今日は土曜日。
週休2日制というのがない能磨学園の半日授業を終えた僕は、セイとフウカと今夜は家に帰らずグローリー・ホールで日曜の夜か月曜の朝まで、なんだったら学校をサボって夕方までアルバイトついでに遊ぼうかなんて話をしながらバイクを走らせている。
(ととさま、桃ちゃんの事務所にお客さんなのっ。どっちも和服で、30歳くらいのちょい熟。で、どう見ても銀将以下じゃないって感じのおばさん2人なのっ)
(僕にも映像を繋いで)
そうセイに頼んでギアを1つ落とし、アクセルを開けた。
2スト独特の加速でフロントタイヤが持ち上がる。
それをアクセルで宥めてアスファルトへ接地させ、ウィンカーをしっかり出して、さっきから少しだけジャマだなと思っていたトラックを抜く。
桃さんの能力はほとんど知らないけれど、体術の腕は立ち姿や歩き姿からある程度は想像がつく。
1ならまだしも、銀将2枚はキツイ。
でもあの棗さんが事務所に桃さん1人で居てもなにも言わないんだから、能力の方で足りない分を補うんだろう。
それなら間に合うはず。
(桃ねーちゃんと知り合いではあるみてーだぞ、とーちゃん)
(だねえ。って、煉上と幸田? マジでっ!?)
(うわぁ)
(嫌な予感しかしないのー)
毎日の帰り際、僕は室内の蜘蛛1匹と、いつも窓に止まってるてんとう虫1匹と、廊下の隙間に住んでいる1匹の蜘蛛に使役力をあげて事務所の見張りを頼んでいる。
そのおかげでもし面倒事になっても間に合いそうだと思ったけれど、その面倒事の元、そしてそれの向かう先が高確率で僕だとなると、どうしたって気が滅入る。
(うあー。なんだ、苦情? それとも圧力? よくもうちの子をイジメたなって攻撃されたりしないよねえ?)
(とーちゃん関連なのは確定だな。棗ねーちゃんには話が通してあって、桃ねーちゃんも聞いてるから待つなら自由に待ってていいって言ってる。頑張れ、とーちゃん。いざとなったら、ぶち犯せばいいさ)
(ファイトなのー)
できるはずのない解決方法を示されたって、できないんだから意味がない。
アクセルを緩め、ギアをシフトアップしてスピードを落とす。
ついさっきまでとは逆に『このまま着かなければいいのになあ』なんて考えながらRZ350を法定速度以下のスピードで走らせていると、あっけないほど簡単に事務所のある雑居ビルの駐輪場に到着してしまった。
「ヤダなあ。ヤダなあ。でっかい家とモメたくないなあ。でもあのおばさん達のおっぱいは揉みたいなあ。でも、やっぱ入りたくないなあ」
いつものように目についた虫、今日は1匹の蟻に使役力を分け与え数時間の見張りをお願いしてキーを抜き、ヘルメットを抱えて大嫌いなエレベーターに乗り込む。
つい先日このエレベーターではなく外、駐車場の奥からじゃなきゃいけない通りに非常階段を見つけて喜んだけれど、桃さんにエレベーターに慣れるのも修行だから階段は使用禁止と言われてしまった。
「ああ、着いちゃった。蜘蛛さん、いつもありがとね」
ノック。
一応それが礼儀だろうと頑丈な鉄製のドアを叩くと、「いいから入って」と普通なら聞こえない小さな声で桃さんが言う。
男は度胸。
そう自分に言い聞かせて、事務所に足を踏み入れた。
「失礼します。すぐにお茶をお淹れしますので、少々お待ちください」
「あら、さすがねえ。来客に気づいてないフリもしないなんてー」
「飛車角の秘蔵っ子ですもの。そのくらい肝が据わってて当然よ。飲み物はいいわ、六道くん。知ってるみたいだけれど私が煉上、朱音の母親。こっちのポヤポヤっとしたのが幸田で、霧ちゃんの母親」
「よろしくねー」
「はあ。それで、ご用件の方は?」
「うん。君に依頼を出しに来たのよ」
「はあ」
依頼って。
自分の家に部下やら分家ならいくらでもいるでしょうと言ってやりたいけど、ガマンして次の言葉を待つ。
「うちはー、霧ちゃんの男性恐怖症を治す手助けと教材役をお願いするわー」
「こっちは朱音が休日にしてる自主練の相手ね。どちらも、報酬は1回100万。手数料抜きで」
「ひゃくっ!?」
1回ずつで借金が返せそう。
でも、リスクを考えたら……
いやいやでも100万円だよ?
