鼻歌を聞きながら助手席で車に揺られる。
その鼻歌は後部座席のセイとフウカと、ハンドルを握っている佐伯さんの合唱だ。
「朝からゴキゲンですねえ」
「ええ、それはもう。姫様お2人をお迎えしての4Pレズプレイ、もとい、お嬢様の『淫気散らし』を終えたらセイ姫様の隠し技を教えていただいて。そこからあの4姉妹を、六道様と姫様方とで代わる代わる。それはもう最高の夜でしたので」
「だからって、全員が失神するまでしなくても」
それに佐伯さん、僕とはしてくれなかったんだよねえ。
なんでもそれは僕が佐伯さんと手合わせをして、合格が出るまでおあずけなんだそうだ。
「能力者、特にその中でも有能な者ほど天狗になりがちです。ああいった子達には、上には上がいる事を身をもって体験させておかないと」
「で、わざわざ朱音ちゃんの家まで着いてきて、今度は僕にそれを体験させてくれると?」
「六道様がお望みなら、ですね」
「悩むなあ」
佐伯さんとセックスは是が非でもしたい。
それにもちろん僕より上なのは間違いなさそうな戦闘の腕は見たいし、そんな人だから稽古はつけてもらいたい。
師匠であるサラさんとアヤカさんには及ばずとも、僕より強い人に稽古をつけてもらえる機会なんて、そうそうないだろうから。
「六道様はどこまで付き合うおつもりなのですか? 朱音お嬢様の自主練に」
「そっちも悩んでます。朱音ちゃんの師が、それこそ目指す生き方までもを示すような人ならそれに従うんですけど」
「それはありませんね。煉上の家は、子の人生を誰かに委ねるような事をしません。剣は剣の、炎術には炎術の師を付け腕を磨かせるだけです」
「なら目指す場所は、朱音ちゃん自身が決めるんですか?」
「そうなりますね」
厄介な。
そんなだから朱音ちゃんは煉上の、四大家とまで呼ばれる名家の跡継ぎに相応しい人間であらねばと頑張りすぎて、伸び伸びと成長できずにいるのに。
「うーん」
「アドバイスを許されるなら、あまり考えすぎず自然体でと申し上げておきましょう。六道様はまだしも、普通の高校1年生はそれでいいのです。悩み、傷つき、たくさんの失敗をして、その道を歩みながら成長してゆくのが自然な流れなのですから」
「なるほど」
となると僕はあまり口出しせず、朱音ちゃんの自主練に付き合うだけでいいのか。
それなら、かなり気が楽だ。
「なあ、とーちゃんとーちゃん」
「んー?」
「あの朱音ってねーちゃん、押せばすぐ股を開くだろ。自主練ってのが終わったらヤッちまおうぜ」
「ヤダよ。名家のお嬢様とか、めんどくさい」
「かーっ、根性ねえなあ」
「そんな根性いらないから」
「でも、ととさま。どんなスカトロプレイもノリノリでしてくれるヨツバちゃんもいいけど、恥ずかしがりながらツンデレ風味でスカトロに応じる女子高生も捨てがたいのっ!」
「まあねえ」
母親の綾さんいわく、朱音ちゃんのオナニーのオカズは母親が書庫に紛れ込ませておいたハードなスカトロ系の書籍。
もし本当に朱音ちゃんのオカズがそうであるなら、そんな変態的なプレイを現実のものにできるチャンスがあれば、おそらく誘いに乗ってくれるとは思うけど。
「本当に楽しみですね。六道様の剛槍を姫様方と佐伯の股間に生やし、四方から小水をぶっかけてそれから口奉仕を命じられたら、朱音お嬢様はどんな表情であのかわいらしい手を、未成熟な舌を肉棒に伸ばすのでしょう」
「言っとくけどしませんからね?」
はいはい。
そんな言葉が顔に書いてあるような苦笑いを見せ、佐伯さんは大きな通りから1車線の道に高級車を進ませる。
その道が2車線になり、さっきより狭い、車が擦れ違えないほどの道を縫うように走ったりして、僕達は委員長ちゃんの家に勝るとも劣らない大邸宅に到着した。
