「どーなってんだよっ! なにがどーなってんだよ六道っ!」
「スゴイ。スゴイスゴイスゴイ! スゴイよ六道君!」
「男子が一回戦突破なんて初等部の4年トキ以来じゃね!?」
「六道すげーっ!」
僕が礼をして観戦場所に戻ると、4人の男子生徒は大興奮。
その言葉を胸を張って受けるフウカも、それを見守るセイもうれしそうだ。
対照的に静まり返って聞こえるのがヒソヒソ話だけの女子生徒達は気になるけれど、本気を出せと言われた時から、クラスで孤立する覚悟なんて決めてある。
男子生徒がこうして普通に話してくれるだけで、充分うれしい。
「でもま、次はちゃんとまいったしろよ?」
「えっ。僕、優勝するつもりなんだけど」
「その心意気は買うけど、次の相手は委員長だからなあ」
「ふうん。だってよ、セイ。僕も手伝おっか?」
「いらないのっ! それと相手の情報なんかも聞いちゃダメなのっ! その上で華麗にぶちのめしてやるのっ!」
「はいはい」
残念。
委員長ちゃんがどんな能力を使って戦うのかはわからないけど、試合となったらあの爆乳がぶるんぶるん揺れるように立ちまわりたかったのに。
「ちっちゃいのに強気だなあ、オマエ」
「オマエじゃないのセイなのっ! あと、ちっちゃくないのっ!」
「いや。ちっちゃいから」
「ああっ! またちっちゃいって言ったのっ!」
「まあまあ。セイも浩二くんも、とりあえず静かにしよ。赤岩先生が睨んでるよ?」
「お、おう」
「むー」
剣術には見取り稽古というものがある。
他の人の稽古を観察して、そこから得るものを吸収しようとするやり方だ。
だから今は無駄話をするんじゃなく、他の能力者の試合が見たい。
「凄いねえ、弓も使っていいんだ」
「あんなクッションみてえのが付いた矢なんて、まっすぐ飛ぶのか? とーちゃん」
「さあねえ。って、おおっ」
「弓じゃない方の子、式神を出したのっ♪」
「しかも5体同時に。けっこう心力あるなあ」
そういえば式神使いは陰陽師系の能力者だから、僕と違って使役力じゃなくて心力だったっけ。
「やっぱ式神使いは使役系の花形だよねえ。いろいろと羨ましい。ここじゃ言えないけど」
「ホントだなあ。ここじゃ言えない事に使ったら、めっちゃ楽しそうだぜ」
はじめと号令がかかると、フウカがまっすぐ飛ぶのか心配していた弓が、かなりの威力で先頭の式神に迫る。
でもその矢はなんの前触れもなく左にスライドして、術者である式神使いの頬をかすめた。
「うわー。風尾のやつ、かなり腕を上げてんなあ」
「あの京極さんが防戦一方だもんな」
たしかに。
弓の女の子は矢を番える動作の隙を風使いの【風刃】で消し、また矢を放ってさらに2体の式神を紙切れに戻している。
「が、頑張って小百合ちゃーん!」
そんな三好くんの声援を受けた式神使いの女の子は、上品そうな見た目には似合わないニヤリとした笑みを浮かべて、袖口から新たに符を4枚取り出す。
そして口の中で何事かを唱えると符を前方にばら撒いて、追加した式神と残っていた式神を一斉に突撃させた。
「もしかして、三好くんの彼女さんとか? 式神使いの子」
「ってか、婚約者。2人が揃ってるとそりゃあもうラブラブで、他人の入り込む隙間なんて1ミリもない」
「ほえー。僕と同い年で、もう結婚が決まってるのかあ」
お嫁さんが1人で足りるなんて羨ましい。
試合は、僅差で三好くんの彼女さんが勝利。
なので僕が委員長ちゃんに勝ったら、彼女と対戦する事になる。
三好くんの彼女さんだし、その試合では僕が相手をしてプライドがあまり傷つかないようにしておこう。