「あー。すみませんがやっぱり」
「ヒロキ」
「どしたんです、桃さん?」
いつもの無表情だけど、なぜか諦めているような雰囲気の桃さんが手招きをする。
なんだろうと近づけば今度はパソコンのモニターを指差されて、僕はそれを覗き込んだ。
「ヒロキにメール。まずはサラからの」
僕に?
なんで?
モニターの文字を目で追う。
「げえっ」
面白そうだ、ヤレ
言霊使いは1人欲しかったし、地味メガネ淫乱枠はいくらいてもいい
誰かさんはアタシみたいな巨乳が大好物だから、数を揃えておきたいしな
ちなみに、受けなかったら殺す
「次はアヤカ」
吉喰流を教えるのはまだまだ許せんが、ヒロキ流を教えるのはいい修行になる
それと大事な事なのでハッキリ言っておくが、お嬢様には羞恥プレイに言葉攻めを加えて最初に自分の立場をわからせてやり、それからしっかりと調教してやるのが一番だ
担任副担任と一緒にカリカリに仕上げて私達の前に連れてくるように
「バレてんのは別にいいけどなんじゃそりゃあっ!」
「ま、そゆ事。依頼は幸田家が土曜の午後から日曜の朝まで、煉上家が日曜の朝から夕方まで。最低月1回以上、上限はなし。あと毎月200あればクルマ買えるから、見繕って明日の夜ヒロキのマンションに納車するって棗から伝言」
「問答無用で借金増やされて僕には選ぶ権利も、うがが……」
どうなってんの?
僕のまわりにはどうして常識のない人しかいないの?
教えてください、神様。
(そんなの、とーちゃんがいちっばん常識ねえからに決まってんじゃん)
(当たり前なの~)
「それじゃ電脳妖精ちゃん、この子は幸田の家が責任を持って明日まで預かるわねー」
「ん。よかったら味見もどうぞ」
「あらやだ。おばさん期待しちゃうわぁ♪」
「桃ちゃん、そちらの手数料は毎回倍額を振り込むわ。その言葉を待っていたのよ」
「まいど」
「さらっと僕を売らないでくれませんっ!?」
「さあさあ、行きましょうねー。やだあ、普通に腕なんか組んじゃったわ。うふ」
高級だと一目でわかる和服を着た、僕よりだいぶ小柄な30過ぎのおっとりした美人さんが、どうしてこうも簡単にどちらかというと体格がいい部類に入る男子高校生を引きずって歩けるんだろう。
そして朱音ちゃんのお母さん、私にも触らせろって言いながら股間を撫でないで。
エレベーターに押し込まれる。
「お先」
「あら。ズルイわよう、綾ったらー」
「むぐっ!?」
いきなりのキス。
ここで!?
……あ、でもめっちゃ巧い。
フェラも期待できるんだろうなあ。
「ほら、文。いい味してるわよ、この子。やっぱり当たりだわ」
「じゃあ遠慮なく。んっ……」
こちらもお上手、だけでなく適度にがっついている感じがそそられる。
朱音ちゃんのお母さんと違って思いっきり背伸びをして舌を絡めてるからそう感じるのかな。
「ふうっ。いいお点前ねー」
そちらこそ。
そう口に出す間もなくエレベーターは1回に到着し、牛丼屋さんの横からビルを出ると、笑ってしまうくらい車体の長い黒い車が待っていて、まるで応接室のような座席に3人並んで座らされた。
「ええっと、あの」
「なあにー?」
そんな邪気のない、子供みたいな笑顔を向けられましても。
「どちらもアヤさん、なんですね」
「偶然にもね。その偶然が縁を結んで、今じゃ双子の姉妹みたいなものよ」
「次の時にでも、味比べ貝合わせと愉しみましょうねー」
「むむっ。今ここで味見はダメなの、文?」
「当り前よー。上手くしたら今夜、この竿で霧ちゃんが女にしてもらうんですもの~♪」
「いやしませんってば。つか竿って」
クラスメイトと関係を持つくらいなら、今ここで2人同時に犯した方がマシ。
僕は強姦とか嫌いだけど。
「あらあら。こんなおばさん2人を押し倒したいだなんて~♪」
「へっ?」
「気をつけなさいよ、六道くん。文は心くらい簡単に読むし、発情したらたとえ青姦だろうと厭わないんだから。むしろ娘の、霧ちゃんの前でだってノリノリで六道くんに跨って腰を振るわ」
「やだぁ。それじゃあ綾は朱音ちゃんの前で六道くんのオシッコ飲みながらオナニーしちゃうでしょ~♪」
「いいわねえ。あの子のオカズは私が書庫に紛れ込ませておいたソレ系の本だから、2人で並んで大きく開けた口で六道くんの濃い聖水を受け止めたいわ」
