら好みの女子高生を見つけるついでの自己紹介でおっけーなのっ♪)
(そんなお気楽ではいられないなあ)
80人ほどいる在校生。
順番待ちをしている僕達、新入生からだいぶ離れた場所に整列している生徒達が、自己紹介の1人目が壇上に立つといきなりざわめく。
(なんだなんだあ?)
(アナルの弱そうなお嬢様っぽい美少女が壇上に立ったのっ。くんくん。……処女、淫乱度40、直近のオナニーは昨日の就寝前なのっ♪)
(まーた勝手に淫気からそういう情報を読み取って。やめなさいって)
セイは特技が多い。
それはいいんだけど、向上心が強すぎて将来が心配になる。
どこまで成長する気なんだか。
(これもセイの修行なのっ! かかさま達も棗ママも、桃ちゃんだってどんどんやれって言ってたのっ!)
(だからって、それをいちいち聞かされるのはちょっとねえ)
(なら聞かせないで見せるの、はいっ♪ 性癖読みは夜ちゃんにこれから習うから、もうちょっと待ってなのっ)
その言葉の通り、壇上の美少女の頭上にセイが言っていた情報が表示される。
まるでフウカがやってるゲームの登場人物みたいだ。
きっとセイもそれを見て、こうして僕の視界に入る人の頭上に情報を表示しようと思いついたんだろう。
にしても『性癖読み』って、習えば身に付けられるものなの?
(にししっ。もし淫乱度80以上のがいたら帰り道でヤッちゃおーぜ、とーちゃん)
(しないって。ほら、ざわめきが落ち着いたから自己紹介が始まるよ)
壇上の女の子はこれだけ注目されたって気にもならないらしく、体育館が静かになるのをただ待っていた。
たしかに美人。
そして、ホントにアナルが弱そう。
ホムラさんに似てるからか、見るからにプライドが高そうだからか、どうしてもそう見えるなあ。
「煉上家が長子、煉上朱音ですわ。中等部から実技では常にトップで、高等部でも負けるつもりはありませんの。立ち合いを望む方は、いつでも教室までいらしてくださいな。では、失礼いたします」
そうとだけ言って、朱音というありふれた名前が似合うような似合わないような美少女は、反対側からステージを下りて1年生が整列する予定らしい場所の先頭に立つ。
「にしても、立ち合いって。いつの時代だっての……」
「ははっ。やっぱ一般校から来るとそう思う? これがこの学校じゃ普通だから」
「ふうん。面倒そうだなあ」
「なあ、名前なんてーの? 俺は、鳴神浩二。クラスに男は5人しかいないからさ、仲良くやってこうぜ」
「あ、うん。僕は六道弘樹、よろしく」
「そこの新入生、私語は慎めっ!」
次に壇上に上がって自己紹介していたショートカットのかわいらしい女生徒が驚いて、それを中断してしまったほどの怒声。
頭を下げるためにそちらを向くと、それを飛ばしたのはホムラさんだったらしい。
ヤバイ。
顔に怒ってますって書いてある。
今日は夜から僕の入学祝いに3人でしこたま飲むぞと言われているので、そこでもまた怒られる事になりそうだ。
「すんませんっしたー!」
「ごめんなさい!」
「次は注意じゃなくゲンコツだからな、おしゃべりをするなら覚悟を決めてからにしろ」
(うひひ。もう指でケツマンコほじられるとキャンキャン喘ぐメス犬が怒ってるな。とーちゃん、今夜こそメス犬のアナル貫通式やっちまおうぜ)
(いやいや。たとえ何か月かかっても、ホムラさんにはガマンの限界が来たその時、素敵な状況でとびっきりエロくおねだりをしてもらわないと)
(鬼畜だねえ)
(ととさま素敵なのっ♪)
そんな馬鹿話をしているうちにも列は進み、とうとう最後の1人、僕の番がやってきた。
さっき浩二という男子生徒が言っていたように、この学園はほとんどが中等部からそのまま進学するそうで、今年そうじゃない生徒は僕1人との事。
どうせ僕の事なんて誰も知らないんだから、気楽に簡単な自己紹介をすればいい。
そう思って壇上に上がったんだけど、残念ながらそうはならなかった。
さっきの朱音ちゃんとかいう生徒の時よりも、在校生がざわついている。
「あれが」とか「思ってたり普通」とか「あの2人の弟子じゃなかったら」、なんて声も聞こえる。
(もしかして師匠達、サラさんとアヤカさんって東京でも有名人?)