「でもなんか、あっさり終わる試合も多いねえ」
三好くんの彼女さんの試合を含めて7試合。
それが終わっても、たった30分ちょっとしか時間が過ぎていない。
ちなみに男子生徒は、全員が初戦敗退。
全員が戦闘向きじゃないそうで、剣術のみで戦ってたから仕方ないんだろう。
「そりゃそうだって。純粋な戦闘系は、俺達からしたらバケモノみたいな感じだから。ほら、それよりこれの次は六道の2回戦だぞ」
「あ、んじゃ向こうに移動しとく」
「ぶっ飛ばしてやるの~♪」
「早くまたオレの番にならねえかなー」
「セイの活躍を見ててなのっ♪」
互いに一礼してコートに立つ。
委員長ちゃん、ジャージ姿でもやっぱりおっぱいが目立つなあ。
あれに挟みながらフェラしてもらって、小さな顔とメガネにぶっかけたい。
マジメで気弱そうな顔をザーメンで汚してからアレコレ。
……うん、たまんないや。
そんな事を考えていると委員長ちゃんはこちらに届くか届かないかの小さな声で、流派や能力の系統を名乗るのではなく、なぜか謝罪の言葉を口にした。
ま、まさか心を読まれたっ!?
「ど、どうして謝るのかなー?」
「ご、ごめんなさい。私、今から六道さんに嫌な思いをさせちゃうんです。本当にごめんなさい」
「はぁ」
よかった、バレてないっぽい。
「私、その。あの。かっ、干渉系、なんです。ごめんなさい……」
「あー。気にせず自由にしていいですよ。試合なんだし。僕は見ての通り使役系なんで、干渉する対象が増えて申し訳ないですし。全力でどうぞ」
干渉系。
それはその名の通り、相手の五感や身体、術者によってはは心にまで干渉して戦いを有利に進める能力の事。
「もうよさそうだな。では、はじめっ!」
干渉系かあ。
修行を始めてすぐくらいに耐性確認って言われて本社の術者さんにだいぶかけられたけど、レジストばかりで1回もかかんなかったんだよねえ。
「本当にごめんなさい。私、『六道さん達の動きを止めます』……」
「おっ。ピリッって来たぞ、とーちゃん」
「セイもなのっ」
「僕は感じなかったなあ。すみません委員長ちゃん、もう1回いいですか?」
「えっ……」
木刀すら持っていない委員長ちゃんが息を呑む。
僕達はたしかに委員長ちゃんの【言霊】を受けたのに、全員がピンピンしていて、腕を回してみたり足踏みしてみたりしているのが意外なんだろう。
「いやだって委員長ちゃん武器持ってないから、その【言霊】で相手の動きを止められなかったら、まいったするんでしょ?」
「そ、そうですけど」
「なら全力で心力を込めて使っていいよ。じゃないと本気の試合にならないし」
「でも、そんな」
「いーからいーから。なんなら僕にだけかければいい。子供好きならこの子達にかけるのはキツイだろうし。僕の動きが止まったら委員長ちゃんの勝ちって事で」
「あ、あの。赤岩先生。私、どうすれば?」
委員長ちゃんが本当に困ったという表情で審判のホムラさんを見遣る。
けどその視線を受けたホムラさんは、口の端を上げただけ。
「全力で【言霊】をぶつけてやれ。それだけでいい」
「その、大丈夫なんでしょうか?」
「相手が六道だからな。責任は先生が持つから、自分の全力がどんなものかここで試すといい。ほら、集中してやってみろ」
「は、はい」
委員長ちゃんが目を閉じる。
おさげといい黒縁メガネといい、本当にアニメに出てくるような、見るからにマジメそうな委員長タイプ。
でも、超巨乳。爆乳と言ってもいいくらいの。
……そんな子がド淫乱。
