3位決定戦は危なげなく杏ちゃんの勝利。
クラス全員でその試合の見学を終え、ようやく決勝戦となった。
意外と早く終わったのかな。
そう思いながら壁にかかっている時計に目をやると、あと数分で授業の終わりを告げるチャイムが鳴る時間。
小学校の時にはたしか存在しなかった2連続体育の授業なんだけど、次の時間はなにをするんだろう。僕はてっきり、このトーナメント戦があるから2連続で体育なんだと思っていたんだけど。
「では決勝戦を始める。両者、前へ」
一礼してコートに上がる。
相手は予想通り、入学式の日から僕を敵視している朱音ちゃんだ。
得物はお互いに剣。
でも隣の席だから感じられる炎気の漏れ具合、それと少しは見られた試合運びからすると、朱音ちゃんは剣よりも炎術がメインの武器なんだろう。
「ホムラ姉さま」
「学校でその呼び方はやめろと言ったはずだ。直せないなら停学も覚悟してもらうぞ、煉上」
「失礼しましたわ。赤岩先生」
「で、なんだ?」
「わたくし、もしかして負けますの?」
「もしかしなくとも負けるだろうな」
「そうですの。やっぱり、負けるのですね」
「恥じる事はない。六道が規格外すぎるだけだ」
「お母様もそうおっしゃってました」
「だろうな」
「そしてこの殿方に勝とうだなんて思わず、チャンスがあれば在学中でも構わぬから子種を仕込んでもらえとも」
「うええっ!?」
行為だけなら是非ともお願いしたいけど、さすがにそっちの意味でも子持ちになるのはまだ早い。
でも、そうか。そういう事か。
そんな事を母親に言われてたら、僕を嫌っても当然だろう。
嫌われている理由が、生理的に嫌だからとかじゃなくってよかった。
こんな美少女に、やめなさいと言いながらもアナルの皴を舐め上げられるたびに感じてしまって逆ギレしながら腰を揺すってしまいそうな女の子に本気で嫌われていたら、ショックなんて話じゃない。
「ちょっ、ちょっと待ってください! 四大家の火を司る朱音んちのおばさんがそこまで言うって、六道はいったい何者なんですかっ!?」
試合は決勝戦。
3位決定戦からはコートを1つしか使っていないので、クラス全員が浩二くんの叫ぶような問いの答えを待って僕達を見ている。
「あー。それは六道のプライベートな話だから」
「この日ノ本に1名ずつしかいない飛車角の最初で最後となる弟子、その飛車角と仕事を共にして名を上げた棗桃コンビがわざわざ上京してまで世話を焼く存在。それがこの殿方、六道弘樹ですの」
「勝手にバラしてんじゃねえっての、煉上。ったく」
クラスメイトはけっこうな騒ぎ。
ああだこうだと好き勝手に情報交換なんかを始めてしまっている。
どうすんのさこれ。
「静かに! 今すぐに口を閉じないと顔面を床に踏みつけて黙らせるわよ!」
かなりうるさかった話し声がピタリと止む。
その叱責の声が審判としてコートにいるホムラさんではなく、生徒の近くにいるいかにも優しそうなアヤメさんの口から飛び出した大きな声だったからだろう。
普段は怒らない人が怒ると異常に怖く感じてしまうというのは、僕も身に覚えがある。
「で、だからなんだ? 煉上」
「わたくしは、子を産むためだけにこの世に生を受けたのでしょうか。もしそうであるなら、わたくしは……」
アカネちゃんが涙目で言葉を詰まらせる。
まあ、そうなるよねえ。
「バカな勘違いを」
「なにがバカで、なにが勘違いだとおっしゃるんですのっ!?」
「自分がどれだけ親に愛されてるかも知らないのがバカで、たまにしか会えないのが理由でも親の冗談をそうまで重く受け止めてるのが勘違いだと言っている」
「お、おっしゃっている意味がわかりませんわ」
そう返されるとホムラさんは、時間がないから手短に言うぞと前置きをして話し出した。
煉上ほどの家の長女に未だ許嫁すら与えていないのは両親がせめて結婚相手は娘に選ばせてやりたいという優しさで、親はそう思っているのに当の娘は煉上の長女としてふさわしくあらねばと男になど見向きもしない。
なので母親は、六道弘樹ならば娘も興味を持つかもと水を向けてみただけ。
「思い出してみろ。母親は冗談っぽくそう言って微笑んでただろう? もしそうじゃないなら、しっかりと命令するはずだ。それが煉上の当主というものだぞ。しかも、子種だの仕込むなんて言い方はしてなかったんじゃないか?」
