「そこまでです」
佐伯さんの声が曇り空に吸い込まれてゆく。
稽古中に怪しくなってきた雲行きが、本当に雨を降らせてくれたらいい経験になったんだけど、その機会は次に持ち越しか。
「けっこう保ちましたねえ」
「ええ。昼食まで30分。正直、ここまで体力が保つとは思いませんでした」
「マジメだから体力作りも、しっかりしてたんでしょうね」
「ええ。では六道様」
「はいはい」
「先導しますので、朱音お嬢様を浴室まで運んでくださいませ」
「わぁを」
「なっ、なんですってぇ!?」
座り込んで立つ事もできなくなっているのに上がった、朱音ちゃんの大声。
それを浴びた佐伯さんはいい笑顔。
となると、運ぶだけじゃ済まなそう。
「運ぶだけではありませんよ。六道様には、そのまま朱音お嬢様のお体を洗っていただきます」
「なあっ!?」
やっぱりか。
「それと……」
佐伯さんが伝えた午後の予定。
それを聞いている途中で朱音ちゃんの顔は真っ蒼になり、それからすぐ茹でたタコみたいに真っ赤になった。
「ごめんね、朱音ちゃん。こういうのは僕の和歌山の師匠達とか、東京での保護者をしてくれてる人達、それになんて言ったらいいのかな、……ああ、そっか。新しい師匠だ。その人も承知してるみたいで、僕には逆らえないんだ。遠慮せず断ってくれていいから、佐伯さんの説得を頑張ってみて」
申し訳なさ半分、この後に期待しているワクワクが半分って感じをごまかすため、ついつい早口になってしまう。
「も、もしかしてうちのお母様も……」
「当然です。もしも嫌がるようなら、覚悟はしておくようにとの伝言ですよ」
「……終わった。終わってしまいましたわ」
「もしかして朱音ちゃんも逆らえない感じ?」
「当然ですわ。そんな恐ろしい事ができるなら、本気で世界征服をもくろむ方が簡単に思えるレベルですもの」
「あー。そんじゃ、仕方ないか。お互いに覚悟を決めよ。……よいしょっと」
「きゃあっ!」
かわいらしい悲鳴。
それは僕が座り込んでしまっている朱音ちゃんの体に手を伸ばし、お姫様だっことやらをする途中で発せられた。
「かっるいなあ。ゴハンもっと食べた方がいいよ?」
「おろっ、下ろしなさいっ! 六道ヒロキ!」
「煉上の奥様に叱られたいのなら、どうぞご自由に」
そんなセリフで、怒鳴りながら暴れていた朱音ちゃんの動きがピタリと止まる。
「どれだけ怖いんだか、あの人。お茶目だけど優しそうに見えるのに」
「母と子という立場ではありますが、煉上の現当主と次期当主ともなれば優しさだけを向けてはいられなくて当然です。さあ、まいりましょう」
「なるほどねえ」
自然な動きでセイとフウカを抱き上げ、道場らしい木造建築に近い、高級住宅地の一軒家のような家に足を向けた佐伯さんの後を追う。
まるでお城のような母屋と思われる建物じゃなく、さっき佐伯さんがお弁当とテーブルセットを運んできてくれた、大きくて豪華だけどまだ一般的に見える家に向かうのはどうしてなんだろう。
「ろ、六道ヒロキ」
「はいはい」
「その、わたくし、……あ、汗臭いですわよね?」
「うんにゃ、まったく」
「ほ、本当ですの?」
「うん」
クサイ、じゃなくってイイニオイ、とは言わないでおく。
僕は同じ年頃の女の子となんてマトモに話した経験すらないけれど、テレビドラマやアニメでは、女の子はそういうの、体臭とかを驚くくらい気にしていたのを覚えているから。
「まさか、わたくしの部屋に殿方を入れる日が来るとは」
「部屋?」
「ええ。道場に近いあの建物がわたくしの部屋ですわ」
「マジっすか」
大豪邸の敷地にある豪邸。
それが自分の部屋とか、朱音ちゃんが僕達の住んでるマンションを見たら犬小屋かなにかと勘違いしちゃうんじゃないかな。
っていうか、そんなに部屋って必要?