「でっかい家なのー」
「んだなあ。敷地、うちのマンションと学校を合わせたくらいあんじゃね」
「お待ちしておりました。六道様、佐伯様。どうぞ、道場の前までお車でお進みください。お嬢様はそこにおられます」
学校の校門のような、トラックが突っ込んでも破れそうにない門が自動でガラガラと開き始めると、ピシッとした服を着た初老の男の人が運転席に駆け寄って、そう言いながら頭を下げる。
アニメなんかでよく見る、執事さんってやつなんだろう。
委員長ちゃんの家にはメイドさんしかいなかったけど、やっぱりお金持ちの家にはこういう人がいるのか。
「ありがとうございます、氷谷さん。お邪魔いたしますわ。それともしお時間があれば、いつか六道様に氷谷さんの妙技を見せていただきたいのですが」
氷谷さんという執事の男の人が微笑む。
「いつなりとご覧に入れましょう」
「ありがとうございます。では」
「ごゆっくりなさってくださいませ」
氷谷さんが頭を下げ、それが上がらないうちに車が走り出す。
見えている限りで最も和風な、いかにも道場という感じの建物はかなり先にあるので、雑談くらいは余裕でできそうだ。
「家名が氷谷さんって事は、もしかして」
「ええ。水系の希少種、氷使いですね」
「ふわー。炎使いの家の執事さんが氷使いって」
「万葉の昔より優秀な炎使いを輩出し続けられるからこそ四大家とまで呼ばれ、だからこそ他家に手を借りる必要がないほどの人材を揃えられる。煉上はそういう家ですので」
「住んでる世界が違うなあ」
「六道様がそれを言いますか」
「気分的には一般庶民ですからねえ」
それも、最下層の。
「怖い一般庶民もおられるものですね。あらあら、朱音お嬢様ったら、待ちかねて自らお出迎えなんて。よほど待ちかねておられたのですね」
「純白の稽古着と袴、下駄を履いて手には木刀まで。車を降りた途端に立ち合えとか言われそうで怖いなあ。にしても、稽古着って」
「普段着で鬼斬りを抜く事や、その戦闘が野山で行われる事なんて想定もしておりませんからね。当然でしょう」
だからそれがダメで、だからこそ朱音ちゃんの剣は上品すぎるって話なんだけどなあ。
「待っておりましたわよ、六道ヒロキ。さあ、今すぐ道場でわたくしと立ち合いなさい」
「わぁい、予想通りー」
助手席を下りるなり放たれたそれは予想通りのセリフで、苦笑いしか出てこない。
「朱音お嬢様」
「な、なんですの。佐伯」
「煉上の奥様から頼まれ、幸田の奥様が了承なされた話では、佐伯が朱音お嬢様の師の1人となって稽古ではなく、実践的な訓練を施すという事でした。もしそうではなく朱音お嬢様が勝手に六道様と立ち合いなどをされるなら、佐伯はこのまま幸田家に戻りますが?」
「じょ、冗談ですわ。やっと佐伯に剣術の指南役も受けてもらえたんですもの。その指示には従いますわ」
「ならよろしいのです。準備運動はお済みなのですか?」
「ええ」
「でしたら、フウカ姫様」
「おうっ! 任せろっ!」
佐伯さんが微笑みながらお礼を言い、フウカは母親のアヤカさんに貰ったという2本の木刀を影から出してその手に握る。
そしてフウカは、かなり手加減をした打ち込みを朱音ちゃんに向かって繰り出した。
「ちょっ、いきなりですのっ!?」
「実戦にはじめの声などありませんし、敵が時と場所を選んでくれるはずもありません。朱音お嬢様が動けなくなるまで、これを続けますよ」
「ははっ、だってよ。おら、気を抜いてっと骨の1本や2本はいただくぞっ! おらおらあっ!」
いきなり稽古開始、それもこんな形で、動けなくなるまでとは。
どうやら佐伯さんは、かなり厳しく朱音ちゃんを指導するつもりみたいだ。