「そう言われれば。冗談っぽく、それも笑顔で、チャンスがあればデキちゃってもいいから押し倒しちゃいなさいって……」
いやん。
そんなの、完全にお母さんが朱音ちゃんをからかっただけじゃん。
それを本気にしてここまで悩んで、しかも僕を見るたびに睨み続けるなんて、お嬢様って怖い。
「わかったならいい。試合を始めるぞ」
「は、はい」
「では、はじめっ!」
と言われても。
どうすればいいんだろう。
アカネちゃんは動かないし、構えすらしない。
「えーっと。どうしましょ?」
「1本入れて目を覚ましてやればいい」
「ヤですよ」
「じゃーこーしよぜ。おい、お嬢様のねーちゃん。それからクラス全員の女ども、よーっく聞けっ!」
「えっ、あ。ど、どうしたんですの?」
「嫌な予感しかしないから魔法でフウカの声止めてくんない、セイ?」
「おもしろそーだからほっとくのっ♪」
そのセイの言葉に背中を押されたようにフウカが前に出る。
だけでなく、両手を上げて盛大な発表をするような芝居がかった仕草をしながら、朱音ちゃんとクラスの女子生徒を見回す。
「ここで約束をしてやろう。今日からこういう授業でうちのとーちゃんに一撃でも入れられた女は、種付けでもゴム有りでも1晩中好きなだけ、好きなよーにとーちゃんを抱かせてやる」
「きゃーっ。六道くん、かわいい顔して大胆!」
いや僕はなにも言ってない。
「もしマジだったら、今日から必死で稽古するわ」
そんなんなくても稽古は身を入れてやろうよ。
「1本だけなら奇跡のマグレでどうにかなるんじゃない?」
甘い、けど君くらいの巨乳ちゃんにならわざと1本あげてもいいかな。
「乱戦稽古が最大のチャンスよ。わかってるんでしょうね、みんな?」
乱戦稽古って、もしかしてクラス全員でバトルロイヤルでもするの?
「頑張ろうね、乱戦稽古だけはっ!」
乱戦稽古が乱交稽古なら喜んでクラスの女子生徒全員お相手します。
「ねえおチビちゃん、フウカちゃんっていったっけ。それマジ?」
「マジマジ。だからほら、さっさと構えろって。お嬢様ねーちゃん」
「えっ、ええっ!? わっ、わたくしはそんなのっ!」
「なーにを言っちゃってるんだかなあ、この子は」
「ごめん。あたし六道くんから1本は取りたいけど、彼氏いるからそーゆーのはパスなんだ。どうすればいいの?」
「そしたら権利をダチにあげるなり売るなりすればいーって。じゃ、そゆ事で」
チャイム。
タイミングがいいんだか悪いんだか。
「ほら、チャイムが鳴り終えるまで決着がつかなきゃ両者失格にするぞ」
「ひっど」
横暴だ、横暴。
今夜どうなっても知りませんからね?
「うるさい。嫌なら早く終わらせろ」
「はぁ。行っといで、フウカ。どうしてかはわかってるよね?」
「へーい。お嬢様ねーちゃん、覚悟! お説教を減らすため負けてもらうぜっ!」
「えっ?」
フウカが駆け出す。
思わずといった感じでアカネちゃんが正眼に構える。
「切り替えヘタだなあ、お嬢様ねーちゃん」
「やめ。勝者、六道。全員しっかりと水分補給をして次の授業に備えろ。次の授業も、この道場で行う」
ホムラさんがそう言い終わると同時にチャイムが鳴り終わり、朱音ちゃんの股間を小太刀でぽふっと叩いたフウカがこちらに戻ってくる。
「この木刀のニオイ、嗅ぐ? とーちゃん」
「嗅がないっての。かわいそーに。真っ赤になって蹲ってるじゃん、朱音ちゃん」
「クリトリスを切っ先でクリクリってしてやったからな。にしし」
「わざわざ嫌いな順手に持ち替えてまでする事じゃないでしょって」
高校はどこもそうなのか、それともここが特殊なのか、朝のホームルームで決まったナントカ委員の女の子が全員にスポーツドリンクのペットボトルを配っている。
僕にも差し出されたのでありがたく受け取り、キャップを開けてセイに渡す。
「ありがとなのっ♪」
「フウカと半分こしてね」
「さすがだなー。とーちゃんって太っ腹だし、なにやってもつえーし、カッコイイよなー」
「見え見えすぎて哀しいよ。お説教は家に帰ってから」
「うえー」
さて、お説教の内容を考えるのなんて後回し。
今はまず思いもよらず有名人だったらしい師匠達や、棗さんと桃さんの件で僕にどう声をかけたらいいかわからなくなっているらしい男子生徒達にどう話しかけるべきかを考えよう。