ゴハン食べてくつろいだりお酒飲んでセックスしたりする部屋と、ベッドでセックスしてそのまま寝る部屋の2つあれば充分じゃない?
お金持ちって、ほんっと意味わかんない。
「どうぞ、六道様」
「あ、はい。おじゃまします。……わあ。玄関に入っただけなのに、なんかいいニオイ。朱音ちゃんのニオイだ」
「ばっ、そういうのは口にしないのが礼儀ですわよ! 六道ヒロキ!」
「なるほど。ごめんごめん」
僕の部屋には存在すらしない、ホムラさんとアヤメさんの家のそれよりずっと長くて広い廊下。
それを慣れた様子で進んだ佐伯さんは脱衣場と思われる広くて清潔な場所に僕達を案内して、いくつかの指示を与えてからセイとフウカを抱いたままそこを出ていった。
「か、体を洗われるだけでなく、服まで六道ヒロキに脱がされるなんて……」
「制限時間は30分。で、どうしよっか」
「な、なにがですの?」
「たぶんバレるだろうけど、朱音ちゃんが自分でお風呂に入っちゃう? もうそれくらい動けそうだし」
「…………怒られるのを承知で、ですわね」
「うん」
「そんなささやかな抵抗ならしても許され、きゃあっ!」
驚きに歪んだ朱音ちゃんの顔が、見る間に青くなってゆく。
この会話すら、聞かれてたのかあ。
「セイの通話魔法かな。佐伯さんからの伝言でしょ?」
「え、ええ」
「佐伯さんはなんて?」
「ズルをしたら、もう一度お風呂のやり直し。し、しかも……」
「しかも?」
お姫様だっこされたままの朱音ちゃんの顔が、今度は真っ赤になってゆく。
「あなたの、六道ヒロキの糞尿でわたくしを徹底的に汚してからお風呂に入れるそうですわ」
「えー。僕、自分のオシッコやウンチじゃ興奮しないんだけど。朱音ちゃんのじゃダメ? それは困ったなあ」
「困るポイントを間違えすぎですわっ!」
「あはは。じゃあ、佐伯さんの言う通りにしていいの?」
「……え、ええ。もう諦めるしかありませんわ」
「ラッキー」
あ、思わず本音が。
「い、今なんとおっしゃいましたのっ!?」
「なんでもないなんでもない。そのベッドみたいにおっきな籐の椅子でいいよね」
「ど、どこでもいいから早くなさい」
「はぁい」
見るからに高級そうな、布地を使っていないので濡れた体のままでも座れる大きな籐椅子。
そこに朱音ちゃんを横たえると、見事にすっぽり体が収まってしまう。これじゃベッドと呼んでもいいくらいだ。
ギュッと閉じられている、いつもは呆れるほど勝気な瞳。
あれほど激しく動いていたのでたっぷりと汗で濡れ、抱き上げた時から僕の鼻をくすぐり続けていた稽古着。
それらを見下ろしながら、まずは小さく震えている白い足先に手を伸ばす。
「あっ」
「木刀は置いたけど、草履を玄関で脱がすのを忘れちゃってたや。ごめんね、緊張しすぎて」
「ろ、六道ヒロキでも緊張なんてしますの?」
「当たり前でしょって。さ、次は左足ね」
「え、ええ」
処女の女の子としてみたい。
つい最近そんな事を言ったのは僕だけど、それを申し訳なく思ってしまうくらい朱音ちゃんは緊張しているらしい。
なんとか少しでも気分をほぐしてあげたいけれど、どうやってそれをすればいいんだろう。
「草履はOKっと。ここからが問題だよねえ」
「そ、そうですわね」
「やっぱり恥ずかしいよねえ?」
「あ、当り前ですわ。ようやく佐伯が武術の指南役を受けてくれて、その助手のような形で六道ヒロキが参加するとは聞いてましたけど、まさかこちらの指導にも参加するだなんて」
こちら?