フウカは手加減をしているので、朱音ちゃんの木刀はフウカのそれをギリギリ弾き返している。
そのカンカンと鳴る音を気にも留めず、佐伯さんはスマホを取り出してどこかに電話をかけてるみたいだ。
「おひさしぶりです。佐伯です。……ええ。はい。……ですね。百里さんからお話は行っていると思いますが」
棗さんも絡んでるのか。
となると、桃さんも。
あの2人だけじゃなく佐伯さんまでが今回の依頼に関わっているんなら、僕がいくら足掻いたってどうにもなりそうにない。
黙って指示に従っていた方がよさそう。
「六道様」
「あ、はい」
「どうぞ」
スマホが差し出される。
相手と話せって事なんだろう。
佐伯さんの指示には従うと決めたばかりなので、素直にそれを受け取ってスマホを耳に当てた。
「えっと、六道ヒロキですけど」
やっほ、うちだよー。
「も、もしかして夜宮さんですかっ?」
うん。
今その家で始まった訓練は、うちの授業も兼ねてるから。
そこのガチレズメイド、佐伯の指示には従ってね。
「えっと。授業、ですか?」
うん。
処女の淫気散らし、それも週1って短いスパンでそれを経験できるのは貴重な体験だから。
「いんっ!?」
じゃ、そゆ事で。
こっちの本チャン授業も、近いうちに。
ほんじゃねー。
「ええっと、はぁ。お待ちしてます、でいいのかな。……あ、切れちゃったや」
プープーとスマホが鳴っているので終話ボタンを押し、スーツの袖で画面を拭って佐伯さんに返す。
「あの、佐伯さん」
「なんでしょう」
「朱音ちゃんの淫気散らしって、本当に僕がするんですか?」
「もちろんです。煉上の奥様も、電脳妖精も百里室長も、和歌山のお師匠さん達も了承済みですので」
「でも、それをされる本人には言ってないんですよね?」
だって僕も聞いてないもん。
「もちろんですわ」
やっぱりかあ。
にしても、朱音ちゃんの淫気散らしって。
ほとんど絶え間なくカンカンと鳴り続けている音、その方向に視線を移す。
フウカはいつもと変わらず。
人間形態で服をテレビで見た流行りのキャミナントカとミニスカートにして、ポニーテールを激しく揺らしながら斬撃を繰り出している。
対する朱音ちゃんも、学校では下ろしている長い黒髪をポニーテールにしていた。
純白の稽古着と袴。
それに隠されているお胸はBか、上手くすればCはありそう。
お胸がそうだからお尻もボリュームはないけれど、かなり運動はしているようでよく引き締まった、それでも丸さは失っていない、なかなかのブツだ。
「クラスメイトの淫気散らし、かあ……」
「そういえば、和歌山の2人から伝言がありました」
「はあ。サラさんとアヤカさんからですか」
「ええ。『クラスメイトには手を出さないようにしているようだが、ムダな努力だからやめておけ。むしろ女の悋気を制御するいい修行になるから、ヤレるだけヤッておけ』、との事です」
「はぁ」
ムダな努力って。
まあこの光景を、あっちじゃ考えもしなかったのに東京に来てから気になっている処女、それも極上の美少女である朱音ちゃんを見てると、たしかにムダな努力かなとは思うけど。
「それと申し訳ございませんが、朝食はここで。すぐにご用意しますので」
「なしでも平気ですよ。修行で1週間くらい絶食とか慣れてるし」
「特性が特性だというのにですか。やはりあの2人はイカレ女ですね。すぐにお弁当をお持ちします」
「同意したいけど、後が怖いからやめておこうかな」
それが賢明ですという言葉を残し、佐伯さんは道場に最も近い豪邸に向かう。
でもそれより大きな、まるでお城のようなお屋敷がずうっと向こうに見えているんだから、やっぱり四大家ってとんでもない。