僕が強引に迫ったら、たとえば放課後の人気のない廊下で女子トイレに押し込んで入学式の直前みたいにオナニーして見せろって言ったらどうなるんだろう。
淫乱度が75もあれば本当にしそうだし、それだけじゃ満足できずその先もあるかも。
そしたらオナニーでトロトロになったアソコに立ちバックで僕のをねじ込んで乱暴に腰を振りながらあの爆乳を揉みまくって、本当はセイが遮音魔法をかけてるのに喘ぎ声がうるさいバレるぞって口を塞いで。
そんなレイプまがいのセックスでも感じちゃって、自分から腰を振り出す委員長ちゃんは泣いちゃったりなんかして。
でも、勝手に動いちゃう腰は止められなくって。
ヤバイ。
めっちゃ興奮しそう。
「……『私はっ、本当の全力で、六道さんの動きを止めますっ』!」
さっきまでのがウソだったような大声になっただけでなく、左手で手首を持った右手を突き出すようにして委員長ちゃんが【言霊】を放つ。
「あ、ホントだ。ビリッてきた。弱めのスタンガンくらい?」
「へえ。じゃあオレとセイになら通じるレベルじゃんか。やるなあ、メガネーちゃん」
「スゴイのっ♪」
「だねえ。今すぐにでも実戦に出れそう」
「ま、まいりました……」
2回戦もそうして無事に突破。
でもセイが今ので出番がなかった分、次の試合で頑張るとか言い出したのが困る。
相手は数少ない男友達になってくれそうな三好くんの彼女さん。
セイはたまに父親の僕でも驚くほど過激な事を言ったりしたりするから、かなり不安だ。
そして、その不安は的中。
はじめの号令がかかると同時にセイは巨大な火球を放ち、5体の式神を一瞬で焼き尽くしてしまった。
換気装置の風に舞う元式神、紙人形のような符の燃えカスを呆然と見ていた三好くんの彼女さんには一応「この先の試合で使う分の心力を残してるなら再召喚を待ちますよ」と言ったけれど、彼女は諦めたような表情で首を横に振って、まいったと小さな声で言ってコートを下りた。
次の準々決勝なんてもっと酷い。
なんでも相手がセイとフウカを僕が呼び出した時に一番笑っていた女子生徒だったそうで、その鎖鎌を使う前衛系の女の子はセイとフウカを相手にまったくいいところを見せられないまま、最後には心が折れて座り込みながら呻くような声で、まいったと言った。
「ここまで来たら勝っちまえ、六道!」
「そうだよっ。あと2つ。2つ勝ったら、そしたら史上初かもしれない男子生徒の優勝だから。だから頑張って!」
「三好くんに言われたら頑張るしかないね。じゃ、いってきます」
準々決勝最後の試合はなかなかの熱戦。
共に前衛系と思われる女の子2人が、まだ槍と薙刀で剣戟の音を響かせている。
2人とも、満身創痍。
もちろん本当にケガをしているのではなく、相手の武器でいい一撃を受けた時、審判のホムラさんが『赤。左肘から下、重症判定』とか宣言すると、そこからはその腕で武器を持つのを禁じられる。それでお互い片足を引きずって、片手で武器を振るっているだけだ。
もう少しかかりそうかな。
そう思って見るともなしに視線をやると、コート向こうで次の対戦相手、杏ちゃんがいい顔で笑う。
その笑顔はどこか僕の師匠に、フウカの母親であるアヤカさんに似ていた。
顔のタイプが似てるんじゃなく、強い相手と戦える事にワクワクしている笑みがそっくり。
気の弱い人ならそれを見ただけで怯えそうな戦闘狂特有の物騒な笑顔。
コワイコワイ。
「ねえ、六道くん。お願いがあるんだけど」
前の試合が終わってお互いにコートに入ると、杏ちゃんはあの剣呑な笑顔のままそう言う。
「はいはい。なんでしょ?」
「お願いだから、全力で来て。本気の本気で」