(そりゃーそうだろ。今って玉将は3人いるのに、飛車角は1人ずつって話だし。状況によっちゃ玉より断然つえーし、歴史上でも数人しかいねーのが飛車角なんだから。それに、例の件もあるしな)
(ほえー。凄いねえ)
「在校生、アタシのゲンコツが欲しいならそう言えっ! いくらでもくれてやるぞっ!」
そんな一喝で体育館に静寂が戻る。
(とーちゃん、自己紹介自己紹介)
「あっ。そうだった。六道弘樹です。和歌山の山奥で暮らしてたのでこちらは不慣れですが、なんとか頑張って卒業したいと思います。よろしくお願いします」
拍手。
今まで上がったのと同じくらいのそれを聞きながら、反対側の階段を使って壇上を後にして1年生の列に向かう。
するとその列に向かう途中で、先頭に立つ女の子に物凄く睨まれているのに気がついた。
引き締まった、けれどスカートで隠されている部分はむっちりとしているに違いない白いおみ足。
大きさはちょっと残念だけれど、それを補うようにまあるいお尻とお胸。
見るからに上流階級って感じの澄ました顔は非常に整っていて、艶のあるロングヘアーがよく似合っている。まるで日本人形みたい。
さっき凄く独特な自己紹介をしていた、ナントカ家のチョーシの朱音ちゃんだ。
(あれっ。でも長子って、男の子の事じゃないの?)
(能力者は違うんじゃねーの? 能力者は男の方が数が少なくて、つえーのはだいたい女だって棗ねーちゃん言ってたし)
(なるほどねえ。お、ここに並べばいいのか。早く終わんないかなあ、入学式)
(ととさま、帰りに女子高生ナンパしてせんせー達の家に行く時間までヤリまくるのっ)
(ヤダよ。悪目立ちしちゃうって)
(ぶーっ!)
長々と続くヒマな時間。
それを終えると新入生だけで記念撮影があって、その後ホムラさんとアヤメさんに連れられて教室へ向かった。
どうでもいいけれど、クラスの女の子全員の処女であるとか、経験人数とか淫乱度とか、ましてや最後にしたセックスやオナニーがいつかなんて情報をいちいち表示するのはやめてほしい。
黒髪おさげに黒縁メガネという地味な見た目の小柄なクラスメイトが驚くくらいの巨乳で、しかも処女で淫乱度75、最後のオナニーが入学式が始まる数分前とか見ちゃったら、教室で普通に話せる気がしないじゃないか。
「はい。じゃあこの箱のくじを引いて、その番号の机に座ってくださいね。机の番号と教室の見取り図は黒板に書いてあるから」
「おおっ。初日から席替え、出席番号順じゃないのか。やっぱ高等部は違うなあ。近い席を引こうぜ、ヒロキ」
「狙って引くのは反則でしょって」
「別に狙える能力があるんなら狙っていいんだよ。能力を磨く、そのためにならなんでもするってのがここの校風だ。ちょうどいいから六道、まず新顔のオマエが引いてみろ」
「はぁ」
(任せてなのっ!)
僕の影から認識阻害魔法を自分にかけた妖精形態のセイが飛び出す。
その小さな体がまずドアが開けっぱなしの教室に、次にくじ引きの箱に消えてすぐ「見つけたのっ」という声が僕にだけ聞こえたので、箱に人差し指と中指の先を入れ、押し付けられた紙片を挟んで取った。
「35、ですね」
「チッ。やっぱりか。次、狙えるヤツはどんどん引いていいぞ。なんなら黒板を確認してから引け」
「ちょっと赤岩先生、黒板を見せるのはダメですよ。それは生徒が能力で確認しないと」
「そっかそっか。んじゃ、適当に引いてけ。六道は早く席に着くんだ」
「あ、はい」
一番に教室に入って黒板で確認すると、35は窓際の最後尾だった。
まあセイなら、ここを選んで当然か。
セイが好きで繰り返し観ていたアニメでは、主人公はそこに座っていた気がする。
僕の次に入ってきたのは、女子生徒。
しかも、僕を今も睨んでいる朱音ちゃんだ。
(ありゃ。アナル弱子、こっち来たぜ)
(アヤカママ、アヤメせんせー。どっちもドMだから、名前が似てるこの子もMなのっ)
(はいはい。なんで睨まれてんのか知らないけど、席が近くないといいなあ……)
そんな僕の願いは、至極簡単に打ち壊された。
窓際の最後尾なので1つしかない隣の席。
そこにアナル弱子ちゃん、じゃなかった、ナントカ朱音ちゃんが腰を下ろしたからだ。
どうせなら、淫乱巨乳メガネちゃんがよかったなあ……
「あたし瀬本杏。プリント回したりするだろうから、よろしくねっ」