と思ったけれど、それを考えるのはやめにした。
師匠や先生やアルバイト先の雇用主はたしかにちょっと変わっているけれど、僕という能力者の存在自体がもっともっと変わっている。
孤立するのは覚悟していたし、そうなったらそうなったで気が楽なのもたしか。
放置する事に決めてセイとフウカと話しながら次のチャイムが鳴るのを待ち、授業が始まってからは男子生徒とちょっと離れてホムラさんの説明を聞いた。
「それじゃ説明した通りさっきの試合の上位3名、それから選択授業が『前衛戦闘』になっている者は武器を持って等間隔に並べ。そういった者は、通常の体育では教師の下の師範みたいなものだと思えばいい。そうでない者は、さっきの試合を参考にしたり、習熟したい武器種を使う者に教えを乞うように」
「赤岩先生、上位3人に入ってるし選択も前衛戦闘だけどトップ3と稽古がしたい。そういうのってアリですか?」
「教える側の数が極端に足りなくならなければアリだ」
「やあった」
「では、はじめっ」
そういう事なら、この授業はただ突っ立っているだけで終わりそうだ。
女子生徒は僕の所に来たら体が目当てみたいだし、男子生徒は僕とどう接したらいいか迷っているので相手はいない。
「六道くん、一手お願いします」
「ちょっと。あたしのが先に並んだんだけどっ?」
「いーえ。私だったって」
「どっちでもない。あたしだもんっ」
「早い者勝ちでいいじゃん。六道、覚悟ッ!」
「ど、どゆ事?」
とりあえず振り下ろされた薙刀を弾き返し、僕の前であーだこーだと喚いている20人くらいの女子生徒達を観察してみる。
するとその中にいる非処女は3人だけで、1人は三好くんという婚約者がいる式神使いの女の子。
そして昨日処女を卒業したばかりの杏ちゃん。
もう1人の子は、最後のセックスが約1年前と表示されていた。
「モテるなあ、さすがとーちゃんだ」
「これ、モテてるって言っていいの?」
「じゃね? ヤリモクでも寄ってくるだけマシじゃん」
「ととさまカッコイイから当たり前なのっ♪」
「六道。言っておくがこういった授業の形態は前衛戦闘を希望した者、つまり同世代の少人数で組んで討伐に出たなら指揮を執る事になる可能性が高い者の訓練も兼ねている。いつまでもこんな騒ぎを許してるようじゃ、六道の成績にもそれが加味されるぞ?」
さすがにそれはヤバイ。
なので思いっきり両手を叩き合わせて普通じゃちょっと出せない大きな音を出し、みんなが驚いて僕を見たところで話を切り出した。
「んー。それじゃ、まず杏ちゃん」
「うんっ。なになに?」
「彼氏さんのいる杏ちゃんは、今がめっちゃくちゃ幸せな時でしょ。それでも僕の前に並んだのは、純粋に僕と稽古がしたかったからだよね?」
「当たり前じゃーん」
「なら、杏ちゃんはこっち」
「はあ」
「そして杏ちゃんと同じく、さっきうちの子が言った抱かせるとか抱かせないとか関係なく稽古をしたいって人だけ、杏ちゃんの後ろに並んでくださーい」
女子生徒達が顔を見合わせ、仲のいい人同士で相談を始める。
そして1分ほどが経って、杏ちゃんの後ろに並んだのはたったの4人だけだった。
「OK。じゃあ、僕はまずこの5人と順番に稽古をします。他の人はこの5人が満足したら順番に稽古するって事で。はい、解散解散」
えーっと大きな声が上がるけど、まだ腕組みをして眉を顰めているホムラさんがこちらを見ているのに気付き、女子生徒はすぐそれぞれに合った稽古相手の元へと向かう。
「元1位から3位までと、とーちゃんと最初に戦った槍のねーちゃん。それに式神使いのねーちゃんか」
「三好くんの彼女さんは意外。他はまだわかるけど。なんで僕に?」
三好君くん彼女さん、小百合ちゃんだったかが、なんともSっぽい笑顔を浮かべる。
「私は、式神使いとしてまだ未熟で。具体的に言うと数は人並み以上に出せるけど、条件付け、使役系じゃない人にわかりやすく言うとプログラミングとか式神のディテールがお粗末すぎるの。だからここまで完全な人型のかわいらしい子達を使役する六道くんに、そのあたりのアドバイスをいただけたらなあって」
「ならそれはセイがアドバイスするのっ!」
「……適役だろうけど、変な事まで教えないでよ?」
「もちのろんなのっ♪」
どうしよう、1ミリも信用できない。