もしかしてそれって。
「こちらの指導って、もしかして。朱音ちゃんは淫気が」
「ええ。『視え』てますわ」
「ほえー。炎使いとしての素質は最上級で、身体能力増強系の特性もあるのに。さらに見鬼系の能力か特性まで」
淫気散らしを僕が施すだけじゃなく、朱音ちゃんがそれをする練習台にもなるとは。
想像もしてなかった。
「わたくしですもの。それで、それがどうしましたの?」
「いや、朱音ちゃんが恥ずかしいなら僕の方から先に脱ごうかなってさ」
「裸になるんですのっ!?」
「だってそうしなきゃ洗えないし。それじゃ、パパッと脱いじゃうね」
ゴクリ。
そんな音を立てて生唾を飲み込んだ朱音ちゃんの方をあまり見ず、スーツのジャケットとワイシャツを脱ぎ捨てる。
それから手をかけたベルトがカチャっと音を立てると籐椅子が軋んで、身を起こした朱音ちゃんが食い入るように僕を凝視しているのに気づく。
さすが前衛もこなせる炎使い、体力の回復が早い。
それにその男女比からいつも欲求不満の人が多い女性能力者、さすがの食いつきっぷりだ。
なんかこういう、見せつけながら脱いでくのって興奮するかも。
そんな事を考えながらスラックス、靴下と脱いでゆき、最後の1枚、今日は赤のボクサーパンツをゆっくりと下ろす。
「そ、そんなに大きいんですの。その、男の人のって……」
「まだ小さい方だよ。僕の、って言っていいのかわかんないけど、能力でこれの大きさは処女の朱音ちゃんに最適なサイズに調整されてるから」
「ど、どんな能力を持ってますの」
「触ってみる?」
また朱音ちゃんが生唾を飲み込む。
でも、その真っ赤になった端正なお顔はすぐに横に振られてしまった。
「まだ怖いので遠慮しますわ」
まだ、か。
「りょーかい。んじゃ次は朱音ちゃんを僕が脱がすんだけど、コレが大きくなっても怒んないでね?」
「それはその、あれですの? 行為の時などに男性が興奮するとなるという、あの……」
「うん。勃起だね。朱音ちゃんみたいな美少女の裸を見たらそうなっちゃって当たり前だし、僕はちょっと厄介な特性がたくさんあるからさ」
「厄介、とは?」
「女の人の体臭とか、汗のニオイとか汚れ、それにオシッコなんかでも興奮しちゃうの。じゃ、袴から脱がせるね?」
「え、ええ。こうなったら覚悟を決めますわ」
「さすがー」
朱音ちゃんは男のストリップを見るために上体を起こした事に気がついていないみたいだけど、そうしてくれたのは僕にとって都合がいい。
僕も身に着け慣れている袴というズボンのようなスカートのような古い衣服を脱がせるには、体の前後の結び目やらなにやらを解いてゆく必要があるからだ。
「その、六道ヒロキ」
そんな朱音ちゃんの声は袴をほとんど脱がせ、もう少しでたっぷりと汗を吸い込んだパンティー、運が良ければノーパンで汗と淫臭が混じり合った割れ目ちゃんとご対面できるとワクワクしている僕の耳に届く。
「どしたの? やっぱり恥ずかしい?」
「それはもちろんですけど、その。ちょっと気になって」
「なんざんしょ」
「その、さっき六道ヒロキは言いましたわ。女のおし、じゃなくって小水で興奮すると」
「うん、言ったねえ」
「それってその、世間では変態的であるとされているのでは?」
「まあそうだけど、世の中なんて変態ばっかりだよ」
僕だけじゃない。
それはそう数は多くないけれど、今までのセックスの相手が教えてくれたんだから間違いないと断言できる。
「そうですの?」
「うん。知り合いの読心系能力者さんが言ってたけど、100人を並べて全員の性癖を読んだらノーマルって言い切れるのなんて10人いないのが普通らしいし」
「……そんなにですの」
「うん。それに朱音ちゃんは見た事ないだろうけど、エッチなビデオや動画じゃ相手にオシッコさせるのなんて普通だし。それを飲んだりして、やっと変態的って呼べる感じかなあ」
「なるほどですわ」
さあ。では待ちに待った、ごたいめーん。