「もしかして3人で同時にかかってこいって事?」
杏ちゃんが頷く。
僕は別にそれでもいいんだけど、杏ちゃんにとってそれはいい事なんだろうか。
学年で2位のプライドとか、男でここまで戦える人に初めて会ったならその経験を少しでも長く、とか。そういうのを考えると微妙なような。
「お願い。あたし、強くなるって決めたの。本気で。だからこの試合で自分の立ち位置を、弱さを知っておきたいんだ。そしたらあたしは、明日から本気で強くなる努力ができる。それも、目指すべき場所を見上げながら」
「……りょーかい」
まるでいつかの僕じゃないか。
恋が実ると前向きになるんだね、男の子も女の子も。
そう茶化せる雰囲気ではないので、了解と言ってから右手にぶら下げていた木刀を左手に持ち替えた。
納刀状態の日本刀。
まさにそんな感じで、その抜き打ちから勝負は始まる。
ジャージなので木刀を腰には差せないし鞘走りの勢いを使えはしないけれど、本気でやるならこれがいい。
「へえ。吉喰の剣じゃなくても抜き打ちを見せてやるなんて、よっぽどあのねーちゃんを気に入ったんだな。寝取るのか、とーちゃん?」
「人前でそんな冗談を言わないの。怒るよ?」
「はっ。まあどんだけ怒られても、うちの一番槍はいつだってこのオレだ。わかってんだろーな、とーちゃん?」
「はいはい。好きにやっていいよ」
「サポートは任せてなのっ♪」
そんなやり取りを聞いていた杏ちゃんが満足げに頷き、瞳を閉じて大きく息を吸う。
そして、その目がカッと見開かれる。
いい気合い、そしていい目だ。
「大水流合気、瀬本杏。行きますっ!」
「どうぞ」
コートはテレビで見た覚えのある剣道のそれよりもだいぶ広くて、僕達3人と杏ちゃんの距離は30メートルほど。
その30メートルを徒手空拳の杏ちゃんとフウカが一瞬で駆け、コートの中央で拳と小太刀の木刀を激突させた。
すると同時に2人がニヤッと笑う。
あれだけ大きな音がしたのに笑ってられるんだから、杏ちゃんは頑強系か耐性系の能力か特性を持つ能力者なのかもしれない。
「ヒューッ。やるなあ、ねーちゃん!」
「そっちこそっ!」
拳と木刀。
両者の攻撃の応酬が始まる。
でも、10秒と経たずそれを見ている意味はなくなった。
「ととさま、見切ったの?」
「うん。もう充分かな。才は銀か、上手くすれば金ってトコだけど、圧倒的に修練が足りない。あれじゃフウカ1人でも余裕だ」
「ならこうなのっ!」
なんのタメもなく小さな火球がセイの手から放たれた。
それを追って、僕も走る。
コートの中央で睨み合いになったフウカの背中。
それで隠すため小さくしただけで、火球には式神5体を焼き尽くした時のものより魔力が込められている。
「合気のねーちゃん」
「なにさ?」
「プレゼントだ、受け取れっ!」
フウカが右前方にジャンプしながら逆手に持った木刀で杏ちゃんの首を狙う。
そして杏ちゃんの下っ腹に迫るセイの火球。
火球と小太刀。
左腕で小太刀を受け、サッと上げた右膝で火球を止め、左手と右足を重症判定されて封じられてでもその攻撃を止めると決断をしたらしい杏ちゃん。
その目の前で火球は消えて、小太刀は腕のギリギリ直前で寸止めにされた。
「ウソ、いつの間に……」
僕はといえばフウカが右に跳んだ瞬間全身の力を抜き、転びかけた状態から全力で加速して杏ちゃんの左から背後に回り込んだ。
そして抜き打ちの一撃、脇腹からの逆袈裟斬りを寸止めにして、杏ちゃんのまいったを待っている。
「その前に言うべき事は?」
「あっ。……ま、まいりました」
「お疲れ様」