「じゃあ私は、六道くんにその場で脱糞しないと霧ちゃんを犯すぞって脅されて、そこからの3P、母娘凌辱プレイがいいわあ。うふふ」
いやいや。
そんな妄想を語りながら股間を撫でまくらないでいただきたい。
勃起を抑えるのが大変だし。
「あっ。こう文と抱き合う形で縛られて、使う穴を変えるたびいちいち乱暴に転がされたりするのもいいわね」
「きゃー。それ、濡れるわぁ」
そんな親友同士の会話にガリガリと理性を削り取られながら高級車に揺られていると、しばらくして停車したと同時くらいにドアが外から開けられた。
「お疲れ様でございました、奥様」
「ありがとうねー、佐伯。じゃあ、六道くんを霧ちゃんの部屋に案内してあげてー」
「はっ」
凄いな。
メイドさんって実在するのか。
「それとこの依頼中は霧ちゃんの向かいの部屋で休憩がてら待機して、六道くんがムラムラしても霧ちゃんに手を出せないって時は、佐伯が好きな穴を使わせて射精させてあげるのよー?」
「はっ?」
「ではね~♪」
「六道くん、明日の朝食は煉上の家で。その時にまた会いましょう。ちょっと佐伯、そこで呆けてちゃ降りられないわよ」
「し、失礼しました」
2人はさっさと車を降りて、僕だけが応接室みたいに広くて豪華な座席に取り残される。
どうしたものかなあと困っていると、ようやく助け舟が出された。
「失礼しました、六道様。お嬢様のお部屋にご案内いたします」
「は、はあ。それはいいんですけど、鼻血が出てますよ?」
「お気になさらず。さあ、まいりましょう」
「どうしたって気になりますから。これ、ティッシュ使ってください」
なんか様付けとかされてるから遠慮されないように、シュッとした美人のメイドさん、佐伯さんの手にポケットティッシュを握らせる。
すると佐伯さんはだくだくと鼻血を流したまま鼻息を荒くしちゃったから、それで血の雫が散って高級そうなシートや床をかなり汚してしまう。
こんな美人さんでも鼻から血を流して、しかもそれが鼻息で泡立ってるとなると、いろいろ台無しだ。
「もう思い残す事はございません……」
「あってもらわないと困るからっ! ティッシュ、ティッシュ鼻に詰めてっ!」
「お気になさらず、マイ・ロード」
「格上げっ!? もういい、セイ。治療と掃除っ!」
(はいなのっ!)
佐伯さんのほどよく高い鼻から流れていた血はすぐ止まり、整った顔から赤い色が消える。車内も前と同じか、それ以上にピカピカになった。
でも僕はそんな事より、セイは姿なんて見せていないのに僕の影に頭を下げてありがとうございますと言った佐伯さんの方が気になって仕方ない。
「そちらの世界のお1人は、セイ様とおっしゃられるのですね。魔力の感じから姫君とお見受けいたします。もう1人の御方のお名前をお伺いしても?」
「フウカですけど、何者なんですか佐伯さんって……」
僕より少しだけ高い身長で、痩せているのに大きなお胸とお尻をした20代半ばくらいの日本人。
ちょうど、僕の師匠であるサラさんとアヤカさんを足して2で割ったような見た目。
能力者としてかなり強いのは、それもさっきの2人より確実に強いのは見て取れるんだけど、だからこそ見鬼や看破系じゃないと推測できるから底が知れない。
関東の名家、それに四大家の火の当主より戦闘の腕がいいのに、見鬼系でも金将級以上じゃなきゃ見つけられない影の中の世界を見つけて、それが2人で最低でも1人は女の子だって見抜くメイドさんって。
それに佐伯さんは『そちらの世界』と、僕達がずっと隠している事実を事も無げに言った。
怖すぎでしょ。
「私は、幸田家に仕えるメイドです。それ以上でもそれ以下でもございません」
「それを信じろと?」
「事実ですから。あと少し変わっているところといえば、飛車角の友であるという事くらいでしょうか」
「……ああ、それで理解しました」
納得だ。
そうであるなら、考えるだけムダ。
「そうですか。マイ・ロードはやはり聡明でいらっしゃる」
「いいえ。理解したのはあの人達の友達ならどこまで変人でも、どこまで強くて底が知れなくても気にしたって仕方がないって事だけなんで。佐伯さんも、そういう人なんでしょう?」
「恐縮です。ですが、『どこまで淫乱で変態でも』が抜けておりますよ」