開いている机が半分ほどになった頃、そう笑顔で言った少女が僕の前の席に座る。
いかにも活発そうな、ショートカットの似合う美少女。
入学式で2番目に自己紹介していた女子生徒だ。
こちらもお胸とお尻は残念だけれど、やっぱり能力者には美男美女が多いってのはホントらしい。
クラスメイトは誰もが、普通の学校の子が本気で羨ましがりそうなほど美男美女揃いだ。
「朱音もよろしくっ」
「ふんっ。ライバルに気やすく話しかけないでくださる? それより、歩法が乱れてますわよ。ケガでもなさったの?」
「いやそれを聞くうっ!?」
ヤバッ。
思わず言っちゃった。
でも、そうなるのも仕方ないと思う。
アンちゃんの頭上には『非処女、経験人数1人、最後にしたオナニーは昨日、その後セックスを初体験。最後には3Pで中出しされて激イキ』なんて書かれてるんだから。
「なんですの。文句でもありますの?」
「いやそうじゃないけど、そういうのはほら。パーソナルだっけ、そういう他人が口出しちゃいけない話で」
なんで僕が焦ってるんだ。
ついつい口を出しちゃったけど、失敗だったなあ。
「意味がわかりませんわ。口を開くならハッキリおっしゃいな、このグズ」
「朱音、ちょい待ち」
「はあ?」
顔を真っ赤にした杏ちゃんが立ち上がり、朱音ちゃんの耳に顔を寄せる。
すると朱音ちゃんの顔は本人、杏ちゃんよりずっと真っ赤になった。
「その、相手はやっぱり?」
「当たり前でしょって」
満面の笑み。
それを浮かべたのは杏ちゃんではなく、ちょっとした秘密を打ち明けられた朱音ちゃんの方だ。
この子はこんなかわいらしい表情もできるのかと感心しながら見ていると、朱音ちゃんは攻撃と判断されてもおかしくない速度で腕を振り上げ、大きな音を立てて杏ちゃんとハイタッチを交わす。
「やりましたわね、杏!」
「朱音達の応援のおかげだよっ」
「明日にでも詳しく聞かせていただきますわよ?」
「えっ、あ。そ、それは考えとく」
「意地でも吐かせてやりますわ。覚悟なさい」
処女喪失の次の日の鈍痛と異物感。
それで歩き方が一般人にはわからないくらい乱れてたのに、その話を聞き出すと宣言するんなら、この2人は親友ってやつなのか。
ちょっと羨ましいなあ、そういうの。
(ってゆーか、僕も処女としてみたいんですけど)
(このクラスの女子生徒は30人、処女は24人。好きなの選んで、帰りにぶちっと破っちゃうのっ♪)
(しないしない)
ショートホームルーム、とかいうのは気抜けするほどすぐに終わって、僕は浩二くんという話しやすい、いかにもムードメーカー的なさっきの男の子に他の男子生徒を紹介され、教室で10分ほど談笑をしてから学校を出た。
全員が戦闘に出るタイプの能力者ではないので選択授業が違うのは残念だけど、1クラスしかない同学年の男子生徒はみないい人そうで、僕はいい気分で家路につくことができた。
(とーちゃん、ハンバーガー食ってこうぜ。駅前の店の)
(今日は入学祝いのパーティーなんだからガマンしなさい。アヤメさんにカツカレーと、かつ丼までおねだりしてたでしょ)
(オレは今ハラ減ってんの!)
(なら家で朝に炊いたゴハンとふりかけ)
(なんでだよーっ!)
(こないだのアルバイトであんなに稼いだのに、僕はまだ借金を返し切ってないんだよ? せめて返済が終わるまでは節約)
(うげー)
(ととさま、またあのアルバイトした支社の地下に行きたいのっ!)
(そのうちねー)
(約束なのっ)
あの地下。
セイがそう呼んだのは、一般人とセックスをしてもいい免許の試験の日に行った支社のビルの地下だ。
そこにはいくつもの階層があって、本社に属する能力者だけが足を踏み入れられる。
訓練場や射撃場、武器や防具を売ったり修理したりする工房のフロア。
気兼ねなく能力者同士の話ができるレストランや居酒屋、ゲームセンターやカラオケに、ホストクラブまでもがあるフロア。
他にもいろいろな階があった。
そんな中でも僕が一番驚いたのは、『グローリー・ホール東京支店』という看板が下がった飲み屋街の一角にある店。
(……明日にでも行こっか。借金返済のために)
(くくっ。思い出してムラムラしてっし。次の日がバイトだけで学校がねえ日は、あっこに泊まり込みで稼いでもいいなあ)
(だねえ。ロングコース、それも泊りになると報酬が跳ね上がるらしいし)